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【映画レビュー】「笑いのカイブツ」(2024 日本) [映画]

【映画レビュー】「笑いのカイブツ」(2024 日本)
 本作は、16歳からラジオの深夜放送やテレビ大喜利番組への投稿を続け、“伝説のハガキ職人”としてその名を轟かせたツチヤタカユキ氏の波乱と狂気に満ちた半生を描いた自叙伝を映像化した作品だ。
 これが長編映画初監督作品となる滝本憲吾は、吉本興業系の映像専門学校「なんばクリエイターファクトリー」において井筒和幸ゼミの第1期生となり、井筒門下生として鍛えられ、その後、フリーの助監督として、井筒の他にも、廣木隆一氏、中島哲也氏などの監督の下で腕を磨いてきた。
 主人公のツチヤを演じたのは、好青年から犯罪者まで、様々な役柄を演じ分ける岡山天音。ツチヤが高校にもろくに登校せず、ただひたすらネタを書き続けて過ごしていたのに対し、中学時代にテレビドラマに出演したことがきっかけで芝居の魅力に憑りつかれ、中卒で芸能界に飛び込んだ岡山。彼は、演じながらも共通点の多いツチヤそのものが憑依していったのではないか。それほどまでの怪演を見せている。
 今ではリスナーからの投稿も、専用フォームやメール、X(旧Twitter)によるものがほとんどだが、「ハガキ職人」という言葉は健在で、そこから放送作家や構成作家、バラエティー番組の演出に携わる人材を多く輩出し続けている。
 古くはナンシー関(故人)や古田新太、「アメトーーク」や「ロンドンハーツ」などを手掛けるテレ朝の敏腕プロデューサー・加地倫三氏もその1人だ。
 20歳となったツチヤは、大喜利番組で“レジェンド”に昇格したことが自信になり、自作のネタを書いた大量のノートを携えて劇場に押し掛ける。なんとか作家見習いの座を勝ち取り、そのキャリアをスタートさせる。
 しかしツチヤには、致命的ともいえる短所を抱えていた。他人との交流が絶望的なまでに苦手なのだ。
 そんなツチヤは当然、芸人の間では疎まれ、唯一、味方だった芸人に提供したネタにも盗作疑惑がかけられ、追い出されるように劇場を去る。
 職を失ったツチヤは、ホストやコンビニのバイトに転じようとするが、何一つ上手くいかない。やはりツチヤはお笑いしか能のない男なのだ。
 自暴自棄になるツチヤ。そんな彼を支えたのは、ツチヤがネタを書くために通いつめていたバーガーショップ店員のミカコ(松本穂香)と、ムショ帰りのチンピラ・ピンク(菅田将暉)だった。笑いを諦め切れずにいたツチヤは、2人の後押しの声を原動力に、再びハガキ職人として再起する。
 そんな中、売れっ子漫才コンビ「ベーコンズ」の西寺(仲野太賀)から声が掛かり上京、構成作家としてラジオ番組を担当する。
 しかしツチヤにとって、東京は地元の大阪よりも厳しい世界だった。
 西寺によって過保護なまでに守ってもらいながらも、ツチヤの人間嫌いな性格は一向に直らず、スタッフに盾突いた挙げ句、LINEに「人間関係不得意」という言葉を残し、逃げ帰るように大阪に戻ってしまう。
 ネタを書くことでしか自分を表現できないツチヤの肉体は、既に悲鳴を上げており、血尿や血便が出るまでに悪化していた。
 それでも西寺はツチヤを見捨ててはいなかった。東京での単独ライブに招待し、エンドロールの「構成」の欄にツチヤの名を記していたのだ。
 しかし大阪に戻ったツチヤは、ピンクとミカコに励まされるが、誰も自分を理解してくれない現実に絶望し、店内で暴れてしまう。
 その帰り、橋の上から道頓堀に飛び込むツチヤ。それは“構成作家・ツチヤタカユキ”の死を意味していた。ズブ濡れになって帰宅し、おかん(片岡礼子)に、「俺は死んだ。お笑い、もう辞めるでぇ」と呟くツチヤ。
 しかし、その舌の根も乾かぬうちに、かつて5秒に1本のネタを書いていた床に座り、ネタが出ないと頭を叩きつけ、ヘコんでいた壁を足で突き破ってしまう。そこでツチヤは初めて笑顔を見せ、再びネタ作りに没頭するところで物語は終わる。
 ジョーク交じりに自身を憑依型俳優と称した岡山。それは、実際のツチヤタカユキ氏がどういう人物なのかも分からないにも関わらず、スクリーンに映された人物は間違いなくツチヤそのものだと感じてしまうほどだ。
 しかしながら、滝本の“新人監督”としての詰めの甘さも感じる。ツチヤのお笑いにかける情熱や、そのために半狂乱にもなる演出ばかりが強調され過ぎており、ツチヤがどれだけ作家として有能であったかの描写が少なく、ややもすれば、単なる独りよがりな人物に思えてしまう。
 岡山のみならず、仲野や菅田、松本といった“キャスト頼み”の側面も伺え、彼らの演技力あっての作品だった印象を受ける。
 作中、ツチヤは東京・大阪間を2往復するのだが、そのシーンが東京なのか大阪なのか、道路標識と車のナンバーだけで表現する手法は、少々強引さも感じる。
 反面、仲野演じる西寺と水木(板橋駿谷)の「ベーコンズ」の漫才シーンは息ピッタリで、本作の見せ場となった。ちなみに、西寺のモデルは「オードリー」の若林正恭だそうだ。
 その答えはエンドロールにあった。「漫才指導」の欄に記されていたのは、M-1新王者の「令和ロマン」だった。当然、撮影はM-1前に行われていたにしても、そのネタの切れ味もさることながら、お笑い評論にも造詣が深いこのコンビが関わったことで、さらに作品に厚みが出たといえるだろう。
 現在、ツチヤ氏は大阪を拠点に、創作落語や吉本新喜劇の作家として活動しているという。まだ35歳の若さであることから、まだまだ活躍の場は広がっていきそうだ。
 さらに本作は、全国のハガキ職人に“夢”を与えたという面でも大きな意義があった作品でもあるのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://sundae-films.com/warai-kaibutsu/#
<公式X>https://twitter.com/warai_kaibutsu
<公式Instagram>https://www.instagram.com/warai_kaibutsu/
<監督>滝本憲吾
<脚本>滝本憲吾、足立紳、山口智之、成宏基
<エグゼクティブプロデューサー>成宏基
<プロデューサー>前原美野里
<撮影>鎌苅洋一
<照明>神野宏賢、秋山恵二郎
<録音>齋藤泰陽、藤本賢一
<美術>安藤秀敏、菊地実幸
<装飾>岩井健志
<衣装>馬場恭子
<ヘアメイク>楮山理恵
<編集>村上雅樹
<音楽>村山☆潤
<助監督>齊藤勇起
<制作担当>後藤一郎
<宣伝写真>三宅英文
<漫才指導>令和ロマン
<原作>ツチヤタカユキ「笑いのカイブツ」(文藝春秋) https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163905631
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