SSブログ

【映画レビュー】「由宇子の天秤」(2020 日本) [映画]

【映画レビュー】「由宇子の天秤」(2020 日本)
 父・政志(光石研)が経営する学習塾で講師として手伝いながらドキュメンタリー番組のディレクターを務める木下由宇子(瀧内公美)は、3年前の女子高生いじめ自殺事件のドキュメンタリー番組の制作に携わる。
 被害者の広美は、生前に学校でいじめを受けていることを訴えていたが、学校側は広美が教師の矢野と交際していると主張して広美に自主退学を迫り、その翌日に広美は自殺する。このことはマスコミの格好のネタとなり、広美の遺族や矢野、矢野の家族にまで心ない誹謗中傷などが相次ぎ、耐えかねた矢野は「広美との交際の主張は学校側がいじめの隠蔽を図るためのねつ造であり、広美と交際したことはなく、報道や学校の主張は事実無根。死をもって抗議する」との遺書を残して自殺する。
 由宇子は事件の真相を独自に探るべく、広美の父・仁(松浦祐也)、矢野の母・登志子(丘みつ子)や姉の志帆(和田光沙)ら遺族に取材し、その前にテレビ局のプロデューサーらに仮編集した映像を見せるプレゼンテーションを行い、その中で事件報道のあり方に問題提起する内容を盛り込もうとしましたが、局側は身内批判だとして却下し、由宇子に再構成を命じる。
 由宇子は加熱報道に問題提起するようなアプローチではなく、広美の遺族、矢野の遺族、学校側といった三者の立場や主張をフラットに並べ、そこから出てくるであろう意見の相違を明らかにすることで、真実がどこで歪み曲げられていったかを炙り出すことを試みる。
 登志子は顔を映さないという条件で由宇子のインタビューに応じ、矢野が生前、学校側とトラブルを起こしていたを明らかにする。さらに、登志子が世間の誹謗中傷から逃れるために、真っ暗なアパートで、息を潜めて生活している現状を目の当たりにする。登志子から誰が本当の加害者なのかと問われた由宇子は、自分は誰の味方にもなれないけど光を当てることはできると答える。
 しかしながら、政志の塾に通う女子高生の小畑萌(河合優実)が教室内で嘔吐し、萌は妊娠していることがわかる、さらにその相手は、父の政志だという衝撃の事実が明らかになる。
 萌は滞納していた塾の月謝を帳消しにしてもらうために政志と寝たことを明かし、こうした事実を父の哲也(梅田誠弘)や学校側、友人たちには絶対に知られたくないので助けてほしいと由宇子に懇願する。
 由宇子は政志に、スマホで録画しながら事情聴取する。政志は萌と性的関係を持ったことは認めたが、月謝をタダにすると持ちかけたことはないと答える。由宇子は悩んだ末、政志の不祥事が表沙汰になった時の影響を考え、萌の件は内密に処理しようとする。
 由宇子は産婦人科医の知人・小林(池田良)に極秘裏に萌の中絶を依頼する。その後、由宇子は萌のさまざまな面倒を見ていくようになり、2人は交流を深めていく。
 図らずも“加害者”の立場になってしまったことで、皮肉にもドキュメンタリーの視点が鋭くなった由宇子は、プロデューサーの富山宏紀(川瀬陽太)から高評価を得るようになる。
 ところが、広美の父である仁は、番組の方向性が変わってしまったことにクレームをつけたため、由宇子は仁が営むパン屋へ出向く。由宇子は仁に登志子の映像を見せ、被害者側の現実は加害者側の現実と繋がっていると語る。
 由宇子は萌をビジネスホテルに連れて行き、極秘裏に小林によるエコー検査を受けさせました。その結果、萌は子宮外妊娠の可能性があり、早急に精密検査を受けないと命に関わるということが明らかになる。
 政志は意を決して哲也に全てを話すことにしたが、由宇子は社会的に抹殺されている取材対象者を救いたいとの思いから、2週間後に控えた番組の放送まで待ってくれるよう懇願する。
 由宇子は再び矢野の姉・志帆の取材をし、志帆とその家族も心ない誹謗中傷を受けて苦しんでおり、何度も住所や職場を転々としていることを知る。
 その後、萌と一緒に映画を見に行く約束をしていた由宇子は、萌の自宅アパート周辺をうろついている男子高生のダイチ(河野宏紀)と出会う。政志の塾に通っていたダイチは、萌は“売り”に手を染めており、嘘つきだと証言する。
 さらに追い打ちをかけるように、由宇子は志帆に呼び出され、衝撃の真実を告げられる。志帆が渡してきた矢野のスマホには、矢野が広美をレイプする映像が残っていたのだ。さらに志帆は、矢野の遺書は実は弟の淫行が発覚することを恐れて自分が捏造したものだと打ち明ける。
 これまで真実を伝えることを目指していた由宇子は、自らの信念に疑問を抱き、番組の放送中止を訴える。その後、萌に会った由宇子はダイチから聞いた噂の真相を確かめようとするが、追い詰められた萌は衝動的にその場から逃げ出し、その際に車にはねられてしまう。
 由宇子は政志と共に病院に向かうが、哲也は萌が妊娠していたことを知り、ショックを受ける。由宇子は意を決して、哲也に真相の全てを打ち明けるが、激昂した哲也は由宇子に掴みかかり、首を絞める。哲也は動かなくなった由宇子を置き去りにして立ち去る。
 しばらくして、由宇子のスマホに番組の放送が中止になったとの留守番が入る。意識を戻した由宇子はスマホのカメラを自分に向け記録し始めるのだった。
 真実の報道とはかけ離れた週刊誌報道へのアンチテーゼ、ジャーナリズム精神に富んだ女性ディレクターの闘い、そんな人物に降りかかった身内の不祥事、信念を曲げてまで、それに対して“隠蔽工作”を図る大いなる矛盾を背負い込み苦しむ女性を瀧内公美が、迫力をもって好演している。
 終始、シリアスな物語が進行するが、日本社会のさまざまな場で見られる“臭い物に蓋をする”という問題を突きつけている。
 さらに、“正義の味方”と自任しているであろうはずのジャーナリストとて、一人の人間に過ぎず、その置かれた状況によっては、その立場を一変させることもあるはずだ。
 しかしながら、それを指して、我々は“マズゴミ”と批判できるだろうか。少なくとも由宇子は、入念な取材を基に、真実に辿り着こうとしていたことは事実なのだ。彼女を変えてしまったのは、アホな父親に他ならない。
 気が遠くなるほどのインタビュー取材を重ねながらも、思わぬ真実に触れ、それらを全てボツにした由宇子は、本物のジャーナリストなのではないだろうか。そうした人々は日々、自らが持っている内なる“天秤”と闘っているのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://bitters.co.jp/tenbin/
<公式Twitter>https://twitter.com/yuko_tenbin
<公式Facebook>https://www.facebook.com/yuko.tenbin.film/
<監督・脚本・編集>春本雄二郎
<プロデューサー>春本雄二郎、松島哲也、片渕須直
<ラインプロデューサー>深澤知
<キャスティング>藤村駿
<撮影>野口健司
<照明>根本伸一
<録音・整音>小黒健太郎
<美術>相馬直樹
<装飾>中島明日香
<小道具>福田弥生
<衣装>星野和美
<ヘアメイク>原田ゆかり
<音響効果>松浦大樹
<医療監修>林恭弘
<ドキュメンタリー監修>鎌田恭彦、清水哲也
<メイキング>荒谷穂波
#由宇子の天秤 #映画 #春本雄二郎 #松島哲也 #片渕須直 #瀧内公美 #河合優実 #梅田誠弘 #光石研 #丘みつ子 #松浦祐也 #和田光沙 #池田良 #木村知貴 #前原滉 #永瀬未留 #河野宏紀 #根矢涼香 #川瀬陽太 #マスコミ #ドキュメンタリー #ベルリン国際映画祭 #釜山国際映画祭 #ビターズエンド

由宇子の天秤

由宇子の天秤

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2022/04/23
  • メディア: Prime Video






nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:映画