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【映画レビュー】「身代わり忠臣蔵」(2024 日本) [映画]

【映画レビュー】「身代わり忠臣蔵」(2024 日本)
 この作品を見るにあたって、なぜ『忠臣蔵』が映画やドラマのみならず、人形浄瑠璃や歌舞伎も演目として、代々受け継がれ、日本人の心を打つのかについて考えてみた。
 この物語の基となった「赤穂事件」とは、実に単純な出来事だ。儀式、典礼を司る「高家」であるがゆえに、横暴な態度に終始し、その標的は指南していた播磨国赤穂藩藩主・浅野内匠頭にも向けられていた。
 その行為は、現代でいえばパワハラといえるものだったが、我慢に我慢を重ねていた浅野長矩がついに堪忍袋の緒が切れ、江戸城内の松之大廊下で、吉良上野介を斬りつけてしまう。
 しかし当時の、徳川5代将軍・綱吉は、内匠頭を切腹に処し、赤穂藩をお家取り潰しとした一方で、上野介に対しては不問に付した。「喧嘩両成敗」を常としていた当時の慣習に相容れない決定により、浅野家の家臣は「藩士」から「浪士」に身分を下げ、亡き主君の長矩に代わり、家臣の大石内蔵助以下47人が集まり、本所にあった吉良邸に討ち入り、上野介に仇討ちを果たした事件だ。
 この事件がなぜ当時、大事件として扱われたのか。それは時代背景も影響していると思われる。時は江戸時代、元禄年間(1688~1704)は、江戸幕府創立からおよそ100年、盤石の政治体制の下、治安も経済も安定し、江戸幕府創立時には約1230万人だった日本の人口も、約2900万人とほぼ倍増し、江戸もすでに100万都市となっていた。
 少なくとも、武士による「幕府」にとって政治が行われはじめた鎌倉時代以降、最も平和だった時代だったのだ。「元禄」は単なる元号ではなく、“平和”を意味する言葉となり、戦後昭和の高度経済成長期、後に首相となる福田赳夫が、太平の当時の世を「昭和元禄」という言葉で言い表している。
 そんな平和な時代、一武士が上級武士を斬りつけるという出来事は、世間を大いに賑わせる“一大スキャンダル”であったことは想像に難くない。
 さらに本作でも触れられているが、内匠頭に対する罪状が、上野介を斬りつけた“殺人未遂罪”ではなく、江戸城内で刀を抜いた“銃刀法違反”であったことも、いかに当時が平和な時代だったことが分かる。
 本作に話を戻すと、原作は、この物語をベースに「身代わり」という設定を加えてコミカルに描いた土橋章宏の同名小説だ。
 内匠頭が切腹となった一方で、斬られた上野介も逃げ傷を背中に負い、瀕死の状態に陥る。逃げ傷によって死んだとなれば武士の恥とされ、お家取り潰しも免れない。
 上野介には孝証(ムロツヨシ=上野介・孝証2役)という弟がいた。武家に生まれたとしても、長男以外は跡取りにはなれず、親の威光や財産を受け継ぐことは出来ない。孝証も出家し、僧侶となっていたものの、寺に属しているわけでもなく、法話をしながら物乞いをするような貧しく荒んだ生活ぶりで、兄に度々、金の無心をしていたため、吉良邸からも“出入り禁止”となっていた。
 そんな孝証が、川で溺れているところを、釣りをしていた内蔵助(永山瑛太)に助けられる。この邂逅が、物語のスタートとなる。
 重体の上野介を前に、吉良家家臣・斎藤宮内(林遣都)のアイデアで、そっくりな弟・孝証を身代わりにして綱吉の側近にして幕府側用人の柳沢吉保(柄本明)を騙し、お家取り潰しを免れようとする前代未聞の作戦を実行に移す。
 一方、切腹した長矩の側近だった内蔵助は、浪士となった仲間たちからプレッシャーを受け、仇討ちをするべきか思案しながらも、幕府への嘆願書を書き続ける日々を送っていた。
 そんな中、上野介は死んでしまう。そして、嘆願書の甲斐もなく赤穂藩の取り潰しは覆らず、赤穂藩の旧藩士である、いわゆる「赤穂四十七士」が仇討ちのために立ち上がる。
 孝証は仇討ちの情報を耳にし、また、同時にその情報を知った幕府は、吉良邸の本所への転居を命じる。何とか仇討ちやお家取り潰しを回避したい孝証。片や、暴走しつつある赤穂浪士の気持ちを鎮めたい内蔵助…。2人の心情が、いつしか同じ方向に向かう。
 ある日、孝証は大金を手に、吉原の遊郭に遊びに行く。隣の部屋で派手に遊んでいたのは、“敵”である内蔵助だった。孝証は僧侶を装っており、再会した内蔵助に、かつて命を救ってもらったお礼を告げ、意気投合し朝まで飲み明かす。
 孝証は内蔵助に対して、自らの正体を明かし、一世一代の大芝居を提案する。これこそがタイトル通り「身代わり忠臣蔵」計画の始まりだ。
 2人は、それぞれの身内や幕府を欺くための完璧なストーリーを描くが、こと実行に移すと、計画通りにはいかない。いよいよ追い詰められる2人…。そこに“奇跡”が訪れる。
 脚本も担当した原作者・土橋章宏と河合勇人監督の『忠臣蔵』という日本人なら誰でも知っている作品へのリスペストを感じさせながらも、思い切りコメディーに振り切った本作。
 正反対の性格の上野介と孝証をムロツヨシが1人2役で演じ切っただけでも見どころであることに違いないが、加えて、武士としてのプライドと部下の思いの狭間で揺れ動く内蔵助を永山瑛太が好演。さらに、突然、殿に担ぎ出され困惑する孝証を支え続け、いつしか孝証も思いを寄せる侍女の桔梗役の川口春奈が、ストーリーに花を添えている。
 それにつけても、ムロツヨシという才能は無限なのではないかと思えるほどの快演を見せている。貧乏僧侶の頃の孝証のいい加減さと無鉄砲ぶり、上野介の替え玉にされた後の困惑と哀愁、さらに上野介の横暴ぶり…全てをパーフェクトに演じ分けている。
 ストーリーの途中で、落としどころはおおよそ勘付いてしまうが、逆にそれを見越したかのような、ド派手なアクションシーンも見どころだ。
 笑いに始まり笑いに終わる、“ザ・娯楽作”と断言できる作品だった。
<評価>★★★★☆
<監督>河合勇人
<脚本>土橋章宏
<企画プロデュース>橋本恵一
<プロデューサー>森田美桜、福島一貴
<共同プロデューサー>飯田雅裕
<ラインプロデューサー>高瀬博行
<キャスティングプロデューサー>福岡康裕
<音楽プロデューサー>津島玄一
<撮影>木村信也
<照明>石黒靖浩
<録音>渡辺真司
<美術>松宮敏之
<装飾>石村嘉宏
<持道具>井上充
<衣装デザイン>大塚満
<衣装>古賀博隆
<メイク・床山>山下みどり
<結髪>松浦真理
<特殊メイク・造形スーパーバイザー>江川悦子
<特殊メイク>神田裕文、佐々木誠人
<造形>神田裕文 佐々木誠人
<操演>羽鳥博幸
<音響効果>北田雅也
<編集>瀧田隆一
<音楽>海田庄吾
<ナレーション>森七菜
<監督補>中村圭良
<助監督>宇喜田尚
<殺陣師>清家三彦
<スクリプター>杉本友美
<製作担当>谷敷裕也
<原作>土橋章宏「身代わり忠臣蔵」(幻冬舎) https://www.gentosha.co.jp/book/detail/9784344430464/
<主題歌>東京スカパラダイスオーケストラ「The Last Ninja」(cutting edge/JUSTA RECRD) https://tokyoska.net/discography/detail.php?id=1020194
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【映画パンフレット】身代わり忠臣蔵

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