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【映画レビュー】「The Son/息子」(原題「The Son」/2022 イギリス・フランス) [映画]

【映画レビュー】「The Son/息子」(原題「The Son」/2022 イギリス・フランス)
 本作は、初監督作『ファーザー』(2022)でアカデミー脚色賞を受賞した、フロリアン・ゼレール監督による“家族3部作”の2作目。ゼレールが手掛けた戯曲「Le Fils 息子」を原作にし、親と子の心の距離を描いている。
 主人公の一流弁護士・ピーター(ヒュー・ジャックマン)は、再婚した妻のベス(バネッサ・カービー)と生まれたばかりの息子とともに、幸福で充実した日々を過ごしていた。
 そんな彼の家を、前妻のケイト(ローラ・ダーン)が訪れ、同居している17歳の長男・ニコラス(ゼン・マクグラス)の様子がおかしいと相談される。
 ニコラスは噓をついて学校へも行かず、心に闇を抱えながら、生きる気力を失っていた。彼は父であるピーターと暮らすことを望み、引っ越したいと懇願する。ニコラスは、ニコラスはピーターとケイトが離婚する際、ケイトが激しくピーターを罵ったことによるトラウマを抱えていた。ピーターはニコラスを受け入れ、一緒に暮らし始める。
 ピーターが出勤した後、ニコラスはベスに既婚者だと知っていて、父と付き合ったのかと聞く。ベスはそんなニコラスに警戒心を抱き始める。
 ニコラスは近くの高校へ転校、ピーターはニコラスにセラピーを受けさせたりする。
 一方で、ニコラスの様子が気になるケイトは、メールや電話をしても返事がないと、ピーターに訴え、母親としての自信を失ったと告白する。ピーターはケイトに「立派な母親」だと励ます。また、ベスにも贈り物をしながら、感謝の気持ちを伝える。
 ピーターとベスが愛し合おうとした時、ニコラスがその様子を目の当たりにしてしまう。そしてある日、ベスは帰宅したピーターにニコラスのマットレスの下から、ナイフを見つけたと告げる。驚いたピーターはニコラスに、ナイフを隠し持っていた理由を聞く。彼は護身用と言うが、ピーターは必要ないはずだと答える。逆にニコラスはピーターに銃は何のために持っているのかと聞く。ピーターはその銃は、成人した時に父親から貰った猟銃で、置いてあるだけだと返す。はぐらかされたと感じたピーターは自傷するためではないかと聞き返す。そしてニコラスは、ピーターに自傷行為をする理由を問い質す。ニコラスは生きている実感がなく、自傷し苦痛を感じる時だけ唯一、生きていることを実感するのだと説明する。
 ピーターはそんなニコラスの気持ちが全く理解できず、ニコラスに二度としないよう厳しく言い、ニコラスが傷つくと自分も傷つくとなだめるが、ニコラスはピーターの行動が母のケイトと自分を傷つけたと反論する。
 ピーターは親しい上院議員が大統領予備選に出馬することになり、その参謀チームに誘われ、度々、ワシントンに出張することになる。
 ある日、知人からピーターの父親が病気だと聞かされる。ピーターは父親とは疎遠だったが、ワシントンでの会議の帰りに父親を訪ねる。父親は病気のことを聞いてきたのなら大したことはないと、元気で現役を続けていると告げ、ピーターは大統領予備選の参謀として声がかかっていることを伝える。
 そしてニコラスのことがあり、参謀チームに参加するかどうか迷っていると打ち明けるが、父親はピーターに、良い父親であることをアピールに来たのかと一蹴される。
 そんな父親にピーターは40年前、病気で死に直面した母親を、仕事を理由に一度も見舞わなかったことを非難する。しかし父親は、50歳にもなって、40年も前のことを引きずっているとは情けないと一喝する。
 ある日、ピーターとベスは友人のパーティーに行くことになる。ベスは久しぶりの外出を心待ちにしていたが、アクセサリーがなくなったりシッターが急病になるなど、アクシデントが続きイラ立つ。ニコラスが弟の面倒なら見ると申し出ると、ピーターは容認したが、ベスはそれを拒否し、「頭のおかしい彼には任せられない」と訴える。その言葉を聞いたニコラスはケイトの元に逃げ帰り、「苦しむのに疲れた」と泣きじゃくる。ピーターはニコラスを案じるが、そこに学校から電話が入り登校初日以降、学校に来ていないことを知らされる。
 ピーターはケイトの家を訪ねニコラスと対峙する。最初は穏やかに学校に行かない理由を聞き、前の学校で何かあったのかと追及する。しかし、ニコラスは「分からない」の一点張り。ピーターは自分の経験を持ち出し、あれほど嫌っていた父親と同じようなことを言い、ニコラスを追い詰める。するとニコラスの感情も爆発し、母や自分を捨てたくせに偉そうなことを言うなと、ピーターをクズ呼ばわりする。
 そして再びニコラスは自傷し病院へ搬送され、そこで医師から「急性うつ病」と診断を受ける。加えて、両親が原因で発症しているため、落ち着くまで面会できないと告げる。
 ニコラスとの面会が叶い、ベスは息子を連れて彼女の実家へと帰省する。ピーターとケイトは医師と介護士を交え、ニコラスと面会し今後の治療について話し合う。
 医師は入院の継続を勧めるが、ニコラスは医師をヤブ医者呼ばわりし、余計におかしくなると言う。そして、「もう大丈夫だから、よくなると約束する」と連れて帰ると懇願する。
 医師は精神的な病気は“愛”だけでは治せないと言い、未成年の入院には保護者の了解が必要だと、ニコラスの安全のためにも同意してほしいと訴える。ピーターとケイトは医師の意見を聞き、ニコラスの入院を決めるが、泣き叫びながら両親に助けを求めるニコラスの顔を見て、ピーターは退院させ自分たちで看護しようと決める。
 ピーターの家に3人で帰り、ニコラスにとって久しぶりの3人家族に戻り、穏やかな空気になる。ニコラスは1週間も体を洗っていないと、シャワーを浴びにバスルームへ向かう。ピーターとケイトは今後のことを話し、とりあえず3人で映画でも観に行こうと、ニコラスの快方を信じる。
 しかし突然、バスルームから銃の発砲音が響く。ピーターとケイトは慌ててバスルームに向かうが、「ニコラス!目を開けて!ママを見て!」と泣き叫ぶ声だけが響き渡る。ニコラスは自殺するタイミングを見計らっていたのだ。
 年月が経ち、ピーターの家では会食の準備がされ、ベスと成長した息子もいる。ベルが鳴り玄関のドアを開けると、ニコラスが立っていてケイトと恋人は後から来ると言う。
 ニコラスは、病気と向き合い、立ち直るまでの経験を本にし、最初に父に渡したかったと話し、ピーターに差し出す。ピーターは本を握りしめ立ち上がり、バスルームの方を見つめるが、ベスが「どうしたの?大丈夫?」と声をかける。しかし、そこにはニコラスの姿も本もなかった。ニコラスの自殺から4年が経ったものの、ピーターは悲しみと苦しみから乗り越えられず、空虚の中で暮らしており、その情景は白昼夢だったのだ。
 ベスは、ニコラスの自殺はピーターのせいじゃないと擁護し、4歳になった二男のために立ち直ってほしいと言うが、ピーターは幼い頃のニコラスとの思い出の中で、泣き崩れるのだった。
 自分のことを完璧だと思っている父親が、我が子の心の病を理解しようともしない様を描き、さらにはその父親も輪をかけて無理解な人物であったことを示したことで、息子である少年の自殺という最悪の結果をもたらすストーリーが、観る者の心に突き刺さる。
 ピーターは、社会的な身分は一流だが、父親としては失格といえる人物。さらにはピーターの父親にも同じことが言える。毒親の連鎖が、自殺という最悪の結果を以て、ニコラスは負のスパイラルから解放されたとも言える。
 ヒュー・ジャックマンが演じる父親のピーターは、まるで悪意などないようにニコラスと接し、“正しい道”へ導こうとするが、その道とはニコラスにとっては“正しい道”ではなかったことから起きた悲劇だ。
 さらに、離婚時にニコラスを激しく罵り、ニコラスにトラウマを植えつけたケイトと、最後までニコラスに心を開くことなく、危険視していたベスにも、その責はあるだろう。
 決して登場人物が多いわけではない作品だが、それが奏功し、ストーリーの軸がしっかり押さえられた作品で、見応えある秀作だ。とかく、自分の子どもを型に嵌めたがる親世代には必見の一作だ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://www.theson.jp/
<公式X>https://twitter.com/TheSon_jp
<監督>フロリアン・ゼレール
<脚本>フロリアン・ゼレール、クリストファー・ハンプトン
<製作>ジョアンナ・ローリー、イアン・カニング、エミール・シャーマン、フロリアン・ゼレール、クリストフ・スパドーヌ
<製作総指揮>サイモン・ギリス、フィリップ・カルカソンヌ、ヒュー・ジャックマン、ダニエル・バトセック、オリー・マッデン、ローレン・ダーク、ピーター・タッチ、クリステル・コナン、ヒューゴ・グランバー、ティム・ハスラム
<撮影>ベン・スミサード
<美術>サイモン・ボウルズ
<衣装>リサ・ダンカン
<編集>ヨルゴス・ランプリノス
<音楽>ハンス・ジマー
<音楽監修>イアン・ニール
<原作>フロリアン・ゼレール「Le Fils 息子」
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