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【映画レビュー】「ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう」(原題「Ras vkhedavt, rodesac cas vukurebt?」/2021 ドイツ・ジョージア) [映画]

【映画レビュー】「ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう」(原題「Ras vkhedavt, rodesac cas vukurebt?」/2021 ドイツ・ジョージア)
 同作は、ジョージアのクタイシを舞台に織りなされるファンタジーあふれる恋愛映画だ。
 クタイシは、ソ連時代に第2の工業都市として栄え、現在では、ジョージア議会議事堂が首都トビリシより移転してきたほか、ヨーロッパの桃源郷とも呼ばれる美しい古都として、多くの観光客を魅了している。
 ギリシャ神話によると、紀元前2000年紀、ギリシャの英雄たちが巨大なアルゴー船でコルキス王国に黄金の羊毛を求め、古代ジョージアに来たといわれている。コルキス王国の首都はクタイシにあったともいわれており、考古学者に発見された黄金の芸術品からもわかるように、ギリシャの英雄たちはコルキスの豊かさに感動したという。コルキスの黄金の工芸品は現在、ジョージア国立博物館で展示されており、3000年も経つ今日でも輝きを放っている。
 世界遺産に登録されたバグラティ大聖堂やゲラティ修道院が有名だが、街中の散策も楽しめる都市で、リオニ川にかかるホワイトブリッジを見ながらカフェでお茶を楽しむ観光客も多い。
 まさにこの場所が、同作の舞台となっている
 街中で本を落としたリザ(オリコ・バルバカゼ)とすれ違いざまにそれを拾ったギオルギ(ギオルギ・アンブロラゼ)は、夜の道で偶然にも再会する。2人は互いの名前も連絡先も聞かないまま、翌日、その白い橋のたもとにあるカフェで会う約束をするが、翌朝、彼らは邪悪な呪いにかけられ、外見を変えられてしまう。
 変身後のリザ(アニ・カルセラゼ)とギオルギ(ギオルギ・ボチョリシビリ)は、その外見だけではなく、リザは薬剤師としての知識を、ギオルギはサッカー選手としての技術を同時に失い、新たな仕事を探す必要に迫られる。これだけでも非常に辛い状況だ。
 ただ2人は、互いに相手の姿が変わっていることを知らず、約束のカフェで互いを待ち続ける。リザもギオルギも、白い橋のカフェで仕事を見つけ、再開できることを信じ続ける。
 人間の感情の発露である「一目惚れ」と、人知を超えた現象である「呪い」軸に、複数のサブストーリーとともに物語が展開され、見事にラストに収束されてゆく。
 これまでのジョージア映画の特徴は、この国の歴史ある民族と同じように独特な個性があり、多様性を元に、民族の魂を謳い、人々の心を一つにするものが多かった。
イタリア映画の巨匠フェデリコ・フェリーニ監督は、このように「ジョージア映画は奇妙な現象だ。特別であり、哲学的に軽妙で、洗練されていて、同時に子どものように純粋で無垢だ。ここには私を泣かせるすべてがある。そして私を泣かせることは容易ではないと言っておきたい」とも語っている。ジョージア映画の重鎮だったエルダル・シェンゲラヤ監督は「ジョージア映画はジョージア人のためのものだ」と語る。この国の映画人はジョージア人であること、ジョージア映画を作ることを誇りにしている。ジョージア映画の背景にはジョージア民族の魂そのものがあるといっても過言ではないのだ。
 しかしながら、同作は、従来のジョージア映画とは明らかに異なる、未来を向く感性で彩られた、ファンタジーあふれる大人のおとぎ話だ。この舞台となるクタイシの旧市街の歴史的建造物や美しい橋、伝統的なジョージアのパン「ハチャプリ」、リザの友人が製作する映画のために街でカップルを探すカメラマン、アルゼンチン代表のファンでメッシのユニフォームを部屋に飾るギオルギと、彼を慕うサッカー好きの子どもたちや、サッカー観戦を“趣味”とする犬たち…。美しい映像や音楽とともに、それぞれが織りなすオムニバスのようなストーリーがやがて一つになっていく、繊細で、かつ不思議なストーリーを紡ぎ、一見、平凡な中年男性で、変身した後のギオルギとリザに新たな仕事を紹介する「白い橋のカフェ」の店主(バフタング・パンチュリゼ)が、この2人のその後のカギを握っている。
 リオニ川にかかる「白い橋のカフェ」を中心に物語が進行するため、物理的な広がりはないかもしれないが、歴史と伝統が詰まっているクタイシの街の美しさも堪能できる。“ジョージア版ヌーベルバーグ”を謳っているだけあって、フランス映画のような描写も印象的だ。
 そして、思わぬ形でギオルギとリザは、お互いの存在を確認し、このおとぎ話は現実のものとなり、見事なエンディングを迎えることになる。多くの謎と余韻を残しながら…。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://georgia-cafe.com/
<監督>アレクサンドレ・コベリゼ
<製作>マリアム・シャトベラシビリ
<撮影>ファラズ・フェシャラキ
<美術>マカ・ジェビラシビリ
<衣装>ニノ・ザウタシビリ
<編集>ベレナ・ファイル
<音楽>ギオルギ・コベリゼ
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