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【映画レビュー】「ダム・マネー ウォール街を狙え!」(原題「DUMB MONEY」/2023 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「ダム・マネー ウォール街を狙え!」(原題「DUMB MONEY」/2023 アメリカ)
 「蟻のひと噛み巨象を倒す」ということわざがある。一人ひとりの力は小さくともでも、多くの力が集まれば大きく強力な相手を倒すことができる。どうにもならないと思えるような状況でも、多くの人が一丸となり挑むことで世界を変えることができるという希望を表す言葉だ。
 本作は、証券市場の場で、それを成し遂げた男の実話を映画化した物語だ。
 舞台はコロナ禍真っ只中のアメリカ。人々は、行動制限により出勤や通学のみならず、普段の買い物ですら不自由な生活を強いられていた。
 そんな中、マサチューセッツ州の平凡な証券アナリストだったキース・ギルも“ステイホーム”の生活で、在宅勤務と育児を両立しながら、自らの全財産5万ドルをある会社の株に投資していた。
 その会社とは「ゲームストップ」というゲームソフトの小売りを行う企業。現在、ゲーム業界はオンライン販売が、その売り上げの大半を占め、実店舗での販売は廃れつつあった。事実、ゲームストップ社も倒産寸前と噂され、株価は低迷、そこにコロナ禍が襲い、店舗従業員もリストラされ、アルバイト従業員の給料の前払いの要望にも応えられない財務状況だった。
 経済は崩壊し、失業者は激増。学生も奨学金を返せる見込みが立たず、ただただ呆然とするしかなかった。ギル自身も、妹をコロナによって失っていた。
 一方で、ヘッジファンドに身を置き、ウォール街に跋扈する、どこまでも強欲な証券エリートたちは、同社の株を空売りし、右肩下がりのチャートを見て、ほくそ笑んでいた。
 そんな彼らに敢然とケンカを売ったのがギルだ。赤いハチマキに猫のTシャツ姿で、ハンドルネーム“ローリング・キティ”を名乗り、ゲームストップ社の株式を大量保有していることをYouTubeで発表し、「世間は同社の本当の企業価値を見誤っている」とブチ上げたのだ。
 彼の告白はSMSやネット掲示板を通じて拡散され、多くの若者が同調し、同社の株を買い始める。そして同時に、株価も上昇に転じる。
 当初は、ネット民のみで盛り上がっていただけだったが、2倍、3倍、10倍…となっていくと、ウォール街の人々も無視できなくなっていく。同社の株を買っているのは無力な小口の個人投資家ばかりだ。彼ら一人ひとりの含み益はわずかなものだが、レバレッジをかけて株取引をしているエリートたちは、わずかな下落でも、億単位の損失を出すことになるからだ。
 そして、そのムーブメントは全米に飛び火し、全国ネットのテレビニュースでも取り上げられ、ギルは一躍、有名人となる。家の前には支持者やマスコミが殺到、一躍“時の人”となる。
 それでもギルの生活ぶりは変わらない。日々のルーティンであるランニングと、家庭では育児も家事もこなす。ここで株を売ってしまえば莫大な現金を手にし、“億り人”として悠々自適な人生が待っているにも関わらず、決して売り抜けたりせず、支持者のためにYouTube配信を続ける。“ローリング・キティ”はあくまでも経済弱者の味方なのだ。
 しかしある日、ギルのYouTubeチャンネルが“BAN(アカウント停止)”されてしまう。その裏にはウォール街からの圧力が働いたことが窺えるが、確固たる証拠はない。その間、「ギルがゲームストップ社の株を売った」という噂が流れ、株価は下落していく。全てはヘッジファンドの思惑通りに事が進んでいく。
 さらに、全国ニュースで取り上げられたことで連邦議会から問題視され、オンラインの公聴会に召喚されてしまう。その場で「株価操作」と断じられてしまえば、ギルは刑務所送りだ。
 この最大のピンチに、妻の協力もあって、ギルは株に対する思い、辿ってきた半生、そして、もはや埋めようがない国内の経済格差について説く。その心がこもった言葉に質問した議員たちも納得する。ギルは人生最大の危機を乗り超えたのだ。
 その後、BANされていたYouTubeチャンネルが復活する。そこでギルはゲームストップ社の株を売っているどことか買い増していることを告白する。そして再び、同社の株価は沸騰していく。
 結果、ヘッジファンド側は莫大な損失を出し、ギルを信じて付いてきた個人投資家たちは、ウォール街をギャフンと言わせることになる。
 鑑賞後、ゲームストップ社の株価を確認すると、この騒動の最中、最高80ドルを超えていた株価が13ドル程度に落ち着いている。それは、ブームが去った後、同社の本当の企業価値を現した数字なのだろう。
 この事件は、アメリカ証券取引委員会にも影響を与え、市場の動きと個人投資家の行動を調査し始めるきっかけとなった。市場操縦や不正取引の疑いがないかどうか、また、個人投資家の行動が市場の健全性に影響を与えているかを調査することとなった。
 一方で、個人投資家の行動は、ヘッジファンドなどに牛耳られていた市場の透明性と公正性を向上させるものとされた。しかし他方では、SNSを駆使する個人投資家の行動が、株価操作など市場の安定性を損なう可能性もあるとの懸念も生じている。
 この事件は、株式投資が一般化している米国ならではの事件であり、現在の日本にそのまま当てはめることは難しいだろう。しかしながら、本作で描かれている経済格差は、今の日本でも現実に起きていることだ。だからこそ、近未来の日本の姿を予見しているような感覚に囚われたストーリーだった。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://dumbmoney.jp/
<公式X>https://twitter.com/DumbmoneyJP
<監督>クレイグ・ギレスピー
<脚本>ローレン・シューカー・ブラム、レベッカ・アンジェロ
<製作>アーロン・ライダー、テディ・シュワルツマン、クレイグ・ギレスピー
<製作総指揮>マイケル・ハイムラー、ジョン・フリードバーグ、ジョニー・ホランド、ベン・メズリック、ローレン・シューカー・ブラム、アンドリュー・スウェット、レベッカ・アンジェロ、ケビン・ウルリッヒ、キャメロン・ウィンクルボス、タイラー・ウィンクルボス
<原作>ベン・メズリック「The Antisocial Network」
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