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【映画レビュー】「告白、あるいは完璧な弁護」(原題「자백」/英題「Confession」/2022 韓国) [映画]

【映画レビュー】「告白、あるいは完璧な弁護」(原題「자백」/英題「Confession」/2022 韓国)
 2016年公開のオリオル・パウロ監督によるスペイン映画「インビジブル・ゲスト 悪魔の証明」の韓国版リメイク作品。密室殺人の犯人とされた男と、敏腕女性弁護士が真相に迫る物語が描かれるサスペンススリラー作品だ。
 IT企業社長のユ・ミンホ(ソ・ジソブ)の不倫相手キム・セヒ(AFTERSCHOOL・ナナ)がホテルの一室で殺された。第一容疑者のミンホは潔白を主張し、一時釈放され、郊外の別荘に身を隠し、その別荘で、弁護を依頼した敏腕弁護士ヤン・シネ(キム・ユンジン)と会い、ともに事件の真相を追い始める。
 ミンホは、事件の2か月前に起きた交通事故がセヒの殺人に関係しているかもしれないと告白し、事件の再検証が始まる。しかし突如現れた目撃者の存在により、真相は思わぬ方向へと進んでいく。
 ミンホの告白では、既に別れていた不倫相手のセヒに、2人の関係をバラされたくなかったら、10億ウォンを用意しろと脅され、ホテルに向かったのだと語る。先にホテルにいたセヒを訪れると、彼女も同様の脅しを受けていたと言う。
 ホテルの一室で待っていても誰も現れず、パトカーの音が聞こえてきたため、2人は逃げようとするが、何者かに襲われ、ミンホは気を失う。目が覚めるとセヒが死んでおり、駆け付けた警察にミンホは逮捕されてしまう。
 ミンホの供述に対し、シネはホテルの部屋には内側から鍵がかかっており、窓も閉められ外に誰かが出た形跡もない、密室殺人を疑うシネに、ミンホは無実を訴える。初めからホテルの一室に真犯人がいたと言うのだ。
 シネに検察の情報が入る。それは、目撃者が見つかったということだ。しかし密室殺人であるこの事件には目撃者などいるはずはない。
 シネはある顔写真をミンホに見せる。それは行方不明になった息子を探しているという尋ね人探しのポスターだった。知らない人の写真ならじっくり見るはずだが、ミンホは目を逸らした、この人について知っているんですよねとヤン・シネは問い詰める。
 すると、この人になら全てを話しても構わないと言い、ミンホはと交通事故について話し始める。
 不倫相手のセヒと、この別荘でよく過ごしていたミンホは、その日もこの別荘で過ごし帰ろうとするところだった。その日はセヒが運転し、ミンホは監視カメラのない人気の少ない道が近道だとそこで右折するように告げる。
 さらにミンホは嘘をつく生活をやめ、別れたいと話していたとも言う。そこに突如、鹿が飛び出し慌てて避けようとし、そこに反対車線の車と衝突しそうになり、車は木に激突してしまいまう。
 慌てて様子を見に行くと、反対車線の車の運転手は死んでいた。ミンホは警察に電話しようとするが、セヒが2人でいるところを知られたらまずいと制止する。
 そこにトラック通りがかり、セヒは自分たちが事故を起こしたことにすると指示する。何とかその場をやり過ごした2人だが、セヒはミンホに死体を隠すように言い、自分はミンホの車で帰るから後で落ち合おうと告げる。
 ミンホは車を湖に沈め、セヒはエンジンがかからず困っているところを通りがかった男性に助けられる。家に行けば整備できると言う男に車を修理をしてもらったセヒはその家の写真を見て言葉を失う。
 そこに写っていた青年はまさに事故で亡くなった青年だったのだ。セヒを助けられたのは事故で亡くなった青年の両親だったのだ。
 セヒは動揺を悟られないように、その場を後にし、ミンホと合流する。しかし、青年の両親が車のナンバーを覚えていたことで、ミンホに疑いの目が向けられ、携帯の使用履歴から家に忘れて帰ったはずはないと思った両親は、セヒを探し始める。
 焦るセヒは死んだ青年の荷物から抜き取った通帳を使ってお金を引き出していたと見せかけるように操作してほしいとミンホに告げる。それによって青年は詐欺に関わり自ら失踪したと警察は判断する。
 ミンホの話を聞いたシネは1つのストーリーを話し始める。それは、警察は当てにならないと感じた青年の両親が自分たちでカタをつけようとミンホを脅しホテルに呼び出しセヒを殺害したというのだ。
 そして、ミンホに新聞に掲載された写真に映り込む女性を指差し、この女性を知っているかと訪ねると、ミンホは「これは青年の母親だ」と言う。
 その母親が働いているホテルなら、先に部屋に潜み、窓から抜け出し隣の部屋に移動することも可能だ。そして警察がホテルに入ってミンホを取り押さえている隙に窓の鍵を閉めてしまえば密室殺人が完成する。
 そして、事故のことについては全てセヒのせいにし、ミンホは同乗しておらずホテルではじめて事故について知ったということにするといいストーリーを提示する。
 ミンホはこの推測に反応を示し、それを見たシネは「でもあなたは私に嘘をついていますよね」と問い詰める。
 さらにセヒは事故の後遺症で、深刻な不安障害に陥っていたと診断書を見せる。しかしシネは「不安障害の人が通帳の操作などの計画をできるとは思えない、巻き込まれたのはセヒで、運転していたのもあなたなのでは?」と問うとミンホはその事実を認める。
 ミンホは、それでも弁護をしてくれるかとシネに問うが、シネは弁護を承諾し契約書にサインする。
 弁護人になったからには守秘義務があると念を押したミンホは1つ言い忘れたことがあると付け加える。
 それは事故の際、死んでいると思い、湖に車ごと埋めようとしたらトランクから物音がしたという。トランクを開けると青年にはまだ息があったというのだ。ミンホはそれでもそうするしかなかったと車の中にあったスパナで殴って殺したと告白する。その話を聞き、シネは動揺し涙を流す。
 落ち着いたシネは、セヒが全てやったことにするには青年が乗った車に彼女の痕跡を残す必要があると言い、細工をするためどこの湖に埋めたか教えて欲しいとミンホに携わる。
 ミンホは地図に印を記入し、シネは後はこちらで対応すると告げ、別荘を後にする。しかし、タイヤが雪にはまり動けなくなってしまう。
 そんな中、ミンホはふと書類を目にし、シネの署名が異なっていることに気付く。片方はハングルで、もう片方はアルファベットで記入されていたのだった。それを見て、さっきまでいたシネは偽物であると気づき、シネの乗る車の窓をノックする。「チェーンをした方がいい」といって別荘に引き戻されるシネ。ミンホはカマをかけて会長とはどこで知り合ったのかと言うと裁判でとシネは答える。
 「会長とは同郷だと聞いた」というミンホにシネはぎこちなく、そうだと答えるが、ミンホは会長は北朝鮮出身だったことを知っており、お前は何者だと問い詰める。
 ついに正体がバレたと観念したシネは青年の母親だと答える。
 ミンホはそれならば合点がいくといい、シネの様子がおかしいと感じ、車を沈めた場所について、噓をついてたのだ。
 シネは息子は何もしていない、ただ息子の居場所がわかればいいと言うが、ミンホは答えず自ら警察に殺されそうだと通報する。その直後、銃で脅したシネに対し自分の肩に銃を当て、シネの手を取り引き金を引く。自ら被害者になることで助かろうとしたのだ。
 そこに本物のヤン・シネがやってきて、ミンホに不法に録音したものは証拠にならない、裁判で負けることはないと言う。救急車で運ばれたミンホは独り、ほくそ笑む。
 しかし、母親は本物のシネにあなたは必ず負けるから彼の弁護人を引き受けないでほしいと言い、どこに息子がいるかも分かったと言う。それはミンホの別荘の裏にある私有地の湖だった。別荘に飾られた写真を見て確信したのだと言う。
 証拠を隠蔽するためにミンホは釈放されてすぐここに来たのだ。警察が湖を調べると車が発見され、両親は、息子の居場所を知ることができたのだった。
 容疑者とされたIT企業の社長と弁護士のヒリヒリするような心理戦に、思わずのめり込んでいくような会話劇が繰り広げられていく本作。
 物語序盤は、ホテルの一室で何者かに襲われ、目が覚めると不倫相手が殺され外には警察がやってきていたという密室殺人の真相を明らかにしていくかのようなストーリー展開。
 しかし、次第に事件について明かされていくうちにミステリー要素からサスペンス色が強くなっていく。
 そして最後には、まさかのどんでん返しが用意されており、韓国特有の感情である「恨」の部分がより強調されているエンディングとなっている。
 “予測不能”というキャッチコピーに噓がないばかりか、このようなシナリオを誰が予想できようかというストーリーだ。リメイク作品とはいえ、韓国らしさも作中に散りばめられており、しっかりしたオリジナル作品に仕上がっている。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://synca.jp/kokuhakuaruiwa/
<監督・脚本>ユン・ジョンソク
<製作>キム・ジホン、ウォン・ドンヨン
<音楽>モグ
<撮影>キム・ソンジン
<編集>ホ・ソンミ、チョ・ハヌル
<原案>「インビジブル・ゲスト 悪魔の証明」(英題「The Invisible Guest」/2016 スペイン)
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【映画レビュー】「セールス・ガールの考現学」(原題「Khudaldagch ohin」/2021 モンゴル) [映画]

【映画レビュー】「セールス・ガールの考現学」(原題「Khudaldagch ohin」/2021 モンゴル)
 モンゴル・ウランバートルの大学で原子力工学を学ぶ真面目な女子学生の“リケジョ”サロール(バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル)は、特段、7m、仲良くもない同級生が、バナナの皮で足を滑らせ骨折するというベタな理由で、サロールをあるアルバイトに誘う。その友人によれば、代役を見つけてこないとクビになってしまうことから、サロールは渋々ながら、その提案を引き受ける。
 しかし、紹介されたバイト先は、裏通りの半地下にある怪しげなアダルトグッズショップ。その名もズバリ「SEX SHOP」。いわゆる“大人のオモチャ”と販売している見せた。
 ややクセ強めだが、優しく、しかも博学な中年女性オーナー・カティア(エンフトール・オィドブジャムツ)が営む店には、さまざまなタイプの客たちがやって来る。真面目一辺倒で生きてきたサロールは、バイトの内容も、堅物の両親に告げることができず、自身も初めは戸惑うが、元来は優秀な学生。商品のラインナップやその特徴をすぐに理解し、店主のカティアや、店を訪れる客たちとの交流を通して、自分らしさを見つけていくというストーリーだ。
 ある日、売春宿への商品の配達を頼まれたサロールは、警察の摘発に遭い、一時、拘束されてしまう。さすがに心が折れ、迎えに来たサロールに食事に誘われ、「アダルトショップはポルノ店ではなく“薬局”だ」と言いくるめられる。しかしサロールは、その言葉に心動かされ、働き続けることを決意する。
 モンゴルといえば、テントを張って生活している遊牧民のイメージが強いが、首都のウランバートルが舞台とあって、その煌びやかな街の雰囲気と、オシャレな劇中歌によって、スタイリッシュな作品に仕上がっており、いやらしさやいかがわしさは皆無。それどころか、アダルトグッズというフィルターを通じて、“セックスとは何か”“性愛とは何か”という哲学的なメッセージ性を含んだ人生訓を伝えてくれる。
 熾烈なオーディションを勝ち抜き、主演のサロール役に選ばれたバヤルツェツェグ・バヤルジャルガルの、素朴でありながらも、その表情で心情を表現する演技は、デビュー作とは思えないほど、堂々としたものだ。
 それを支えるカティアを演じるベテランのエンフトール・オィドブジャムツによって、より引き立たせている。
 カティアとサロールがドライブに出掛け、途中で、路上の椎茸売りから買った椎茸を、大草原の中で投げ合い、劇中歌を歌うアーティストが登場するという演出は、邦画にも欧米にもない独特さだ。アジア映画特有のものなのだろうか。
 物語が進むにつれ、サロールは徐々に垢抜け、性に対しても開放的になっていくのだが、ある日、カティアから紹介された男性客から愛人契約を持ち掛けられ、襲われそうになる。怒りが頂点に達したサロールは、それなでの全ての不満をカティアにぶつけ、立ち去る。しかし、その様子はサロールが間違いなく成長し、自分の主張を口にできるまでになったことを証明している。
 その後サロールは、カティアから辛い過去があったことを告げられ、サロールも自殺の現場に出くわした過去があったことを告白する、その後のカティアの取った行動は、サロールの死生観をも変えていくことになる。
 いい意味で、モンゴルに対するイメージを変えてくれる一作であり、数多くの人生のヒントを与えてくれる物語だ。若さというものは、誰しもが経験し、同時に取り戻すことができないものだ。そういう意味では、本作の主人公・サロールは得難い経験をしたのだと感じさせてくれる。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://www.zaziefilms.com/salesgirl/
<公式X>https://twitter.com/salesgirlJP
<監督・脚本・製作>センゲドルジ・ジャンチブドルジ
<音楽>ドゥルグーン・バヤスガラン
<プロデューサー>クズレン・ビャンバァ
<撮影>オトゴンダバア・ジグジツレン
<美術>オトゴンジャルガル・ダナア
<編集>ムンフバット・シルネン
<劇中歌>Magnolian「Best of Magnolian」(Rambling RECORDS) http://www.rambling.ne.jp/catalog/best-of-magnolian/
#セールス・ガールの考現学 #映画 #ジャンチブドルジ・センゲドルジ #バヤルツェツェグ・バヤルジャルガル #エンフトール・オィドブジャムツ #モンゴル #アダルトショップ #ニューヨーク・アジアン・フィルム・フェスティバル #大阪アジアン映画祭 #ザジフィルムズ







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【映画レビュー】「遺灰は語る」(英題「Leonora addio」/2022 イタリア) [映画]

【映画レビュー】「遺灰は語る」(英題「Leonora addio」/2022 イタリア)
 1934年、ノーベル文学賞を受賞した文豪ルイジ・ピランデッロ。「自分の遺体は故郷のシチリアに埋葬し、一部は海に撒いてほしい」と遺言を残し、1936年に死去するが、独裁者ムッソリーニは、彼の名声を政治医用するために彼の遺灰をローマに留め置くように指令していた。
 第2次世界大戦後、イタリアは敗戦国になりファシスト党も潰れ、アメリカの統治下に置かれる。ピランデッロ(ロベルト・エルリツカ)の遺灰もようやくシチリア島へ送られることになり、シチリア島アグリジェント市の特使の特使(ファブリツィオ・フェラカーネ)がその重要な役目を命じられる。しかし、アメリカ軍の飛行機に搭乗拒否されたり、遺灰の入った壺が消えてしまったりと、次々とトラブルが起こる、とんだ珍道中となってしまう。
 イタリアを代表する映画監督であるタヴィアーニ兄弟の弟パオロ・タヴィアーニが、兄ビットリオが2018年死去に死去した後、単独で監督した長編作品であると同時に、パオロも後を追うように2024年2月に亡くなったため、本作が遺作となった作品だ。
 当時の世相を表現するため、全編モノクロームで製作され、イタリアっぽいブラックユーモアや社会への皮肉も所々に散りばめられ、重厚な人間ドラマの中にもコメディー色も込められている異色作だ。
 たかが1人の人間の遺灰を巡って、政治や宗教、古いしきたりに縛られ、大の大人が困惑する姿は滑稽であり、シニカルだ。
 ラストシーン、散骨の場面になって、モノクロの世界からカラーに切り替わる演出はさすが。シチリア島の美しい青い海の美しさを際立たせており、視覚的効果は抜群だ。
 イタリア人にしか理解できないようなセリフやシナリオも含まれ、理解するのは少々難儀だが、カメラワークや音楽にもこだわりが見て取れ、芸術性を感じさせる一作だ。
 本作の製作段階で、パオロ・タヴィアーニが自らの死期が近いことが分かっていたかのようなストーリーで、その死生観を表現している。
 本作を完全に理解するのは、日本人である自分にはほぼ不可能だろう。しかし、敗戦の重苦しい空気から、徐々に明るさを取り戻した歴史は、我が国も通ってきた道。重いテーマから、最後には、ピランデッロが死の20日前に書いたという戯曲「釘」が映画として繰り広げられる。シチリアの男の子が父親と移民としてニューヨークに渡り、レストランを開くという物語なのだがそこに登場する少年、バスティアネッド(マッテオ・ピッティルーティ)は、パオロの生まれ変わりなのだろうか…。大いなる空白を残して、本作は終わる。
 観る人の好みによって、好き嫌いが大きく分かれる作品であることは確かだ。“意味不明”なシーンもチラホラ。しかし、全てを理解する必要などなく、パオロとて、観客のウケよりも、死の直前に、自分が撮りたいものを撮ることを優先した上で作品を完成させ、天に召されたのだと感じるのだ。
<評価>★★☆☆☆
<公式サイト>https://moviola.jp/ihai/#
<公式X>https://twitter.com/ihai_kataru
<映画配給会社ムヴィオラ公式Facebook>https://www.facebook.com/moviolaeiga
<監督・脚本>パオロ・タヴィアーニ
<製作>ドナテッラ・パレルモ
<撮影>パオロ・カルネラ、シモーネ・ザンパーニ
<美術>エミータ・フリガート
<衣装>リーナ・ネルリ・タビアーニ
<編集>ロベルト・ペルピニャーニ
<音楽>ニコラ・ピオヴァーニ
#遺灰は語る #映画 #遺灰 #パオロ・タヴィアーニ #ファブリツィオ・フェラカーネ #マッテオ・ピッティルーティ #クラウディオ・ビガリ #ロベルト・エルリッカ #ノーベル文学賞 #イタリア #シチリア #ローマ #ムッソリーニ #ファシスト #ベルリン国際映画祭 #PG12

映画パンフレット 遺灰は語る

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  • 出版社/メーカー: ノーブランド品
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【映画レビュー】「LOVE LIFE」(2022 日本) [映画]

【映画レビュー】「LOVE LIFE」(2022 日本)
 不幸な出来事や、行方不明となった元夫との突然の再会などを通じて、愛と人生に向き合う婚姻届未提出の夫婦の物語。愛息を不慮の事故で失った悲劇に見舞われ、その出来事によって、夫の親夫婦との関係も悪化し、夫も不倫に走る。そんな中、主人公の女性の前に元夫が現れ、不穏さを増していく。
 大沢妙子(木村文乃)は再婚相手の二郎(永山絢斗)と、前夫のパク・シンジ(砂田アトム)との間の息子・敬太(嶋田鉄太)と共に幸せな日々を送っていた。しかし、結婚から1年を迎えようとする頃、敬太を事故で失う。悲しみに暮れる妙子の前に失踪していた前夫のパクが現れ、妙子はろう者のパクの世話をし始める。一方の二郎も、元カノの山崎理佐(山崎紘菜)と会っていた。悲しみの、パクにとことん寄り添う妙子に、二郎の心はますます離れていく。
 監督の深田晃司は、矢野顕子の同名曲にインスパイアされ、本作の構想に20年の歳月をかけ作り出したという。
 率直に言ってしまえば、“この作品のどこに20年もの間、練り上げたであろう箇所があるのか”と疑問に感じるほど、薄っぺらい脚本だ。とりあえず不幸な出来事を散りばめ、自分勝手な登場人物でイライラさせるも、最後には丸く収まっているように感じさせるラストシーンで締めるという安直さは、眠気をも誘うストーリーだ。
 そもそも、ある楽曲にインスパイアされた映画で、面白いと思えた作品にはであったことはない。深田が矢野顕子のファンだったからか、また、矢野の側から映画化のオファーがあったかは定かではないが、確実に言えることは、本作の製作によって矢野顕子には、何のメリットもないということだろう。この“映画もどき”と、矢野の音楽の世界観が違い過ぎるのだ。
 物語が取っ散らかったまま、半ば無理やりエンディングを迎える“力技”ともいえるシナリオには、落胆を通り越して啞然としてしまう。この作品でヴェネチア国際映画祭に出品するとは、いい根性を持っているのか、厚顔無恥なのか…。少なくとも、もう見ないであろう監督リストに「深田晃司」の名前が刻まれたことは確かだ。
<評価>★☆☆☆☆
<公式サイト>https://lovelife-movie.com/
<公式X>https://twitter.com/lovelife_movie
<公式Instagram>https://www.instagram.com/lovelife_movie/
<公式Facebook>https://www.facebook.com/lovelifemovie2022/
<公式note>https://note.com/lovelife_movie
<監督・脚本>深田晃司
<撮影>山本英夫
<美術>渡辺大智
<編集>シルビー・ラジェ、深田晃司
<音楽>オリビエ・ゴワナール
<主題歌>矢野顕子「LOVELIFE」(SSony Music Labels) https://www.sonymusic.co.jp/artist/AkikoYano/discography/ESCB-1255?bcRefId=53625010_ESCB-1255_06SFL
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LOVE LIFE (完全生産限定盤) [Analog]

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  • アーティスト: 矢野顕子
  • 出版社/メーカー: ソニー・ミュージックダイレクト
  • 発売日: 2022/09/07
  • メディア: LP Record






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【映画レビュー】「ある人形使い一家の肖像」(原題「Le grand chariot」/英題「The Plough」/2023 スイス・フランス) [映画]

【映画レビュー】「ある人形使い一家の肖像」(原題「Le grand chariot」/英題「The Plough」/2023 スイス・フランス)
 2023年のベルリン国際映画祭で、フィリップ・ガレルが「銀熊賞(監督賞)」に輝いた作品で、監督自身の子ども3人、ルイ、エステール、レナが出演している。
 ルイ(ルイ・ガレル)はフランス国内を旅して公演をする人形劇団のメンバー。劇団は、祖父から家業を継いだ父・シモン、息子の経営を手伝う祖母とシモンの娘、マーサ(エステール・ガレル)、レナ(レナ・ガレル)姉妹ら3人きょうだいの家族経営だ。
 ルイの親友で、画家志望ながら、貧しい生活を強いられていたピーター(ダミアン・モンジャン)も劇団で働き始めるが、彼女との間に子どもが生まれながら、別の女性と浮気していた。
 ある日、シモンが公演中に倒れ、そのまま亡くなってしまう、残された家族やピーターは今後の人生をどうするかについて悩むが、そんな中、祖母も認知症を患った上に急死してしまう。
 マーサとレナは2人だけとなっても、父の遺産を残そうと奮闘するが、他のメンバーは、凧の糸が切れてしまったように、散り散りとなってしまう。
 自らの夢の続きを紡いでくれる娘の前に、シモンが霊として現れ、夢枕で感謝の言葉を告げ、エンディングを迎える。
 “ジャン=リュック・ゴダールの再来”とも呼ばれるフィリップ・ガレルの私小説的作品だが、キャラクター設定のみで押し切っている印象を受ける。物語自体に、特に惹きつけられるものはないし、キャストも自身の家族ということで、秀でた感じもしない。
 ヴェネツィア、カンヌといた国際映画祭の常連であり、本作もベルリン国際映画祭の監督賞に「あたる「銀熊賞」を受賞しているが、“そこまでの作品か?”という印象が先立ってしまう。
 良くも悪くも典型的なフランス映画で、余白を楽しむ作品ということなのか。だとすれば、少なくとも日本において、本作が鑑賞者に受け入れられる可能性は限りなく低いだろう。
<評価>★★☆☆☆
<監督>フィリップ・ガレル
<製作>エドアール・ウェイル、ロリーヌ・ペラッシ
<脚本>ジャン=クロード・カリエール、アルレット・ラングマン、フィリップ・ガレル
<撮影>レナート・ベルタ
<美術>マニュ・ド・ショビニ
<編集>ヤン・デデ
<音楽>ジャン=ルイ・オベール
<インターネットムービーデータベース>https://www.imdb.com/title/tt15531718/
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フィリップ・ガレル読本

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  • 出版社/メーカー: boid
  • 発売日: 2018/11/09
  • メディア: 単行本






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【映画レビュー】「猫と、とうさん」(原題「Cat Daddies」/2022 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「猫と、とうさん」(原題「Cat Daddies」/2022 アメリカ)
 アメリカ文学の巨匠、マーク・トウェインの「猫を愛する男性であれば、言うまでもなく、彼は私の世もあり同志だ」という言葉で始まる本作。
 アメリカでは珍しい存在として受け止められている“猫好き男性”9人を追ったドキュメンタリー作品だ。
 初の長編ドキュメンタリーに挑んだ女性監督のマイ・ホンは、夫が猫を飼い始めてから、彼の内面がポジティブな変化を遂げたと感じたことから、本作の製作の動機となり、同じように猫と暮らし変化した男性を探し出して記録しようとしたマイは、俳優でインフルエンサーのネイサン・ケーン、エンジニアのジェフ・ジャドキンス、消防士のジョーダン・ライデといった、猫を愛し愛されている男たちの姿を映していく。
 世はコロナ禍真っ只中、職を失い、ホームレスとなったデヴィッド・ジョバンニは、猫の存在によって、生きる希望を保っており、ハリウッドでスタントマンと務めるライアン・ロバートソンは、愛猫がキューピッドとなる形で恋人と出会っている。その恋人は、彼が甲斐甲斐しく猫の世話をしている姿に愛おしさを感じていると語る。
 困難な状況を生きる男たちと、そんな飼い主を、その存在だけで癒やし続ける猫たち。猫が人間に何かしてくれるわけではない。状況を変えてくれるわけでもない。
 しかし、その猫たちは間違いなく、飼い主たちの人生を、少しだけ明るくしてくれる存在であり、心を優しくしてくれる。
 「猫と、とうさん」という邦題ではあるが、主従関係では猫の方が上位だ。事実、物事冒頭でネイサンは「猫は食物連鎖の頂上にいる」と語っている。妙に納得させられる言葉だ。
 中年男性たちと猫との関係を次々と、かつひたすらに追い続けるストーリーだが、猫との向き合い方や、社会との繋がりはそれぞれ異なり、また、パンデミックといった難しい時代を生き抜くために必要な存在として猫たち描いている。
 視点が面白いドキュメンタリー作品で、猫の好き嫌い問わず楽しめる。
 それにしても、アメリカでは男性が猫好きを公表することが憚られることは、この作品で初めて知った。欲を言えば、この疑問に応えて欲しかったところだ。
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://catdaddiesjp.com/
<公式X>https://twitter.com/catdaddiesjp
<映画配給会社ファインフィルムズ公式Instagram>https://www.instagram.com/finefilmsinfo/
<監督>マイ・ホン
<製作>デイブ・ボイル、マイ・ホン、ロバート・E・ベネット
<プロデューサー・編集>デイヴ・ボイル
<製作総指揮>ノブ・ナガツマ
<撮影>ロバート・E・ベネット
<音楽>マイカ・ダール・アンダーソン
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『猫と、とうさん』 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ファインフィルムズ
  • 発売日: 2023/12/22
  • メディア: DVD






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【映画レビュー】「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(原題「Everything Everywhere All at Once」/2022 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(原題「Everything Everywhere All at Once」/2022 アメリカ)
 2023年の第95回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演女優賞など7冠に輝いたSF作。倒産寸前コインランドリーを経営する中国系アメリカ人のワン一家。カラオケセットを経費で落とそうとしたところ、国税局の監査を受け、監察官のディアドラ・ボーベアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)から脱税の疑いを掛けられる。事実上の経営者である妻で、本作の主人公のエヴリン(ミシェル・ヨー)はピンチに陥る。
 他にも。車椅子生活で認知症気味の頑固な父親・ボンボン(ジェームズ・ホン)と、反抗期真っ只中の娘・ジョイ(ステファニー・スー)、頼りにならない夫・ウェイモンド(キー・ホイ・クァン)に囲まれ、頭の痛い問題だらけだ。
 そんな彼女の前に、突如、「僕は別の宇宙(ユニバース)から来た」というウェイモンドの別人格が現れる。国税局の中で大立ち回りを演じ、職員を全員ノックアウトするその男は、混乱するエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と告げ、意味の分からない使命を背負わせる。そんな“別の宇宙の夫”に言われるがまま、ワケも分からずマルチバース(並行世界)に飛び込んだエヴリンは、カンフーのテクニックを手に入れ、全人類の命運をかけた戦いに身を投じることになる。
 そこへ、悪の世界からのディアドラ・ボーベアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)が現れ、ディアドラはウェイモンドとエヴリンを気絶させる。
 エヴリンは、目を覚まし現実世界に戻る。彼女はディアドラから夕方までに、国税局の会計書類を提出しなければならなかった。エヴリンはウェイモンドからの指示書の裏側に離婚書類を見つけショックを受ける。怒ったエヴリンはディアドラを殴ってしまう。ディアドラは警備員を呼ぶが、その警備員を別人格のウェイモンドが倒してしまう。
 エヴリンは何が起こっているか、まだ理解できない。別人格のウェイモンドである「アルファ・ウェイモンド」は、自分はアルファバースから来たと説明し、現実以外にも多くの世界(マルチバース)がとあると説く。
 ディアドラにも別ユニバースの強力な存在がアクセスしてきて、2人に襲いかかってくる。ウェイモンドが戦っている間にエヴリンはマルチバースへアクセスする。そこで映画のアクションスターになった自分とアクセスして、カンフーの技術を得た彼女はディアドラを倒すことに成功する。
 ウェイモンドによれば、マルチバースの脅威である「ジョブ・トゥパキ」がターゲットとして狙っているのはエヴリン。警察にエヴリンが連行されようとしていると、ジョイが現れる。彼女は警官を殺し、そのままエヴリンに襲いかかる。ジョイはジョブ・トゥバキに乗っ取られてしまっていたのだ。
 ジョブ・トゥバキは、エヴリンにブラックホールを見せる。エヴリンをそのブラックホールに陥れようとするが、別ユニバースの「アルファ・ゴンゴン」が助けに入り、難を逃れる。
 エヴリンはもう危険なことはしたくないと言うが、アルファ・ウェイモンドはエヴリンを説得し、ジョブ・トゥバキと戦うよう説得する。そこにジョイが現れる。3人はジョイが訳の分からないまま椅子に括り付ける。エヴリンは「お前はジョブ・トゥバキの操り人形だ」と告げる。アルファ・ゴンゴンはジョイを殺そうとするが、エヴリンは、ジョイを括っていたテープを切り、アルファ・ゴンゴンは銃をジョイに向ける。
 アルファ・ゴンゴンは「エヴリンがジョイを厳しく育てたためジョブ・トゥバキになった」と、ジョイを銃殺しようとするが、エヴリンはアルファ・ゴンゴンに「ジョイは、ジョブ・トゥバキに操られている。自分がジョブ・トゥバキと戦う」と説得する。
 エヴリンはマルチバースをさまよい、戦闘能力を身に着ける。アルファ・ゴンゴンは、エヴリンを言うことを聞かない危険な存在と考え始める。彼は警官などを操った上で、エヴリンを消しにかかる。
 エヴリンはアルファ・ゴンゴンに操られた刺客たちを次々と倒し、さらにマルチバースをさまよう。シェフのチャド(ハリ・シャム・ジュニア)からは鉄板焼きに使う包丁さばきを身につけ、その技術で刺客たちを殺していく。彼女はアルファ・ゴンゴンをも倒すのだが、彼女はアルファ・レイモンドとキスした途端、倒れてしまう。
 現実世界に戻ったエヴリンは税金の書類に囲まれながらも、旧正月のパーティーが始まろうとしていた。
 マルチバース世界ではエヴリンはジョブ・トゥバキに会っていた。エヴリンはジョイを元に戻すように求めるが、あるユニバースで岩になった2人は一笑に付す。ジョブ・トゥバキはエヴリンにこちら側の世界に来るように求める。
 現実世界では、エヴリンはカラオケを始めていた。そこにディアドラが現れ、脱税行為を追及する。エヴリンはバットで窓ガラスを破壊し、そのまま逮捕されてしまう。
 ウェイモンドはディアドラと話し合い、書類に関して、1週間の猶予をもらえることになる。エヴリンはウェイモンドに礼を言い、ディアドラとも打ち解けることに成功する。
 マルチバースの世界では、エヴリンは国税局のビルにいる。ジョブ・トゥバキとその刺客に襲われながらも奮戦するエヴリン。刺客を倒した彼女はブラックホールの近くまで辿り着く。ジョブ・トゥバキと改めて対峙し、戦いのなかで、ジョブ・トゥバキはジョイに戻る。ブラックホールに吸い込まれそうになった彼女をエヴリンが助ける。その助けようとする中にはゴンゴンやウェイモンドもいた。
 再び現実世界では、エヴリンはベッキー・スリガー(タリー・メデル)をジョイの恋人だとゴンゴンに紹介し、ゴンゴンはそれを受け入れる。エヴリンは、ジョイにいつも一緒にいたいのだと語る。2人は抱き合い、その様子をウェイモンドは眺める。崩壊寸前だったワン一家は絆を取り戻すのだった。
 国税局に向かう一家。エヴリンとウェイモンドの夫婦仲は戻り、税金書類も無事に提出できたのだった。
 感情移入できない登場人物、取っ散らかったストーリー、不必要な下品な下ネタ、「中国人=カンフー」というステレオタイプのキャラクター設定。SFファンタジー大作どころかB級映画を見させられているようなクオリティーで、これがオスカー7冠?と思えるほどだ。アカデミー賞を選考する映画芸術科学アカデミーの面々は、本作のどこを評価したのか聞いてみたいくらいだ。 
 意味不明過ぎて、139分が長いこと長いこと…。作中で「メンタル限界寸前」というセリフがあるが、それはこっちのセリフだよ!と突っ込みたくなるほどの駄作だった。
<評価>★☆☆☆☆
<公式サイト>https://gaga.ne.jp/eeaao/
<公式X>https://twitter.com/eeaaojp
<公式Instagram>https://www.instagram.com/eeaaojp/
<監督・脚本>ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
<製作>ジョー・ルッソ アンソニー・ルッソ、マイク・ラロッカ、ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート、ジョナサン・ワン
<製作総指揮>ティム・ヘディントン、テリーサ・スティール・ペイジ、トッド・マクラス、ジョシュ・ラドニック、ミシェル・ヨー
<撮影>ラーキン・サイプル
<美術>ジェイソン・キスバーデイ
<衣装>シャーリー・クラタ
<編集>ポール・ロジャース
<音楽>サン・ラックス
<音楽監修>ローレン・マリー・ミカス、ブルース・ギルバート
<視覚効果監修>ザック・ストルツ
#エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス #映画 #エブエブ #映画エブエブ #ダニエル・クワン #ダニエル・シャイナート #ミシェル・ヨー #ステファニー・スー #キー・ホイ・クァン #ジェニー・スレイト #ハリー・シャム・Jr #ジェームズ・ホン #ジェイミー・リー・カーティス #タリー・メデル #アンディ・リー #ブライアン・リー #中国人 #アクション #マルチバース #カンフー #アカデミー賞 #GAGA #ギャガ

A24 公式パンツ エブリシング エブリウェア オールアットワンス エブエブ

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  • 出版社/メーカー: ノーブランド品
  • メディア: ウェア&シューズ






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【映画レビュー】「52ヘルツのクジラたち」(2024 日本) [映画]

【映画レビュー】「52ヘルツのクジラたち」(2024 日本)
 本作は、町田そのこによる初の長編小説にして、2021年の本屋大賞に輝いた「52ヘルツのクジラたち」を成島出監督のメガホンで映画化した作品だ。
 まずは、そのタイトルに気になるが、“52ヘルツのクジラ”とは、世界唯一の種ともいわれ、一般的な種とは違う高周波数で鳴くため、その存在を認識されないまま生きることを余儀なくされ、「世界でもっとも孤独なクジラ」といわれている。
 その神秘的な例えをタイトルに採用しているように、孤独な主人公、そして、そんな主人公に拾われた孤独な少年との出会いを中心に、介護や虐待、毒親によるDV、ジェンダー問題をも盛り込んだ、重厚なストーリーだ。
 物語は、主人公の女性・三島貴瑚(杉咲花)が大分県のとある海沿いの一戸建てに引っ越し、その家をリフォームしていた村中真帆(金子大地)との会話から始まる。真帆は、東京からいきなり田舎に越してきた貴瑚に好意も含め、興味がある様子だが、「貴瑚さんって、風俗嬢だったんですか?」という不躾な問いをぶつけた部下を叱る。しかし実は、真帆も似たような疑問を抱いており、その噂は既に、村中に広まっていた。
 時代は遡り、貴瑚の生い立ちや境遇に触れていく。貴瑚は、“毒母”の由紀(真飛聖)から義父の介護の一切を丸投げされていたため、働くこともできず、社会から断絶させられた。ある日、義父が食べ物を喉に詰まらせ、誤嚥性肺炎で救急搬送された際も、「殺そうとしただろ!」と吐き捨てられるほどの奴隷扱いを受けていたのだ。
 そんな彼女を救ったのは、自らも毒親に育てられた過去を持つ高校時代の友人・牧岡美晴(小野花梨)と、美晴の同僚で「アンさん」と呼ばれる岡田安吾(志尊淳)だった。
 美晴とアンさんが貴瑚を救うため、身を粉にして動き、家から連れ出す。2人の手引きで、家出に成功した貴瑚と3人で居酒屋に入り、門出を祝う。貴瑚はそこで人生で初めてビールを口にする。
 物流倉庫で梱包作業の仕事も始め、社会に出た貴瑚だったが、突然、2人の前から姿を消す。
 一方、行方不明となった貴瑚の居所を突き止め、押しかけてくる美晴。会社も退職し、貴瑚のサポートに徹することを伝える。
 この物語は、貴瑚が家を出てから、生きづらい社会や人間関係の難しさを知り、見ず知らずの土地に身を置くまでに何があったのかを描く回想録的なストーリーだ。
 貴瑚は、その土地で母親から「ムシ」と呼ばれ、DV被害の後遺症からか、話すことのできない少年(桑名桃李)と出会い、その母・品城琴美(西野七瀬)から匿う。琴美は既に、元カレとの子である自分の息子に興味はなく、ネグレクト状態で、風呂にも入れず、髪も伸ばしっぱなしだった。
 貴瑚は少年を風呂に入れようと衣服を脱がせるが、その体は傷だらけ。虐待があったのは明らかであり、母親の元に戻すことは命にかかわると確信し、警察や児童相談所への通報をしないことを決意。その思いを琴美にも伝えるが、散々悪態をつかれた挙げ句、別の男性とともに姿を消す。
 このシーンでは少年の体に傷があっただけではなく、貴瑚の腹部にも傷跡があることが分かる。その傷には彼女の人生に関わる重大な事件が関係していた。
 貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分を救い出してくれたアンさんとの日々を思い起こしていく。片や、そのアンさんは独り、ホルモン注射を自らに打つ日々を送っていた。アンさんはトランスジェンダーだった。貴瑚とアンさんは互いに惹かれ合いながらも、恋仲になることがなかった理由はここにあったのだ。
 貴瑚が“52ヘルツのクジラ”の話をしていた際に、少年に名前を問うが、彼は、自らの名すら知らない。そこで「自由に名前を付けよう」ということになり、少年は貴瑚が紙に描いた「52」の部分に丸印を記す。名前とは程遠いものだが、おそらく人生で初めて自らの意思を示したであろうその行動に敬意を込め、その後、彼をそう呼ぶ。
 シーンは貴瑚が物流倉庫で働いていた頃の話に移る。職場での男性スタッフ同士のケンカに巻き込まれ、額を4針縫うケガをして入院した貴瑚を見舞った専務の新名主税(宮沢氷魚)から見初められ、交際が始まる。
 それまで住んでいた安アパートから、眺望の良いタワマンでの同棲生活が始まり、“玉の輿婚”も視野に入ってくる貴瑚。しかし主税は新名家の跡取り息子。結婚相手は社長である父に決められてしまう。
 それでも交際を続けようとした主税だったが、思わぬところから横ヤリが入る。主税に“愛人”がいることを、アンさんによって広く暴露されてしまったのだ。結果、結婚は破談となり、主税も専務の座から引きずり降ろされる。
 アンさんは当初から、主税との交際に警鐘を鳴らし、「必ず不幸になる」と告げ、主税から反感を買っていた。その時、アンさんはその理由を明かさなかったが、“女の勘”が働いたと考えれば合点が行く。そして、結果としてアンさんが案じていた通りになってしまったのだ。
 その後、主税はアンさんに復讐を目論む。アンさんの母・典子(余貴美子)をわざわざ故郷の長崎から呼び寄せ、男性として生き、変わり果てた息子の姿を目の当たりにさせたのだ。それだけでもショックを受けるアンさんだが、追い打ちをかけるかのように、トランスジェンダーを「障害」と断言する母に絶望する。探偵まで使って仕掛けた復讐劇は、主税の狙い以上の効果をもたらすが、その後の悲劇を招くまでの想像力を、主税は持ち合わせていなかった。
 汚い手を使って復讐を達成させたものの、大切な人を傷付けられた貴瑚は主税を責め、刃物を持ったままもみ合いのケンカになる。そして、さらなる悲劇が貴瑚を襲うのだった…。
 再び、舞台は貴瑚の自宅に移る。周囲の支えもあり、少年は笑顔を見せるまでに成長していた。海岸沿い
を歩いていると、豪快に潮を噴くクジラを目撃する。現地に長く住み、真帆と貴瑚の祖母の友人だった村中サチエ(倍賞美津子)によると、それは伝説のクジラで、サチエでさえも1度しか見たことがないという。それは、少年の問題が一段落するまでサポートを尽くした美晴が東京に戻る直前に起こった奇跡だった。
 そのタイトルに沿うようかのに、声なき声をSOSとして出し続けながらも誰にも届かない孤独を、様々な問題とともに描き切ったストーリーと、決してハッピーエンドとは言い難いラストによって、鑑賞者に多くの示唆を与え、考えさせる一作だ。
 主演の杉咲花は26歳の若さながら、『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(2018年)、『青くて痛くて脆い』(2020年)といったラブストーリーから、『市子』(2023年)や本作では、不幸を身にまとった役柄まで自然に演じる幅の広さを披露している。
 また、2018年のNHKドラマ『女子的生活』でもトランスジェンダーの役を演じた志尊淳も、存在感たっぷりの演技を見せている。
 ストーリーも、本屋大賞を受賞しただけのことはあり、人間模様を丁寧に描き出し、社会に巣食う様々な問題を過不足なく盛り込んでいる。
 社会に生きる上でぶつかる身近な問題を描き、同時に人間の美しさと醜さの両面を映し出している本作。重いテーマであることは確かだが、これから社会の厳しさや、人々の冷酷さに向き合うであろう若い世代にこそ見てもらいたい一作だ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://gaga.ne.jp/52hz-movie/
<公式X>https://twitter.com/52hzwhale_movie
<公式Instagram>https://www.instagram.com/52hzwhale_movie/
<監督>成島出
<脚本>龍居由佳里
<脚本協力>渡辺直樹
<製作>依田巽、堤天心、今村俊昭、安部順一、奥村景二
<エグゼクティブプロデューサー>松下剛、東山健
<企画・プロデュース>横山和宏、小林智浩、坂井正徳
<共同プロデューサー>楠智晴
<ラインプロデューサー>尾関玄
<音楽プロデューサー>佐藤順
<撮影>相馬大輔
<照明>佐藤浩太
<美術>太田仁
<装飾>湯澤幸夫
<録音>藤本賢一
<特機>奥田悟
<衣装>宮本茉莉、江頭三絵
<スタイリスト>渡辺彩乃
<ヘアメイク>田中マリ子、須田理恵
<特殊メイク>宗理起也
<小道具>鶴岡久美
<音響効果>岡瀬晶彦
<VFXスーパーバイザー>立石勝
<編集>阿部亙英
<音楽>小林洋平
<助監督>谷口正行
<スクリプター>森直子
<スタントコーディネーター>田渕景也
<トランスジェンダー監修>若林佑真
<LGBTQ+インクルーシブディレクター>ミヤタ
<インティマシーコーディネーター>浅田智穂
<キャスティング>杉野剛
<制作担当>
酒井識人
<原作>町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」(中央公論新社) https://www.chuko.co.jp/tanko/2020/04/005298.html
<主題歌>Saucy Dog「この長い旅の中で」 https://saucydog.jp/
#52ヘルツのクジラたち #映画 #町田そのこ #成島出 #龍居由佳里 #杉咲花 #志尊淳 #宮沢氷魚 #小野花梨 #桑名桃李 #金子大地 #西野七瀬 #真飛聖 #池谷のぶえ #余貴美子 #倍賞美津子 #虐待 #DV #毒親 #毒母 #トランスジェンダー #LGBTQ #孤独 #クジラ #本屋大賞 #ギャガ

52ヘルツのクジラたち【特典付き】 (中公文庫)

52ヘルツのクジラたち【特典付き】 (中公文庫)

  • 作者: 町田そのこ
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2023/05/25
  • メディア: Kindle版






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【映画レビュー】「あのこと」(原題「L'evenement」/2021 フランス) [映画]

【映画レビュー】「あのこと」(原題「L'evenement」/2021 フランス)
 1960年代のフランス。当時、人工妊娠中絶は違法とされ、手術を受けた女性に加え、手術した医師や助産師、さらに中絶を勧めた者まで懲役と罰金が科されていた。
 そんな時代に望まぬ妊娠をした大学生のアンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)が妊娠してしまう、文学を学び、教師を夢見るアンヌは、診療拒否を繰り返されながらも、独りで闘うことを決意する。
 原作は2022年のノーベル賞文学賞受賞作家アニー・エルノーが自ら経験した実話をもとに書き上げた小説『事件』。本作はヴェネチア国際映画祭の最高賞「金獅子賞」を受賞した。
 学生寮に暮らす大学生のアンヌは、教師からも一目置かれるほど成績優秀は学生だったが、生理が来ないことに気付き、独り悩む。両親が労働者階級で、裕福とはいえないアンヌにとって、学業を中断するという選択肢はなかった。
 勇気を出して病院に行くと、医師からあっさり「妊娠している」と告げられるアンヌ。彼女は「助けてほしい」と医師に懇願しましたが、「違法行為をするわけにはいかない。それをすれば刑務所行きだ。君も」と追い払われてしまう。
 アンヌには友人のエレーヌ(ルアナ・バイラミ)とブリジット(ルイーズ・オリー・ディケロ)がいたが、打ち明ける勇気もなく、別の病院へ行くが、やはりそこでも追い返される。その医者は注射薬を処方するが、投薬しても、アンヌの体には何の変化も起こらない。
 焦りだけが募る中、アンヌは同級生のジャン(ケイシー・モッテ・クライン)を呼び出し、自分と同じ経験をした女性を探してほしいと伝えるが、「妊娠中ならリスクがない」と、逆にレイプされれそうになり、悔しさと怒りとともにその場を去る。
 アンヌは不安と恐怖に潰されそうになり、勉強も手につかず成績が急降下していく。教師に呼び出され、このままでは進級ができないと告げられる。しかしアンヌは真実を告げるわけにもいかず、何も答えることができない。その事態を知ったエレーヌとブリジットにまで「私たちを巻き込まないで」と見放され、女子寮から出ていくように言われてしまう。
 アンヌは覚悟を決めて、ボルドーにいる相手の青年へ連絡して、妊娠したことを告げる。しかし自分しか頼れないことを悟ったアンヌは、「なんとかする」と言い電話を切ると、自ら調べた方法で処置を試みる。針を炙って消毒し、鏡を頼りに激しい痛みに耐えながら、子宮の奥深くまで針を突っ込み、堕胎しようとする。。
 翌日、アンヌは再び病院を訪れるが、医師から「赤ちゃんは持ちこたえている」と告げられてしまう。肩を落とすアンヌ。さらには別の病院で処方された注射薬の話をすると、医師から「それは流産を防止する薬」と言われ、アンヌは絶望する。
 ある日の夜、アンヌは物音で目覚めると、窓の外にジャンの姿があった。ジャンは中絶をした知り合いを探してくれたとのことだった。待ち合わせ場所の公園へ行くと、ある女性が待っており、中絶を引き受ける闇医者を紹介する。その手術費用は400フラン。新聞配達員の紹介と言って訪ねるようにと、アンヌは闇医者の住所が書かれたメモを受け取る。
 お金になりそうな物を全て売って手術費用を工面したアンヌは、その住所にあるアパートの一室を尋ねる。女性の闇医者が現れアンヌを招き入れる。激痛が襲っても大声を出せない中でもアンヌは耐え抜き、その手術は終わる。闇医者によると、24時間のうちに胎児は降りてくるとのことだったが、結局何も起こらなかった。
 再び闇医者を訪ねたアンヌ。闇医者から「これ以上の処理をすれば命の危険がある」と告げられる。しかし自己責任でもいいから手術をしてほしいと願うアンヌの固い決意に押され、闇医者は再び手術する。
 寮に戻ったアンヌは深夜、突然襲ってきた痛みにのたうち回る。意識は朦朧とし、うめき声をあげながらトイレに駆け込む。その時、音を立てて、胎児が産み落とされる。アンヌの声を聞いて様子を見に来た女子寮の寮生たちに、へその緒を切ってほしいと頼むアンヌ。寮生は激しく動揺しながらもへその緒を切り、アンヌを部屋へ運ぶ。
 しかし、出血が止まらず、アンヌの意識は次第に薄れていく。そして病院へ運ばれる。
 アンヌを診た医師は、カルテに「流産」と書き込む。もし「中絶」と書かれたらアンヌは重い罪に問われることになるところだった。
 アンヌは再び大学生活に戻る。学業に専念することが出来るようになったアンヌは、復帰を歓迎するジャンやエレーヌたちと共に、自信を持って難関の卒業試験に挑むのだった。
 中絶の是非については、欧米では未だに議論の的とされているが、こうした女性にとって不自由は時代があったのだと、終始、重苦しいながらも、ドキュメンタリーのような現実味をもって作品に仕立て上げている。
 女子寮でのシャワーシーンや性行為のシーン、陰部を晒した手術シーンがあるため、R15+(15歳未満鑑賞禁止)とされているが、このような作品こそ、若い世代に見せるべきであり、満足な性教育がなされていない日本の少年少女に必要なテーマを提示しているのではないだろうか。
 エロティシズムなシーンのみならず、グロテスクなシーンもあるため、拒否反応を示す鑑賞者もいるだろう。そういう自分も、本作が金獅子賞を受賞したことには違和感を感じ、“過大評価されすぎている”とも感じた。「これは名作か」と問われれば、そこまでではないと思ったからだ。男性が観るか女性が観るかでも、評価は分かれるだろう。
 良くも悪くもフランス映画っぽく、淡々としていて、劇的な演出を施すこともなく、ストーリーが進んでいく。最終的には、主人公のアンヌにとっては“ハッピーエンド”で終わるのだが、どこか拭い切れないモヤモヤが残る作品だった。 
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://gaga.ne.jp/anokoto/
<公式X>https://twitter.com/anokoto_movie
<監督>オードレイ・ディヴァン
<製作>エドアール・ウェイル、アリス・ジラール
<脚本>オードレイ・ディヴァン、マルシア・ロマーノ
<撮影>ロラン・タニー
<美術>ディエーネ・ベレテ
<衣装>イザベル・パネッティエ
<編集>ジェラルディーヌ・マンジェーノ
<音楽>エフゲニー・ガルペリン、サーシャ・ガルペリン
<原作>アニー・エルノー「事件」(早川書房) https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015270/
#あのこと #映画 #アニー・エルノー #オードレイ・ディヴァン #アナマリア・ヴァルトロメイ #サンドリーヌ・ボネール #ケイシー・モッテ・クライン #ルアナ・バイラミ #ルイーズ・オリー・ディケロ #ルイーズ・シュビヨット #ピオ・マルマイ #アナ・ムグラリス #オノール・オベルソン #ファブリツィオ・ロンジョーネ #フランス #中絶 #違法 #ノーベル文学賞 #ヴェネチア国際映画祭 #ベネチア国際映画祭 #金獅子賞 #R15+ #ギャガ #GAGA

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  • 発売日: 2023/05/10
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【映画レビュー】「落下の解剖学」(原題「Anatomie d'une chute」/2023 フランス) [映画]

【映画レビュー】「落下の解剖学」(原題「Anatomie d'une chute」/2023 フランス)
 本作は、2023年5月のカンヌ国際映画祭で、パルム・ドールに輝き、2024年1月のゴールデングローブ賞でも、脚本賞(ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ)と非英語作品賞の2冠を獲得。さらに、2024年3月に発表されるアカデミー賞においても、作品賞をはじめとする5部門でノミネートされている。パルム・ドールとアカデミー賞作品賞の2冠となれば、2019年の『パラサイト 半地下の家族』以来の快挙となる。
 フランス本国では公開からわずか1か月で観客動員数100万人を突破し、興行収入は、現時点で既に850万ドル(約126億円)を超えている。
 ある日、雪の積もるフランス・グルノーブル近郊の山荘で男が不可解な転落死を遂げ、ドイツ人の小説家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)が殺人容疑で逮捕される。転落したのはサンドラの夫のサミュエル(サミュエル・タイス)だったのだ。
 裁判では、生前のサミュエルが録音していた夫婦ゲンカの音声や、サンドラの過去の不倫やバイセクシャルであった事実、転落死の前日に起きた夫婦間の言い争いなども暴露され、サンドラは窮地に立たされる。そこで彼女は、“第一発見者”である11歳の盲目の息子・ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)を証人に、無実を証明しようとする。ダニエルは、4歳の時、交通事故で視力を失っていた。
 物語冒頭、サンドラは、作家志望の学生からインタビューを受けていた。にも関わらず、サミュエルは、屋根裏部屋で、自宅で民宿を営むための改装作業を、爆音で音楽を流しながら行っていた。インタビューは中止を余儀なくされ、仕方なく、日を改めて取材を受けることを約束し、その学生は帰っていく。
 その後、ダニエルが盲導犬のスヌープとともに散歩から帰宅すると、スヌープが吠え始め、異変に気付いたサミュエルは、父が玄関先で倒れていることを知り、号泣しながら母を呼び出す。しかし、父はすでに死亡していた。
 サンドラは警察に通報するが、警察は事故や自殺ではなく、殺人事件として処理し、サンドラに容疑をかける。それに対してサンドラは、古くからの友人であり弁護士のヴァンサン・レンツィ(スワン・アルロー)に弁護を依頼する。
 それから1年後、サンドラは、殺人容疑で逮捕、起訴され、裁判が始まる。検察側はサンドラが彼を鈍器で殴打し、3階の屋根裏部屋から突き落としたと主張する。検事(アントワーヌ・レナルツ)の態度も居丈高で、サンドラを殺人犯と決め付けているかの口ぶりだ。
 そこにテレビのワイドショーがセンセーショナルに事件を報じる。もうこうなると、真実などどうでもよくなり、“嵐”が過ぎ去るのを待つしかない。しかしサンドラは、罪を犯していないことを示す“悪魔の証明”をしなければならない。
 サンドラはサミュエルが事件の半年前にアスピリンを過剰摂取しようとしたこと、仕事面で困難な状況に陥り、精神科で治療を受けていたが、抗うつ薬の服用を中止したことをヴァンサンに伝える。一方でヴァンサンはサンドラの腕にアザがあることに気付く。ヴァンサンは食卓のカウンターにぶつかったことによるものだと説明したが、腑に落ちない様子だ。
 サンドラは、夫は自殺したと主張したものの、証拠がないまま裁判で不利な状況に立たされる。そんな中、“最後の手段”として盲目のダニエルが証言台に立つことになる…。
 転落死事件を中心に見せていくのではなく、弁護士ヴァンサンと被告人サンドラの会話、検察と被告人のせめぎ合い、特にヴァンサンと検事の間で交わされるロジカルなバトルを通じて、ジワジワと全貌を浮き彫りにしていく様は、ヒリヒリするほどの上質な法廷劇だ。
 完成度の高い脚本と、キャストの素晴らしい演技が噛み合っているだけではなく、物語の設定も一捻りが効いている。周囲に何もない孤立した雪山。被害者を最初に見つけたのは盲目の息子。容疑者の妻はドイツ人で、英語はネイティブレベルで話せるが、母国語ではないフランス語では、法廷の場でも、参審員(陪審員)の印象が悪く不利に働く。そんな中で果たしてサンドラは無罪を勝ち取れるのかという点が最大の見どころだ。
 サンドラとサミュエルの正体が明らかになっていくに連れ、両親のトラブルの狭間で揺れるダニエルの複雑な心境を案じ、見る者ですら、サンドラを罪に問うべきか否かを考えさせるような臨場感があり、いつしか物語に没入してしまうのだ。
 本作は152分という比較的、長尺の作品だ。しかしながら、それを感じさせないほどに、目まぐるしい展開で、冗長さは微塵も感じられない。
 それは、パルム・ドールを手にしたジュスティーヌ・トリエ監督の手腕と、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされているザンドラ・ヒュラーの演技によるものだろう。
 加えて、盲目でありながら気丈な少年・ダニエルを演じたミロ・マシャド・グラネールの好演と、カンヌ国際映画祭で優秀な演技を披露した犬に贈られる賞「パルム・ドッグ賞」を受賞した盲導犬のスヌープの存在感も見逃せないポイントだ。
 本作のストーリーは、サンドラが有罪か無罪かというシンプルな見方のみならず、同時に妻は夫を愛していたのかどうか、そして、それを証明することは可能なのかという問いを突き付けている部分もあり、夫婦愛や夫婦関係、加えて親子関係の難しさが、痛いほど伝わってくる作品だ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://gaga.ne.jp/anatomy/
<公式X>https://twitter.com/Anatomy2024?s=20
<監督>ジュスティーヌ・トリエ
<脚本>ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
<製作>マリー=アンジュ・ルシアーニ、ダビド・ティオン
<撮影>シモン・ボーフィス
<美術>エマニュエル・デュプレ
<衣装>イザベル・パネッティエ
<編集>ロラン・セネシャル
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