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【映画レビュー】「JFK 新証言 知られざる陰謀 劇場版」(原題「JFK Revisited: Through the Looking Glass」/2021 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「JFK 新証言 知られざる陰謀 劇場版」(原題「JFK Revisited: Through the Looking Glass」/2021 アメリカ)
 1963年11月23日の早朝、世界のテレビ放送史上に残る、太平洋を越えた日米間の衛星中継(当時は「宇宙中継」と呼ばれた)が行われた。午前5時28分、史上初めて海を越えてくる“憧れの国・アメリカ”の映像が、日本のお茶の間で鮮やかに映し出される、はずだった…。ところが、この歴史的な電波に乗って送られてきたのは、アメリカ合衆国第35代大統領ジョン・F・ケネディ暗殺の悲報。中継したNHKのアナウンサーは困惑の色を隠せず、「この電波でこのような悲しいニュースをお送りしなければならないのは誠に残念です」とだけ伝え、その衝撃は、米国のみならず、日本全国にも広がった。
 本作は、1992年に、188分(ディレクターズカット版は206分)の超大作『JFK』で、ケネディ暗殺事件に独自の視点で迫い、アカデミー賞で撮影賞と編集賞を受賞したオリヴァー・ストーン監督が、新たに解禁された数百万ページにおよぶ機密文書の中から重要な発見をあぶり出して再検証し、さらに、事件の目撃者など関係者へのインタビューから浮上した“新たな証拠”を深く掘り下げ、事件の真相に迫るドキュメンタリーだ。
 米国時間の1963年11月22日、オープンカーでダラス市内をパレードしていたケネディ大統領が銃撃され死亡する事件が起こる。容疑者として拘束された元海兵隊員オズワルドも移送中、公衆の面前で射殺され、真相は闇に葬られる。
 事件から28年後の1991年、ストーン監督による映画『JFK』が世界的ヒットにより機運が高まり、翌年には新法案が可決し、膨大な文書が機密解除されるなど事件の再調査が活気を帯びるが、真実はわからないまま年月だけが過ぎていく。
 本作は、『JFK』のロバート・リチャードソンが撮影を担当し、ナレーションは俳優のウーピー・ゴールドバーグとドナルド・サザーランドが担当するなど、ドキュメンタリーとすれば豪華なキャスティングで製作された。
 東西冷戦のさなか、選挙で選ばれた大統領としては史上最も若い43歳で大統領に就任したケネディは、世界平和を願う米国人の期待を一身に担う存在となる。歴代大統領の中で最も知名度が高く、ニューヨークの国際空港にもその名が刻まれているほど、現在でも尊敬の対象となっている。しかし、その在任期間は1036日で、現職のバイデン大統領を除くと歴代7番目の短さだ。
 1961年1月に大統領に就任し、その2年10か月後、ダラスで凶弾に倒れることになったからだ。米国の大統領はそれ以前にも、第16代のリンカーン、第20代のガーフィールド、第25代のマッキンリーが在任期間中に暗殺されている。また、第40代のレーガン大統領の暗殺未遂事件も起こった。
 日本で生きているとどうしても、「米国は治安が悪く、銃社会だから…」と感じてしまいがちだ。しかしながら、歴史を紐解いていくと、暗殺された米国大統領は4人。対して日本では、初代の伊藤博文から数えると6人もの総理大臣が暗殺され、昨年の安倍晋三前首相への銃撃事件を“暗殺”と定義するならば、米国で起きたで悲劇の数を上回るのだ。国家トップの暗殺という国を根幹を揺るがす事態として、この問題は他山の石ではないのだ。
 米国大統領の命が狙われるのは、絶えず分断が起きる多民族国家のトップの“宿命”ともいえるだろう。4件の大統領暗殺事件の中でも、今もなお注目を集め続けるのが、ケネディの事件だ。それはケネディの人気を裏付けるものだが、唯一、“真犯人”が不明なままだからだろう。
 オープンカーでダラス市街地をパレードするケネディの頭部を銃弾が貫く。沿道のビルから狙撃したのは、元海兵隊員のリー・ハーヴェイ・オズワルドとされ、その身柄が拘束される。
 しかしわずか2日後、移送中のオズワルドを、ナイトクラブのオーナーだったジャック・ルビーが射殺する。結果、「死人に口なし」となり、大統領暗殺の完全なる真相は闇に葬られる。
 世界の歴史でも最大の「ミステリー」のひとつ、ケネディ暗殺事件。その後、数々の謎、陰謀論が都市伝説的に広がり続ける中、オリヴァー・ストーンが事件の謎に迫る大作映画『JFK』を製作する。
 そして前作の1991年から時が経ち、新事実を追加する形でドキュメンタリー映画を製作したのが本作だ。
 ベトナム戦争で兵役に就いた経験を基に、その悲惨さを描いた『プラトーン』(1986年)や、9・11同時多発テロをストーリーに仕立てた『ワールド・トレード・センター』(2006年)など、社会派映画の第一人者であるストーンが、ここまでケネディ暗殺の謎に迫ろうと、背中を押すものは何なのか。単にミステリー映画の題材としてではなく、“ライフワーク”として、この問題に挑んでいる印象を受ける。
 ドキュメンタリー作品らしく、ストーリー的なものは存在しない。とにかくこの事件に少しでも関わった人へのインタビューがひたすら続く。あまりにも矢継ぎ早過ぎて、観る側として、頭が追いついていくのがやっとといった感じだ。
 それは、インタビューの対象は、ケネディが搬送されたパークランド記念病院で治療に携わった医師や看護師、法医学者、検視に関わった医師の元同僚、歴史学者、そして事件当日、パレード会場で惨劇を目の当たりにしたダラス市民にも渡る。
 数々の証言の中で、初動の過ちが明らかとなる。テキサス州法では、テキサス州で死亡した場合の検視は州内で行うことが規定されているが、CIAはそれを無視し、遺体をワシントンに移送する。まるで、証拠を隠すかのように…。
 その後、事件を検証するために「ウォーレン委員会」設立される。しかし、その検証は二転三転し、その被弾痕すら特定できない杜撰さだ。ついには同時に襲撃され重傷を負ったテキサス州知事ジョン・コナリーともども貫通した“魔法の銃弾”の存在を指摘するなど、あり得ないほどの機能不全ぶりを見せる。
 今もなお、ケネディ暗殺を謎たらしめているのは、ウォーレン委員会の無能さ、そしてオズワルドの単独犯行説を押し通そうとした姿勢にあるといえるだろう。
 こうして多くの事件関係者へのインタビューを重ねるものの、ストーン監督が思い描いたような真相の核心に辿り着くことはない。
 しかし、それも当然だ。「CIAの中の反ケネディ派、およびケネディの政敵が暗殺に関わっていました」などと今さら言えるはずはないからだ。仮にそんな発表をすれば、この事件は単なる殺人ではなく、クーデターとも呼べる事態となる。米国は社会不安に覆われ、治安の悪化は避けられないだろう。
 事件から60年。当時、事件に関わった人々も、次々と鬼籍に入りつつある。このタイミングで本作を作った意図として「証言を記録し、事件を風化させない」ことが主な目的だろう。
 あくまでも、“社会派ドラマ”として制作された1991年版の『JFK』から、さらに踏み込んだ内容で、米国の暗黒の歴史に挑んだ本作。ドキュメンタリーとしてだけではなく、記録映画としての役割も十分に果たしている一作だ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://www.star-ch.jp/jfk-shinshogen/
<監督>オリバー・ストーン
<製作>ロブ・ウィルソン
<製作総指揮>アンドレア・スカルソ、アミット・パンディヤ、ピーター・タッチ、フェルナンド・サリシン
<脚本>ジェームズ・ディユジニオ
<撮影>ロバート・リチャードソン
<編集>カート・マッティラ
<音楽>ジェフ・ビール
<ナレーション>ウーピー・ゴールドバーグ、ドナルド・サザーランド
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解禁!JFK暗殺事件の未公開ファイル  

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  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2020/04/22
  • メディア: Prime Video






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