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【映画レビュー】「シャイロックの子供たち」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「シャイロックの子供たち」(2023 日本)
 東京第一銀行・検査部次長の黒田道春(佐々木蔵之介)は妻・亜希子(森口瑤子)とともにシェイクスピアの舞台『ヴェニスの商人』を観ながら、自らの過去を振り返る。「シャイロック」とはこの戯曲に登場する強欲な金貸しのことだ。黒田は以前に勤めていた支店のATM用の現金を抜き取り、競馬につぎ込んでいた。
 黒田は、検査部員に機械に現金を戻すところを見られてしまい、バレそうになったことから競馬をやめていた。
 ある日、長原支店の営業課長代理・西木雅博(阿部サダヲ)のもとに、“飲み友達”という沢崎肇(柄本明)が来店する。沢崎は西木に自身の所有する不動産の相続に関する相談のために訪れたのだが、沢崎の所有する不動産は20億円を投じて建てたものだが、耐震偽装が発覚して3分の1以下の価値に落ちてしまった、耐震偽装のワケあり物件ばかりだった。
 一方、西木と同じく長原支店に勤めるお客様一課・課長代理の滝野真(佐藤隆太)は、かつて赤坂支店に勤めていた頃の顧客だった石本浩一(橋爪功)に呼び出される。そこは以前に住宅販売の大規模プロジェクトを共同で進めていた住宅会社「江島エステート」の事務所。
 しかし、経営者だった江島は、そのプロジェクトが始動した矢先に夜逃げしてしまい、石本の手元に残されたのは、江島エステートの実印と事務所だけ。石本は住宅販売プロジェクトの再起動のための運営資金として新たに10億円を融資してほしいと滝野に依頼する。
 石本は偽装した江島の印鑑登録証明書と宅地開発リストを用意し、自ら江島になりすますと言い出す。架空融資だとして滝野は断ろうとするが、石本にある弱みを握られていたことから受け入れざるを得なくなる。
 滝野は、石本が提案した融資案件を、支店長の九条馨(柳葉敏郎)とパワハラ上司の副支店長・古川一夫(杉本哲太)に報告する。九条は自ら石本と面会し、根回しも行ったことで審査が通り、江島エステートへ融資されることになる。滝野は長原支店内での個人業績トップを表彰される。
 ところがわずか3か月後、滝野は石本から資金繰りが苦しくなったと告げられる。石本は100万円の利払いすらできず、来月中に必ず返済するからと至急立て替えてくれるよう、半ば強制的に滝野に告げる。滝野は、別の取引先に渡す予定だった900万円が入った袋から、100万円を抜き取る。
 この100万円紛失はすぐさま明るみになり、現金を運んだお客様第二課の田端洋司(玉森裕太)が真っ先に疑われるが、長原支店の行員のロッカーが点検されることとなり、営業課の北川愛理(上戸彩)のロッカーから帯封が見つかる。
 北川は口座履歴での入出金が多く、金遣いが荒いと疑われていた。今回の現金紛失も北川の仕業ではないかと疑われるが、ここは西木が彼女を庇う。西木は、北川が苦労人であり、兄弟の学費までも工面していることを知っていた。
 そんな西木もまた、事業に失敗した兄の闇金業者の連帯保証人となっており、5億円もの借金を抱えており、苛烈な取り立てに遭っていた。拉致されかけた西木を滝野が救い出す。その後、西木は滝野に対し、自分は闇金の取り立てに妻を巻き込まぬように、現在は戸籍上では離婚して別居中であることを明かす。
 翌日もまだ100万円は見つからず、九条や古川、西木ら数名が自腹で金を出し合って立て替え、表面上は100万円は見つかったということにする。しかし、北川への疑いは晴れず、北川と不仲のお客様第二課・半田麻紀(木南晴夏)は彼女を罵る。
 しかし、北川はその場に居合わせていた西木と共に、帯封に残っている指紋を特定すれば犯人はすぐ分かると提案すると、半田は動揺する。半田は他の行員たちが100万円を探している間、たまたま社食で何者かが落帯封を拾い、北川を困らせるために彼女のロッカーに忍び込ませたことを白状する。西木は社食で帯封を落とした人物こそが窃盗の真犯人であると断定する。
 その頃、田端は滝野の代わりに、江島エステートの事務所へ書類を届けに向かう。しかし、そこはとても事務所とは言えないボロアパート。滝野は江島エステートは新社屋の完成までこのアパートを間借りしているだけだと説明するが、田畑や北川はその説明に納得がいかない。そんな時、西木は支店の全員が現金を探していた際にゴミ箱の中から拾った、江島エステート宛ての100万円の振込受付書を見せる。
 その夜、西木、北川、田畑は、そのボロアパートを訪れる。西木らは近隣住民の証言などから、このアパートには最初から江島エステートは入居していなかったことを確認し、郵便ボックスには石本名義の郵便物が入っていたことも明らかになる。
 江島エステートの事務所の件は、滝野の上司であるお客様第一課課長・鹿島昇(渡辺いっけい)、九条、古川の耳にも入る。滝野は担当者としての責任を問われ、長原支店には黒田ら検査部が立ち入り調査をすることとなる。
 黒田は現金紛失の件と、その隠蔽工作の証拠を掴んでいたが、九条は自分は黒田の弱点を掴んでいることを明かし、架空融資の件はじめ、現金紛失や隠蔽工作などについてもお咎めなしとされた。実はかつて黒田が銀行から金を抜き出し、競馬につぎ込んだことを目撃していたのは当時検査部にいた九条だった。
 その頃、西木らは江島の印鑑登録証明書が偽造されたものであることを見抜き、融資前から仕組まれていたと考える。西木らは担当者である滝野から事情を聞くが、滝野は何も語らない。しかし、西木らは江島エステートへの振込受付所の筆跡が滝野のものと酷似しているという事実を突き止めており、現金紛失の真犯人も滝野であると確信する。
 西木らはアパートの郵便物の名義人である石本についても調べ上げる。その結果、石本は宅地開発などを手がける会社「赤坂リアルター」の社長であること。かつて石本は赤坂リアルターが開発した宅地に江島エステートが住宅を建てるというプロジェクトを進めていたこと。赤坂リアルターの融資案件はかつて赤坂支店にいた滝野が担当していたことなどの事実を掴む。西木らは石本が滝野に関する弱みを握っているのではないかと勘ぐり始める。
 さらに西木らは、赤坂支店と赤坂リアルターを結びつけたのは、当時この支店に勤めていた九条だったこと、そして九条が銀座の高級クラブで石本を密会していたという証拠を突き止め、この架空融資の黒幕は九条であることに気付く。
 西木は滝野とともに、書類上、江島エステートによる住宅建設予定地へと向かうが、そこは何もない原っぱ。西木は九条の過去についても調べ、かつて競馬で大損したことで離婚したことを知る。今なお元妻に養育費を払っている九条は、自身が出世コースから外れても目先の金のために石本と手を組んだのだった。
 滝野は西木に、石本に握られている自らの弱みについて打ち明ける。滝野は以前、赤坂リアルターへの融資が決定した際に石本から謝礼金を渡され、家族のために一戸建てを建てようと考えていたためにその金を受け取ってしまったのだ。
 どうすればいいのか悩む滝野に、西木は自分の人生は自分自身で決めるよう諭すと、九条たちを告発する自ら練り上げた作戦を開始する。それは以前に西木が沢崎から持ちかけられた耐震偽装のビルをあたかも優良物件であるかのように装って九条に紹介し、石本に15億円で購入させるという計画だった。
 西木は耐震偽装がバレないよう根回しし、沢崎のビルを石本に買わせることに成功する。九条と石本は喜ぶが、時を同じくして耐震偽装に関わった設計士が逮捕され、このビルの耐震偽装がニュースで報じられたことから、九条と石本はハメられたことに気付く。
 そして滝野は、逮捕覚悟で自らの過ちと一連の件の真相を黒田に打ち明け、九条、石本、滝野は逮捕される。一方、西木は沢崎から謝礼を受け取り、闇金からの借金を完済する。
 時が経ち、刑期を終えて出所した滝野は妻子に温かく出迎えられる。黒田は銀行を辞めて転職。そして西木もまた銀行を辞め、姿を消す。
 ある日、北川と田端は舞台『ヴェニスの商人』を観劇する。北川は西木の姿を見かけ、その後を追うが、西木は姿を消してしまい、西木のその後は分からないままだった。
 2006年に発刊された原作本や2022年にWOWOWで放送されたドラマ版から派生した、完全オリジナルストーリーの作品だが、元三菱銀行に勤務していた原作者・池井戸潤の経験を生かし、リアリティーの中にサスペンス要素も含んだ重厚なストーリーだ。
 池井戸潤作品だといえば、『半沢直樹』や『下町ロケット』といった経済ドラマ、最近では『ハヤブサ消防団』など、エンタメ性を含んだミステリー作での活躍ぶりが目立つが、彼の原点でもある「銀行ミステリー」で、勤めていたからこそ描ける“銀行マンあるある”を多分に盛り込んだものだ。
 メガバンクにまつわる魑魅魍魎が描かれており、職業倫理と自身の欲望の狭間で苦悩し、不正に手を染めてしまう行員たちを、阿部サダヲら一流キャストが、それぞれの持ち味を生かしながら好演している点も見逃せないポイントだ。WOWOWでのドラマ版も良作だったが、劇場版ならではの重厚感ある作品に仕上がっている。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://movies.shochiku.co.jp/shylock-movie/
<公式X>https://twitter.com/shylock_film
<監督>本木克英
<脚本>ツバキミチオ
<エグゼクティブプロデューサー>吉田繁暁、三輪祐見子
<プロデューサー>矢島孝、石田聡子
<共同プロデューサー>中川慎子
<撮影>藤澤順一
<照明>志村昭裕
<録音>栗原和弘
<美術>西村貴志
<装飾>中村聡宏
<衣装>丸山佳奈
<ヘアメイク>西村佳苗子
<VFXスーパーバイザー>浅野修二
<編集>川瀬功
<音楽>安川午朗
<音楽プロデューサー>高石真美
<スクリプター>丹羽春乃
<音響効果>堀内みゆき
<助監督>向井澄
<プロダクションマネージャー>岩田均
<ラインプロデューサー>山田彰久
<製作担当>前場恭平
<原作>池井戸潤「シャイロックの子供たち」(文藝春秋社) https://books.bunshun.jp/sp/shylock
<主題歌>エレファントカシマシ「yes. I. do」(A&M Records) https://store.universal-music.co.jp/product/umck5725/
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