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【映画レビュー】「モーリタニアン 黒塗りの記録」(原題「The Mauritanian」/2021 イギリス・アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「モーリタニアン 黒塗りの記録」(原題「The Mauritanian」/2021 イギリス・アメリカ)
 2001年の同時多発テロ事件に絡み、テロの首謀者として突然、逮捕され、裁判も行われないまま4年にわたり、キューバにある米軍のグアンタナモ基地に収容され続けた実在の人物モハメドゥ・ウルド・スラヒの手記を映画化した作品。よって、作中にもある通り、これは実話だ。
 モハメドゥは従兄弟がビンラディンの衛星携帯電話を使った記録が残されたとして、テロ実行犯のリクルーターとみなされる。ブッシュ大統領とラムズフェルド国防長官をトップとするアメリカ政府は正義の鉄槌を求めて、米軍にグアンタナモに収容中のテロ組織のメンバーを戦犯法廷で裁くよう命じ、モハメドゥを死刑第1号とするよう、中佐のスチュアート・カウチ(ベネディクト・カンバーバッチ)に依頼する。スチュアートは9.11でハイジャックされた飛行機の副操縦士だった親友を持っていたことから、その任務に全力で取り組んでいた。
 片や、人権派弁護士であるナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)は、この案件をどうしても放っておくことができず、無償奉仕活動として、モハメドゥの弁護を買って出る。
 モハメドゥと接見するためにグアンタナモに到着したナンシーと、通訳兼アシスタントのテリー・ダンカン(シャイリーン・ウッドリー)が異様なほど厳重な警備を通過すると、足かせをしたモハメドゥがおびえた様子で待っていました。尋問官に知られることを恐れていた彼にナンシーは証言の代わりに手記を書くよう提案する。
 帰国したナンシーとテリーは、モハメドゥの手記を食い入るように読み、彼のユーモアと人柄に徐々に引き込まれていきました。そんな中、ナンシーが政府に請求していた軍による調査資料が到着するが、中身はほとんど黒くに塗りつぶされているものだった。
 加えて、スチュアート中佐が目にした報告書も同様に黒塗りされたものだった。彼は報告書に訓練生時代に同期だったニール・バックランド(ザッカリー・リーヴァイ)の名前を見つけ、相談を持ち掛けたが「機密だ」と一蹴されてしまう。
 ナンシーとテリーは再びグアンタナモを訪れ、モハメドゥに政府が握る証拠の強制開示を訴える提案する。2008年、ワシントンへ赴いたナンシーとテリーは「9.11を忘れるな」と叫ぶ民衆に囲まれ、危険を感じながら連邦地方裁判所に入る。裁判長から政府へ10日以内の書類の提出命令を獲得できたが、届いた書類にはモハメドゥの自白が記されていた。
 ナンシーは「3000人を殺した犯罪者を弁護できない」と怒りを募らせたテリーを外し、独りでモハメドゥを訪ねる。そしてモハメドゥにこれまで以上に真実を書くよう強く求め「このままなら弁護できない」と言い捨て去っていく
 一方、スチュアートは自分の知らないところで陰謀が動いていることを感じ、ニールに真実を迫る。
 そしてナンシーはモハメドゥからの真実の手記を読み、スチュアートはニールの指示で取り調べのすべてを記した覚書を読み、2人は収容所で行われた拷問などの違法な取り調べについて知ることとなる。
 グアンタナモでの取り調べは地獄そのものだった。暴行や水責め、閃光や大爆音のヘビメタや何時間もの苦痛な姿勢、性的屈辱を与えるなど睡眠や休息もさせてもらえず、自白の強要は何か月も続く。そして「お前の母親を逮捕した」と言われ、モハメドゥはついに自白してしまう。
 この事実を知ったスチュアートは、「裏切り者」との誹りを受けつつも、任務を降りることを決意、ナンシーは裁判にてモハメドゥの発言権を得る。
 モハメドゥは中継でつながれた法廷で「自分の国では法律が機能しておらず警察が腐っているが、アメリカでは法律の基で守れていることを信じたい」と証言する。
 このモハメドゥの心からの叫びは連邦判事の心を動かし、2010年、政府へモハメドゥを即座に釈放するよう命令が下りる。
 その後、アメリカ政府側は上訴し、数年間の法廷闘争の後、モハメドゥは、検閲による数千か所の黒塗りが入る手記を出版。世界中で翻訳されベストセラーとなる。
 拘禁は14年2か月にも及び、2016年、モハメドゥはついに釈放される。帰国後、2018年にアメリカ人弁護士と結婚し子も授かったモハメドゥ。
 一方で、グアンタナモ収容所の現実が明らかとなり、国際社会や人権団体からの非難が相次いだことで、ブッシュから大統領の座を引き継いだオバマ政権が閉鎖を表明したものの、いまだ実現には至っていない。
 エンドロールで陽気にボブ・ディランの歌を口ずさむモハメドゥ本人の姿があった。モハメドゥは笑顔で「それでも私はあなたたちを許します」と語るのだった。
 ジョディ・フォスターが演じる弁護士のナンシーは、時に熱く、また時には同僚を案件から外す冷徹さを持ちながらも、少しずつ真実を明らかにしていく様には迫力すら感じる。
 テロ自体は卑劣で許されない行為だが、その出来事によって、アメリカ政府、司法、軍の“不都合な真実”が詳らかになったことも事実だ。これを境に、アメリカの国力は低下し、アフガンを見捨てISの横暴を許し、侵略戦争を始めたロシアを止められず、中国の海洋進出も傍観しているしかない有り様だ。もはや、アメリカは“世界の警察”の立場を自ら手放したのだ。
 それは当然の成り行きではないか。このような人権を無視した制度が旧態依然としてはびこっている国を、どこの国民が信用できようか。
 それは、我が国にとっても無関係ではない。堕落し切ったこの国家に何から何まで頼り切りの現状を憂えすにはいられないのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://kuronuri-movie.com/
<公式Twitter>https://twitter.com/kuronuri_kiroku
<監督>ケビン・マクドナルド
<原作>モハメドゥ・ウルド・スラヒ
<原案>M・B・トレイブン
<製作>アダム・アクランド、リア・クラーク、ベネディクト・カンバーバッチ、ロイド・レビン、ベアトリス・レビン、マーク・ホルダー、クリスティーン・ホルダー、ブランウェン・プレストウッド・スミス、マイケル・ブロナー
<製作総指揮>マイカ・グリーン、ダニエル・ステインマン、ダン・フリードキン、マイケル・ブルーム、マリア・ザッカーマン、ライアン・ヘラー、ザック・キルバーグ、ラッセル・スミス、ロバート・ハルミ、ジム・リーブ、ローズ・ガーネット、ロバート・シモンズ、アダム・フォーゲルソン、ジョン・フリードバーグ
<脚本>M・B・トレイブン、ローリー・ヘインズ、ソフラブ・ノシルバニ
<撮影>アルウィン・H・カックラー
<美術>マイケル・カーリン
<編集>ジャスティン・ライト
<衣装>アレクサンドラ・バーン
<音楽>トム・ホッジ
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モーリタニアン 黒塗りの記録(字幕版)

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  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2022/02/16
  • メディア: Prime Video






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