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【映画レビュー】「法廷遊戯」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「法廷遊戯」(2023 日本)
 五十嵐律人による同名のミステリー小説を原作とした本作。
 五十嵐は、東北大学法学部に在学中、大学で法律を学ぶと同時に「法律の魅力が伝わる小説を書きたい」と小説の執筆を始める。同大学の法科大学院(ロースクール)を修了後、司法試験に合格したが、弁護士にも検察官にもならず、裁判所の事務官や書記官として勤務。
 そこで出会った法律上のトラブルに遭遇した人に寄り添いたいと感じ、弁護士に転身する。司法修習生の間にも執筆を継続し、2020年に、本作の原作となった「法廷遊戯」が第62回メフィスト賞を受賞し、作家デビューした変わり種。現在も大手法律事務所に勤務している“二刀流”だ。
 物語冒頭、駅のホームの階段から転げ落ちる男女のシーンから始まる。その時は、この映像が何を意味するかは分からないが、ストーリーが進むにつれ、この出来事が、登場人物の運命を左右する重要な映像であることが分かってくる。
 名門・法都大学のロースクールへ通い、法律家を目指している「セイギ」と呼ばれる主人公・久我清義(永瀬廉)と同じ学校で学ぶ、清義の幼なじみの織本美鈴(杉咲花)、2人の知られたくない過去を告発する手紙が学内でバラ撒かれ、周辺でも不可解な事件が続く。
 清義と美鈴が相談を持ち掛けたのは、親友にして、同じロースクールに通いながらも既に司法試験を合格していた天才・結城馨(北村匠海)。真相を追う3人だったが、事件は思わぬ方向に展開していくことになる…。
 この学校では、ある遊びが流行していた。それは、学校近くにある洞窟で行われる「無辜(むこ)ゲーム」と呼ばれる模擬裁判。それを仕切っていたのが結城だった。
 そのゲームは加害者・被害者・審判者の3名からなる裁判ゲーム。「無辜」とは、罪のないこと。また、その人のことを指す用語だ。
 その“起訴内容”は、「俺のスマホを壊したのは誰だ」といった程度のものだったが、被害を受け告訴した者や刑罰法規に反する罪を犯した犯人、犯人が罪を犯したことを証明する者、審判し罰を与える者、傍観する者、審判し罰を与える権利を持つ者には、無辜の制裁や罰が科せられるルールだ。このゲームによって、勉強漬けの毎日を送るロースクールの学生たちは憂さ晴らしをしていたのだ。
 ある日、無辜ゲームを問題視していた教授の奈倉哲(柄本明)が視察するが、エリートである馨が発案したものということもあり、“お咎めなし”とし、その場を去る。
 しかしある日、清義と美鈴が無辜ゲームをすることになる。
 清義は、16歳の頃に起こした児童養護施設の施設長をナイフで刺した事件を暴露されていた。その当時の新聞記事を貼り付け、清義を中傷する言葉を記したビラを学内にバラ撒かれたのだ、名誉棄損の被害を受けた告訴者として、審判者の馨に無辜ゲームの開廷を申し入れたのだ。
 清義を貶めようとした犯人を捜し出し、清義はゲームに勝利する。しかし、清義は犯行に用いられた、昔の児童養護施設での集合写真や傷害事件を報じる当時の新聞記事を、誰がどうして手に入れたのかと気になり、犯人の同級生に尋ねる。その答えは「正体のわからない何者かから与えられた」だった。
 次の日の朝、大学に行く途中の電車の中で清義は、痴漢被害にあったふりをしようとしている女子高生を見かける。ターゲットの男性の襟元には弁護士バッジが付いていることに気付いた清義は、女子高生に行為を思い留まらせる。
 その女子高生はサキといい、お金に困っていそうでワケありな様子の彼女から、清義はほろ苦い自らの過去を思い出す。そのせいで大学に遅刻した清義は、美鈴が欠席していると知り、彼女のアパートへ向かう。
 美鈴はより悪質な嫌がらせを受けていた。美鈴の自宅のドアスコープにアイスピックが突き刺されるほか、自転車をパンクさせられたり、ネット記事の投函をされたりもしていた。
 そのネット記事が報じていたのは女子高生による痴漢詐欺。記事そのものは美鈴とは無関係なのだが、「美鈴の過去を知っている」という含みがあるようで不気味なことこの上ない。
 清義はネット記事を投函された現場を押えようと張り込むが、失敗に終わる。一方で、美鈴のアパートの住人が怪しいとにらんだ清義は、美鈴の上の部屋に目をつける。
 清義の読みは当たり、美鈴の上階の空き部屋に住みついていた浮浪者の沼田大悟(大森南朋)を取り押さえ、彼が投函の実行犯と判明するが、沼田は“裏バイト”として雇われたに過ぎず、そのクライアントの正体が誰かは知らなかった。
 清義と美鈴の過去の罪を知るその黒幕はそれから姿を現さず、2年が経過し、清義と美鈴はロースクールを卒業。その後、清義と美鈴は司法試験にも合格。清義は晴れて弁護士となる。一方、馨は大学に残り法学者になる選択をする。
 そんな清義のもとに、馨から「久しぶりに、無辜ゲームを開催しよう」とメールが届く。
 無辜ゲームの詳細は分からず、清義は無辜ゲームにかこつけた同窓会なのだろうと感じ、別の地方で司法修習を受けていた美鈴も出席するとあって出席する。
 当日、清義は母校のロースクールへ向かう。模擬法廷の扉を開けると、同級生の姿は見当たらず、胸元にナイフが突き刺さり、仰向けに倒れた馨がいたのだ。そのそばには美鈴の姿があった。
 力なく座り込んだ美鈴は、清義に「私が殺したんだと思う?私のことを信じてくれる?お願い清義。私の弁護人を引き受けて!」と叫ぶ。いかに美鈴が清義を信頼していたかが分かるシーンだ。
 清義は美鈴の裁判に集中するため、勤務していた法律事務所を退職し独立する。
 美鈴が逮捕された事件の状況からみて、誰がどう見ても美鈴が犯人だと思え、実際に美鈴は殺人罪で起訴されるのだが、美鈴は無罪を主張する。弁護人である清義との接見で美鈴に真相を話してほしいと伝える。しかし、美鈴は、取り調べに対しても、弁護人の清義に対しても、徹底的に黙秘し続ける。
 清義は美鈴の黙秘には目的があると思い、自力で真相を探ることになる。美鈴は無罪を主張しているにも関わらず、弁護士にも黙秘するという行動は、常識では考えられない。圧倒的に不利な状況をひっくり返すには、被告の証言が絶対に必要だからだ。これが普通の弁護士であれば、辞任されても致し方ない状況だろう。
 しかし、幼なじみがゆえの仏心が出てしまったのか、清義はそんな態度の美鈴にも寄り添う姿勢を貫き続ける。
 調べていく過程で清義は、美鈴と同じ児童養護施設にいた頃に起こした事件。そして、学費を稼ぐために美鈴とともに始めた痴漢詐欺の過去、そしてそのターゲットが馨の父である佐久間悟(筒井道隆)だったこと、さらに佐久間がその後、事件がきっかけで精神を病み自殺していたことなどが分かってくる。
 清義は、なせ馨が無辜ゲームに2人を誘ったのか、さらにその場で刺殺体となっていたのかが、おぼろげながら、徐々に分かってくる。そして、美鈴が持っていたもののロックが掛かっていたSDカードが、この事件に至る全てを詳らかにし、法廷は騒然となる…。
 ここで注目したいのは、美鈴を演じる杉咲花の演技だ。一切、黙秘を貫いていた一方で、接見時には一旦スイッチが入ると、何かに憑りつかれたかのように清義に食ってかかる凶暴性を露わにするのだ。一方で法廷では、裁判官の忠告を無視して、狂ったように笑い転げるシーンもある。喜怒哀楽の表現が突き抜けているのだ。
 とことん目の前の仕事に真摯に取り組む清義を演じる永瀬廉の純粋さ、天才である一方で、どこか陰があるキャラクターの馨を演じる北村匠海の表情…、いずれも好演を見せているが、杉咲の狂気が垣間見えるこの演技には度肝を抜かれた。主役の永瀬、さらに北村をも食わんばかりのド迫力だ。サイコパスと化した杉咲花…。本作の大きな見どころの一つかも知れない。
 メガホンを取った監督の深川栄洋は「この映画は、法律は何を守り何が守れなかったのかを描いている」と語っている。
 また、原作者の五十嵐も「法律は社会の根底に流れるルールであると同時に、不安定で理不尽な世界を生き抜くための武器」、さらに「事件の謎が解き明かされた時、法律や裁判の印象が変わっていたら、そして、黒と白の間にある灰色の部分について考えていただけたら、とても嬉しい」とも語っている。
 作中で児童養護施設で問題を起こした幼い清義に対し、弁護士の釘宮昌治(生瀬勝久)が語った「世の中に出たら、武器になるのは暴力ではなく知識」というセリフが非常に意義深く、印象的だ。
 監督も原作者も、全ての人が安全で、平等であるべき世の中にするために作られた法律が、決して全て正しいというわけではないという思いを表現している。そして、その現実を、本作の複雑怪奇なミステリーの中に仕込んでいるのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://houteiyugi-movie.jp/index.html
<公式X>https://twitter.com/houteiyugi_mv
<公式Instagram>https://www.instagram.com/houteiyugi_mv
<公式TikTok>https://www.tiktok.com/@houteiyugi_movie
<監督>深川栄洋
<脚本>松田沙也
<プロデューサー>橋本恵一、本郷達也
<製作>吉村文雄、小林敏之、松本智、東城祐司
<アソシエイトプロデューサー>山本喜彦
<ラインプロデューサー>渡辺修
<音楽プロデューサー>津島玄一
<スーパーバイザー>土屋勝
<撮影>石井浩一
<照明>椎原教貴
<サウンドデザイン>石坂紘行
<録音>矢野正人
<美術>黒瀧きみえ
<装飾>鈴村高正
<スタイリスト>浜井貴子
<スタイリスト(杉咲花)>渡辺彩乃
<ヘアメイク>竹下フミ
<編集>坂東直哉
<音楽>安川午朗
<助監督>菅原丈雄
<VFX>堀尾知徳
<記録>西川三枝子
<制作担当>安波公平
<原作>五十嵐律人「法廷遊戯」(講談社) https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000370689
<主題歌>King & Prince「愛し生きること」(UNIVERSAL MUSIC JAPAN) https://www.kingandprince5th.jp/
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法廷遊戯 (講談社文庫)

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  • 作者: 五十嵐律人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2023/04/14
  • メディア: Kindle版






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