SSブログ

【映画レビュー】「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(2023 日本)
 『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』。このタイトルだけで、惹きつけられる。しかも、元SDN48に所属した大木亜希子の私小説。つまり実話だ。AKBグループを筆頭に、女性アイドルグループが多く誕生し、「地下アイドル」といったジャンルも存在し、“アイドル過多”ともいえる現在の芸能界。「消えていったアイドルのその後」の厳しい現実を描きながらも、アイドル、それどころか若い女性にも全く興味もないような56歳の独身男性との奇妙な共同生活を綴っている。
 芸能界を引退した元アイドルのアラサーを迎えた元アイドルで、一般企業で働きながらも、夜は恋活に精を出す日々を送る安希子を演じるのは乃木坂46の元メンバーの深川麻衣。インスタでは“リア充”ぶり全開のキラキラした投稿を続けるものの、出勤途中に駅で突然足が動かなくなり、仕事へ行こうとしても体が拒否するようになり、退社を余儀なくされる。収入ゼロとなった彼女は、六畳一間の風呂なしアパートでビンボー暮らしを強いられることになる。預金残高は10万円…。完全に人生に“詰んでいる”状態だ。
 精神科医の大熊(柳憂怜)からカウンセリングを受ける安希子は、自分の足が動かなくなった原因をストレスと運動不足と主張するが、そのまくし立てるような口ぶりに、大熊から「まずは深呼吸しましょう」とたしなめられる。大熊の目には、安希子が何かに追い立てられているように映ったのだろう。
 そんな安希子に、友人で会社社長を務めるヒカリ(松浦りょう)から、ルームシェアの相手を探している中年男性を紹介される。彼の名は通称「サザポン」(井浦新)。その家は都内の庭付き一戸建て。不安を抱えながらも、背に腹は代えられない安希子にとって、月3万円で住居を確保できるというメリットを享受できることで、同居を決意する。
 サザポンは、ヒカリが事前に言っていた通り、人畜無害のどこにでもいそうないいオジサン。安希子の私生活に踏み込んでくることもなく、趣味は家庭菜園と、上手とはいえないピアノ、そして、ビールを飲みながら刑事ドラマを見るのが楽しみという地味な生活を送る中年男性だ。
 引っ越してくるなり、「まぁ、適当に…」と安希子を迎え入れるサザポン。生活面での当面の不安は消えた安希子だが、WEBライターの仕事では「記事1本1000円」という常識外れなまでに買い叩かれた報酬で、貯金もままならず、梱包のアルバイトも始める。そこで友人の景子(柳ゆり菜)と再会する。景子も過去、芸能界に籍を置き、人気グラドルだった。そんな景子も年齢という現実には勝てず、裏方仕事に精を出す生活を送っていたのだ。
 一方で安希子は、カメラマンをしている浩介(猪塚健太)に思いを寄せていた。浩介からも、取材と称し、共に旅行に出かける仲だった。しかし、告白した安希子に対し浩介は、「俺、彼女いるし…」と残酷なまでにフラれてしまう。自分の心を弄んでいた浩介のクズ男っぷりに絶望した安希子は、ヒカリと景子を呼び出し、「死にたい死にたい」と繰り返し、痛飲する。何もかも上手くいかない安希子は、記憶がなくなるまでに飲んで帰り、リビングで寝入ってしまった彼女に対しても、サザポンはいつもと変わらずに接し、優しく毛布を掛けてあげるのだった。
 ある日突然、梱包のアルバイト先で、安希子は景子から結婚の知らせを受ける。さっそくヒカリとともに景子の家を訪れ、新郎を紹介してもらう。そこにいたのは、気が利いて優しそうではあったが、お世辞にも二枚目とはいえない小太りの男性。かつてアイドルとして活躍し景子とは不釣り合いな印象だ。安希子もヒカリも言葉には出さないが、雰囲気的に「妥協」という空気が流れる。さらに言えば、景子は結婚に“逃げた”ということもできる状況だ。
 なぜそう言えるのか、その後、2人の帰り道に景子も加わり、「幸せになりたい!」と絶叫する安希子。そこにヒカリも乗り、なぜか幸せいっぱいのハズの景子も同じ言葉を叫ぶのだ。安希子らに「景子は幸せでしょ?」と突っ込まれるが、それでも景子は構わずに叫び続ける。女性にとって「幸せ」とは何なのかを考えさせるようなシーンだ。
 サザポンとの共同生活の間に、安希子は29歳を迎える。いよいよ“アラサー”突入だ。友人2人はケーキで祝ってくれるが、安希子の思いは複雑だ。
 進まない筆、進み続ける時間…。焦るばかりの安希子を、サザポンは軽井沢の別荘へと連れ出す。そこでサザポンは、何を語るわけではないのだが、安希子は徐々に自然体を取り戻していく。
 ある日、安希子がサザポンに問いかける。「死にたいと思ったことはありますか?」
 サザポンは「あるよ」と告げ、ある過去を語り出す。安希子は、サザポンの若かりし頃に撮った、真っ赤なスポーツカーとともに写った写真を目にしており、独身貴族を謳歌していたと思い込んでいたのだが、それが間違いだったことを知る。それと同時に、それがどんなぜいたく品であったとしても、物質的なものでは埋められない心の中に空いた穴を感じ取ることになる。
 「遠い親戚のお嬢さんを預かっているような感じ」と語り、まるで仙人のようなサザポンだが、元々の性格に加えて、過去の辛い経験を経て、現在の姿となったのだ。サザポンの半生を知った安希子は、ある決断をする。サザポンとの生活を私小説として発表したのだ。
 これがバズり、サザポンの存在もネット界隈を賑わせ、Xのトレンド上位になるまでの有名人となる。安希子は、そのスマホ画面を見せるのだが、当のサザポンは興味などなさそうに「ふ~ん」とだけ生返事を返し、テレビに視線を戻す。サザポンとは、そういう人物なのだ。
 再び精神科を訪れる安希子に、医師の大熊は「話し方がゆっくりになりましたね」という言葉をかける。いかに以前の安希子が生き急いでいたのかを示すシーンだ。
 「全財産10万円」からV字回復し、預金残高の桁も1つ増えたことで、サザポン宅への居候から脱却し、一人暮らし生活に戻る安希子。去ってゆく安希子に対しても、名残惜しさなどまるでないような、相変わらずのマイペースで接するサザポン。
 作中で説明されている通り、「この話はおっさんとの同居話でなく、女の子の他者による再生の話」という言葉に噓偽りはなく、安希子を演じた深川麻衣のやさぐれ感がピタリとはまっている。もう1人の主役・サザポン役の井浦新はモデル出身で、若かりし頃は二枚目俳優として活躍し、現在では悪役など多彩な役柄をこなす実力を発揮。本作でも、どこにでもいそうなオッサンを自然体で演じている。
 2人の主人公の好演によって、笑えて泣けて、最後には心がほっこりする物語に仕上がっている。そして、観終わった後で、これが実話だったことを思い出し、二度驚かされる作品でもある。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://tsundoru-movie.jp/
<公式X>https://twitter.com/tsundoru_movie
<公式Instagram>https://www.instagram.com/tsundoru_movie/
<監督>穐山茉由
<脚本>坪田文
<製作>竹澤浩、繁田光平
<企画>宇田川寧
<プロデューサー>金山、田口雄介
<音楽プロデューサー>杉田寿宏
<ラインプロデューサー>高橋輝光
<アシスタントプロデューサー>天野朋美
<撮影>猪本雅三
<照明>山本浩資
<録音>原川慎平
<美術>中川理仁
<装飾>吉村昌悟
<スタイリスト>阿部公美
<ヘアメイク>藤原玲子
<音響効果>大塚智子
<VFXディレクター>佐藤一輝
<編集>野本稔
<音楽>Babi
<監督補>塩崎遵
<制作担当>田口大地
<原作>大木亜希子「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」(祥伝社) https://www.shodensha.co.jp/ossan/
<主題歌>ねぐせ。「サンデイモーニング」 https://neguse.jp/2023/10/10/%E3%80%8C%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A4%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%80%8D/
#つんドル #アイドル #映画 #大木亜希子 #SDN48 #穐山茉由 #深川麻衣 #乃木坂46 #井浦新 #松浦りょう #柳ゆり菜 #猪塚健太 #三宅亮輔 #森高愛 #河井青葉 #柳憂怜 #ねぐせ。 #実話 #実録 #私小説 #おっさん #共同生活 #日活 #KDDI







nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:映画