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【映画レビュー】「ザ・ホエール」(原題「The Whale」/2022 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「ザ・ホエール」(原題「The Whale」/2022 アメリカ)
 劇作家サミュエル・D・ハンターの舞台劇を、ダーレン・アロノフスキー監督が映画化した作品。家族を捨て、極度の肥満に陥った男が自らの死期を悟り、疎遠になっていた娘と寄りを戻そうとするヒューマンドラマ。主演のブレンダン・フレイザーは本作で第95回アカデミー主演男優賞を受賞した。
 家族を捨て、同性恋人アランの元に走った男・チャーリー(ブレンダン・フレイザー)。その後、アランが亡くなり、そのショックからチャーリーは暴飲暴食の日々を送り、体重272キロの極度の肥満体になってしまう。
 そんなチャーリーは唯一の友人である看護師のリズ(ホン・チャウ)の手を借りながら、大学のオンライン授業でエッセイの書き方を指導する講師として生計を立てていた。しかし、自分の太った姿を見られないように、自分の姿が映らないということにしていた。
 ある月曜日、チャーリーの元に、新興宗教「ニューライフ」の宣教師トーマス(タイ・シンプキンス)が訪れた際、チャーリーは発作を起こす。すぐさまリズが駆け付け、チャーリーに病院に行くよう勧める、チャーリーは治療費用も健康保険証もないと言って断る。
 リズは、トーマスがニューライフの宣教師であることを知るや、彼を追い返す。リズは父がニューライフ信者であり、この宗教に不快感を抱いていたのだ。
 翌日の火曜日、チャーリーは、自身の症状をネットで調べ、鬱血性心不全のステージ3で余命は長くないことを知る。そこでチャーリーは約10年もの間、音信不通だった娘のエリー(セイディー・シンク)を呼び寄せる。
 チャーリーはエリーが8歳の時に家族を捨てたのだが、17歳になったエリーは、未だにチャーリーを憎んでいた。家族を捨ててからもなおチャーリーはエリーに未練を残していたのだが、元妻のメアリー(サマンサ・モートン)は決してエリーをチャーリーに会わせようとはしてこなかったのだ。
 チャーリーはエリーに自分の有り金を全てやると言い出す。この頃のエリーは家庭でも学校でも荒れ果て、学校も停学処分になっていた。そんなエリーに、チャーリーは勉強を見てやると持ち掛ける。エリーは自分のレポートを書き直してほしいと頼み、チャーリーは書き直すことの条件としてエリーも自分にエッセイを書くよう頼むが、エリーは立ち去ってしまう。
 さらに翌日の水曜日も、エリーが訪ねてくるが、チャーリーがまだ書き直しに手を付けていないことを知るや帰っていく。
 入れ替わるかのように現れたトーマスは何とかしてチャーリーの役に立とうとしましたが、またもやリズに追い出される。その際、リズはチャーリーと付き合っていたアランは自分の兄であることをトーマスに打ち明けましる。アランはニューライフの宣教師だったのだが、チャーリーとの出会いを機に脱会したため、父や教会から仕打ちを受け、心を病んだ末に自殺していたのだ。
 木曜日、再びチャーリーのもとを訪れたエリーは、チャーリーに睡眠薬入りのサンドイッチを食べさせ、チャーリーが眠っている間、トーマスが訪ねてくる。エリーは大麻を吸い始め、誘われるかのようにトーマスも吸い始める。実はトーマスも教会との問題を抱えている最中で、故郷での布教活動がパンフレットを配るだけだったことに疑問を持ったトーマスは教会に相談しようとしましたが相手にされなかった。そこでトーマスは教会から金を盗んで逃げていた。エリーはトーマスの発言の一部始終を録音していた。
 その時、リズがメアリーを連れて訪ねてくる。リズはエリーがチャーリーに睡眠薬を飲ませたことに激怒するが、チャーリーが目を覚まし、エリーにレポートを渡すと、エリーはその場を立ち去っていく。チャーリーとメアリーとの間には気まずい空気が漂うが、メアリーはエリーの育て方を間違えたことを嘆き、それ故、チャーリーに今のエリーを見せたくなかったのだと明かす。
 2人の会話を聞いていたリズは、チャーリーが隠れてお金を貯め込んでいたことを知り、その金さえあればきちんとした医療を受けられるはずだと嘆くが、チャーリーはあくまでも自分のことよりもエリーのためにそのお金を残そうと考えており、メアリーはチャーリーは金銭面で、自分は子育てで、それぞれ役目を果たしたのだと述べる。
 全員が引き揚げ、独り残ったチャーリーは、冷蔵庫から食べ物を出して食べていたところ、トーマスが戻ってくる。エリーは隠し撮った音声データと写真を、ニューライフ教会とトーマスの両親に送ったそうで、エリーがどんな意図でやったのかはわからないけど両親も教会も許してくれたと語る。チャーリーはトーマスに両親のもとに戻るように告げる。
 そして金曜日、チャーリーはこの日のオンライン授業を最後の授業にすることと決めた。生徒たちに正直な文章を書くよう呼びかけたチャーリーは、今まで決して見せたことのない自分のありのままの姿を見せ、授業が終わるとパソコンを破壊する。
 そこにリズが訪ね、チャーリーはトーマスが自分のせいでアランが死んだと話していたことを伝えると、リズはチャーリーがアランのことを愛してくれていなければアランはもっと早く死んでいただろうと返答する。そしてチャーリーは、エリーがトーマスの写真と音声を教会と家族に送ったのは、トーマスを家に返すためにやったのだとだろうと語る。リズが帰った後、エリーがやってきて、チャーリーに書き直してもらったレポートが不合格になったことを伝える。説明を求めるエリーに、チャーリーは、声に出して読んでくれと頼く。
 実はこのエッセイは、エリーが数年前に書いたものであり、アメリカの小説家ハーマン・メルヴィルの小説「白鯨」に関してのもの。チャーリーは我が娘のこのエッセイをずっと心の支えにしてきたのだ。
 チャーリーはエリーに今までのことを素直に謝罪し、エリーには才能があること、そしてエリーは自分の“最高傑作”であることを伝える。そしてチャーリーはエッセイを読むエリーを見ながら、その巨体を、全身全霊を込めて歩行器なしで立ち上がり、エリーの元に歩み寄る。それはまさに小説で描かれた白鯨のようだった。チャーリーはエリーがエッセイを読み終え、お互いが目を合わせて微笑み合った時、チャーリーは白い光の中に包まれ、消えていくのだった。
 同性愛や新興宗教、そして精神的ショックからの過食症といった、米国ならではの問題を盛り込み、救いようもない現実を描いているのだが、最後の最後で、チャーリーは正直になることで自身を救い、エリーにも希望を残すことができたのではないかと感じさせるラストシーンだ。
 ダーレン・アロノフスキー監督の演出力と、ブレンダン・フレイザーとホン・チャウをはじめとするキャスト陣の演技が素晴らしく、1人の男の人生とその最期の1週間を、ほぼワンシチュエーションの会話劇で描き切っている。ある男を軸としたヒューマンドラマとしての脚本も出色だ。
 ほとんど自暴自棄となり、身動きも取れない巨漢が、命尽きる直前に、自身の過去を悔い改め、生き別れの娘のために懸ける姿には感動を禁じ得ない。
 そして、特殊メイクを施されながら巨漢を演じ、アカデミー賞主演男優賞を獲得したのも納得のフレイザーの演技には圧倒させられた。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://whale-movie.jp/
<公式X>https://twitter.com/thewhale_jp
<監督>ダーレン・アロノフスキー
<原作・脚本>サム・D・ハンター
<製作>ダーレン・アロノフスキー、アリ・ハンデル、ジェレミー・ドーソン
<製作総指揮>スコット・フランクリン、タイソン・ビドナー
<撮影>マシュー・リバティーク
<美術>マーク・フリードバーグ、ロバート・ピゾーチャ
<衣装>ダニー・グリッカー
<編集>アンドリュー・ワイスブラム
<音楽>ロブ・シモンセン
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