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【映画レビュー】「658km、陽子の旅」(2022 日本) [映画]

【映画レビュー】「658km、陽子の旅」(2022 日本)
 42歳の工藤陽子(菊地凛子)就職氷河期世代の独身女性。在宅ワークのフリーターとして食いつないでいたが、人生を諦め、家族とも20年以上絶縁状態になり、孤独に生きていた。
 そこにいとこの工藤茂(竹原ピストル)が訪れ、父が突然死したと告げ、そのまま東京から故郷の青森県弘前市へ茂の車で向かうが、高速道路のサービスエリアで置き去りにされてしまう。所持金もわずかなまま、陽子は仕方なく、ヒッチハイクで弘前を目指す。
 コミュニケーション能力に難のある陽子は、サービスエリアで必死に乗せてくれる人を探す。そして、デザイン会社をクビになり、再就職をめざす毒舌のシングルマザー立花久美子(黒沢あすか)、ヒッチハイクで旅をする人懐こいが訳アリの少女小野田リサ(見上愛)、かつて東日本大震災を取材し、もう一度、その地に向かおうとするが、陽子を見下し、ホテルに連れ込む卑怯者のライター・若宮修(浜野謙太)、震災の被災地ボランティアをきっかけに東北に移住し、便利屋として働いている八尾麻衣子(仁村紗和)、寡黙な男性の水野隆太(篠原篤)、老夫婦の木下登(吉澤健)と木下静江(風吹ジュン)など、様々な人との出会いを通じて、時には人間の醜悪さを味わいながらも、心が癒されていくロードムービーだ。
 その中には、純粋な親切心で乗せる者もいれば、肉体関係を迫る者もいる。それでも658kmの道のりの中で、途中、陽子は断絶状態にあった亡き父の工藤昭政(オダギリジョー)の幻影に苦しみながらも、徐々に人の温かみに触れ、旅の中で成長した姿で父の出棺に立ち会う。
 当時の東北であれば、やはり東日本大震災は避けては通れないテーマだが、そこもしっかりと描かれており、被災地の現実と、冬の東北の寒々しさも感じ取れる。
 人間嫌いを絵に描いたような陽子の性格は、先天的なものか、氷河期世代の厳しすぎる境遇によって生まれたものか、はたまた東北人特有のシャイな性格なのか。いずれにせよ、初めは乗せてくれた人に礼も言えなかった陽子が、人の優しさに触れ、ついには見ず知らずの運転手に自らの身上を語り出すまでに成長していく658kmの旅だ。
 とにかく主役の菊地凛子が素晴らしく、コミュ障から、半分レイプのような性被害に遭い泣き崩れる姿、暴力的だった父親の記憶がフラッシュバックして苦しむ回想シーンなどを演じ分け、自らの殻を破っていく女性を上手く表現している。お礼を告げる代わりに握手で恩を表現するシーンも見事だ。
 個人的には、東京人=悪人、東北人=善人という設定には、腑に落ちるところもあり、特に震災を経験し、それが原因で息子とも疎遠となり傷付きながらも陽子に寄り添う木下夫妻の姿には、心打たれた。
 ロードムービーという体裁を取りながら、人間の醜さや冷たさ、そして半面、世の中そう捨てたもんじゃないというテーマも含んだ秀作だと感じる。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://culture-pub.jp/yokotabi.movie/
<公式X>https://twitter.com/yokotabi_movie
<公式Instagram>https://www.instagram.com/yokotabi_movie/
<監督>熊切和嘉
<原案>室井孝介
<脚本>室井孝介、浪子想
<プロデューサー>小室直子、松田広子
<ラインプロデューサー>齊藤有希
<製作>中西一雄、押田興将、松本光司
<撮影>小林拓
<照明>赤塚洋介
<録音>吉田憲義
<美術・装飾・持道具>柳芽似
<衣装>宮本茉莉
<ヘアメイク>河本花葉
<編集>堀善介
<音楽>ジム・オルーク
<助監督>桑原昌英
<制作担当>芳野峻大
<メインビジュアル写真>長島有里枝
<エンディングテーマ>ジム・オルーク、石橋英子「Nothing As」(felicity)
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