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【映画レビュー】「WILL」(2024 日本) [映画]

【映画レビュー】「WILL」(2024 日本)
 高校時代からメンズノンノの専属モデルとして活躍し、俳優デビュー作『桐島、部活やめるってよ』(2012年)でブレーク。2013年のNHK朝ドラ『ごちそうさん』では準主役に抜擢され、一流俳優の仲間入りを果たしたが、2020年の不倫報道、続いて出演番組・CMの打ち切りや離婚、1男2女への養育費不払いなどで世間から猛バッシングを浴び、テレビから姿を消した東出昌大。
 彼は現在、事務所に所属しないフリーの俳優として活躍し、『コンフィデンスマンJP』シリーズには欠かせないキャラクター「ボクちゃん」をはじめ、2023年にも『Winny』、『福田村事件』にも出演し、スキャンダルを乗り越え、順風満帆な俳優人生を、再び歩み始めているようにも見える。
 そんな東出、私生活では、電気やガス、水道もない山中に住み、狩猟をしながら生活しているという。猟銃で射殺した鹿や猪を食べながら、地元の人々と触れ合いながら、“究極のスローライフ”をしている東出。なぜ俳優と狩猟という“二刀流生活”をしているのか、そのきっかけとは何か、そしてその経験は彼に何をもたらしたのか。
 ミュージックビデオ製作を中心に活躍し、ドキュメンタリー監督に転じた映像作家・エリザベス宮地が1年間密着し、400時間もの撮影を経て製作された異色の作品だ。
 猟銃を担いで、雪は積もる山中の道なき道を歩き、獲物を狙う。捕獲した獣を自ら担いで運び、毛を剥ぎ、肉をさばいていく。
 我々は、肉を食す時、キレイに成形されたものを当然のように調理し、口に入れている。そこに「生」や「死」を意識することなどない。その前段で、生き物が屠殺され、切り刻まれた上で出荷されていることを想像する人などいないだろう。それはジビエ(野生鳥獣肉)でも同じことだ。
 東出が「師匠」と呼ぶ登山家・服部文祥の教えを請い「単独忍び猟」という手法で獲物を獲っていく。獲物は新鮮さを保つため、即解体作業に入る。周囲に子どもがいてもお構いなし。その残忍な光景に、泣き出す子どももいる。しかし、鑑賞者のみならず、作中に登場した子どもたちにとっても、その現実は最高の“食育”ではないかとも感じる。
 宮地は当初、東出の友人でもあるラップグループ「MOROHA」のメンバーの半生も重ねて、双方の視点を相互的に重ねるような構成を考えていたという。
 しかし、撮影を始めると、狩猟の世界の厳しさを知り、同じタイミングで東出がフリーとなり、山へ移住したことで、東出を追ったドキュメンタリーになったいきさつがある。
 故に、MOROHAは、時おり挿入される歌唱シーンや武道館公演の模様のみの登場にとどまり、少々もったいなさが残る。
 東出を語る上で、やはりの過去のスキャンダルは避けられない。
 1回目の不倫騒動で妻と子どもに逃げられ、2回目ではついに所属事務所から見放された形でフリーになるしかなかった東出。しかし、その前事務所から“狩猟に関するドキュメンタリーはNG”を言い渡されていたため、その枷がなくなったことで、本作の製作が可能となった。
 実家にまで報道陣が訪れ、自身も自殺を考えるようになるほどうつ状態に陥ったと語る東出。確かに当時の彼へのバッシングは苛烈で、人間嫌いになっても不思議ではない。
 心身ともにボロボロになった彼を受け入れてくれたのは、週刊誌報道やネットニュースなどに全く関心のない山男たち。彼にとってはユートピアと感じただろう。出会いに恵まれたといってもいいだろう。
 肝心のドキュメントパートでは、現地の人々は総じて東出の本気度を感じ、総じて好意的なコメントを口にする。彼が芸能人だからといって、色眼鏡で見るようなこともない。
 そんな状況に甘えることなく、東出は積極的に山に入り、次々と獲物を捕らえていく。
 しかし、監督・宮地の「なぜ狩猟をするのか」という問いに、東出は明確に答えられない。まだ何かに迷いを抱えているかのようだ。
 東京を離れた東出を慕う後輩俳優も、合流するのだが、その中には女性もおり、その女性とのツーショット写真を週刊誌に掲載されてしまう。怒っても許されそうではあるが、自然に溶け込んだ生活の中で、東出はそんな些末なことに戸惑うような小さい人間ではなくなっていた。
 ついには「週刊女性」の記者とカメラマンを招き、食事を共にしながら本音をぶつけ合うまでに、彼は人間的に成長していた。
 カメラは、東出が出演した映画『福田村事件』の撮影現場にまで入り込み、監督の森達也にも、東出についてのコメントを引き出している。
 東出が魅力的な人物であり、“人たらし”であることは十分に伝わってきた。しかし、作品全体を見渡してみると、やや引っ掛かる部分もあり消化不良感も残った。
 ひと言で言ってしまえば、ダラダラしているのだ。地元の人々へのインタビューでは、多くの人が同じような質問に同じような答えが繰り返される。
 純粋に「ドキュメンタリー」と呼べるのは、前半1時間で表現できており、残りの1時間20分は“プロモーション”色が濃くなってしまっている点が残念だ。MOROHAのラップのシーンも、その歌詞は東出の人生とオーバーラップさせるものなのだろうが、演出過多で興ざめしてしまう。
 そもそも、多くの撮影時間があったからといって、余すところなく作品にする必要はないはずであり、本作に関しても、無駄に長尺になっている印象だ。本作に関して言えば、90分~120分の作品にまとめられたはずである。鑑賞者に冗長さを与えないことも監督らスタッフ陣の腕であり、宮地の経験不足がモロに出てしまった格好だ。
 物語の最後、東出は本作を通して、行き別れた自分の子どもに対して、父としての生き様を見せる「WILL=遺言」であると語るのだが、離婚時の養育費不払い騒動を考えると、あまりにも説得力に欠ける。
 東出は“いい人”であることは本作を見れば明らかだ。しかし、だらしなく生きてきた自分を俯瞰的に振り返ることは、まだできていないといっては言い過ぎだろうか。
<評価>★★☆☆☆
<公式サイト>https://will-film.com/
<公式X>https://twitter.com/WILL_movie0216
<公式Instagram>https://www.instagram.com/will_movie0216/
<監督・撮影・編集>エリザベス宮地
<プロデューサー>高根順次
<音楽>MOROHA
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