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【映画レビュー】「落下の解剖学」(原題「Anatomie d'une chute」/2023 フランス) [映画]

【映画レビュー】「落下の解剖学」(原題「Anatomie d'une chute」/2023 フランス)
 本作は、2023年5月のカンヌ国際映画祭で、パルム・ドールに輝き、2024年1月のゴールデングローブ賞でも、脚本賞(ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ)と非英語作品賞の2冠を獲得。さらに、2024年3月に発表されるアカデミー賞においても、作品賞をはじめとする5部門でノミネートされている。パルム・ドールとアカデミー賞作品賞の2冠となれば、2019年の『パラサイト 半地下の家族』以来の快挙となる。
 フランス本国では公開からわずか1か月で観客動員数100万人を突破し、興行収入は、現時点で既に850万ドル(約126億円)を超えている。
 ある日、雪の積もるフランス・グルノーブル近郊の山荘で男が不可解な転落死を遂げ、ドイツ人の小説家のサンドラ(ザンドラ・ヒュラー)が殺人容疑で逮捕される。転落したのはサンドラの夫のサミュエル(サミュエル・タイス)だったのだ。
 裁判では、生前のサミュエルが録音していた夫婦ゲンカの音声や、サンドラの過去の不倫やバイセクシャルであった事実、転落死の前日に起きた夫婦間の言い争いなども暴露され、サンドラは窮地に立たされる。そこで彼女は、“第一発見者”である11歳の盲目の息子・ダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)を証人に、無実を証明しようとする。ダニエルは、4歳の時、交通事故で視力を失っていた。
 物語冒頭、サンドラは、作家志望の学生からインタビューを受けていた。にも関わらず、サミュエルは、屋根裏部屋で、自宅で民宿を営むための改装作業を、爆音で音楽を流しながら行っていた。インタビューは中止を余儀なくされ、仕方なく、日を改めて取材を受けることを約束し、その学生は帰っていく。
 その後、ダニエルが盲導犬のスヌープとともに散歩から帰宅すると、スヌープが吠え始め、異変に気付いたサミュエルは、父が玄関先で倒れていることを知り、号泣しながら母を呼び出す。しかし、父はすでに死亡していた。
 サンドラは警察に通報するが、警察は事故や自殺ではなく、殺人事件として処理し、サンドラに容疑をかける。それに対してサンドラは、古くからの友人であり弁護士のヴァンサン・レンツィ(スワン・アルロー)に弁護を依頼する。
 それから1年後、サンドラは、殺人容疑で逮捕、起訴され、裁判が始まる。検察側はサンドラが彼を鈍器で殴打し、3階の屋根裏部屋から突き落としたと主張する。検事(アントワーヌ・レナルツ)の態度も居丈高で、サンドラを殺人犯と決め付けているかの口ぶりだ。
 そこにテレビのワイドショーがセンセーショナルに事件を報じる。もうこうなると、真実などどうでもよくなり、“嵐”が過ぎ去るのを待つしかない。しかしサンドラは、罪を犯していないことを示す“悪魔の証明”をしなければならない。
 サンドラはサミュエルが事件の半年前にアスピリンを過剰摂取しようとしたこと、仕事面で困難な状況に陥り、精神科で治療を受けていたが、抗うつ薬の服用を中止したことをヴァンサンに伝える。一方でヴァンサンはサンドラの腕にアザがあることに気付く。ヴァンサンは食卓のカウンターにぶつかったことによるものだと説明したが、腑に落ちない様子だ。
 サンドラは、夫は自殺したと主張したものの、証拠がないまま裁判で不利な状況に立たされる。そんな中、“最後の手段”として盲目のダニエルが証言台に立つことになる…。
 転落死事件を中心に見せていくのではなく、弁護士ヴァンサンと被告人サンドラの会話、検察と被告人のせめぎ合い、特にヴァンサンと検事の間で交わされるロジカルなバトルを通じて、ジワジワと全貌を浮き彫りにしていく様は、ヒリヒリするほどの上質な法廷劇だ。
 完成度の高い脚本と、キャストの素晴らしい演技が噛み合っているだけではなく、物語の設定も一捻りが効いている。周囲に何もない孤立した雪山。被害者を最初に見つけたのは盲目の息子。容疑者の妻はドイツ人で、英語はネイティブレベルで話せるが、母国語ではないフランス語では、法廷の場でも、参審員(陪審員)の印象が悪く不利に働く。そんな中で果たしてサンドラは無罪を勝ち取れるのかという点が最大の見どころだ。
 サンドラとサミュエルの正体が明らかになっていくに連れ、両親のトラブルの狭間で揺れるダニエルの複雑な心境を案じ、見る者ですら、サンドラを罪に問うべきか否かを考えさせるような臨場感があり、いつしか物語に没入してしまうのだ。
 本作は152分という比較的、長尺の作品だ。しかしながら、それを感じさせないほどに、目まぐるしい展開で、冗長さは微塵も感じられない。
 それは、パルム・ドールを手にしたジュスティーヌ・トリエ監督の手腕と、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされているザンドラ・ヒュラーの演技によるものだろう。
 加えて、盲目でありながら気丈な少年・ダニエルを演じたミロ・マシャド・グラネールの好演と、カンヌ国際映画祭で優秀な演技を披露した犬に贈られる賞「パルム・ドッグ賞」を受賞した盲導犬のスヌープの存在感も見逃せないポイントだ。
 本作のストーリーは、サンドラが有罪か無罪かというシンプルな見方のみならず、同時に妻は夫を愛していたのかどうか、そして、それを証明することは可能なのかという問いを突き付けている部分もあり、夫婦愛や夫婦関係、加えて親子関係の難しさが、痛いほど伝わってくる作品だ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://gaga.ne.jp/anatomy/
<公式X>https://twitter.com/Anatomy2024?s=20
<監督>ジュスティーヌ・トリエ
<脚本>ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
<製作>マリー=アンジュ・ルシアーニ、ダビド・ティオン
<撮影>シモン・ボーフィス
<美術>エマニュエル・デュプレ
<衣装>イザベル・パネッティエ
<編集>ロラン・セネシャル
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