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【映画レビュー】「午前4時にパリの夜は明ける」(原題「Les passagers de la nuit」/2022 フランス) [映画]

【映画レビュー】「午前4時にパリの夜は明ける」(原題「Les passagers de la nuit」/2022 フランス)
 1981年、大統領選挙の祝賀ムードに包まれ、希望と変革の雰囲気に満ちていたフランスのパリは希望と変革の雰囲気に満ちていた。
 そんな雰囲気とは正反対に、夫と別れ、子どもたちを養うため、働く必要に迫られるエリザベート(シャルロット・ゲンズブール)。エリザベートは深夜ラジオ番組の人気パーソナリティーであるヴァンダ・ドルヴァル(エマニュエル・ベアール)に手紙を送り、番組のアシスタントとして働き始める。
 ある晩、番組のリスナーである孤独な少女タルラ(ノエ・アビタ)と出会い、彼女が家出してきたことを知ったエリザベートは、自宅に彼女を招き、共に暮らし始める。タルラとの出会いによって、エリザベートは自身の境遇を悲観していたこれまでを見つめ直すのだが、そんなタルラに、エリザベートの息子マチアス(キト・レイヨン=リシュテル)が恋心を抱き、不思議な家族での生活が始まる。7年もの年月を過ごしていく中で、変わっていくもの、また変わらないものを、じっくりと描き出していく。
 プロットにも奇をてらったものはなく、派手な出来事は起こらない。誰の人生にも起こり得そうな、ささやかな出来事が一つひとつ積み上げらえていくストーリーだ。
 就業経験がなく、不眠体質であるという理由で、深夜ラジオの仕事に就き、その帰路に家出少女と出会い、家族として迎え入れる。実子はその少女に片思いするが、少女はあっさりと彼の前から立ち去ってしまう。少年は永遠を求めるが、それは叶わず、少女はすれ違って消えていくという物語。
 エリザベートの日記の形で語られる「他者は過去の私たち」「他者が垣間見せるのは私たちの破片や断片」「彼らは私たちの夢を見る。でも他人同士」「私たちはいつも素晴らしき他人」などといた言葉。が、本作のテーマだ。
 本作の原題を直訳すると「夜の乗客たち」で、深夜ラジオの番組名でもある。リスナーたちとのすれ違いが、家族や人生を象徴していく。人はみな他人だが、他者は過去や現在、未来の自分自身を写す鏡であって、どこか寂しさや切なさを感じる、でも同時に暖かみや希望も感じる、そんな人生観を表現している。この、寂しさと暖かみが共にある感じは、午前4時という空気感とどこか共通するものがある。
 どこかアンニュイでありながら、切実さを味わう作品で、独特な作品だ。
 しかし、7年もの間に何も起こらなかったわけではない。薬物に手を出すタルラ、エリザベートを襲う病、そして貧困…。それでもなお、前を向いて生きようとする逞しさを得ていく。
 劇的な展開がないにも関わらず、いつの間にかストーリーに没入させられるのは、監督と脚本を務めたミカエル・アースの手腕だろう。
 本作には、シャンゼリゼ通りも凱旋門賞も登場しない。エッフェル塔すら、パリの一風景として映し出されているに過ぎない。登場人物も、変革していくフランス社会から取り残されたような、下町の等身大のパリっ子たちだ。
 性的な描写は生々しいものだが、不思議といやらしさは感じない。これはフランス映画の持つ、独特の感性なのだろう。ドロドロしたように感じさせない美しさを湛えたシーンだ。
 タルラを見送るラストシーン。シャンソンに合わせて家族みんなでダンスし、タルラも一緒になって踊るのが微笑ましい。
 深夜ラジオは物語の最初の設定に過ぎず、メインのストーリーは、1人のシングルマザーの生き様と成長を描いた人間ドラマだ。フランス映画らしい映像と音楽の美しさが、それを彩っている佳作といえよう。
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://www.bitters.co.jp/am4paris/#
<公式X>https://twitter.com/am4_paris
<公式Facebook>https://www.facebook.com/am4paris/
<監督>ミカエル・アース
<脚本>ミカエル・アース、モード・アメリーヌ、マリエット・デゼール
<製作>ピエール・ガイヤール
<製作総指揮>エブ・フランソワ・マシュエル
<撮影>セバスティアン・ビュシュマン
<美術>シャルロット・ドゥ・カドビル
<編集>マリオン・モニエ
<音楽>アントン・サンコー
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午前4時にパリの夜は明ける

午前4時にパリの夜は明ける

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2023/12/15
  • メディア: Prime Video






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