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【映画レビュー】「劇場版 センキョナンデス」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「劇場版 センキョナンデス」(2023 日本)
 投票日の前々日に起きた安倍元首相銃撃死傷事件や、ガーシー(NHK党)、水道橋博士(れいわ新選組、のちに体調不良を理由として議員辞職)の当選など、さまざまな出来事が記憶に新しい2022年の参議院議員選挙。しかしながら、その投票率は52.05%。前回より3.25ポイント上がったもののが、それでも投票したのは有権者の半分ほど、過去4番目の低さだった。
 国政選挙以上に深刻なのが、地方選挙の投票率の低さであり、50%を超えることすら珍しくなってきており、30%台を記録する自治体も現れてきているなど、投票率の低下に歯止めがかからない状況が浮き彫りになっている。
 2016年に、公職選挙法が改正され、選挙権年齢を20歳以上から18歳以上に引き下げたものの、18、19歳の投票率は30%ほどであり、全体の投票率を引き下げる要因となってしまっているのが現状だ。もはや「選挙離れ」などといった現象ではなく、政府、内閣、そして国会議員全員への期待など、端から持っていないといった方が近いのかもしれない。
 同作は、そんな選挙に魅せられ、野次馬根性丸出しで候補者を追い続けるロードムービーだ。その主人公は芸人とラッパーという異色の組み合わせ。主にYouTubeで活躍している2人だが、その行動力の源は、おふざけでもチャンネル登録者数アップなどではなく、純粋な興味だ。徹底して「誰かに伝えたい」よりも「自分が知りたい」を優先させていることから、ジャーナリズムとも違う。だからこそ、2021年の衆院選と2022年の参院選において、十数人もの候補者に突撃し、ズケズケを質問を浴びせていく様は痛快ですらある。しかしながら、取材相手を怒らせたり、重大なトラブルにならなかったのは、2人の知識の深さや行動力はもちろんのこと、その物腰の柔らかさにあるのではないだろうか。
 その2人とは、新聞14紙を購読しているという時事芸人のプチ鹿島と、ロンドンで育ち海外メディアの情報に精通する東大中退のラッパー・ダースレイダー。同作は、時事ネタをぶった切る絶妙な掛け合いが人気を博し、「ヒルマニア」というコアなファンを持つ2人のYouTube番組「ヒルカラナンデス(仮)」のスピンオフ企画として敢行された選挙取材のドキュメンタリーだ。
 そして、2人の活動を知り 「彼らは日本のマイケル・ムーアだ」と絶賛する『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020年)、『香川1区』(2021年)などの代表作を持つ映画監督の大島新が、プロデューサーとして関わり、異色のコラボによって、破天荒なドキュメンタリー映画に仕上がっている。
選挙取材の楽しさを知る2人は、2022年の参議院選挙を取材する。2人が取材をする基準は「ヒリヒリする現場」である。
 そこで目を付けたのが、立憲民主党の菅直人元首相だ。すっかり“隠居生活”に入ったと思われていた菅氏だが、2022年に入ってから、突如、日本維新の会に対して激しい批判をするようになる。ツイッターでは維新の政治家をヒトラーになぞらえて物議を醸す。維新のみならず、身内からも抗議を受けてもひるまず、「闘うリベラル宣言」と称して、参院選では維新の牙城である大阪に乗り込み、大阪特命担当として立憲民主党の候補者の応援に入ると聞きつけ、2人も大阪に乗り込む。菅氏vs維新のバトルを味わいつつ、各候補者に積極的に取材する。「野次馬系ユーチューバー」扱いを受けながらも、ドキュメンタリータッチの見応えある映像が続く。
 選挙戦後半には、自民・立憲・維新の三つ巴の激戦区と言われる京都にも乗り込む予定にしていた。しかし、思いもよらぬ事件が…。
 2022年7月8日金曜日。この日からまた関西での選挙取材を予定していた2人は、その前に大阪のホテルで毎週金曜に行っているYouTube配信を始めた。時刻は昼の12時。配信画面に映し出された2人の表情からは、いつもの明るさが消えていた。
 その直前に、奈良・西大寺駅前で安倍元首相が銃撃されたという一報が入ったのだ。
 状況をよく飲み込めず、沈痛な面持ちで訥々と語る2人。選挙の面白さや楽しさに気付き、「選挙は祭りだ」といって見てきた演説の現場で起きた言論を封殺する暴力は、全く容認できない。しかし、選挙をネタとして笑いに昇華させてきた2人のスタンスが、銃撃事件を受けて不謹慎だと思われてしまわないか…。
 配信を終え大阪の街に出た2人は、この日、自分たちも含め、誰が何をどう考えたかを記録として残そうと決意する。この日は街頭演説を中止する候補者がほとんどだったが、敢えて演説を行う候補者もいた。夕方の大阪・梅田駅前。ダースと鹿島の目の前に、辻元清美氏の姿があった。
 言論を封殺するような事件が起きたからこそ、それに屈するわけにはいかないと、党の方針に反して選挙活動を再開したのだ。安倍氏とは考え方に違いはあったが、徹底議論をしてきた辻元氏。悲壮感漂う表情で、安倍元首相の無事を願った。演説後の囲み取材の中で声を震わせながら「安倍さん、がんばってやという思い…」と話した直後、関係者から、「安倍氏死去」を報じたネットニュースを見せられる。
 口から生まれてきたようなキャラクターの辻元氏ですら、その一報を聞いた刹那、絶句する。しばしの沈黙の後、涙をぬぐいながら絞り出すように言葉を発する辻元氏。ダースと鹿島は、その数少ない目撃者であり、そして記録者となった。
 あってはならないことではあるが、安倍氏襲撃事件によって、“清き一票”よりも“卑劣な一発”(正確には2発だが)の方が政治を動かす力があることが白日の下にさらされてしまった。選挙という国家的イベントの真実、そして、民主主義とはいったい誰のために存在するのか…答えの出ない問いを胸に、この先も2人の旅路はまだ続く。
<評価>★★★★☆
<監督>ダースレイダー、プチ鹿島
<エグゼクティブプロデューサー>平野悠、加藤梅造
<プロデューサー>大島新、前田亜紀
<監督補>宮原塁
<撮影>LOFT PROJECT
<編集>船木光
<音響効果>中嶋尊史
<音楽>The Bassons
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劇場版 センキョナンデス

劇場版 センキョナンデス

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2023/11/15
  • メディア: Prime Video






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