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【映画レビュー】「宇宙探索編集部」(原題「宇宙探索編輯部」/英題「Journey to the West」/2021 中国) [映画]

【映画レビュー】「宇宙探索編集部」(原題「宇宙探索編輯部」/英題「Journey to the West」/2021 中国)
 北京電影学院の大学院生だったコン・ダーシャンが卒業制作として作った初長編にして、アジア各国の映画祭で数々の賞に輝き、中国全土で劇場公開されることになった作品。
 UFOブームに沸いた1980年から、宇宙人の存在を信じ続け、純粋でありながら痛々しくもあるUFO雑誌「宇宙探索」編集長のタン・ジージュン(ヤン・ハオユー)と、一癖も二癖もある編集部員たちの姿が描かれている。本人たちは至って真面目に仕事に向き合っているのだが、雑誌は廃刊寸前。それでもなお宇宙人やUFOを追い続ける姿には、思わず笑いを誘うロードムービーだ。
 のっけから、どこから仕入れてきたかも分からない宇宙服を着るタン。ところが、脱ごうとしてもヘルメットが取れず、タンは酸欠で失神。救急車や消防車が出動する騒ぎとなる。
 そんな中、四川省の怪現象の映像が、ネット上でバズり出す。超常現象のようにも見えるその映像の真偽を探るべく、タン以下3人しかいない編集部員たちは、映像の撮影場所である村を目指して、長い旅に出る。
 物語冒頭では、UFOブームに乗り、宇宙人研究の第一人者だった若かりし頃のタンのインタビュー映像が流れる。当時のタンは自信に満ち溢あふれ、宇宙人の実在を語り、いつの日か彼らと交信するという夢を語る。
 時は流れて30年後。そこには現在の老いたタンの姿があった。
 UFOブームは去り、雑誌の発行部数も落ち込み、廃刊寸前に追い込まれ、妻とも離婚し、一人娘を自殺で亡くした落ちぶれた男の姿だ。
 家族も失い、事業も破綻寸前…。それでも過去の栄光と夢を忘れられないタンは、30年前と同じように、宇宙人との出会いを夢見ている。
 しかし、老いて落ちぶれた現在のタンは、狂気ともいえそうな執念を湛えている。タンの言動は、科学雑誌の編集長らしいにも思われるが、どこか浮世離れしている。
 タンが、安い麺を啜すする夕食の場面では、「必要最低限の栄養摂取で十分」「セックスは生殖のためにするものだ。快楽のためのセックスは無駄な行為」と持論を語る。
 さらには、「テレビの砂嵐の映像には、宇宙人からの信号が含まれている」などと言い出し、手作りの器具を頭に装着してテレビのアンテナに接続する。
 場面は変わり、精神科病院。「娘は鬱病だった。鬱病は遺伝する」というタンのモノローグだ。ここで示されるのは、タン自身が鬱病であること、そして娘の死に対して責任を感じていることだ。
 しかし、タンら編集部員らは、至って真面目に宇宙人との交信に臨もうとしている。テレビと自分の頭を接続したとしても、それは奇行ではなく、あくまで「研究」なのだ。
一時的に精神に変調を来きたしていたのだろうけれど、病院での治療を経て、現在の彼は正 では何故、タンは、宇宙人を追い求めて長い旅を続けているのか?彼を駆り立てているものは何か?
 これは、「人生の意味を追い続けた男の物語」であり、「自分の人生の意味を探し続けることに、自分の人生を費やしてしまった男」の哀しさを表現しているのだ。
 若かりし頃、「宇宙人と交信する」という壮大な夢を持ち、一時期は、ブームに乗って大成功を収めた。しかしやがてブームは去り、没落が始まる。
 この時点で、人生をやり直すこともできたはず。しかしタンには、それが出来ず、壮大な夢と、大きな成功体験を捨てきれないまま、30年の歳月が経ち、夢を諦あきらめきれず人生を費やし、老いて孤独な男になってしまったのだ。
 老いなお、タンを駆り立てているのは、「自分の人生が無意味だなんて思いたくない」という感情だ。
 エピローグでは、「宇宙探索」は廃刊となり、編集部は解散。タンが新たな人生の一歩を踏み出したところで、物語は終わる。
 いわゆる「モキュメンタリー」に分類される作品だが、タンの哀しき人生を描いたストーリーともいえる。
 作中、「西遊記」へのオマージュが感じ取れるシーンがあるが、旅の真の目的は、怪奇現象の調査ではなく、タンの魂の救済のための「巡礼」だという解釈もできる。そう思うと、実に奥深いテーマを含んだ作品だと感じ入る。
 我々が目にする中国といえば、北京や上海のメガシティーがほとんどだが、奥地の田舎のリアルを、ハンディーカメラで臨場感タップリに収めている点も興味深い。日本人にとってはなかなか目にできない映像だからだ。
 少々、中だるみしている点は否めないが、学生監督が撮った長編デビュー作と考えれば、出色の出来だろう。
 タンという時代に取り残された男、ブームが去って廃刊に追い込まれた雑誌、そしてその後の再出発…。その全てに意味を持たせ、鑑賞者に人生というものを考えさせ、単なるB級SF映画ではないことを示していた。
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://moviola.jp/uchutansaku/#
<公式X>https://twitter.com/uchutansaku_jp
<映画配給・宣伝会社ムヴィオラ公式Facebook>https://www.facebook.com/moviolaeiga
<監督>コン・ダーシャン
<脚本>コン・ダーシャン、ワン・イートン
<製作>ゴン・ゴーアル
<製作総指揮>ワン・ホンウェイ、グオ・ファン
<撮影>マティアス・デルボー
<主題歌> スー・ユンイン「生活倒影」 https://www.youtube.com/watch?v=i35lMQxak4c
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映画 宇宙探索編集部 フライヤー3枚

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  • 出版社/メーカー: ノーブランド品
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