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【映画レビュー】「僕らの世界が交わるまで」(原題「When You Finish Saving the World」/2022 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「僕らの世界が交わるまで」(原題「When You Finish Saving the World」/2022 アメリカ)
 DV被害者のためのシェルターを運営する母・エブリン(ジュリアン・ムーア)と、高校生である傍ら、ネットのライブ配信で自作の曲を披露するライバーとして、世界中にフォロワーがいる息子・ジギー(フィン・ウォルフハード)のカッツ家の母子が本作の主人公だ。
 社会への奉仕に心血を注ぐエブリンと、フォロワー数を増やすことしか考えていないジギー。2人は互いのことを分かり合えず、知ろうとさえしない。そんな2人がそれぞれの日々の中で壁にぶつかり、そこから2人の心境は少しずつ変化していく。
 ジェネレーションギャップや、理想と現実の食い違いといった身近な出来事の中で、失敗を経て、母と息子は心を通じ合わせていくストーリーだ。
 マーク・ザッカーバーグの半生を描いた『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)で主演を務め、数々の主演男優賞を受賞したジェシー・アイゼンバーグが初監督を務めたこの作品。製作は、『ラ・ラ・ランド』(2016年)で、オスカー女優となった賞を獲得したエマ・ストーンが、夫のデイヴ・マッカリーとともにと共に設立した制作会社「フルート・ツリー」が初めてプロデュースを手掛けた作品でもある。
 さらには、2012年設立で、多くのヒット作を世に送り出した製作会社「A24」が製作・配給を担当したことで、公開前から期待度の高い作品だった。
 海よりも深い愛情で、DV被害者たちに寄り添うエブリン。しかしその愛情は家庭には向かず、ジギーはもとより、夫であるロジャー(ジェイ・オルカット・サンダース)もほったらかし。出勤する際、ジギーも同乗してもらおうとし、「あと5秒待って」と言われるが、5秒後、ジギーを置いて出発してしまうほどのドライな関係だ。
 ジギーも、勉学や家族との時間など二の次で、自室にこもり配信に夢中の日々を過ごしていた。その行動はエスカレートし、配信中に部屋から家族を遠ざけるためのランプまで設置する始末。
 母子の溝は深まるばかりだったが、母子ともに問題を抱えることになる。
 エブリンが運営するシェルターに身を寄せており、ジギーの同級生でもあるカイル(ビリー・ブリック)が、DV加害者である父親の下で自動車整備工の仕事に就きたいという希望を口にする。カイルの望みと、DV被害者を加害者に近付けたくないエブリンは悩み、カイルに大学に進学するよう説得するが、その行動は事を複雑にし、エブリンは板挟みの状態となってしまう。
 片やジギーは、好意を寄せるライラ(アリーシャ・ボー)はじめ、政治や社会問題を語る同級生の話題についていけないでいた。ライラたちにフォロワー数を自慢するジギーだが、周囲の反応はイマイチ…。配信にうつつを抜かしている間に、同級生たちと話が合わなくなっていたのだ。
 何のことはない。エブリンとジギーは、その対象は全く異なれど、ある物事に対するアプローチは全く同じスタンスだったのだ。近視眼的な性格も同じで、いざ困難に陥っても、他人を頼ることもできなかった。まさに“この母にしてこの子あり”といった様相だ。以前にロジャーが指摘していた「2人は自己愛が強いところがそっくり」と評した通りだったのだ。
 そんな時、ジギーはエブリンのオフィスを訪れる。そこで目にしたのはエブリンが過去に受けた表彰や顕彰の数々。ジギーが生まれて初めて、母の偉大さを感じた瞬間だ。
 対してエブリンは、パソコンでジギーの名を検索し、YouTubeで曲を披露する動画を見ていた。そこで初めて、息子の創作活動の一端を垣間見る。
 エブリンのオフィスで顔を合わせる2人。しかし、反目し合っていた頃の感情は消え失せ、互いをリスペストする関係性に変わっていた。
 あまりにも真面目過ぎて空回りする母と、ネットと現実の狭間で苦しむ息子が分かり合うまでを描いた本作、88分という比較的短尺でありながら、過不足がなく、ハートフルなストーリーを描いたアイゼンバーグ。監督デビュー作とは思えないほど、共感性の高い作品を作り上げた。
 エブリン役を務めたムーアの安定感のある演技、そして、ジギー役を演じたウルフハードは、21歳の若さでありながらも、表情豊かな演技を見せ、かつ、ミュージシャンとして活躍する才能の片鱗も見せ、その存在感にはアイゼンバーグも舌を巻いたという。
 俳優だけではなく、劇作家や小説家、はたまた音楽家としての顔も持つアイゼンバーグ。作中で使われるジギーが歌う曲の製作も担い、監督としての心構えとして、多くの監督の下で仕事をした経験を生かし、良い監督については真似をし、相性の良くなかった監督については反面教師としたとも語っている。
 アイゼンバーグ自身も家族や仕事に関して問題を抱えた経験があり、自身を「社交性のない人間」と評する一面が、本作を製作するきっかけとなったのかもしれない。そうだとすれば、自分の感情を上手に表現できない主人公というキャラクター設定は、彼にとっては自然なことなのだろう。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://culture-pub.jp/bokuranosekai/#
<公式X>https://twitter.com/bokuseka_movie
<監督・脚本>ジェシー・アイゼンバーグ
<製作>デイブ・マッカリー、エマ・ストーン、アリ・ハーティング
<製作総指揮>ベッキー・グルプカンスキー
<撮影>ベンジャミン・ローブ
<美術>メレディス・リッピンコット
<衣装>ジョシュア・J・マーシュ
<編集>サラ・ショウ
<音楽>エミール・モッセリ
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【映画パンフレット】僕らの世界が交わるまで

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