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【映画レビュー】「成功したオタク」(原題「성덕」/英題「Fanatic」/2021 韓国) [映画]

【映画レビュー】「成功したオタク」(原題「성덕」/英題「Fanatic」/2021 韓国)
 ある日、「推し」のアイドルが犯罪者になる。しかもその犯罪とは性加害だった…。
 本作は、韓国の女性監督オ・セヨンによる、自身の経験を基に、アイドルの「推し活」をしていたものの、裏切られたファンの声を余すところなく拾い上げたドキュメンタリー作品だ、
 セヨン自身、K-POPスターのチョン・ジュニョンの熱狂的ファンで、その結果、テレビ共演も果たした「성덕(ソンドク)=成功したオタク」だった。この言葉、ファンとして世間に認知され、推し活が高じて、好きなタレントに実際に会ったことのある人を指す言葉で、並大抵のことでは、そうとは呼ばれないほどの、一握りのファンだ。ファン層にカーストがあるとすれば、その頂点にいる存在といっていいだろう。
 しかし突然、「犯罪者のファン」になってしまった彼女は混乱し、苦悩し、葛藤する。そして、同じ思いをしている仲間を気に掛ける。
 本作の監督であると同時に、語り手でもあるセヨンは中学生の時にチョン・ジュニョンにハマり、目立とうとしてサイン会にチョゴリ(韓服)を着ていったことで注目される。そして、推しの出るテレビ番組にファン代表として呼ばれ、熱烈なファンの集団のことを指す“ファンダム”の中でも認められ、「成功したオタク」となる。
 推しとして認知されるだけでも大変なことだが、その代表として、テレビに出るなどの特別扱いを受ける。思春期の女の子にとって、そうした体験がどれほどの大きく深い心理的影響をもたらすか、想像してもしきれないだろう。
 しかし、状況は一変する。ジュニョンによる性行為動画流出を皮切りとした「バーニング・サン事件」だ。
 韓国芸能界のみならず、政財界を巻き込む大スキャンダルとなったこの事件については、あまりにも有名であることから詳細は省くが、結果、当時人気だったBIGBANGやFTISLANDのメンバーにも懲役刑が下されている。
 セヨンは突然、「成功したオタク」から「失敗したオタク」になってしまう。物語はそこから始まる。
 セヨンは、同じように推しによる犯罪によって裏切られた感情を持つファンに、次々とインタビューしていく。本作のほとんどの時間を彼女たちの言葉で紡ぎ、さらにセヨン自身のモノローグでもある。
 その“失敗したオタク”たちは、口々に語り出す。
 「思い出を汚された」「一生刑務所から出てこないでほしい」「私たちは直接的な被害者ではないけれど、2次的な被害者」「(性犯罪者用の)電子足環をつけて暮らしてほしい」
 そして、ついには「死んでしまえ」と言い放つ者まで現れる。“可愛さ余って憎さ百倍”といたところか。
 一方で、「私の思い出はきれいなまま」と振り返る冷静なファンもおり、さらには推しのタレントが逮捕された後も、陰ながら応援しているファンもいた。
 こうした二項対立した声をきちんと拾っているところに、セヨンの映画監督としての気概が感じ取れる。
 自分の心中と相反する言葉を作中に描くことは、葛藤との闘いでもある苦しい作業だ。かといって、罪を犯したアイドルを非難する方向に振り切ってしまえば楽なのだろうが、セヨンは、それを良しとはしなかったのだ。
 例えば、ジュジュという女性は、罪を犯した推しのタレントを擁護するファンについて「社会悪に手を貸すのか、哀れむなんて最悪なことだ」と怒りを露わにする。当然と言えば当然の感情だ。
 しかし、好きだった相手に怒りの感情を持ち続けることは苦しいことだ。実際、「死んでしまえ」と吐き捨てたミンギョンという女性は、時間の経過とともに「もう怒りも感じない」と変化している。もちろん許したわけではないだろうが、興味を失ったということだろう。人間の脳とは都合よくできているものだ。
 とはいえ、本作を観賞していると、もし自分の推しや、自分の身近な人の推しが罪を犯した時、正しく怒りを感じることができるか自信が持てなくなる。怒る人の気持ちには寄り添いたいが、怒れない人に対して説教などできようか…。
 一方で、推しが犯した罪自体を「許す」のもどうかとも感じる。
 推しの罪を認めない、あるいは矮小化することは、2次加害にもなり得る。セヨン自身も当初は推しに関するスキャンダル報道を認めず、事件を報じた記者に怒りを覚えていたのだ。
 しかし、その記者と会って話した後、セヨンはその流れで朴槿恵元大統領を支持する人々の集会に参加することになる。
 朴氏は、2016年の「崔順実ゲート事件」で、韓国の民主化以降、史上初めて弾劾で罷免された大統領であり、2017年に逮捕され、懲役24年、罰金180億ウォンの有罪判決を受けていた。
 しかし、デモの参加者は、朴氏の無実を信じている。傍から見て妄信的なような光景だが、彼らは毎週200~300通の激励の手紙を朴氏に届けていた。
 その雰囲気に圧倒されたのか、セヨンも服役中の朴氏に手紙を書く。書きながらセヨンは「ファンレターのようだ」と語る。同時に彼女は、未だに推しを応援しているファンへのインタビューはしないことを決意する。
 ここからのセヨンの心の動きは、鑑賞者が想像するしかない。
 収賄を犯し服役中の朴氏を信じ、その存在に支えられている人々を目の当たりにしたことで、未だに推しのアイドルを信じているファンの心情を推察できたという見方もできるし、推しを信じようとする人々にインタビューをすることで、彼女たちをこれ以上傷つけまいとする配慮を感じた。
 また、朴氏の支持者が、一方的に早口でまくしたて、会話にもならない経験を通じて、「(妄信的な人間と)話をしてもムダ」という結論に達したのかも知れない。
 こうしてみると、最もシンプルで楽な解決法は「推しのことを全て忘れる」なのかもしれない。実際、作中では、セヨンとその友人が、買い集めたジュニョンのグッズを“供養”するシーンもある。しかし始めてみると、「あれは捨てられない、これも捨てられない」と、なかなか処分が進まない。ファン心理を上手く突いたシーンだ。
 推しがいる人にとっては、胸が苦しくなり、切なくなるだろう。
 見る側の価値観によって、受け止め方が変わる作品だが、ここ日本でも「推し活ブーム」が起きている中、その描写は切ないものだ。
 特に、推しに出さずにいた手紙や、推し活をしていた頃の日記を読み上げるシーンでは、繊細な言葉選びから、セヨンが感受性豊かな人物であることが垣間見える。
 しかし、どのオタクのインタビューも辛いものだったにも関わらず、セヨン本人をはじめ、涙を流すものはいない。
 セヨンは監督として、傷つきつつも前進しようとするオタクたちの姿を収めることにしたのだろう。
 ある日突然、推しが犯罪者になったことで、美しい思い出が破壊され、自分のアイデンティティが無惨に踏みにじられても、オタクは人として生きていかないといけない。セヨンはそういうメッセージを本作に込めたのだ。よって、涙は不要なのだ。例え、オタクたちが未だに心で泣いていたとしても。
 本作は当然ながら、韓国人監督が製作した韓国国内で起きた出来事を描いた作品だ。
 しかし、このストーリーが海の向こうのことだと、とても思えないのだ。この国でも似たようなスキャンダルが起きているからだ。さらに言えば、アイドル業界に限らず、お笑い芸人や劇団、加えて、その内容も性加害のみならず、自殺に追い込むほどのパワハラなど、韓国よりも、その問題は幅広く根深いとも感じる。
 日本のオタクも芸能界の性加害についてもっと怒った方が良いという意見もあるだろう。しかし一方で、怒ること自体が苦しいという人も多いのも現実だ。
 日本の芸能界でも、こうしたスキャンダルがいつ起こるとも限らない。いや、既に起きているものの、メディアスクラムによって何とか抑えつけられている状態なのかも知れない。
 だからこそ、推し活をしているファンのみならず、芸能関係者も必見の作品といっていいだろう。こうした作品を、日本の映画会社が製作することはないと思えるからだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://alfazbetmovie.com/otaku/
<公式X>https://twitter.com/seikouotakujp
<公式Instagram>https://www.instagram.com/alfazbettokyo
<監督・製作・撮影・編集・出演>オ・セヨン
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