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【映画レビュー】「あのこと」(原題「L'evenement」/2021 フランス) [映画]

【映画レビュー】「あのこと」(原題「L'evenement」/2021 フランス)
 1960年代のフランス。当時、人工妊娠中絶は違法とされ、手術を受けた女性に加え、手術した医師や助産師、さらに中絶を勧めた者まで懲役と罰金が科されていた。
 そんな時代に望まぬ妊娠をした大学生のアンヌ(アナマリア・ヴァルトロメイ)が妊娠してしまう、文学を学び、教師を夢見るアンヌは、診療拒否を繰り返されながらも、独りで闘うことを決意する。
 原作は2022年のノーベル賞文学賞受賞作家アニー・エルノーが自ら経験した実話をもとに書き上げた小説『事件』。本作はヴェネチア国際映画祭の最高賞「金獅子賞」を受賞した。
 学生寮に暮らす大学生のアンヌは、教師からも一目置かれるほど成績優秀は学生だったが、生理が来ないことに気付き、独り悩む。両親が労働者階級で、裕福とはいえないアンヌにとって、学業を中断するという選択肢はなかった。
 勇気を出して病院に行くと、医師からあっさり「妊娠している」と告げられるアンヌ。彼女は「助けてほしい」と医師に懇願しましたが、「違法行為をするわけにはいかない。それをすれば刑務所行きだ。君も」と追い払われてしまう。
 アンヌには友人のエレーヌ(ルアナ・バイラミ)とブリジット(ルイーズ・オリー・ディケロ)がいたが、打ち明ける勇気もなく、別の病院へ行くが、やはりそこでも追い返される。その医者は注射薬を処方するが、投薬しても、アンヌの体には何の変化も起こらない。
 焦りだけが募る中、アンヌは同級生のジャン(ケイシー・モッテ・クライン)を呼び出し、自分と同じ経験をした女性を探してほしいと伝えるが、「妊娠中ならリスクがない」と、逆にレイプされれそうになり、悔しさと怒りとともにその場を去る。
 アンヌは不安と恐怖に潰されそうになり、勉強も手につかず成績が急降下していく。教師に呼び出され、このままでは進級ができないと告げられる。しかしアンヌは真実を告げるわけにもいかず、何も答えることができない。その事態を知ったエレーヌとブリジットにまで「私たちを巻き込まないで」と見放され、女子寮から出ていくように言われてしまう。
 アンヌは覚悟を決めて、ボルドーにいる相手の青年へ連絡して、妊娠したことを告げる。しかし自分しか頼れないことを悟ったアンヌは、「なんとかする」と言い電話を切ると、自ら調べた方法で処置を試みる。針を炙って消毒し、鏡を頼りに激しい痛みに耐えながら、子宮の奥深くまで針を突っ込み、堕胎しようとする。。
 翌日、アンヌは再び病院を訪れるが、医師から「赤ちゃんは持ちこたえている」と告げられてしまう。肩を落とすアンヌ。さらには別の病院で処方された注射薬の話をすると、医師から「それは流産を防止する薬」と言われ、アンヌは絶望する。
 ある日の夜、アンヌは物音で目覚めると、窓の外にジャンの姿があった。ジャンは中絶をした知り合いを探してくれたとのことだった。待ち合わせ場所の公園へ行くと、ある女性が待っており、中絶を引き受ける闇医者を紹介する。その手術費用は400フラン。新聞配達員の紹介と言って訪ねるようにと、アンヌは闇医者の住所が書かれたメモを受け取る。
 お金になりそうな物を全て売って手術費用を工面したアンヌは、その住所にあるアパートの一室を尋ねる。女性の闇医者が現れアンヌを招き入れる。激痛が襲っても大声を出せない中でもアンヌは耐え抜き、その手術は終わる。闇医者によると、24時間のうちに胎児は降りてくるとのことだったが、結局何も起こらなかった。
 再び闇医者を訪ねたアンヌ。闇医者から「これ以上の処理をすれば命の危険がある」と告げられる。しかし自己責任でもいいから手術をしてほしいと願うアンヌの固い決意に押され、闇医者は再び手術する。
 寮に戻ったアンヌは深夜、突然襲ってきた痛みにのたうち回る。意識は朦朧とし、うめき声をあげながらトイレに駆け込む。その時、音を立てて、胎児が産み落とされる。アンヌの声を聞いて様子を見に来た女子寮の寮生たちに、へその緒を切ってほしいと頼むアンヌ。寮生は激しく動揺しながらもへその緒を切り、アンヌを部屋へ運ぶ。
 しかし、出血が止まらず、アンヌの意識は次第に薄れていく。そして病院へ運ばれる。
 アンヌを診た医師は、カルテに「流産」と書き込む。もし「中絶」と書かれたらアンヌは重い罪に問われることになるところだった。
 アンヌは再び大学生活に戻る。学業に専念することが出来るようになったアンヌは、復帰を歓迎するジャンやエレーヌたちと共に、自信を持って難関の卒業試験に挑むのだった。
 中絶の是非については、欧米では未だに議論の的とされているが、こうした女性にとって不自由は時代があったのだと、終始、重苦しいながらも、ドキュメンタリーのような現実味をもって作品に仕立て上げている。
 女子寮でのシャワーシーンや性行為のシーン、陰部を晒した手術シーンがあるため、R15+(15歳未満鑑賞禁止)とされているが、このような作品こそ、若い世代に見せるべきであり、満足な性教育がなされていない日本の少年少女に必要なテーマを提示しているのではないだろうか。
 エロティシズムなシーンのみならず、グロテスクなシーンもあるため、拒否反応を示す鑑賞者もいるだろう。そういう自分も、本作が金獅子賞を受賞したことには違和感を感じ、“過大評価されすぎている”とも感じた。「これは名作か」と問われれば、そこまでではないと思ったからだ。男性が観るか女性が観るかでも、評価は分かれるだろう。
 良くも悪くもフランス映画っぽく、淡々としていて、劇的な演出を施すこともなく、ストーリーが進んでいく。最終的には、主人公のアンヌにとっては“ハッピーエンド”で終わるのだが、どこか拭い切れないモヤモヤが残る作品だった。 
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://gaga.ne.jp/anokoto/
<公式X>https://twitter.com/anokoto_movie
<監督>オードレイ・ディヴァン
<製作>エドアール・ウェイル、アリス・ジラール
<脚本>オードレイ・ディヴァン、マルシア・ロマーノ
<撮影>ロラン・タニー
<美術>ディエーネ・ベレテ
<衣装>イザベル・パネッティエ
<編集>ジェラルディーヌ・マンジェーノ
<音楽>エフゲニー・ガルペリン、サーシャ・ガルペリン
<原作>アニー・エルノー「事件」(早川書房) https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015270/
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