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【映画レビュー】「コヴェナント 約束の救出」(原題「GUY RITCHIE's THE COVENANT」/2023 アメリカ・スペイン・イギリス) [映画]

【映画レビュー】「コヴェナント 約束の救出」(原題「GUY RITCHIE's THE COVENANT」/2023 アメリカ・スペイン・イギリス)
 本作を観賞するにあたって、まず「タリバンとは何か」を知ろうと思い、外務省HPを覗いてみた。
 そこには驚くべき記述があった。
 テロに関して、「ソ連軍駐留時代に米CIAによって建設されたゲリラ訓練施設が現在も存在すると言われ、これがアフガニスタン国外におけるテロ事件に結びついている」とあったのだ。
 これが何を意味するか。1989年のソ連軍撤退後、いくつものテロ組織が集合離散しながら内戦が続くアフガニスタンの国内情勢を背景に、1994年に誕生したのがタリバンだ。
 パシュトー語で「学生」を意味するタリバンは、反共主義の下に結成され、米CIAからも資金的援助も受けていたとされている。ある意味で“生みの親”でもあるのだ。
 タリバンの当初の目的は、アフガニスタン国民自身による統治を回復し、国内の政治体制を、同国の慣習に適合させる形で「純化」しようと試みた組織なのだ。
 徐々にその勢力を拡大させるにあたって、タリバンは生みの親である米国に牙をむく。「イスラム原理主義」に根ざした人権侵害や女性蔑視が問題視され、国際的孤立を強いられたからだ。
 その後、米国大使館爆破事件や外交官やジャーナリストの殺害事件、市街地での自爆テロ事件などを起こし、米国との対立を深める中、決定的な大事件が起きる。
 2001年9月11日の同時多発テロ事件だ。
 米国はテロの容疑者として、オサマ・ビン・ラディンを筆頭とするアルカイダ関係者を引き渡すように要求。しかし、政権を掌握していたタリバンはこれを拒否。ここから米軍史上最長の戦争となる、20年にも渡るアフガニスタン紛争に突入することになるのだ。
 本作は、紛争が泥沼化していた2018年のアフガニスタンを舞台としている。『シャーロック・ホームズ』(2009年)や『アラジン』(2019年)などの娯楽作のイメージが強いガイ・リッチーが、アフガニスタン人通訳についてのドキュメンタリーから着想を得て製作した、自身初の社会派ヒューマンドラマだ。
 米軍の曹長ジョン・キンリー(ジェイク・ギレンホール)は、タリバンの武器庫を探す部隊を率いていたが、その任務は難航を極めていた。そんな中、「反抗的だが優秀なのは間違いない」と評判のアフガニスタン人通訳のアーメッド(ダール・サリム)を紹介され、面接の末、雇い入れることにする。
 アーメッドを帯同させたキンリーの部隊はタリバンの爆発物製造工場の場所を突き止めるが、タリバン側から大量の兵士を送り込まれ、キンリーとアーメッド以外は全員、凶弾に倒れてしまう。
 キンリー自身も瀕死の重傷を負ったが、アーメッドが救出し、時には手製の担架で、またある時は手押し車で、野を越え山を越え、100キロにも及ぶ道のりを手負いのキンリーを米軍基地まで運んだのだ。キンリーはそのまま4週間にも渡り眠り続ける。さらにその3週間後に、ロサンゼルスの家族のものへ帰還を果たす。
 キンリーは名誉除隊し、勲章も用意される。しかし、彼の頭にあったのは、礼も言えずに別れることとなったアーメッドとその家族の消息だ。
 そして、アーメッドの弟を通じて、アーメッドがタリバンに命を狙われ、賞金首となっていることが分かる。
 焦るキンリー。1秒でも早く米国行きのビザを取ろうと移民局に掛け合うが、なかなか話が前に進まない。
 自分を助けたため、その命が危機にさらされているアーメッドを救うため、デクラン・オブラディ軍曹(アレクサンダー・ルドウィグ)の声に背き、キンリーは再びアフガニスタンの地を踏む。
 再び訪れたアフガニスタンは、タリバンがさらに勢力を強めていた。アーメッド一家も居所を変えながら、なんとかタリバンからの追っ手から逃れる日々を送っていた。
 アーメッド一家探しのために、軍の協力を仰ぐが拒否され、たった独りでの捜索を余儀なくされるキンリー。そして、とある街で、自動車整備士として働いているアーメッドと接触する。そこにはタリバンが、あと数メートルに迫っていた。
 キンリーとアーメッド、そしてその妻と幼い子どもは、決死の逃亡劇を繰り広げる。ダム上部の道路に追い込まれた4人。必死の抵抗を見せるが、ついには弾切れし、“もはやここまで”と目をつむるキンリー。
 そこに現れたのが、エディ・パーカー(アントニー・スター)が率いるヘリ部隊だった。掃射攻撃によってタリバンを一掃し、そのヘリで救出されるキンリーとアーメッド一家。
 かくしてキンリーのアーメッド救出作戦は成功裏に終わる。しかし、物語はここで終わりではない。
 最後、「たとえ地の果てでも、必ず俺が連れて帰る」という言葉とともに、アフガニスタンで実際に起きている出来事を示しているのだ。
 2021年に米軍がアフガニスタンから完全撤退したこと。それによって2021年、タリバンが政権を掌握したこと。加えて、タリバンによって、100人以上の通訳やジャーナリストが処刑されたことが記されている。
 今この瞬間も、アフガニスタンに住まう人々は、タリバンの恐怖政治に震え上がりながら過ごしているのだ。
 2019年には、アフガニスタンで医療活動に従事しながらも、テロリストの凶弾によって中村哲氏が命を落とした。同国の政情は、我が国にとっても無関係ではないのだ。中村氏の功績はアフガニスタン国民のみならず、タリバンからも感謝され、殺害事件現場の近くに追悼広場「ナカムラ」を完成させ、中村氏の写真や石碑が設置されている。
 しかしながら、中間層以上の多くの国民は既に国外に逃亡し、国内の治安は悪化の一途をたどっている。処刑の対象は音楽家、画家などの芸術家やアスリートにまで拡大され、女性には髪や肌をヒジャブで覆うように強要している。
 2023年10月には、マグニチュード6.3の地震が発生し、死者も出したが、世界中に広がるタリバン政権への不信感から、復興支援の動きは全くといっていいほど広がりを見せていない。
 銃を手にした軍人が我が物顔で闊歩し、それに恐れながら生きる人々。そして、国際的には見捨てられた国。それが今のアフガニスタンなのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://www.grtc-movie.jp/
<監督>ガイ・リッチー
<製作>ガイ・リッチー、アイバン・アトキンソン、ジョン・フリードバーグ、ジョシュ・バーガー
<製作総指揮>ロバート・シモンズ、アダム・フォーゲルソン
<脚本>ガイ・リッチー、アイバン・アトキンソン、マーン・デイビス
<撮影>エド・ワイルド
<美術>マーティン・ジョン
<編集>ジェームズ・ハーバート
<音楽>クリス・ベンステッド
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