SSブログ

【映画レビュー】「隣人X 疑惑の彼女」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「隣人X 疑惑の彼女」(2023 日本)
 「ガイジン(外人)」という言葉を広辞苑で調べてみた。
 「外国人、異人」「仲間以外の人、疎遠な人」という意味に加え、こうした記述があった。
 それは「敵視すべき人」。
 日本人は島国育ちであるがゆえ、太古の昔から、肌の色、話す言葉が異なる人に対する免疫がなく、知らず知らずのうちに排除してしまう。それはもはやDNAレベルと言い切っていいほどの民族意識だ。
 本作の1シーンで、日本語がたどたどしい店員に対し、客の男性サラリーマンは「ガイジン、使えねぇなぁ」と吐き捨てる場面がある。そのシーン自体を問題視するつもりはない。そのシーンを「よくある光景」として、自然に受け入れてしまっている鑑賞者側に問題があると感じるのだ。恥ずかしながら、筆者もその1人だ。
 本作は、第14回小説現代長編新人賞を受賞したパリュスあや子氏の小説「隣人X」を、上野樹里と林遣都の共演で映画化した異色のミステリーロマンスだ。
 故郷を追われた惑星難民「X」が、地球に救いを求め、人間の姿に擬態し、日常に紛れ込んだ宇宙人を巡って、人々がお互いに疑心暗鬼を生み、恐怖や不安を抱きながら過ごすことになる。
 そして、マスコミはその恐怖を煽り立てる報道によって、日本人は集団ヒステリーにような状況に陥っていく。
 惑星難民の受け入れをいち早く表明した米国に追従する形で、日本にも「X」が暮らすようになる。
 週刊誌の契約記者である笹憲太郎(林遣都)は、スクープを出せずに契約切れの瀬戸際に追い込まれていた。
 そんな彼に、この上ないチャンスが訪れる。「X」の正体を暴き出すことだ。
 「週刊東都」の編集局には、調査会社による“X疑惑リスト”が持ち込まれる。笹が手にしたリストには2人の女性のプロフィールが記されていた。
 その2人は、36歳のフリーター・柏木良子(上野樹里)と、台湾人留学生のリン・イレン(ファン・ペイチャ)だ。
 良子は、宝くじ売り場の窓口、コンビニの店員を掛け持ちしながら、読書をこよなく愛する、至ってマイペースの女性だ。
 笹は、あの手この手で良子に近付き、食事に誘く事に成功。親交を深め、交際するまでになる。
 全てはスクープを取るための行動だったのだが、笹はいつしか良子を愛するようになってしまう。そこはかとない罪悪感を感じながらも、良子との仲を深め、遂に良子の実家を訪れることになる。
 その目的とは、良子の父・紀彦(酒向芳)の毛髪を入手し、DNA鑑定にかけた上で、「X」であることを証明するためだった。
 しかし、笹の記事は、本人の意思に反する形で巻頭を飾る。DNA鑑定もなされないまま、紀彦が「X」であると断定し、実家にも良子のアパートにもマスコミが殺到する。
 当然、笹は怒りの抗議をするが、雑誌は完売し、結果的にスクープを取ったとして、臨時ボーナスを手にする。老いた母を施設に預けながらも、その入居費の支払いにも困っていた笹は、それを受け入れる他の選択肢はなかった。笹は金のために恋人を“売った”のだ。
 “売れれば何でもアリ”という週刊誌報道の醜悪さ、それがSNSなどで拡散される集団心理の恐ろしさを露悪的に描かれている。
 ここでふと、現実に目を向けてみる。人手不足と出生率の低さに悩む現在の日本。遅かれ早かれ移民の受け入れは不可避となるはずだ。当然、賛否両論が生まれるだろう。そして、移民受け入れ反対派の決まり文句は「治安が悪くなる」といった類のものだ。冒頭で記した通り、これこそが島国根性というものなのだ。
 本作でも、なかなか日本語が上達しないリンが生きずらさを感じる描写も差し込まれている。ミュージシャンとして成功を夢見る青年・仁村拓真(野村周平)と恋仲になっても、それは変わらない。
 「週刊東都」によるエビデンスのない報道のせいで「X」とされてしまった紀彦は、事業に失敗し、慎ましやかに余生を過ごす物静かな男だ。一人娘である良子とも、あまり会話したこともない。
 そんな紀彦だが、殺到するマスコミを前に、戸籍謄本とパスポートを手に、堂々と否定してみせる。さらに、娘の良子にも、取材を自粛するよう懇願する。
 父のこのような姿を見たことがなかった良子は驚きつつも感謝する。そして、東京を離れることを決意するのだ。
 そして、「X」はいったいどこにいるのか、分からないまま物語は進むが、全く予想だにし得ない形で「X」の存在が明らかとなる。その正体とは…。
 惑星難民というSF的な設定は、単なるメタファーにすぎず、「X」の謎を解き明かす物語の中で、本当に描きたかったテーマは「差別や偏見を捨て、心の目で相手を見ることの大切さ」だ。それを明確にするため、本作はパリュスあや子氏の小説から、大幅な改変がなされている。サスペンス要素に、人間同士の信頼というテーマを乗せるという困難な作業に果敢に挑戦した監督兼脚本を務めた熊澤尚人の仕事人ぶりには感心させられるばかりだ。
 一見、荒唐無稽な設定でありながら、その“裏テーマ”として、内向きな日本人、そして閉鎖的な日本社会を痛烈に描いてみせた作品といえるのではないだろうか。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://happinet-phantom.com/rinjinX/
<公式X>https://twitter.com/rinjin_x
<監督・脚本・編集>熊澤尚人
<製作>栗原忠慶、吉田尚剛、大熊一成、林錫輝、高見洋平、佐々木敦広
<企画・プロデュース>小笠原宏之
<プロデューサー>田中勇也、渡辺和昌、加賀絢子
<共同プロデューサー>布川均
<協力プロデューサー>鍋島壽夫
<音楽プロデューサー>横尾友美
<撮影>柳田裕男
<照明>宮尾康史
<録音>滝澤修
<美術>金勝浩一
<装飾>陣野公彦
<衣装>宮本まさ江
<ヘアメイクデザイン>倉田明美
<VFXスーパーバイザー>オダイッセイ
<音響効果>柴崎憲治
<音楽>成田旬
<助監督>高土浩二
<制作担当>綿貫仁
<原作>パリュスあや子「隣人X」(講談社) https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000342232
<主題歌>chilldspot「キラーワード」(PONY CANYON/RECA Records) https://www.ponycanyon.co.jp/music/PCSP000005471
#隣人X #疑惑の彼女 #映画隣人X #映画 #熊澤尚人 #パリュスあや子 #上野樹里 #林遣都 #ファン・ペイチャ #野村周平 #川瀬陽太 #嶋田久作 #酒向芳 #原日出子 #バカリズム #惑星難民 #ミステリー #ハピネットファントム

映画「隣人X ‐ 疑惑の彼女 ‐ 」オリジナルサウンドトラック

映画「隣人X ‐ 疑惑の彼女 ‐ 」オリジナルサウンドトラック

  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 2023/12/01
  • メディア: MP3 ダウンロード






nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:映画