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【映画レビュー】「ケイコ 目を澄ませて」(2022 日本) [映画]

【映画レビュー】「ケイコ 目を澄ませて」(2022 日本)
 日本初の聴覚障害者の女子プロボクサー・小笠原恵子氏の自伝本を原案とした実話ベースの作品。
 下町の小さなボクシングジム「拳闘会」を経営する会長(三浦友和)と、その妻(仙道敦子)は、聴覚を失い、荒れた高校生活を送っていた小河ケイコ(岸井ゆきの)を受け入れ、鍛錬を重ねたケイコはプロ試験に合格。デビュー戦を勝利で飾る。
 ケイコは練習の傍ら、昼間はホテルの清掃の仕事をしている。弟の聖司(佐藤緋美)と一緒に暮らすが、弟に対してはいつもつっけんどんな態度を取るが、逆をいえば、唯一、心を開ける相手でもある。
 プロデビュー戦には母が駆け付け、勝利を見守ったが、ケイコに「いつまで続けるつもりなの?プロになれたことでもう十分すごいよ」と声をかける。複雑な思いがケイコの心の中に溜まっていく。
 ある日、会長のもとに、スポーツ紙の記者がケイコについて取材にやってくる。「小河さんは才能がありますか?」と問う記者に会長は「才能はないなぁ。体も小さいしリーチもないし…。でも彼女は人間としての性根がいいんですよ」と応える。
 しかしその頃、ケイコはボクシングに対して迷いが生じていた。「休みたい」と書いた会長宛ての手紙をジムのポストに入れようとするが、結局できずにいる。
 そして、会長は健康を理由にジムが閉鎖することを全員に打ち明ける。
 トレーナーの林誠(三浦誠己)は、ケイコを受け入れてくれるジムを探すため、かたっぱしにボクシングジムに電話をかける。さらに会長が動き、とあるジムから引き受けてもいいと言う返事を得る。
 トレーナーと共に、ケイコがそのジムを訪れると、そこは最新設備が揃った大規模なジム。女性トレーナーはiPadの音声入力を駆使し、ケイコに話しかける。
 しかしケイコは、iPadに「家から遠いので難しいです」と書き込む。トレーナーの松本進太郎(松浦慎一郎)は「会長が動いてくれたんだぞ」と彼女を叱るが、結局、ケイコはこの話を断り、松本を失望させる。
 部屋に帰ると弟のガールフレンドのハナ(中原ナナ)が来ており、弟に教えてもらったという覚えたての手話でケイコに挨拶をする。いつも厳しい表情ばかりのケイコに笑みが戻る。
 ケイコは次の試合のため、ジムで練習に励んでいましたところ、会長が倒れたという知らせが入る。幸い命に別状はなかったものの、脳に腫瘍があり容態は芳しくない。妻は「いつかこんな日が来るのではないかと思っていた」と語る。
 ある日、妻が病室に着くと、ケイコが見舞いに来ていた。妻はケイコがノートにミットの絵を描いているのを見て、ノートを見せて欲しいと頼む。それはケイコが毎日書きつけているボクシングの練習日誌だった。
 ついにプロ2戦目の日がやってくる。会長はその試合を妻と共に、配信で観戦した。また、ケイコの母もハナと一緒に部屋で試合を観戦した。
 試合では、相手に足を踏まれて倒れたのをダウンに取られて、ケイコは足を踏み鳴らして抗議するが認められず、リズムが狂ったケイコは、相手のパンチをもろに受けダウンし敗れてしまう。
 その試合後、ついにジムを閉じる日が訪れ、ジムからは全ての物が運び出される。ケイコの元にも初勝利の記念写真が送られてきた。
 荒川の河川敷にたたずむケイコ。そのケイコに誰かが近づいてくる。それは前回の対戦相手だった。「ありがとうございました」と彼女はケイコに挨拶し、去っていきました。その後ろ姿を見送ったあと、ケイコは会長にもらった赤いキャップをかぶり、再び走り出すのだった。
 よく訓練されたボクシングシーンのみならず、1人の女性としてケイコが生きていく姿を、岸井ゆきのが全身で表現し、俳優としての奥の深さを見せている。日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞受賞も納得の演技だ。
 ボクシングに命を懸けている人であれば、時には怖いと感じ、悩む瞬間がある、そうした細やかな感情の機微も見事に演じ切っている。
 会長を演じる三浦友和の包容力豊かないぶし銀の演技も、本作を通じて締まったものにしている。さらに、キャストと共に、目を奪われるのが、荒川沿いの景色だ。その光景を忘れず記憶しておこうとするかのように、ケイコがフレームから姿を消したあとも、エンドロールに重なって河川敷から見える電車や街の灯り、複雑に交差した高速道路といった風景が映し出され、印象的なラストシーンとなっている。
 実話に基づいた脚本、キャストたちの演技、映像美も併せて優れた作品に仕上がっている。そして、小笠原恵子という奇跡的なアスリートがいたことに感動し、さらに見終わった後に“目を澄ませて”というタイトルの意味が理解できるのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://happinet-phantom.com/keiko-movie/
<公式X>https://twitter.com/movie_keiko
<公式Instagram>https://www.instagram.com/movie_keiko2022/
<監督>三宅唱
<脚本>三宅唱、酒井雅秋
<製作>狩野隆也、五老剛、小西啓介、古賀俊輔
<エグゼクティブプロデューサー>松岡雄浩、飯田雅裕、栗原忠慶
<企画・プロデュース>長谷川晴彦
<チーフプロデューサー>福嶋更一郎
<プロデューサー>加藤優、神保友香、杉本雄介、城内政芳
<撮影>月永雄太
<照明>藤井勇
<録音>川井崇満
<美術>井上心平
<装飾>渡辺大智
<衣装>篠塚奈美
<ヘアメイク>望月志穂美、遠山直美
<編集>大川景子
<整音>伊藤裕規
<音響効果>大塚智子
<助監督>松尾崇
<ボクシング指導>松浦慎一郎
<手話指導>堀康子、南瑠霞
<手話監修>越智大輔
<制作担当>大川哲史
<原案>小笠原恵子「負けないで!」(創出版) http://shop.tsukuru.co.jp/shopdetail/000000000111/
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