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【映画レビュー】「高速道路家族」(原題「고속도로 가족」/英題「Highway Family」/2022 韓国) [映画]

【映画レビュー】「高速道路家族」(原題「고속도로 가족」/英題「Highway Family」/2022 韓国)
 失業し、身重の妻ジクス(キム・スルギ)と2人の子のウニとテクを抱えてホームレスとなったギウ(チョン・イル)。一家は高速道路のサービスエリアを転々としながら、テントを張り、「財布をなくしたので2万ウォンだけ貸してほしいと」と噓をついて寸借詐欺をしてその日暮らしを送っていた。
 ある日、ギウは以前にも騙した中古家具店の女経営者のヨンソン(ラ・ミラン)に再び声をかけてしまい、詐欺がバレて逮捕されてしまう。ギウは詐欺の他に、投資の詐欺で指名手配になっていた。
 警察にギウを突き出したヨンソンだったが、ギウが逮捕されたら子どもはどうなるのかと尋ね、警察は青少年課の判断によると答える。
 ヨンソンは残されたギウの妻ジスクと子どもたちを放っておけず、「うちに来ますか」と声をかける。
 ヨンソンが営む中古家具屋の部屋に住むことになった3人。最初は戸惑っていた3人も、温かい食事と布団で寝る生活に安堵を覚え始める。
 ヨンソンは、ウニが読み書きできないことを知り、ドリルを買ってハングルを教えてあげたり、妊婦のジスクに気を遣って産婦人科に連れて行ってあげたり何かと面倒をみる。
 ヨンソンが一家を放っておけないことには、彼女は息子を若くして失っていた過去があった。ドファンは「ヨンソンにの喪失感を埋めるために、家族の面倒をみているのだろう」と気付く。
 ヨンソンの夫ドファン(ペク・ヒョンジン)も、ジスクらを気に掛けていたが、ある日、事件が起きてしまう。
 中古家具の買い取りに行くドファンと従業員にテクもついていくが、目を離した隙に、家具の下にテクが潜り込んでしまい、どかそうとしたものの、家具の下敷きとなりテクがケガをしてしまいう。
 ケガをさせたドファンをヨンソンが責める。するとドファンはヨンソンに対し、「一家の面倒を見るのはもう限界だ」と告げる。これによって、ヨンソンとドファンの関係も壊れてしまう。
 その頃、逮捕・拘束されていたギウは隙をみて拘置所から抜け出したが、家族と離ればなれになったことで錯乱し、精神的におかしくなってしまう。ギウは逃げながら、かつてヨンソンにお金を貸した際にもらった名刺を思い出し、ヨンソンの中古家具屋に向かう。
 ギウはウニに手紙を渡し、ウニはその手紙をジスクに渡す。夜、寝静まった後、ギウが店にやってくる。
 「また家族で頑張ろう」と言うギウにジスクは「ここで暮らすと決めた、子どもたちと頑張る」と告げ、さらに「私たちから離れて。ごめんなさい」とウニに訴える。
 その言葉によって錯乱したギウは、椅子を投げようとする。「暴力はやめて」と泣き「一緒にはいけない」と言うジスクに、ギウは呆然とその場を立ち去るしかなかった。
 ウニはジスクに「お父さん何と言っていたの」と尋ねる。するとジスクは、「100回寝たら帰ってくる」とだけ言う。
 ヨンソンは、ジスクにウニを学校に連れて行ってあげたらと勧めるが、お金がないと困るジスクに「学校は無料だから大丈夫。出産して落ち着いたら店を手伝って」と言う。それは、「これからもここに住んでもいい」ということを意味していた。その言葉に喜ぶジスク。子どもたちと和気あいあいと食事をしているところに、錯乱したギウがやってくる。
 「もう一度、ヨリを戻す」と言うギウに、ジスクと子どもたちは怯える。ヨンソンが警察に通報しようとすると、ギウは怒り出す。
 ドファンと従業員が抑えつけようとし、もみくちゃになtった際に、肉を焼いていたドラム缶が倒れ、商品の中古家具に引火してしまう。ジスクはその火を消そうとしますが、今度は服に火が燃え移ってしまう。
 パニックになっている間に次々と火が燃え移り、家具が倒れてくる。ジスクをギウが庇い、2人は炎に包まれてしまう。
 泣き叫ぶウニとテクをヨンソンが必死で抑え、消防車の救助を待ちます。やってきた消防隊により火が消し止められ、家具の下から2人が発見される。
 月日が経ち、ウニは学校に通うようになります。学校から帰ったウニをヨンソンとテク、そして赤ちゃんを抱えたジスクが出迎えます。しかし、そこにギウの姿はなかった…。
 明らかに『パラサイト 半地下の家族』を意識した設定で、そこにさらにスリラー要素を上書きしたようなストーリーの本作。『万引き家族』にも似た世界観の作品だ。
 どうしようもないクズの父親のギウだが、家族思いが暴走してしまったり、ジスクと子どもたちを救おうとするドファンの優しさなどが描かれる中で、韓国社会の様々な問題を映し出している。
 作品を通じて、悪人はただ1人。主人公のギウだけだ。周囲の迷惑も考えずに己の欲求に従うだけのダメ人間であり、他の登場人物はすべきことをし、ヨンソンに至っては自分の家庭をも顧みず、ウニと子どもたちを助けた。
 セーフティーネットからこぼれ落ちた家族の問題を描きたかったのだろうが、ギウのようなクズ人物を助ける必要はあるのだろうか。ラストシーンでは、ギウの存在が消され、死んだのかと思わせるような締め方には賛否が分かれそうでもあるが、子どもたちのためには、これで良かったのだと感じさせるラストだった。安易にハッピーエンドでは終わらないところに、韓国映画ならではの表現方法が見て取れた。
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://kousokudouro-kazoku.jp/index.html
<公式X>https://twitter.com/kousokudouro_JP
<公式Instagram>https://www.instagram.com/kousokudouro.kazoku/
<公式Facebook>https://www.facebook.com/kousokudouro.kazoku
<監督・脚本>イ・サンムン
<製作>アン・スヨン、イ・ジョンウン
<撮影>キム・ヒョノク
<音楽>イ・ミンフィ
<美術>ソン・ソイル
<音楽>イ・ミンフィ
#高速道路家族 #映画 #イ・サンムン #チョン・イル #ラ・ミラン #キム・スルギ #ペク・ヒョンジン #ソ・イース #パク・タオン #韓国 #ホームレス #家族 #サービスエリア #詐欺 #スリラー #AMG

チョン イル 高速道路家族 ホログラムカード(サイン入り)1枚

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  • 出版社/メーカー: ノーブランド品
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【映画レビュー】「WILL」(2024 日本) [映画]

【映画レビュー】「WILL」(2024 日本)
 高校時代からメンズノンノの専属モデルとして活躍し、俳優デビュー作『桐島、部活やめるってよ』(2012年)でブレーク。2013年のNHK朝ドラ『ごちそうさん』では準主役に抜擢され、一流俳優の仲間入りを果たしたが、2020年の不倫報道、続いて出演番組・CMの打ち切りや離婚、1男2女への養育費不払いなどで世間から猛バッシングを浴び、テレビから姿を消した東出昌大。
 彼は現在、事務所に所属しないフリーの俳優として活躍し、『コンフィデンスマンJP』シリーズには欠かせないキャラクター「ボクちゃん」をはじめ、2023年にも『Winny』、『福田村事件』にも出演し、スキャンダルを乗り越え、順風満帆な俳優人生を、再び歩み始めているようにも見える。
 そんな東出、私生活では、電気やガス、水道もない山中に住み、狩猟をしながら生活しているという。猟銃で射殺した鹿や猪を食べながら、地元の人々と触れ合いながら、“究極のスローライフ”をしている東出。なぜ俳優と狩猟という“二刀流生活”をしているのか、そのきっかけとは何か、そしてその経験は彼に何をもたらしたのか。
 ミュージックビデオ製作を中心に活躍し、ドキュメンタリー監督に転じた映像作家・エリザベス宮地が1年間密着し、400時間もの撮影を経て製作された異色の作品だ。
 猟銃を担いで、雪は積もる山中の道なき道を歩き、獲物を狙う。捕獲した獣を自ら担いで運び、毛を剥ぎ、肉をさばいていく。
 我々は、肉を食す時、キレイに成形されたものを当然のように調理し、口に入れている。そこに「生」や「死」を意識することなどない。その前段で、生き物が屠殺され、切り刻まれた上で出荷されていることを想像する人などいないだろう。それはジビエ(野生鳥獣肉)でも同じことだ。
 東出が「師匠」と呼ぶ登山家・服部文祥の教えを請い「単独忍び猟」という手法で獲物を獲っていく。獲物は新鮮さを保つため、即解体作業に入る。周囲に子どもがいてもお構いなし。その残忍な光景に、泣き出す子どももいる。しかし、鑑賞者のみならず、作中に登場した子どもたちにとっても、その現実は最高の“食育”ではないかとも感じる。
 宮地は当初、東出の友人でもあるラップグループ「MOROHA」のメンバーの半生も重ねて、双方の視点を相互的に重ねるような構成を考えていたという。
 しかし、撮影を始めると、狩猟の世界の厳しさを知り、同じタイミングで東出がフリーとなり、山へ移住したことで、東出を追ったドキュメンタリーになったいきさつがある。
 故に、MOROHAは、時おり挿入される歌唱シーンや武道館公演の模様のみの登場にとどまり、少々もったいなさが残る。
 東出を語る上で、やはりの過去のスキャンダルは避けられない。
 1回目の不倫騒動で妻と子どもに逃げられ、2回目ではついに所属事務所から見放された形でフリーになるしかなかった東出。しかし、その前事務所から“狩猟に関するドキュメンタリーはNG”を言い渡されていたため、その枷がなくなったことで、本作の製作が可能となった。
 実家にまで報道陣が訪れ、自身も自殺を考えるようになるほどうつ状態に陥ったと語る東出。確かに当時の彼へのバッシングは苛烈で、人間嫌いになっても不思議ではない。
 心身ともにボロボロになった彼を受け入れてくれたのは、週刊誌報道やネットニュースなどに全く関心のない山男たち。彼にとってはユートピアと感じただろう。出会いに恵まれたといってもいいだろう。
 肝心のドキュメントパートでは、現地の人々は総じて東出の本気度を感じ、総じて好意的なコメントを口にする。彼が芸能人だからといって、色眼鏡で見るようなこともない。
 そんな状況に甘えることなく、東出は積極的に山に入り、次々と獲物を捕らえていく。
 しかし、監督・宮地の「なぜ狩猟をするのか」という問いに、東出は明確に答えられない。まだ何かに迷いを抱えているかのようだ。
 東京を離れた東出を慕う後輩俳優も、合流するのだが、その中には女性もおり、その女性とのツーショット写真を週刊誌に掲載されてしまう。怒っても許されそうではあるが、自然に溶け込んだ生活の中で、東出はそんな些末なことに戸惑うような小さい人間ではなくなっていた。
 ついには「週刊女性」の記者とカメラマンを招き、食事を共にしながら本音をぶつけ合うまでに、彼は人間的に成長していた。
 カメラは、東出が出演した映画『福田村事件』の撮影現場にまで入り込み、監督の森達也にも、東出についてのコメントを引き出している。
 東出が魅力的な人物であり、“人たらし”であることは十分に伝わってきた。しかし、作品全体を見渡してみると、やや引っ掛かる部分もあり消化不良感も残った。
 ひと言で言ってしまえば、ダラダラしているのだ。地元の人々へのインタビューでは、多くの人が同じような質問に同じような答えが繰り返される。
 純粋に「ドキュメンタリー」と呼べるのは、前半1時間で表現できており、残りの1時間20分は“プロモーション”色が濃くなってしまっている点が残念だ。MOROHAのラップのシーンも、その歌詞は東出の人生とオーバーラップさせるものなのだろうが、演出過多で興ざめしてしまう。
 そもそも、多くの撮影時間があったからといって、余すところなく作品にする必要はないはずであり、本作に関しても、無駄に長尺になっている印象だ。本作に関して言えば、90分~120分の作品にまとめられたはずである。鑑賞者に冗長さを与えないことも監督らスタッフ陣の腕であり、宮地の経験不足がモロに出てしまった格好だ。
 物語の最後、東出は本作を通して、行き別れた自分の子どもに対して、父としての生き様を見せる「WILL=遺言」であると語るのだが、離婚時の養育費不払い騒動を考えると、あまりにも説得力に欠ける。
 東出は“いい人”であることは本作を見れば明らかだ。しかし、だらしなく生きてきた自分を俯瞰的に振り返ることは、まだできていないといっては言い過ぎだろうか。
<評価>★★☆☆☆
<公式サイト>https://will-film.com/
<公式X>https://twitter.com/WILL_movie0216
<公式Instagram>https://www.instagram.com/will_movie0216/
<監督・撮影・編集>エリザベス宮地
<プロデューサー>高根順次
<音楽>MOROHA
#WILL #映画 #映画WILL #エリザベス宮地 #高根順次 #東出昌大 #服部文祥 #阿部達也 #石川竜一 #GOMA #コムアイ #森達也 #MOROHA #狩猟 #ドキュメンタリー #スペースシャワー







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【映画レビュー】「ワース 命の値段」(原題「Worth」/2020 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「ワース 命の値段」(原題「Worth」/2020 アメリカ)
 2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの犠牲者や負傷者の約7000人にも上ったその補償金を分配する事業を担当したケン・ファインバーグの回想録「What Is Life Worth?」を基に映画化した本作。
 未曽有のテロに世界中の人々に動揺が広がる中、米国政府は事件の被害者遺族に多額の補償金を分配することを決定する。
 その特別管理人を託された弁護士で、かつコロンビア大学にて法律学を教えていたケン・ファインバーグ(マイケル・キートン)は、「人の命をどう換算するのか?」という問題に直面する。独自の計算式により、ケンは被害者それぞれの補償金額を算出する方針を打ち出し、補償分配金をはじき出すが、被害者遺族の猛反発に遭い、交渉は難航する。ファインバーグをはじめとする弁護団は、遺族の実情に即した軌道修正を迫られる。
 被害者遺族が抱えるさまざまな事情と、彼らの喪失感や悲しみに接する中で、弁護団は多くの矛盾にぶち当たる。補償対象者約7000人の8割の賛同を得る目標に向けた作業が停滞する一方、犠牲者救済のための補償基金プログラム反対派の活動が活発化していく。2003年12月22日の最終期限が迫る中、ケンたは苦境に立たされる。
 対象者との初の説明会に臨んだケンだが、その事務的な態度に不満の声が続出し、「娘の命も金持ちの命も同じなのだから、全員同じ額にしろ」などと怒号が飛び交う事態になる。そこへ、遅れて参加したチャールズ・ウルフ(スタンリー・トゥッチ)が、参加者をなだめてその場を収める。
 ファインバーグに、松葉づえをついたフランク・ドナート(ローラ・ベナンティ)という男が近付く。彼には消防士をしていたニックという弟がいて、事件当日に貿易センタービル内にいた自分を救助しようとして、命を落としていた。
 ドナートは、飛行機が突っ込んだ後にビルが崩壊する危険があるという警告が発せられたが、ニックがビル内に救助に入っていったとして、コミュニケーションの不備を指摘し、プログラムの再調査をすべきだと主張するが、ケンは聞く耳を持たずに、部下のカミール・バイロス(エイミー・ライアン)に応対を任せてしまう。
 エイミー・ライアン賛同者も20%に満たないまま、ケンを非難するブログが立ち上がる。その中心人物は、チャールズ・ウルフだった。
 説明会用に作った資料のミスを指摘したウルフに一目置いていたプリヤ・クンディ(シュノリ・ラマナタン)は、ファインバーグに彼と話し合うよう勧めるが、基金を成立させることを急ぐケンは、その提案を「拒否する。
 一方、プリヤらスタッフと共に対象者たちとの聞き込みを始めたカミールは、そこでグラハム・モリスという男性と出会う。友人男性をテロで失ったというその男は、彼とは同性愛のパートナー関係にあったと告白する。
 カミールは、補償金は規則として彼の両親に与えられることになっており、彼らは息子が同性愛者と認めておらず、さらにグラハムが住むバージニア州の法律では、同性愛者は対象外になっていると知る。
 チャールズとの話し合いをすべきというプリヤの再度の提言を受け、ケンは事務所に彼を招く。チャールズは「人間誰もが同じ価値だ」と主張し、ケンを非難する。
 プログラム申請の最終期限が刻一刻と迫っていたある休日、愛犬を連れて散歩していたケンに電話が入る。声の主はニックと不倫関係にあったという女性の弁護を請け負う人物からだった。
 その弁護士によると、ニックはその女性との間に2人の娘をもうけており、その子たちも補償金を受け取る権利があると主張。しかしそれには本妻であるカレン・ドナート(ローラ・ベナンティ)の承諾が必要なため、ケンにその説得を依頼した。
 後日、カレンの家を訪ねたケンだったが、そこに居合わせたフランクに追い返される。その態度から、ケンは彼が全てを把握していると直感する。
 ある夜、リンカーンセンターにオペラを観に行ったケンは、そこでウルフと再会する。互いの妻がアマチュアのオペラ歌手という共通点があることを知る。
 ウルフは、今は亡き妻が失敗しても耐え忍ぶようにと励ましてくれた経験を語りつつ、対象者一人ひとりと向き合い、彼らの声を聞くべきだと改めて訴える
 上演後、帰宅せず事務所に向かったケンは、対象者リストを夜通しでチェックする。翌朝、出社してきたカミールたちに、できる限り対象者と直接会って話を聞こうと提案する。
 対象者が補償を受けられる条件の範囲をもっと広く出来るよう動き出したケンたち。やがて彼のオフィスは、対象者たちから貰った形見などで埋め尽くされる。
 そんな中、再びカレンの家を訪ねたケンは、ニックの隠し子について伝えようとするが、フランクに拒まれる。
 賛同者たちの数は、ようやく順調に増えていくが、目標の8割には程遠く、ケンたちは落胆する。
 高所得者による集団訴訟を目論む弁護士のリー・クイン(テイト・ドノバン)からプログラム法案不成立を認めるサインを求められたケンは昔、自分がリーに足してアドバイスした言葉を、彼が自慢げに語り出したことに腹を立て、サインを拒否する。
 事務所に戻ったケンは、そこで大勢の対象者が訪れている光景に出くわす。ケンたちの努力を認めたウルフがブログで「ケン・ファインバーグは信頼に値する」と書き込んだのを機に、プログラムに賛同する者が続出したのだ。
 そして、目標の8割を超える、95%もの賛同者を得ることに成功する。
 その一方で、カミールはグラハムに留守電メッセージを残す。それは、グラハムの訴えによりニューヨークでは同性愛者のパートナーにも補償金が支払われることになったものの、ヴァージニアでは州法によりそれは適用されないというもの
 また、ケンを訪ねたカレンは夫の不倫に最初から気づいていたと明かし、不倫相手との間に生まれた娘たちにも補償金が行くようにと、サインした書類を手渡す。
 被害者補償基金プログラムは2003年まで運営され、最終的に計5560人に70億ドル超が支払われた。その後、2011年と19年に再開および延長が決定し、未だに健康や精神的な被害に苦しむ人々の救済を続けている。
 同時多発テロの犠牲となった被害者と遺族を救済するために政府が立ち上げた補償基金プログラム。これはテロ発生間もない9月22日に、「航空運輸安全およびシステム安定化法案」として当時のブッシュ大統領の署名のもと作成された。このプログラムは、表向きでは遺族や負傷者への救済だが、真の目的は企業の救済だったともいわれている。
 アメリカはちょっとしたでもす裁判沙汰になる訴訟大国だ。これを同時多発テロに当てはめると、被害者が訴えるべきはアルカイダなのだが、それは無理筋な話だ。となれば実行犯が乗っていた航空会社や、空港やセキュリティ会社、あるいは世界貿易センターそのものを訴える者も出てきても不思議ではない。
 仮に、被害者やその遺族が、こうした企業を訴えて勝訴し、多額の補償金を手にするようなことになれば、それこそアルカイダの思うツボである。
 そこで公的に補償金を支払う代わりに、提訴する権利を放棄させるのだが、犠牲者といっても境遇はさまざまだ。体をを張って命を落とした消防士や警官、アルバイトで生計を立てていた人もいれば、金持ちの企業家や株式トレーダーもいる。
 一律同額支給ではなく、年収や扶養家族の有無から金額を算出していくというこのプログラムが正しかったのか否かは、現在でも議論の的となっている。
 その影響で、2013年のボストンマラソンでの爆破テロや2017年のニューヨークで起こったトラック突入テロの死傷者に補償金が支払われていないことからも、プログラムの難しさが垣間見える。
 テロ被害者に支払う補償金額を決める責任者となったケン・ファインバーグ。人間に“値段”をつけるという汚れ役を無報酬で引き受けた点で、彼は賞賛されるべき人物に見える。
 しかし彼は、元連邦検事にして1980年代の枯葉剤訴訟で自身が調停者となって和解を成立させるなどの輝かしい実績と経験に任せた算出法を推し進めて、対象者の個々の声に耳を傾けようとしない。そればかりか、メモ取りも出来なければ家族と夕食する際の伝達も秘書に任せるなど、自分では何もせず、何も出来ない人物であることが明らかになっていく。
 しかし、反対派のリーダーであるチャールズの訴えや、部下のカミールやプリヤの助言により変わっていく。年をとっても、さまざまな問題と向き合うことで成長するということを示したシナリオだ。
 本作では、強欲な弁護士のリー・クインの行動を黙って見るしかない司法長官や、当時のブッシュ大統領といった共和党の遠回しに揶揄している。
 このテロ以降、意味のない戦争に突き進んだブッシュ大統領を中心とする政府の対応が非難の嵐を浴びたことは当然なのかもしれないが、本作の配給権をいち早く取得したのが、次期大統領のオバマ夫妻が設立した製作会社「ハイヤー・グラウンド・プロダクションズ」だったことからは、政治的な醜い駆け引きが見て取れる。
 補償基金プログラムの管理人を無報酬で引き受けた理由について、本人は「愛国心から」だとし、「プログラム事業を難しくしたのは、同時多発テロから数日しか経っておらず、悲しみも癒えていない人たちに向き合わなくてはならないことだった」と述懐している。
 事実に基づいたストーリーであるため、派手さには欠ける本作。しかしながら、被害者側の証言を丹念に取り上げて、彼らの癒えぬ喪失感に手を差し伸べようとする製作側の意図は、原作者のケン・ファインバーグの思いと相通じるものを感じる。
 同時多発テロの10年後、日本においても同じようなことが起きた。東日本大震災による原発事故だ。
 家族とふるさとを同時に失い、地縁もなく、知り合いもいない土地への移住を余儀なくされた人々に対し、東電からの補償金で新築マンションに住み、外車を乗り回すなどといったフェイクニュースが流され、結果、肩身の狭い思いをしながら生きていくこと余儀なくされたケースも多いと聞く。結局のところ、被害者の気持ちは被害者にしか分からないのだ。
 人間の命に値段などつけられるのかと問われたら、否定する人は多いかもしれないが、どんな人間であれ、保険金などと同様に、何かしらの形で値段がつけられている。そこから逃れることは出来ないのだ。本作は、その不都合な真実を鑑賞者に突きつけたといっていいだろう。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://longride.jp/worth/
<公式X>https://twitter.com/worth_movie
<映画配給会社ロングライド公式Instagram>https://www.instagram.com/longride_movie/
<映画配給会社ロングライド公式Facebook>https://www.facebook.com/movie.longride/
<監督>サラ・コランジェロ
<脚本>マックス・ボレンスタイン
<製作>マーク・バタン、アンソニー・カタガス、マイケル・シュガー、バード・ドロス、ショーン・ソーレンセン、マックス・ボレンスタイン
<製作総指揮>ニック・バウアー、ディーパック・ネイヤー、アラ・ケシシアン、アレン・リウ、キンバリー・フォックス、チャールズ・ミラー、エドワード・フィー
<撮影>ペペ・アビラ・デル・ピノ
<美術>トンマーゾ・オルティーノ
<衣装>ミレン・ゴードン=クロージャー
<編集>ジュリア・ブロッシュ
<音楽>ニコ・マーリー
<音楽監修>ルパート・ホリアー
<原作>ケネス・ファインバーグ「What Is Life Worth?」(PublicAffairs,U.S.) 
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【映画レビュー】「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」(2023 日本)  大前粟生の小説を金子由里奈のメガホンにより映画化した青春ドラマ。大学の“ぬいぐるみサークル”を舞台に、男らしさや女らしさといった概念な苦手な大学生と、彼を取り巻く人々を描いている。
 京都の大学に進学した七森剛志(細田佳央太)は、異性が苦手で、ややコミュ障気味。七森は、ぬいぐるみに話しかけるという“ぬいぐるみサークル”に入る。心優しい部員たちと親しくなっていく中で、七森は同じ部員の麦戸美海子(駒井蓮)に淡い恋心を抱き、告白して交際に至る。
 サークルに集う学生たちは、みな優しいのだが、反面、センシティブで生きづらさを感じているようにも見える。その鬱憤を誰にも聞かれない状態で、LGBTQなどの自らの重苦しい悩みをぬいぐるみにぶつけている。
 あるサークルのメンバーが「優しさと無関心は似ている」と語るが、まさにその通りで、ぬいぐるみに語ったところで何の解決にもならない。
 ついにはその悩みがキャパオーバーとなって、ひきこもりになってしまう主人公。異常なまでに傷付くことを恐れるZ世代の生態を描いたのだろうが、これほどにもなぁまぁの集団で、人間的成長など望むべくもない。傷付き傷付けられ心の耐性を身に付くべき年代に、このような人間関係しか築けない若者が、ガラスのようなメンタルのまま社会に出ていくと思うと、現在の日本社会の生産性の低さの根底が透けて見える。
 リア充をSNSでアピールする若者も気持ち悪いが、本作に登場するような若者に対しても気持ち悪さを感じる。七森は、居酒屋に誘われても全く楽しそうじゃないし、イジられた途端にその場から逃げ出す始末だ。自分にとって都合のいい人間とだけ付き合い、その他は全て排除し、孤独を選び、ぬいぐるみと戯れるキャラクターには全く共感できない。
 その七森でさえも、自分では気付かないうちに美海子を傷付けている。その反省もない。どれだけ偉いんだ?どれだけ自分本位なんだ?と疑問を抱かずにはいられない。
 イライラさせる七森という主人公を演じているのは細田佳央太。彼の何を考えているのか分からないような演技によって、作品としては一応の体裁は整っている。ラストシーンも、原作の大前粟生が何を伝えたかったを示唆するような締め方だ。
 金子由里奈の商業映画デビュー作ということで、自身の母校・立命館大学をモデルとしているようだが、父であり、数々の名作を世に放った金子修介の足下にも及ばない薄っぺらい演出によって、凡庸な作品になってしまっている。本作は会話劇でもあるのだが、あまりにも間が悪く、睡魔を誘うほどだ。
 愛娘の監督作を見て、父・金子修介はどういう感想を持ったのかを聞いてみたいくらいだ。
<評価>★☆☆☆☆
<公式サイト>https://nuishabe-movie.com/
<公式X>https://twitter.com/nuishabe_movie
<公式Instagram>https://www.instagram.com/nuishabe_movie/
<監督>金子由里奈
<脚本>金子鈴幸、金子由里奈
<プロデューサー>髭野純
<ラインプロデューサー>田中佐知彦
<撮影>平見優子
<照明>加藤大輝、本間光平
<録音>五十嵐猛吏
<美術>中村哲太郎
<スタイリスト>中村もやし
<ヘアメイク>安藤メイ
<編集>大川景子
<音楽>ジョンのサン
<助監督>中村幸貴
<スチール>北田瑞絵
<主題歌>わがつま「本当のこと」(NEWFOLK) https://newfolkjp.stores.jp/items/645e0be838b3a5008115c686
<原作>大前粟生「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」(河出書房新社) https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309028743/
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  • 出版社/メーカー: JIGGY FILMS
  • 発売日: 2024/01/01
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【映画レビュー】「死刑にいたる病」(2022 日本) [映画]

【映画レビュー】「死刑にいたる病」(2022 日本)
 凶悪事件や裏社会を題材とする作品を数多く手掛けた白石和彌監督が、櫛木理宇原作のサスペンス小説を映画化。24件もの殺害事件を犯した死刑囚から、その中の1件の冤罪の真犯人を追うように依頼された大学生が、その真実を暴く姿を描いていく。
 三流大学の学生・筧井雅也(岡田健史)は、幼い頃から教育熱心な父・和夫(鈴木卓爾)からは、“出来の悪い息子”と疎まれ、母親の衿子(中山美穂)もまた、夫からは家政婦扱いされていた。
 祖母の葬儀のために久々に実家に帰った雅也。父親は相変わらず文句ばかりで、うんざりしていると、実家に届けられていた自分宛の手紙を見つける。その手紙の差出人は榛村大和(阿部サダヲ)。雅也がよく通っていたパン屋の店主だったが、その正体は、生爪を剥がしてなぶり殺し、24人を殺害していたシリアルキラーだった。
 雅也は刑務所に榛村の面会に行くと、すでに死刑が決まっている榛村は、立件された8件の事件の関与は認めているものの、最後の事件だけは自分がやってないのだと告白する。そして雅也に真犯人を見つけるようにお願いする。面会から帰る途中、雅也は髪の長い怪しい男に話しかけるが、逃げるように帰る。
 榛村の担当弁護士だった佐村(赤ペン瀧川)から事件に関する調書を見せてもらった雅也は、16、17歳の少年少女をターゲットに、最終的に殺害するという榛村の共通した手口に対し、最後の事件の被害者の24歳の根津かおる(佐藤玲)に対してだけは、榛村の手口とは違ったものだった。これに違和感を感じた雅也は調査を始めます。
 かおるの近辺を調べ始めた雅也、彼女は極度の潔癖症と偏食家で、ストーカー被害に遭っていたことを知る。そして同時に、祖母の遺留品を調べていると母が若い頃に榛村と繋がっていることも知ることになる。雅也は、過去の2人を知る滝内(音尾琢真)から話を聞く。
 親から虐待を受け、育ての親に育てられた榛村。育ての親とやっていたボランティアで玲子と出会う。幼い頃から人の心を掴むことに長けていた榛村。そして玲子も、榛村には心を開いていたが、やがて玲子は妊娠が発覚し、姿を消す。
 雅也の脳裏には、自分の父親は榛村なのではないかという疑念が沸く。榛村もその可能性を否定しなかった。それ以降、雅也が凶暴な一面を見せるようになり、雅也の中学時代の同級生である加納灯里(宮崎優)も心配して駆け付ける。
 榛村の調書を読んた雅也は、金山一輝(岩田剛典)という男が裁判に出廷し、榛村の犯行の目撃証言をしていたことを知る。その際、法廷では榛村から証言台が見えないようにする遮蔽措置を取っていたことに、雅也は違和感を感じる。
 弁護士の佐村から、金山が幼い頃、弟と傷つけ合う“痛い遊び”というものを榛村にやらされていたことが分かり、金山にはトラウマがあることを知る。そして父親に褒められたいというコンプレックスを榛村に利用され、次第に洗脳されていくことが分かる。
 そして金山の写真を見た雅也は驚く。刑務所の前で会った怪しい男が金山だったのだ。かおるの事件現場に現れた金山を雅也は追いかけ、真相を語らせることに成功する。その真相を榛村に伝えるため、面会に向かう雅也だったが、榛村はすでに刑務官の心をもコントロールしていた。
 雅也の話を聞いた榛村は、金山が犯人だと決めつけたように話し出す。しかし雅也は真相を話し続ける。実はかおるは過去に榛村が殺害に失敗した人物で、その後も榛村はかおるに執着し、狙い続けてきた。そして金山を利用し、かおるを次の殺人のターゲットに選ばせていた。
 金山はそのせいで、自分は榛村と共犯なのだと思い悩んでいた。真相を語り、榛村の元を去る雅也。そして、独房に戻った榛村は1枚の紙を開く。そこには、榛村がマインドコントロールしてきた人物の名前が記されていた。榛村は雅也の名前に線を引く。雅也もまた榛村にマインドコントロールされていたのだ。
 刑務所を出た雅也を待っていた灯里。雅也は灯里と交際に至っていたのだが、榛村のリストには灯里の名前もあった。過去に榛村と接触があり、マインドコントロールされたのだ。
 真相を暴いたことで、普段の生活を取り戻したかに見えた雅也に、灯里が不気味に笑いながら告げる。「最近、人の爪がとても気になるの、欲しくなるくらいに…。分かるよね…」。灯里は。榛村は灯里をもマインドコントロールに掛けていたのだった。
 脚本、演出、キャスティングとその演技、全てにおいて完璧といっていいほどの作品であり、猟奇殺人犯を演じた阿部サダヲ、秘密を持つ母親役の中山美穂、そして、表情やセリフ回しでその心情を表現する岡田健史の演技が光っている。原作の題名とはいえ「死刑にいたる病」とは、言い得て妙の見事なタイトルだ。
 PG12扱いになることを承知で、榛村による惨殺シーンを描いたのは、白石監督の心意気だろう。その異常性を示し、しかも、主人公がその血を引いている可能性があるというストーリーである以上、このシーンはなくてはならないものだったと、後になって知る。
 そして衝撃的なラストシーン。雅也を含めて、周囲の人物全員をマインドコントロールに掛けていた榛村の恐ろしさを知らしめたところでこの物語は終わる。ややもすれば人間不信に陥ってしまいそうな、余韻を残すミステリー作だった。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://siy-movie.com/
<公式X>https://twitter.com/SIYmovie
<公式Instagram>https://www.instagram.com/siymovie/
<監督>白石和彌
<脚本>高田亮
<製作>藤本款、小坂恵一、和田佳恵
<企画>深瀬和美
<プロデューサー>深瀬和美、永井拓郎、堀慎太郎
<撮影>池田直矢
<照明>舘野秀樹
<録音>浦田和治
<美術>今村力、新田隆之
<装飾>多田明日香
<衣装>高橋さやか
<ヘアメイク>有路涼子
<VFXスーパーバイザー>朝倉怜
<音響効果>柴崎憲治
<撮影効果>実原康之
<編集>加藤ひとみ
<音楽>大間々昂
<助監督>渡辺圭太
<制作担当>篠宮隆浩
<原作>櫛木理宇「死刑にいたる病」(早川書房) https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013678/
#死刑にいたる病 #映画 #白石和彌 #櫛木理宇 #高田亮 #阿部サダヲ #岡田健史 #岩田剛典 #宮崎優 #中山美穂 #音尾琢真 #岩井志麻子 #鈴木卓爾 #佐藤玲 #赤ペン瀧川 #大下ヒロト #吉澤健 #コージ・トクダ #神岡実希 #川島鈴遥 #大原由暉 #山時聡真 #竹村浩翔 #清水らら #梁軍 #濱佑太朗 #加藤剛 #掛裕登 #加賀義也 #西岡竜吾 #松島さや #小倉優花 #峰平朔良 #木下美優 #丸岡恵 #建石姫来 #桒原百花 #千歳ゆず #汐里実栞 #橋本乃衣 #三原羽衣 #死刑 #殺人 #サイコ #サスペンス #PG12 #日本アカデミー賞 #クロックワークス

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 櫛木 理宇
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/10/31
  • メディア: Kindle版






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【映画レビュー】「コヴェナント 約束の救出」(原題「GUY RITCHIE's THE COVENANT」/2023 アメリカ・スペイン・イギリス) [映画]

【映画レビュー】「コヴェナント 約束の救出」(原題「GUY RITCHIE's THE COVENANT」/2023 アメリカ・スペイン・イギリス)
 本作を観賞するにあたって、まず「タリバンとは何か」を知ろうと思い、外務省HPを覗いてみた。
 そこには驚くべき記述があった。
 テロに関して、「ソ連軍駐留時代に米CIAによって建設されたゲリラ訓練施設が現在も存在すると言われ、これがアフガニスタン国外におけるテロ事件に結びついている」とあったのだ。
 これが何を意味するか。1989年のソ連軍撤退後、いくつものテロ組織が集合離散しながら内戦が続くアフガニスタンの国内情勢を背景に、1994年に誕生したのがタリバンだ。
 パシュトー語で「学生」を意味するタリバンは、反共主義の下に結成され、米CIAからも資金的援助も受けていたとされている。ある意味で“生みの親”でもあるのだ。
 タリバンの当初の目的は、アフガニスタン国民自身による統治を回復し、国内の政治体制を、同国の慣習に適合させる形で「純化」しようと試みた組織なのだ。
 徐々にその勢力を拡大させるにあたって、タリバンは生みの親である米国に牙をむく。「イスラム原理主義」に根ざした人権侵害や女性蔑視が問題視され、国際的孤立を強いられたからだ。
 その後、米国大使館爆破事件や外交官やジャーナリストの殺害事件、市街地での自爆テロ事件などを起こし、米国との対立を深める中、決定的な大事件が起きる。
 2001年9月11日の同時多発テロ事件だ。
 米国はテロの容疑者として、オサマ・ビン・ラディンを筆頭とするアルカイダ関係者を引き渡すように要求。しかし、政権を掌握していたタリバンはこれを拒否。ここから米軍史上最長の戦争となる、20年にも渡るアフガニスタン紛争に突入することになるのだ。
 本作は、紛争が泥沼化していた2018年のアフガニスタンを舞台としている。『シャーロック・ホームズ』(2009年)や『アラジン』(2019年)などの娯楽作のイメージが強いガイ・リッチーが、アフガニスタン人通訳についてのドキュメンタリーから着想を得て製作した、自身初の社会派ヒューマンドラマだ。
 米軍の曹長ジョン・キンリー(ジェイク・ギレンホール)は、タリバンの武器庫を探す部隊を率いていたが、その任務は難航を極めていた。そんな中、「反抗的だが優秀なのは間違いない」と評判のアフガニスタン人通訳のアーメッド(ダール・サリム)を紹介され、面接の末、雇い入れることにする。
 アーメッドを帯同させたキンリーの部隊はタリバンの爆発物製造工場の場所を突き止めるが、タリバン側から大量の兵士を送り込まれ、キンリーとアーメッド以外は全員、凶弾に倒れてしまう。
 キンリー自身も瀕死の重傷を負ったが、アーメッドが救出し、時には手製の担架で、またある時は手押し車で、野を越え山を越え、100キロにも及ぶ道のりを手負いのキンリーを米軍基地まで運んだのだ。キンリーはそのまま4週間にも渡り眠り続ける。さらにその3週間後に、ロサンゼルスの家族のものへ帰還を果たす。
 キンリーは名誉除隊し、勲章も用意される。しかし、彼の頭にあったのは、礼も言えずに別れることとなったアーメッドとその家族の消息だ。
 そして、アーメッドの弟を通じて、アーメッドがタリバンに命を狙われ、賞金首となっていることが分かる。
 焦るキンリー。1秒でも早く米国行きのビザを取ろうと移民局に掛け合うが、なかなか話が前に進まない。
 自分を助けたため、その命が危機にさらされているアーメッドを救うため、デクラン・オブラディ軍曹(アレクサンダー・ルドウィグ)の声に背き、キンリーは再びアフガニスタンの地を踏む。
 再び訪れたアフガニスタンは、タリバンがさらに勢力を強めていた。アーメッド一家も居所を変えながら、なんとかタリバンからの追っ手から逃れる日々を送っていた。
 アーメッド一家探しのために、軍の協力を仰ぐが拒否され、たった独りでの捜索を余儀なくされるキンリー。そして、とある街で、自動車整備士として働いているアーメッドと接触する。そこにはタリバンが、あと数メートルに迫っていた。
 キンリーとアーメッド、そしてその妻と幼い子どもは、決死の逃亡劇を繰り広げる。ダム上部の道路に追い込まれた4人。必死の抵抗を見せるが、ついには弾切れし、“もはやここまで”と目をつむるキンリー。
 そこに現れたのが、エディ・パーカー(アントニー・スター)が率いるヘリ部隊だった。掃射攻撃によってタリバンを一掃し、そのヘリで救出されるキンリーとアーメッド一家。
 かくしてキンリーのアーメッド救出作戦は成功裏に終わる。しかし、物語はここで終わりではない。
 最後、「たとえ地の果てでも、必ず俺が連れて帰る」という言葉とともに、アフガニスタンで実際に起きている出来事を示しているのだ。
 2021年に米軍がアフガニスタンから完全撤退したこと。それによって2021年、タリバンが政権を掌握したこと。加えて、タリバンによって、100人以上の通訳やジャーナリストが処刑されたことが記されている。
 今この瞬間も、アフガニスタンに住まう人々は、タリバンの恐怖政治に震え上がりながら過ごしているのだ。
 2019年には、アフガニスタンで医療活動に従事しながらも、テロリストの凶弾によって中村哲氏が命を落とした。同国の政情は、我が国にとっても無関係ではないのだ。中村氏の功績はアフガニスタン国民のみならず、タリバンからも感謝され、殺害事件現場の近くに追悼広場「ナカムラ」を完成させ、中村氏の写真や石碑が設置されている。
 しかしながら、中間層以上の多くの国民は既に国外に逃亡し、国内の治安は悪化の一途をたどっている。処刑の対象は音楽家、画家などの芸術家やアスリートにまで拡大され、女性には髪や肌をヒジャブで覆うように強要している。
 2023年10月には、マグニチュード6.3の地震が発生し、死者も出したが、世界中に広がるタリバン政権への不信感から、復興支援の動きは全くといっていいほど広がりを見せていない。
 銃を手にした軍人が我が物顔で闊歩し、それに恐れながら生きる人々。そして、国際的には見捨てられた国。それが今のアフガニスタンなのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://www.grtc-movie.jp/
<監督>ガイ・リッチー
<製作>ガイ・リッチー、アイバン・アトキンソン、ジョン・フリードバーグ、ジョシュ・バーガー
<製作総指揮>ロバート・シモンズ、アダム・フォーゲルソン
<脚本>ガイ・リッチー、アイバン・アトキンソン、マーン・デイビス
<撮影>エド・ワイルド
<美術>マーティン・ジョン
<編集>ジェームズ・ハーバート
<音楽>クリス・ベンステッド
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【映画レビュー】「シャイロックの子供たち」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「シャイロックの子供たち」(2023 日本)
 東京第一銀行・検査部次長の黒田道春(佐々木蔵之介)は妻・亜希子(森口瑤子)とともにシェイクスピアの舞台『ヴェニスの商人』を観ながら、自らの過去を振り返る。「シャイロック」とはこの戯曲に登場する強欲な金貸しのことだ。黒田は以前に勤めていた支店のATM用の現金を抜き取り、競馬につぎ込んでいた。
 黒田は、検査部員に機械に現金を戻すところを見られてしまい、バレそうになったことから競馬をやめていた。
 ある日、長原支店の営業課長代理・西木雅博(阿部サダヲ)のもとに、“飲み友達”という沢崎肇(柄本明)が来店する。沢崎は西木に自身の所有する不動産の相続に関する相談のために訪れたのだが、沢崎の所有する不動産は20億円を投じて建てたものだが、耐震偽装が発覚して3分の1以下の価値に落ちてしまった、耐震偽装のワケあり物件ばかりだった。
 一方、西木と同じく長原支店に勤めるお客様一課・課長代理の滝野真(佐藤隆太)は、かつて赤坂支店に勤めていた頃の顧客だった石本浩一(橋爪功)に呼び出される。そこは以前に住宅販売の大規模プロジェクトを共同で進めていた住宅会社「江島エステート」の事務所。
 しかし、経営者だった江島は、そのプロジェクトが始動した矢先に夜逃げしてしまい、石本の手元に残されたのは、江島エステートの実印と事務所だけ。石本は住宅販売プロジェクトの再起動のための運営資金として新たに10億円を融資してほしいと滝野に依頼する。
 石本は偽装した江島の印鑑登録証明書と宅地開発リストを用意し、自ら江島になりすますと言い出す。架空融資だとして滝野は断ろうとするが、石本にある弱みを握られていたことから受け入れざるを得なくなる。
 滝野は、石本が提案した融資案件を、支店長の九条馨(柳葉敏郎)とパワハラ上司の副支店長・古川一夫(杉本哲太)に報告する。九条は自ら石本と面会し、根回しも行ったことで審査が通り、江島エステートへ融資されることになる。滝野は長原支店内での個人業績トップを表彰される。
 ところがわずか3か月後、滝野は石本から資金繰りが苦しくなったと告げられる。石本は100万円の利払いすらできず、来月中に必ず返済するからと至急立て替えてくれるよう、半ば強制的に滝野に告げる。滝野は、別の取引先に渡す予定だった900万円が入った袋から、100万円を抜き取る。
 この100万円紛失はすぐさま明るみになり、現金を運んだお客様第二課の田端洋司(玉森裕太)が真っ先に疑われるが、長原支店の行員のロッカーが点検されることとなり、営業課の北川愛理(上戸彩)のロッカーから帯封が見つかる。
 北川は口座履歴での入出金が多く、金遣いが荒いと疑われていた。今回の現金紛失も北川の仕業ではないかと疑われるが、ここは西木が彼女を庇う。西木は、北川が苦労人であり、兄弟の学費までも工面していることを知っていた。
 そんな西木もまた、事業に失敗した兄の闇金業者の連帯保証人となっており、5億円もの借金を抱えており、苛烈な取り立てに遭っていた。拉致されかけた西木を滝野が救い出す。その後、西木は滝野に対し、自分は闇金の取り立てに妻を巻き込まぬように、現在は戸籍上では離婚して別居中であることを明かす。
 翌日もまだ100万円は見つからず、九条や古川、西木ら数名が自腹で金を出し合って立て替え、表面上は100万円は見つかったということにする。しかし、北川への疑いは晴れず、北川と不仲のお客様第二課・半田麻紀(木南晴夏)は彼女を罵る。
 しかし、北川はその場に居合わせていた西木と共に、帯封に残っている指紋を特定すれば犯人はすぐ分かると提案すると、半田は動揺する。半田は他の行員たちが100万円を探している間、たまたま社食で何者かが落帯封を拾い、北川を困らせるために彼女のロッカーに忍び込ませたことを白状する。西木は社食で帯封を落とした人物こそが窃盗の真犯人であると断定する。
 その頃、田端は滝野の代わりに、江島エステートの事務所へ書類を届けに向かう。しかし、そこはとても事務所とは言えないボロアパート。滝野は江島エステートは新社屋の完成までこのアパートを間借りしているだけだと説明するが、田畑や北川はその説明に納得がいかない。そんな時、西木は支店の全員が現金を探していた際にゴミ箱の中から拾った、江島エステート宛ての100万円の振込受付書を見せる。
 その夜、西木、北川、田畑は、そのボロアパートを訪れる。西木らは近隣住民の証言などから、このアパートには最初から江島エステートは入居していなかったことを確認し、郵便ボックスには石本名義の郵便物が入っていたことも明らかになる。
 江島エステートの事務所の件は、滝野の上司であるお客様第一課課長・鹿島昇(渡辺いっけい)、九条、古川の耳にも入る。滝野は担当者としての責任を問われ、長原支店には黒田ら検査部が立ち入り調査をすることとなる。
 黒田は現金紛失の件と、その隠蔽工作の証拠を掴んでいたが、九条は自分は黒田の弱点を掴んでいることを明かし、架空融資の件はじめ、現金紛失や隠蔽工作などについてもお咎めなしとされた。実はかつて黒田が銀行から金を抜き出し、競馬につぎ込んだことを目撃していたのは当時検査部にいた九条だった。
 その頃、西木らは江島の印鑑登録証明書が偽造されたものであることを見抜き、融資前から仕組まれていたと考える。西木らは担当者である滝野から事情を聞くが、滝野は何も語らない。しかし、西木らは江島エステートへの振込受付所の筆跡が滝野のものと酷似しているという事実を突き止めており、現金紛失の真犯人も滝野であると確信する。
 西木らはアパートの郵便物の名義人である石本についても調べ上げる。その結果、石本は宅地開発などを手がける会社「赤坂リアルター」の社長であること。かつて石本は赤坂リアルターが開発した宅地に江島エステートが住宅を建てるというプロジェクトを進めていたこと。赤坂リアルターの融資案件はかつて赤坂支店にいた滝野が担当していたことなどの事実を掴む。西木らは石本が滝野に関する弱みを握っているのではないかと勘ぐり始める。
 さらに西木らは、赤坂支店と赤坂リアルターを結びつけたのは、当時この支店に勤めていた九条だったこと、そして九条が銀座の高級クラブで石本を密会していたという証拠を突き止め、この架空融資の黒幕は九条であることに気付く。
 西木は滝野とともに、書類上、江島エステートによる住宅建設予定地へと向かうが、そこは何もない原っぱ。西木は九条の過去についても調べ、かつて競馬で大損したことで離婚したことを知る。今なお元妻に養育費を払っている九条は、自身が出世コースから外れても目先の金のために石本と手を組んだのだった。
 滝野は西木に、石本に握られている自らの弱みについて打ち明ける。滝野は以前、赤坂リアルターへの融資が決定した際に石本から謝礼金を渡され、家族のために一戸建てを建てようと考えていたためにその金を受け取ってしまったのだ。
 どうすればいいのか悩む滝野に、西木は自分の人生は自分自身で決めるよう諭すと、九条たちを告発する自ら練り上げた作戦を開始する。それは以前に西木が沢崎から持ちかけられた耐震偽装のビルをあたかも優良物件であるかのように装って九条に紹介し、石本に15億円で購入させるという計画だった。
 西木は耐震偽装がバレないよう根回しし、沢崎のビルを石本に買わせることに成功する。九条と石本は喜ぶが、時を同じくして耐震偽装に関わった設計士が逮捕され、このビルの耐震偽装がニュースで報じられたことから、九条と石本はハメられたことに気付く。
 そして滝野は、逮捕覚悟で自らの過ちと一連の件の真相を黒田に打ち明け、九条、石本、滝野は逮捕される。一方、西木は沢崎から謝礼を受け取り、闇金からの借金を完済する。
 時が経ち、刑期を終えて出所した滝野は妻子に温かく出迎えられる。黒田は銀行を辞めて転職。そして西木もまた銀行を辞め、姿を消す。
 ある日、北川と田端は舞台『ヴェニスの商人』を観劇する。北川は西木の姿を見かけ、その後を追うが、西木は姿を消してしまい、西木のその後は分からないままだった。
 2006年に発刊された原作本や2022年にWOWOWで放送されたドラマ版から派生した、完全オリジナルストーリーの作品だが、元三菱銀行に勤務していた原作者・池井戸潤の経験を生かし、リアリティーの中にサスペンス要素も含んだ重厚なストーリーだ。
 池井戸潤作品だといえば、『半沢直樹』や『下町ロケット』といった経済ドラマ、最近では『ハヤブサ消防団』など、エンタメ性を含んだミステリー作での活躍ぶりが目立つが、彼の原点でもある「銀行ミステリー」で、勤めていたからこそ描ける“銀行マンあるある”を多分に盛り込んだものだ。
 メガバンクにまつわる魑魅魍魎が描かれており、職業倫理と自身の欲望の狭間で苦悩し、不正に手を染めてしまう行員たちを、阿部サダヲら一流キャストが、それぞれの持ち味を生かしながら好演している点も見逃せないポイントだ。WOWOWでのドラマ版も良作だったが、劇場版ならではの重厚感ある作品に仕上がっている。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://movies.shochiku.co.jp/shylock-movie/
<公式X>https://twitter.com/shylock_film
<監督>本木克英
<脚本>ツバキミチオ
<エグゼクティブプロデューサー>吉田繁暁、三輪祐見子
<プロデューサー>矢島孝、石田聡子
<共同プロデューサー>中川慎子
<撮影>藤澤順一
<照明>志村昭裕
<録音>栗原和弘
<美術>西村貴志
<装飾>中村聡宏
<衣装>丸山佳奈
<ヘアメイク>西村佳苗子
<VFXスーパーバイザー>浅野修二
<編集>川瀬功
<音楽>安川午朗
<音楽プロデューサー>高石真美
<スクリプター>丹羽春乃
<音響効果>堀内みゆき
<助監督>向井澄
<プロダクションマネージャー>岩田均
<ラインプロデューサー>山田彰久
<製作担当>前場恭平
<原作>池井戸潤「シャイロックの子供たち」(文藝春秋社) https://books.bunshun.jp/sp/shylock
<主題歌>エレファントカシマシ「yes. I. do」(A&M Records) https://store.universal-music.co.jp/product/umck5725/
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連続ドラマW シャイロックの子供たち BD-BOX [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: Happinet
  • 発売日: 2023/09/29
  • メディア: Blu-ray






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【映画レビュー】「ミッドナイト・マーダー・ライブ」(原題「On the Line」/2022 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「ミッドナイト・マーダー・ライブ」(原題「On the Line」/2022 アメリカ)
 ロサンゼルスのラジオ局の「KLAT」の深夜放送の人気DJのエルヴィス・クーニー(メル・ギブソン)。過激な発言で炎上することも多く、敵も多かった。
 エルヴィスは新しいインターンのディラン(ウィリアム・モーズリー)に対し、パワハラ的ないたずらをする。エルヴィスはメアリー(アリア・セロール・オニール)とともに番組を開始するが、エルヴィスはゲイリー(ポール・スペラ)というリスナーの男から電話を受け、自宅に妻・オリヴィアと娘・アドリアを人質に取っていると語る。ゲイリーはエルヴィスに対し、電話を切ったら、エルヴィスの家族を殺すと脅す。
 ゲイリーはかつての恋人で、以前の番組パートナーのだったローレンが自殺したのは、エルヴィスの態度と彼女に対する下品なジョークが原因だと話し、復讐すると告げる。エルヴィスがゲイリーと話している間に警察が自宅を捜索するが、妻子の姿はない。男との会話を糸口に妻子を救おうとするエルヴィスだったが、事件はさらに過激な方向へとエスカレートしていく。
 ゲイリーはエルヴィスを脅した末、エルヴィスにメアリーと不倫関係にあることを放送中に認めさせる。次にゲイリーは、エルヴィスに局に屋上から飛び降りると指示する。エルヴィスは飛び降りたフリをするが、ゲイリーのドローンによってウソがバレてしまう。その後、エルヴィスは2発の銃声を聞き、家族が死んだものと思い込む。
 スタジオから出る途中、スピーカーからゲイリーの声が聞こえ、家族はまだ生きていて、局内のどこかに一緒にいると告げる。その後、エルヴィスは、ゲイリーがずっとスタジオ内にいたことに気付く。ゲイリーは警備員を殺し、局内に隠れ、ビルごと爆発させるべく時限爆弾を仕掛ける。
 ゲイリーは、全員死ぬまでに自分を見つけるのに40分かかるとエルヴィスに告げ、エルヴィスとディランは建物を通り抜け、ゲイリー、オリビア、アドリアを探すが、その途中、彼らはエルヴィスの旧友で、局から密かにコンピューターを盗んでいたトニーに遭遇する。ゲイリーはエルヴィスにトニーを殺すように命ずるが、エルヴィスは彼を解放する。
 エルヴィスらは偽の隠れ場所に案内されるが、ゲイリーは監視カメラを通して彼らの姿が見えていると明かす。エルヴィスは監視カメラのないルートを通ってディランを制御室に連れて行き、そこでゲイリーではなく、エルヴィスを敵視しているDJのジャスティン(ケビン・ディロン)が頭に銃弾を受け死んでいるのを発見する。その後、ゲイリーは拘束されたメアリーらと一緒にレコーディングスタジオにいると明かす。残り10分を稼ぐことに成功した後、エルヴィスとディランは別の秘密ルートを通ってスタジオに戻る。 2階に着くと、トニーは首を吊って死んでいた。
 エルヴィスはカッターでゲイリーを捕まえることに成功するが、ゲイリーは自分が爆弾のスイッチを持っていること、そしてオリヴィアとアドリアが爆弾の付いたベストを体に縛りつけていることを明かす。ゲイリーはロサンゼルス市警のSWATチームのメンバーであるブルースから電話を受け、爆破装置を解除できないと言われてしまう。そこでゲイリーは交換条件を提示し、オリヴィアとアドリアは解放され、その代わりにディランが人質となる。
 従うことを余儀なくされたブルースは、ゲイリーの助けでベストの爆弾を無効化し、スタジオに運び込み、再起動させる。 その後、ゲイリーはブルースを射殺し、爆弾のスイッチを落とすが、何も起こらなかった。
 エルヴィスとゲイリーは、死んだと思われていた全員が生きて戻ってくると、笑いながら抱き合う。その後、すべての状況はスタジオ全体がディランに対して行ったいたずらであったことが明らかになる。
 エルヴィスは一連の出来事が大掛かりな“ドッキリ”であること説明したが、ディランは不機嫌な様子で立ち去ってしまう。エルヴィスと彼のスタッフは、ディランにマイクを差し出しながら彼を追いかけるが、ディランは階段から転落してしまう、その場にいた誰もが「ディランは死んだ」と思い込む。
 翌朝、エルヴィスは取り乱した様子でスタジオを出て、「ラジオはもう終わり」と誓う。
 しかしその後、生きていたディランは本名はマックスというスタントであることを明かし、エルヴィスの誕生日を祝うために、ラジオ局全体のいたずらの一環として自分の死を偽装したことをネタバレする。エルヴィスはディランことマックスが生きているのを見て喜び、その復讐はもっとひどいことになるから気をつけろと、ジョークめかして語るのだった。
 ほぼワンシチュエーションに近く、ジャンル的には“B級サスペンス”にあたる作品なのだが、監督としてオスカーを獲得しているメル・ギブソンのさすがの存在感、ロムアルド・ブーランジェによる大どんでん返しのストーリーも見事だ。
 痛快すぎる“大人の悪ふざけ”だが、冒頭からの緊迫感から、ドッキリに次ぐドッキリに、終始楽しく鑑賞できる娯楽作に仕上がっていた。冗長さは全くなく、1時間44分の作品でありながら、お腹いっぱいにさせる作品だった。
<評価>★★★★☆
<監督・脚本>ロムアルド・ブーランジェ
<製作>ロムアルド・ブーランジェ、マーク・フライドマン、ロバート・オグデン・バーナム
<製作総指揮>ウィリアム・V・ブロミリー、シャナン・ベッカー、ジョナサン・サバ ネス・サバン、メル・ギブソン ナディーン・ドゥ・バロス
<撮影>ザビエル・カストロ
<音楽>クレメント・ペリン
<インターネットムービーデータベース>https://m.imdb.com/title/tt14824590/mediaviewer/rm747115265/
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ミッドナイト・マーダー・ライブ [DVD]

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  • 出版社/メーカー: ニューセレクト
  • 発売日: 2023/03/03
  • メディア: DVD






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【映画レビュー】「身代わり忠臣蔵」(2024 日本) [映画]

【映画レビュー】「身代わり忠臣蔵」(2024 日本)
 この作品を見るにあたって、なぜ『忠臣蔵』が映画やドラマのみならず、人形浄瑠璃や歌舞伎も演目として、代々受け継がれ、日本人の心を打つのかについて考えてみた。
 この物語の基となった「赤穂事件」とは、実に単純な出来事だ。儀式、典礼を司る「高家」であるがゆえに、横暴な態度に終始し、その標的は指南していた播磨国赤穂藩藩主・浅野内匠頭にも向けられていた。
 その行為は、現代でいえばパワハラといえるものだったが、我慢に我慢を重ねていた浅野長矩がついに堪忍袋の緒が切れ、江戸城内の松之大廊下で、吉良上野介を斬りつけてしまう。
 しかし当時の、徳川5代将軍・綱吉は、内匠頭を切腹に処し、赤穂藩をお家取り潰しとした一方で、上野介に対しては不問に付した。「喧嘩両成敗」を常としていた当時の慣習に相容れない決定により、浅野家の家臣は「藩士」から「浪士」に身分を下げ、亡き主君の長矩に代わり、家臣の大石内蔵助以下47人が集まり、本所にあった吉良邸に討ち入り、上野介に仇討ちを果たした事件だ。
 この事件がなぜ当時、大事件として扱われたのか。それは時代背景も影響していると思われる。時は江戸時代、元禄年間(1688~1704)は、江戸幕府創立からおよそ100年、盤石の政治体制の下、治安も経済も安定し、江戸幕府創立時には約1230万人だった日本の人口も、約2900万人とほぼ倍増し、江戸もすでに100万都市となっていた。
 少なくとも、武士による「幕府」にとって政治が行われはじめた鎌倉時代以降、最も平和だった時代だったのだ。「元禄」は単なる元号ではなく、“平和”を意味する言葉となり、戦後昭和の高度経済成長期、後に首相となる福田赳夫が、太平の当時の世を「昭和元禄」という言葉で言い表している。
 そんな平和な時代、一武士が上級武士を斬りつけるという出来事は、世間を大いに賑わせる“一大スキャンダル”であったことは想像に難くない。
 さらに本作でも触れられているが、内匠頭に対する罪状が、上野介を斬りつけた“殺人未遂罪”ではなく、江戸城内で刀を抜いた“銃刀法違反”であったことも、いかに当時が平和な時代だったことが分かる。
 本作に話を戻すと、原作は、この物語をベースに「身代わり」という設定を加えてコミカルに描いた土橋章宏の同名小説だ。
 内匠頭が切腹となった一方で、斬られた上野介も逃げ傷を背中に負い、瀕死の状態に陥る。逃げ傷によって死んだとなれば武士の恥とされ、お家取り潰しも免れない。
 上野介には孝証(ムロツヨシ=上野介・孝証2役)という弟がいた。武家に生まれたとしても、長男以外は跡取りにはなれず、親の威光や財産を受け継ぐことは出来ない。孝証も出家し、僧侶となっていたものの、寺に属しているわけでもなく、法話をしながら物乞いをするような貧しく荒んだ生活ぶりで、兄に度々、金の無心をしていたため、吉良邸からも“出入り禁止”となっていた。
 そんな孝証が、川で溺れているところを、釣りをしていた内蔵助(永山瑛太)に助けられる。この邂逅が、物語のスタートとなる。
 重体の上野介を前に、吉良家家臣・斎藤宮内(林遣都)のアイデアで、そっくりな弟・孝証を身代わりにして綱吉の側近にして幕府側用人の柳沢吉保(柄本明)を騙し、お家取り潰しを免れようとする前代未聞の作戦を実行に移す。
 一方、切腹した長矩の側近だった内蔵助は、浪士となった仲間たちからプレッシャーを受け、仇討ちをするべきか思案しながらも、幕府への嘆願書を書き続ける日々を送っていた。
 そんな中、上野介は死んでしまう。そして、嘆願書の甲斐もなく赤穂藩の取り潰しは覆らず、赤穂藩の旧藩士である、いわゆる「赤穂四十七士」が仇討ちのために立ち上がる。
 孝証は仇討ちの情報を耳にし、また、同時にその情報を知った幕府は、吉良邸の本所への転居を命じる。何とか仇討ちやお家取り潰しを回避したい孝証。片や、暴走しつつある赤穂浪士の気持ちを鎮めたい内蔵助…。2人の心情が、いつしか同じ方向に向かう。
 ある日、孝証は大金を手に、吉原の遊郭に遊びに行く。隣の部屋で派手に遊んでいたのは、“敵”である内蔵助だった。孝証は僧侶を装っており、再会した内蔵助に、かつて命を救ってもらったお礼を告げ、意気投合し朝まで飲み明かす。
 孝証は内蔵助に対して、自らの正体を明かし、一世一代の大芝居を提案する。これこそがタイトル通り「身代わり忠臣蔵」計画の始まりだ。
 2人は、それぞれの身内や幕府を欺くための完璧なストーリーを描くが、こと実行に移すと、計画通りにはいかない。いよいよ追い詰められる2人…。そこに“奇跡”が訪れる。
 脚本も担当した原作者・土橋章宏と河合勇人監督の『忠臣蔵』という日本人なら誰でも知っている作品へのリスペストを感じさせながらも、思い切りコメディーに振り切った本作。
 正反対の性格の上野介と孝証をムロツヨシが1人2役で演じ切っただけでも見どころであることに違いないが、加えて、武士としてのプライドと部下の思いの狭間で揺れ動く内蔵助を永山瑛太が好演。さらに、突然、殿に担ぎ出され困惑する孝証を支え続け、いつしか孝証も思いを寄せる侍女の桔梗役の川口春奈が、ストーリーに花を添えている。
 それにつけても、ムロツヨシという才能は無限なのではないかと思えるほどの快演を見せている。貧乏僧侶の頃の孝証のいい加減さと無鉄砲ぶり、上野介の替え玉にされた後の困惑と哀愁、さらに上野介の横暴ぶり…全てをパーフェクトに演じ分けている。
 ストーリーの途中で、落としどころはおおよそ勘付いてしまうが、逆にそれを見越したかのような、ド派手なアクションシーンも見どころだ。
 笑いに始まり笑いに終わる、“ザ・娯楽作”と断言できる作品だった。
<評価>★★★★☆
<監督>河合勇人
<脚本>土橋章宏
<企画プロデュース>橋本恵一
<プロデューサー>森田美桜、福島一貴
<共同プロデューサー>飯田雅裕
<ラインプロデューサー>高瀬博行
<キャスティングプロデューサー>福岡康裕
<音楽プロデューサー>津島玄一
<撮影>木村信也
<照明>石黒靖浩
<録音>渡辺真司
<美術>松宮敏之
<装飾>石村嘉宏
<持道具>井上充
<衣装デザイン>大塚満
<衣装>古賀博隆
<メイク・床山>山下みどり
<結髪>松浦真理
<特殊メイク・造形スーパーバイザー>江川悦子
<特殊メイク>神田裕文、佐々木誠人
<造形>神田裕文 佐々木誠人
<操演>羽鳥博幸
<音響効果>北田雅也
<編集>瀧田隆一
<音楽>海田庄吾
<ナレーション>森七菜
<監督補>中村圭良
<助監督>宇喜田尚
<殺陣師>清家三彦
<スクリプター>杉本友美
<製作担当>谷敷裕也
<原作>土橋章宏「身代わり忠臣蔵」(幻冬舎) https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344430464/
<主題歌>東京スカパラダイスオーケストラ「The Last Ninja」(cutting edge/JUSTA RECRD) https://tokyoska.net/discography/detail.php?id=1020194
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【映画パンフレット】身代わり忠臣蔵

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