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【映画レビュー】「アイ・アム まきもと」(2022 日本) [映画]

【映画レビュー】「アイ・アム まきもと」(2022 日本)
 本作は、2013年製作のイギリス・イタリア合作映画「Still Life」(邦題「おみおくりの作法」)をリメイクした作品。
 牧本壮(阿部サダヲ)は庄内市役所福祉課「おみおくり係」の職員。しかし、所属しているのは牧本ただ独り。牧本は、身寄りのない人の遺体を引き受け、葬儀・火葬・埋葬をする。遺族がいる場合は、遺族に連絡をし、葬儀への参列と骨壺の引き取りを依頼する。
 日々、身寄りのない人の火葬を終え、牧本は骨壺を持って市役所に戻り、亡くなった人の遺族に連絡するが、骨壺の受け取りを拒否したされる日々。牧本のデスクのは骨壺でいっぱいになっており、葬儀費用も牧本の自腹だ。
 身寄りのない人が亡くなると、刑事の神代亨(松下洸平)は牧本に、遺体の引き取りを求める連絡をする。牧本が引き取らずにいると、神代は牧本に「警察は貸倉庫じゃない」と怒りとをぶつける。
 無縁墓地の傍にある墓地には、牧本が自身で購入した墓があり、牧本は無縁墓地に納骨している。独り暮らしの牧本は帰宅すると、「おみおくり」した人の遺影にした写真をアルバムに貼る。
 牧本の暮らすマンションの向かいで、孤独死した62歳の男性の遺体が発見される。警察の捜査で、遺体の身元は蕪木孝一郎(宇崎竜童)といい、親や兄弟は既に他界していた。
 マンションの管理人によれば、蕪木は廊下で放尿したり、喧嘩や酒のトラブルが多い人だったと、牧本に話す。
 牧本は蕪木の部屋から携帯電話やアルバム、免許証などを持ち帰る。アルバムには「とうこ」という少女の写真があり、携帯電話に唯一登録されていたのは「魚住食品」。携帯には田んぼの写真が何枚も保存されていた。
 牧本の部署に配属された新任の局長・小野口義久(坪倉由幸)は牧本に、蕪木の案件を最後におみおくり係を廃止すると告げる。
 牧本は魚住食品へ赴き、蕪木の元同僚・平光啓太(松尾スズキ)と会い、生前の話を聞く。蕪木は、平光が勤務中に、指を切断する事故に遭った際、蕪木は「人手不足だから事故が起こる」と怒り、改善しないなら、肉のミンチの機械に放尿すると脅したという。
 さらに牧本は、平光から蕪木が当時交際していた女性についての情報を得て、「みはる食堂」に向かう。食堂を切り盛りする今江みはる(宮沢りえ)は、牧本に蕪木の話をしながら「頑張った。頑張った」と言う。みはるはその意味を「疲れたと言う代わりに頑張ったと言うの」と牧本に説明した。
 牧本は「とうこ」が蕪木の娘・津森塔子(満島ひかり)であることを突き止め、塔子に会いに行く。
 塔子は牧本に心を開き、蕪木の古い友人・鎗田の名を出す。
 蕪木が炭鉱に勤めていた頃、爆破事故があり、蕪木は負傷した同僚・槍田幹二(國村隼)を背負って脱出したが、鎗田は失明してしまう。
 蕪木は炭鉱を辞めた後、津森千晶と出会い、結婚して塔子が生まれた。塔子は白鳥が大好きな女の子だった。
 鎗田は蕪木を恩人だと思っている一方、蕪木は、盲目の鎗田を差し置いて自分だけが幸せになることを許せず、妻子を捨てたと言う。
 牧本は自分が購入した墓地を、蕪木に譲ることにする。
 塔子は、自分の父のために奔走する牧本に感動し、共に蕪木の「おみおくり」の準備を進める。
 牧本の口から、生前の父の話を聞きたいという塔子に、「お葬式の後に」と約束した牧本は、カメラを買い、白鳥の写真を撮り始める。しかし、ファインダーを覗きながら横断歩道を渡っていた牧本は、車にはねられてしまう。
 薄れゆく意識の中で牧田は「頑張った。頑張った」と呟く。蕪木の葬儀は、牧本の呼びかけによって多くの参列者が集う。
 神代は無縁墓地に牧本の遺骨を納めにやってきてくる。神代は葬儀にやってきた塔子たちを見て「牧本さん、あなたの粘り勝ちですよ」と牧本の遺影に呟く。神代の去った無縁墓地に、死んだ蕪木がやってきて手を合わせます。すると、次々に牧本がおみおくり係として携わった人たちがやってきては、墓地の前で手を合わせるのだった。
 孤独死という重いテーマながら、もどかしいまでに愚直に仕事に取り組み、時には上司や警察にも盾突く牧本を演じる阿部サダヲの姿に、徐々に惹きつけられていく。阿部サダヲの演者としての魅力が十分に引き出されている。それはまるで、本作がリメイク作品であることを忘れさせてしまうほどだ。
 最後、あっけなく死んでしまう牧本。しかし、墓に向かって手を合わせる人の多さが、彼の魅力を物語った感動的なラストシーンに繋がる。牧本は「おみおくり係」としての仕事を全うしたのだ。
 死生観に洋の東西に違いがないことも確認できる作品であり、シリアスな中にも、程よくコメディータッチな空気がストーリーを通じて感じられる。
 一方、牧本のキャラクターが現実離れしていることは確かで、こういった作品は好みが分かれるが、「死」と、その周辺の人間模様を現実に真っ向から描いたストーリーには、美しさすら覚える。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://www.sonypictures.jp/he/11195836
<ソニー・ピクチャーズ公式X>https://twitter.com/SonyPicturesJP
<ソニー・ピクチャーズ公式Instagram>https://www.instagram.com/sonypicturesjp/
<ソニー・ピクチャーズ公式Facebook>https://www.facebook.com/SonyPicturesJP
<監督>水田伸生
<脚本>倉持裕
<製作総指揮>ウィリアム・アイアトン、中沢敏明
<エグゼクティブプロデューサー>堤天心、志賀司、中西一雄、島本雄二、井川泉、ウベルト・パゾリーニ
<プロデューサー>上木則安、厨子健介
<コ・プロデューサー>藤村哲也、丸山典由喜
<ラインプロデューサー>鈴木嘉弘
<撮影>中山光一
<照明>宗賢次郎
<録音>鶴巻仁
<美術>磯見俊裕
<装飾>柳澤武
<人物デザイン監修>柘植伊佐夫
<編集>洲崎千恵子
<音楽>平野義久
<助監督>相沢淳、村田淳志
<キャスティング>田端利江
<制作担当>井上純平
<原作>ウベルト・パゾリーニ「おみおくりの作法」
<エンディングテーマ>宇崎竜童「Over the Rainbow」
#アイ・アムまきもと #映画 #水田伸生画 #倉持裕 #ウベルト・パゾリーニ #阿部サダヲ #満島ひかり #宇崎竜童 #松下洸平 #でんでん #松尾スズキ #坪倉由幸 #宮沢りえ #國村隼 #遺骨 #孤独死 #死 #おみおくり #ヒューマンドラマ #おみおくりの作法 #役所 #SONY #ソニー

アイ・アム まきもと ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
  • 発売日: 2023/02/17
  • メディア: Blu-ray






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【映画レビュー】「ひとりぼっちじゃない」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「ひとりぼっちじゃない」(2023 日本)
 コミュニケーションが苦手な歯科医師のススメ(井口理)が、アロマ店を営む宮子(馬場ふみか)と恋に落ちる。しかし、宮子はつかみどころのない女性で、部屋に鍵をかけず、突如連絡が取れなくなる。謎の多い宮子に、ススメは自分は彼女のことを理解できていないのではないかと悩む。ある日、宮子の友人・蓉子(河合優実)がススメに宮子に関する衝撃的な事実を告げる…という一捻りしたラブストーリーである本作。
 結論から言ってしまえば、原作作家が監督も務めるデメリットを詳らかにした作品だ。自らの原作の世界観に拘泥するあまり、映像作品として、あまりにも説明が少なく、雰囲気のみで2時間押し切ってしまった印象。鑑賞者は置いてけぼりだ。
 コミュ障の歯科医が“ひとりぼっち”であるという前提であるはずだが、作中で2人の女性を抱いているわけで、この時点でキャラクター設定が破綻している。KingGnuの井口理の映画初主演作だが、この役では演技の巧拙を判断するのは少々、酷ともいえる。そもそも、なぜ彼を主役にしたのか疑問だ。女性人気を当て込んだのだろうが。“誰でもできる役”とまではいわないまでも、無名の若手俳優を抜擢するような試みがあっても良かったのではないだろうか。
 ストーリーも冗長で、様々な伏線があるように見せておいて、結局何も回収されない。鑑賞者に“あとは想像にお任せ”ということなのかもしれないが、考察を促すにしても、肝心の中身が薄すぎて、そういう気にすらならない。
 ラストシーンも意味が分からない締め方で、もはや、ストレスを感じさせる作品だった。伊藤ちひろ氏は映画製作から手を引いて、行定勲氏に任せた方が良かったのではないだろうか。脚本家としては、「世界の中心で、愛をさけぶ」(2004)という大成功例があるだけに、もったいなさを感じさせた。
<評価>★☆☆☆☆
<公式サイト>https://hitoribocchijanai.com/#modal
<公式X>https://twitter.com/hitori_movie
<公式Instagram>https://www.instagram.com/susume_movie/
<監督・原作・脚本>伊藤ちひろ
<企画・プロデュース>行定勲
<エグゼクティブプロデューサー>古賀俊、倉田奏補、吉村和文、吉永弥生
<プロデューサー>金吉唯彦、吉澤貴洋、新野安行
<撮影>大内泰
<照明>神野宏賢
<録音>日下部雅也
<音響効果>岡瀬晶彦
<美術>福島奈央花
<装飾>遠藤善人
<スタイリスト>高橋さやか
<ヘアメイクデザイン>倉田明美
<ヘアメイク>吉田冬樹
<編集>脇本一美
<音楽>手島領
<VFXスーパーバイザー>進威志
<劇中映像>嶌村吉祥丸
<スクリプター>押田智子
<助監督>木ノ本豪
<制作担当>大川哲史
<原作>伊藤ちひろ「ひとりぼっちじゃない」(角川書店) https://www.kadokawa.co.jp/product/322201000350/
#ひとりぼっちじゃない #映画 #伊藤ちひろ #行定勲 #井口理 #KingGnu #馬場ふみか #河合優実 #相島一之 #高良健吾 #浅香航大 #長塚健斗 #シソンヌじろう #盛隆二 #森下創 #千葉雅子 #峯村リエ #角川 #KADOKAWA #パルコ

ひとりぼっちじゃない [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: Happinet
  • 発売日: 2023/10/04
  • メディア: Blu-ray






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【映画レビュー】「#マンホール」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「#マンホール」(2023 日本)
 Hey!Say!JUMPの中島裕翔が主演のサスペンススリラー。ある日、営業成績トップの優秀なサラリーマンにして、社長令嬢との結婚式前夜、渋谷で開かれたパーティーで酔っぱらい、マンホールの穴に落ちてしまう主人公の川村俊介。あの手この手で脱出を試み、さらに最後には想像もつかない真実が明かされてしまうワンシチュエーションのサスペンススリラー。
 マンホールに落ちた際、折れたハシゴで脚を負傷した俊介。スマホのGPSは使えず、通報した警察にもいたずらだと思われ取り合ってもらえない。唯一連絡が取れた元カノの工藤舞(奈緒)に助けを求めたが、自分のいる場所が分からない俊介は、「マンホール女」のアカウントをSNS上で立ち上げ、ネットを通じて場所の特定と救出を求める。
 情報はすぐに集まり、ただマンホールに落ちたのではなく、誰かに拉致され、知らない穴に落とされたのではないか、俊介に恨みのある人間の仕業ではないかということが分かってくる。
 ネット民はさらにヒートアップ。犯人ではないかと疑われた俊介の同僚の加瀬悦郎(永山絢斗)に会いに行き、加瀬を拷問にかけて真実を問い詰めようとする。
 その後も俊介のいるマンホールの捜索は続く。しかし、俊介のいる場所にはガスが発生したり、泡も溢れてくるなどで、いよいよ俊介の身に危険が迫る。
 スマホを空高く投げ、外の景色を見て場所の特定を図る俊介。マンホールに詳しい仮面の男という男の情報で、場所を特定する。近くのユーチューバーが助けに行くことになり、俊介は安堵するが、実際には俊介はおらず、仮面の男の罠だった。
 絶望する俊介は、近くに電車が走る音と踏切の音がしたという情報を流す。その間、辺りを捜索していた俊介は、腐乱死体を見つける。俊介の脳裏に過去の記憶が蘇る。
 死体の正体は「川村俊介」。本当の川村俊介だった。そして、マンホールにいるこの男は、実は川村俊介ではなく、吉田という男。本当の川村俊介を殺し、川村に整形して川村俊介のふりをし続けていたのだ。今起こっていることは、本当の川村俊介を知る何者かの仕業だったのだ。
 事件の全容を理解した俊介は、ある人物を思い浮かべる。本物の川村俊介の恋人だった折原奈津美(黒木華)。俊介は奈津美の情報を流すと、SNSは一気に加熱し、加瀬を襲った“深淵のプリンス”というアカウントの人物は、殺害予告をする。
 やがて、踏切の音で俊介の場所が断定される。そしてマンホールの外で車が止まる音がする。マンホールの中には死体があるため、警察が来たら俊介の犯行がバレてしまう。俊介は焦る。
 しかし、やってきたのは舞だった。安心して、ロープを使い外に出るが、そこには舞の姿はなかった。そこにいたのは折原奈津美だった。俊介のスマホを操作し、舞の番号を抜き取っていた奈津美。つまり、最初から舞ではなく奈津美だったのだ。
 この出来事は、全て奈津美が操っていたためのものだったのだ。俊介を襲い、本物の川村俊介の顔を取り戻そうとする奈津美に、妊娠した妻がいると同情を誘う俊介。奈津美は立ち去ろうとする。
 そんな奈津美に、俊介は襲いかかり殺そうとする。そこに“深淵のプリンス”がやってきて、俊介をボウガンで打ち抜く。俊介は再びマンホールに落ち、マンホールの蓋は閉じられる。本物の川村俊介の死体の横で動けない俊介が絶望を感じるところで物語は終わる。
 賛否両論を巻き起こした作品だが、旧ジャニの中では一番の演技力を誇る中島裕翔の一人芝居によって、徐々に追い詰められ、狂気を帯びていく主人公を好演しており、ひたひたと迫りくるような恐怖を感じさせる。
 何もオバケや怪獣が出てくる作品だけがホラーではなく、“人間が最も怖い生物”であることを見せ付けるストーリーだ。ラストの一捻りも効いている。
 そこら中にある「マンホール」という一見、身近でいて、知らない世界の中で起こるサイコサスペンスだが、その着眼点も含めて、新たなジャパニーズホラーの形と示したと思える作品だ。
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://gaga.ne.jp/manhole/
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<監督>熊切和嘉
<原案・脚本>岡田道尚
<製作>依田巽、藤島ジュリーK.
<エグゼクティブプロデューサー>小竹里美
<企画・プロデュース>松下剛
<プロデューサー>星野秀樹
<アソシエイトプロデューサー>熊谷悠
<撮影>月永雄太
<照明>秋山恵二郎
<録音>吉田憲義
<美術>安宅紀史
<衣装>宮本茉莉
<ヘアメイク>岩本みちる
<編集>今井大介
<VFXスーパーバイザー>オダイッセイ
<音響効果>浦川みさき
<音楽>渡邊琢磨
<キャスティング>原田浩行
<助監督>海野敦
<制作担当>八城竜祐
#マンホール #映画 #熊切和嘉 #岡田道尚 #中島裕翔 #奈緒 #永山絢斗 #黒木華 #ベルリン国際映画祭 #ワンシチュエーション #サスペンス #スリラー #ギャガ #GAGA

#マンホール 豪華版Blu-ray(2枚組)

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  • 出版社/メーカー: ギャガ
  • 発売日: 2023/08/04
  • メディア: Blu-ray






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【映画レビュー】「人生は、美しい」(原題「인생은 아름다워」・英題「Life Is Beautiful」/2022 韓国) [映画]

【映画レビュー】「人生は、美しい」(原題「인생은 아름다워」・英題「Life Is Beautiful」/2022 韓国)
 本作は、活発な性格ながら、どこにでもいそうな専業主婦のセヨン(ヨム・ジョンア)が、「余命2ヶ月」の末期がんを宣告されたことで人生を振り返り、亭主関白な夫・ジンボン(リュ・スンリョン)に、“人生最後の誕生日プレゼント”として、学生時代の初恋相手であるジョンウ(オン・ソンウ)との再会を希望し、ともに彼を探しに行くというロードムービーだ
 セヨンは、家事を何もしないにもかかわらず威張り散らす夫と、反抗期の息子と娘に手を焼きながらも、健気に家族に尽くしてきた。しかしある日、あまりにも残酷な検査結果を夫を通じて知らされる。
 突然の余命宣告に激しく動揺するセヨンだったが、吹っ切れたように、高級コートを買い、離婚届を突きつけながら、最後となるであろう誕生日プレゼントには初恋相手との再会を望み、一緒に探してほしいとジンボンに懇願する。いや、懇願というより“強要”といった方が正しいかもしれない。
 困惑しながらも、何年もの間、誕生日プレゼントを買っていたかったことを引け目に感じていたジンボンは仕方なく同意し、夫婦の奇妙な“最後の旅”が始まる。
 悲劇的な物語かと思いきや、楽しい音楽シーンやミュージカルシーンが、ところどころに挿入され、重苦しくなりがちなストーリーを美しく彩っている。限られた時間の中で、次第に浮き彫りになっていく夫婦の歩んできた道のりと、家族の愛の姿を映し出している。
 ハングル語のミュージカルと聞くと、一瞬、ミスマッチかと思うが、ヨム・ジョンアの美しい踊りと歌声が、見事にマッチし、さらに、夫・ジンボン役のリュ・スンリョンのコミカルな演技も、楽しげな雰囲気を醸し出している。
 セヨンはたった1枚の写真を手掛かりに木浦にある母校を訪ねるが、個人情報保護法をタテに、けんもほろろに追い返されてしまう。しかし、立ち寄った写真館で、ジョンウが釜山にいるかもしれないと聞き、2人は韓国最南端に向かって車を走らせる。釜山は2人の新婚旅行の場所だった。ジンボンは海岸を歩きながら、その頃を思い出す。
 2人はラブホテルに投宿する。ジンボンは所在なさげにさっさと寝てしまうが、セヨンは昔を回想する。
 ジョンウとのデートを重ね、楽しい日々を過ごしていた若き日のセヨン(パク・セワン)。ここでもミュージカルシーンが登場し、美しかった過去を表現している。
 2人は釜山の港でジョンウの行方について聞き込み、港湾労働者から「清州でアナウンサーになった」と聞き出す。2人は、さらに旅を続ける。
 ここで再び、回想シーンが挿入される。ジンボンが兵役に就いていた頃の話だ。軍隊に入隊するジンボンを、セヨンは愛を信じ待ち続けた過去が明らかとなる。今では、何かにつけて衝突する夫婦だが、こんなにも甘い日々があったのだ。
 ジンボンはなぜ、そこまでしてジョンウに会うことにこだわるのかと聞くと、セヨンは「謝りたいから」と答える。かつて、友人だったヒョンジョンのウソが原因でジョンウと疎遠になってしまい、その間にジョンウが転校してしまったことが、ずっと心に引っ掛かっていたのだ。
 ここで登場する回想シーンでは、セヨンとジンボンの馴れ初めが描かれている。ジンボンは、当時盛んだったデモ隊の一員だったのだが、行進の最中にセヨンと激突し、負傷させてしまう。手当てをするジンボンに対し、セヨンは“気安く触るな”とばかりに突き飛ばす。そんな強気なセヨンに一目惚れしたジンボンは、その場で映画鑑賞に誘ったのだ。
 家に残された2人の子たちは、偶然、セヨンが服用している抗がん剤を見付け、母の病気を知ってしまう。電話で娘が「死んだら許さないから」と告げられ、セヨンと2人の子どもは涙に暮れる。
 ついにジョンウの家を探し当てた2人。しかし、そこには妹しか住んでいなかった。ジョンウは亡くなっていたのだ。
 ジョンウの昔話で盛り上がったところに、妹は昔の写真や手紙を持ってくる。しかしそれは、セヨンが予想していたものとは全く違い、愕然とさせるものだった。
 思いもよらぬ展開に、ジンボンは大爆笑するが、セヨンはショックのあまり、病状が悪化し倒れてしまう。
 セヨンを背負いながら海岸を歩きながらジンボンは、医者に治療法を聞かなかったことを彼女に詫びる。ジンボンも妻の死という現実を受け入れられていなかったのだ。
 再び展開される回想シーンでは、ジンボンがセヨンの家の前で猛烈に求婚する姿が映し出される。
 その後、ジンボンの提案で、セヨンとの“披露宴”を執り行う。絶交していたヒョンジョンも、ジンボンがラジオで人探しの広告を出したことでアメリカから呼び寄せることができた。
 大勢の友人から祝福を受け、愛されていたことを知り「これで安心して天国へ行ける」と涙ながらに語るセヨン。周囲には、2人の子どもたちを温かくも厳しく見守ってくれるように求め、ジンボンには「初恋の相手はあなただった」と告白した上で、自分の死後、再婚して長生きすることを願うのだった。さながら“生前葬”のような素晴らしい空間が、そこにはあった。
 しかし、これで終わらないのがセヨンという女性。出席者とともに会場を飛び出し、夜通し歌い踊りまくるパーティーの始まりだ。そこには、どこまでも温かい空気に包まれていた。
 セヨンがいなくなった家庭では、ジンボンが家事と子育てに悪戦苦闘していた。あまりのドタバタぶりに疲れ果て、職場に休暇を申請するジンボン。グッタリしながらセヨンの遺影に向かって「これなら合格点だろ?」と問いかけるのだった。
 ロードムービーであると同時にラブストーリーでもある本作。ミュージカル要素や音楽劇も取り入れ、「1人の女性の死」というテーマから、様々なストーリーが展開し、まさに『人生は、美しい』という邦題に沿った、心温まる作品だった。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://lifeisbeautiful-movie.com/
<映画会社ツイン公式X>https://twitter.com/movietwin2
<監督>チェ・グクヒ
<製作>パク・ウンギョン
<製作総指揮>チェ・ビョンファン
<脚本>ペ・セヨン
<撮影>バク・ユンスク
<美術>ソン・ミンジョン
<編集>ヤン・ジンモ
<音楽>キム・ジュンスク
#人生は、美しい #映画 #韓国 #ロードムービー #ミュージカル #チェ・グクヒ #キム・ジュンスク #リュ・スンリョン #ヨム・ジョンア #パク・セワン #オン・ソンウ #シム・ダルギ




私の生涯で最悪の男(字幕版)

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  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2022/05/27
  • メディア: Prime Video



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【映画レビュー】「MEMORY メモリー」(原題「Memory」/2023 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「MEMORY メモリー」(原題「Memory」/2023 アメリカ)
 ベルギーとオランダで2003年に製作された「ザ・ヒットマン」のハリウッドリメイク作品。
 完璧に仕事を遂行する殺し屋のアレックス・ルイス(リーアム・ニーソン)。しかし、アルツハイマー病に侵され、引退を考えるようになる。
 そんな彼に殺人依頼が届く。大金のため“これが最後の仕事”と引き受けるが、ターゲットが少女であることを知り、契約を破棄する。それは、唯一の信念である「子どもだけは殺さない」を貫くためだった。アレックスは調査を進める中で、財閥や大富豪を顧客とする巨大な人身売買組織の存在を突き止める、さらに腐敗した警察との事件に巻き込まれていく。
 メキシコの病院からで、ターゲットの男を殺害するシーンから物語が始まる。しかし一方で、自身がアルツハイマー病に侵されていることに気付く。
 テキサス州のエルパソ、FBI捜査官のビンセント・セラ(ガイ・ピーアス)は、売春を仲介するレオンという男に会う。ビンセントはレオンに金を払う。ビンセントは、ベアトリス(ミア・サンチェス)という少女を紹介さる。しかし、彼女はレオンの娘だった。FBIのリンダ・アミステッド(タジ・アトウォル)とメキシコからの警官ウーゴ・マルケス(ハロルド・トレス)がレオンを殺害し、ベアトリスを保護する。
 しかし、それはマフィア化した人身売買組織と腐敗した警察との闘いの序曲に過ぎなかった…。
 単なる「殺し屋vs雇い主」という構造ではなく、FBI捜査官や地元警察など、登場人物が多層に渡り、しかもアメリカとメキシコの国境をまたがせることで、ストーリーに深みを持たせようとしているが、それが逆に、分かりにくさを生んでしまっている印象だ。
 もっと、リーアム・ニーソンが演じるアレックス・ルイスにフォーカスしたストーリーであれば、感情移入できたようにも感じる。
 ラストシーンもおおよそ予想できるような締め方で意外性はないが、だからこそ、キャストの魅力を生かした作品にできたようにも思え、もったいなさを感じる。
<評価>★★☆☆☆
<公式サイト>https://memory-movie.jp/
<公式X>https://twitter.com/MEMORY_moviejp
<ショウゲート公式Facebook>https://www.facebook.com/showgate.youga/
<監督>マーティン・キャンベル
<製作>キャシー・シュルマン、モシュ・ディアマント、ルパート・マコニック、マイケル・ハイムラー、アーサー・サルキシアン
<製作総指揮>テディ・シュワルツマン、ベン・スティルマン、ペーター・ブカート、ルディ・デュランド、トム・オーテンバーグ ジェームズ・マシェッロ、マシュー・シダリ
<オリジナル脚本>カルル・ヨース、エリク・バン・ローイ
<脚本>ダリオ・スカーダペイン
<撮影>デビッド・タッターサル
<美術>ウォルフ・クレーガー
<衣装>イリーナ・コチェバ
<編集>ジョー・フランシス
<音楽>ルパート・パークス
<原作>ジェフ・ヒーラールツ「De Zaak Alzheimer」
#メモリー #MEMORY #Memory #映画 #マーティン・キャンベル #ダリオ・スカーダペイン #ジェフ・ヒーラールツ #リーアム・ニーソン #ガイ・ピアース #モニカ・ベルッチ #タジ・アトウォル #レイ・フィアロン #ハロルド・トレス #サスペンス #アクション #殺し屋 #アルツハイマー #ザ・ヒットマン #ショウゲート

MEMORY メモリー [DVD]

MEMORY メモリー [DVD]

  • 出版社/メーカー: インターフィルム
  • 発売日: 2023/10/04
  • メディア: DVD






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【映画レビュー】「劇場版 きのう何食べた?」(2021 日本) [映画]

【映画レビュー】「劇場版 きのう何食べた?」(2021 日本)
 同名のマンガを原作とし、ドラマで人気シリーズとなった作品を映画化。弁護士のシロさんこと筧史朗(西島秀俊)と、美容師のケンジこと矢吹賢二(内野聖陽)の同性カップルが偏見に直面しながら絆を深めていく。ドラマ版でも見せ場となった、シロさんの料理シーンも健在だ。
 誕生日のプレゼントにと、シロさんはケンジを京都旅行に連れて行く。シロさんと旅行が出来てケンジは大喜びだったが、同時に不安を覚えてる。シロさんに尋ねると、彼は謝りながら、同性愛を受け入れられない母親の久栄(梶芽衣子)から、正月にはケンジを連れてこないで欲しいと言われたと明かす。今回はその罪滅ぼしだったという。
 旅行から戻ると、小日向大策(山本耕史)から食材を貰ってほしいと連絡が入る。そして小日向と井上航(磯村勇斗)が大量の食材を持ち込んでくる。買い物仲間の富永佳代子(田中美佐子)も呼び出し、皆で食べる。
 そこで正月にはケンジを実家に連れて帰らないと話したシロさんに航が苦言を呈した事で、ケンジを拒否する実家には帰らないと決心する。
 一方、ケンジは職場の若い美容師に「言いたいことはきちんと言うべき、身近な人間ならなおさらだ」という言葉や、父親が亡くなったとの知らせで帰った先で、母親からの「その人はいつまで一緒にいてくれるの?」という言葉に惑わされる。
 年末になり、帰宅したシロさんは正月は実家には帰らないとケンジに告げる。「大切な人と正月を過ごしたい。寂しい思いをさせてごめん」とシロさんは謝る。ケンジは動揺しながらも喜ぶ。2人はその後、おせちを作り、正月を迎える。
 ケンジは髪の毛が薄くなったと指摘され、シロさんには内緒で通院する。シロさんは異変に気付き、ケンジが通院していることを知り、何かの病気なのかと不安がよぎる。
 そんな中、航が家出をしてしまいまう。小日向を落ち着かせるシロさんに、小日向は「僕らゲイはいつ離れ離れになるか分からない」と反論されてしまい、シロさんは自身の境遇と重ね合わせる。
 その後、航は見つかり、家に帰ると帰ってきたケンジが髪を切り金髪に変身していた。シロさんはケンジに「お前最近おかしいよ。まさか死ぬなんてことないよな?」と涙ながらに尋ねる。
 ケンジが答える。髪の毛が薄いと言われ、生活習慣を変えて通院していたこと、実家に帰ってこいと言われ、少し悩んでいたことを話す。誤解が解け、シロさんは「実家に戻るなら引っ越しも考えないといけないね」と語る。シロさんの言葉に喜ぶケンジは、シロさんの深い愛を再確認する。
 正月以外は頻繁に実家に帰っているシロさん。佳代子に生まれた孫の話や、シロさんは自分の家族を大事にしてといった話をする。
 シロさんはケンジと合流し、花見に向かう。ケンジは自分の両親をちゃんと最後まで面倒を見ると告げ、シロさんには自分の家族をちゃんと大事にして欲しいと願う。ケンジはシロさんにキスをしようとするが、いつものようにかわされてしまう。しかし、シロさんはケンジの手に自分の手を重ねる。「歳とったね」と互いに言い合い、幸せそうに笑うのだった。
 個人的に(原作マンガ、テレビドラマ版も含めて)、この作品は同性愛を描いた作品なのか、料理を描いた作品なのか、世界観が理解できない。この劇場版も淡々とした展開でメリハリがなく面白味に欠ける。2時間ドラマで十分だと思えるストーリーだ。
 ゲイにとって生き辛い世の中の偏見を随所に散りばめているが、本作の存在こそが、それを助長してはいないだろうか。そんな自己矛盾を含んだ作品だ。
 西島秀俊はまだしも、内野聖陽のオカマの演技には、違和感以上の気持ち悪さを感じてしまう。同性愛が悪いことだとは思わないし、誰にも迷惑をかけていないのであれば自由だと思う。しかし、実際、シロさんの母親の久栄から拒絶されているように、親子関係にまで影響を与えているのだ。自分も身内にゲイがいたら久栄と同じ考え方をするだろう。
 ところで、シロさんは弁護士として、殺人事件の弁護を担当し、一審敗訴の後、控訴していたが、その結末は描かれないまま物語が終わってしまう。脚本面にも粗が目立つ作品だった。
<評価>★☆☆☆☆
<公式サイト>https://kinounanitabeta-movie.jp/
<公式X>https://twitter.com/tx_nanitabe
<公式Instagram>https://www.instagram.com/movie_nanitabe/
<監督>中江和仁
<脚本>安達奈緒子
<チーフプロデューサー>阿部真士
<プロデューサー>佐藤敦、瀬戸麻理子、斎藤大輔
<企画監修>神田祐介
<撮影>柴崎幸三
<照明>赤羽剛
<録音>齋藤泰陽
<美術>井上心平
<装飾>櫻井啓介
<衣装>加藤みゆき
<スタイリスト>カワサキタカフミ
<ヘアメイク>市川温子、佐藤裕子、柴崎尚子
<フードスタイリスト>山崎慎也
<VFXスーパーバイザー>進威志
<音響効果>丹愛
<編集>鈴木真一
<音楽>澤田かおり
<助監督>サノキング
<スクリプター>松村陽子
<制作担当>櫻井紘史
<原作>よしながふみ「きのう何食べた?」(講談社) https://morning.kodansha.co.jp/c/nanitabe.html
<主題歌>スピッツ「大好物」 https://spitz-web.com/discography/digital-05/
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きのう何食べた? season2 Blu-ray BOX

きのう何食べた? season2 Blu-ray BOX

  • 出版社/メーカー: メーカーオリジナル
  • 発売日: 2024/03/20
  • メディア: Blu-ray






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【映画レビュー】「TAR/ター」(原題「TAR」/2022 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「TAR/ター」(原題「TAR」/2022 アメリカ)
 俳優としても活躍するトッド・フィールドが16年ぶりに監督を務めた長編作品。当初は男性を主人公にした物語だったが、ケイト・ブランシェットを起用し、女性指揮者の話に脚本を書き換えたという。ブランシェットはその演技で、ベネチア国際映画祭の最優秀女優賞やゴールデングローブ賞の最優秀主演女優賞を獲得した。さらに、他の音楽家や学生へのパワハラなど、醜聞が相次ぐストーリーにも関わらず、世界最高峰のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が、その名義を使うことを許可したことも話題となった。
 リディア・ター(ケイト・ブランシェット)の姿を何者かがスマホで撮影し、メッセージとともに誰かに送る場面から、物語が始まる。
 リディア・ター飛ぶ鳥を落とす勢いの女性マエストロ。アメリカの名だたるオーケストラで活躍したのち、ベルリンフィルの首席指揮者になった彼女は作曲家としても評価され、エミー賞、グラミー賞、アカデミー賞、トニー賞の4つすべてを獲得している。インタビューでは多彩と呼ばれることを嫌い、指揮者は必要か?という意地悪な質問にも「時間をコントロールする者は必要だ」と答える。に促され、支援者であるエリオット・カプラン(マーク・ストロング)との会食に向かうリディア。アマチュア指揮者でもある彼が立ち上げた財団で若手女性指揮者を育成するプロジェクトを行っているリディアは、参加者のひとりが情緒不安定で次のキャリアに向けて推薦ができないというトラブルを抱えていた。
 しかしベルリンフィルでのライブ録音や新曲の作曲、オケの欠員のオーディションに子どもの学校行事と、多忙を極めるリディアはトラブルに真剣に向き合おうとしない。
 ジュリアード音楽院でも教えることになったリディアは、指名したアフリカ系の青年の「バッハは女性差別的で受け入れられない」という意見に対し、「そういうことで反発するのはダメ、人種や性別で判断しないで」と話す。「芸術と人格は分けて評価されるべきだ」という考えは青年を失望させ、リディアを罵る。
 ベルリンに向かう途中、フランチェスカ・レンティーニ(ノエミ・メルラン)が、プロジェクトでトラブルになっているというかつての教え子であるクリスタ・テイラー(シルヴィア・フローテ)からメールが来たとリディアに報告するが、リディアは無視するように言う。
 その後、飛行機の中で、クリスタから本が送られてきたことに気づいたリディアはそれを破ってトイレのゴミ箱に捨てる。
 ベルリンでパートナーのシャロン・グッドナウ(ニーナ・ホス)、養女のペトラ(ミラ・ボゴイェビッチ)と暮らす家に帰ってきたリディアは、シャロンからペトラが学校でいじめられていると聞く。
 翌朝、ペトラを送ったリディアはそのいじめっ子に「ペトラのパパだ」と名乗り、今後娘をいじめたら許さないと脅す。
 欠員のオーディションは見えないようにパネルを立てて行われたが、音に敏感なリディアは、トイレで見かけた若い女性と同じ靴音の演奏者を合格させる。演奏もさることながら、その雰囲気に興味を持ったからだった。
 リディアは師ろ仰ぐアンドリスと食事をし、彼女の自伝を読んだアンドリス・デイビス(ジュリアン・グローバー)から感想の手紙をもらう。宣伝用の帯に使ってもいいと彼は笑う。
 リディアは作曲などの作業用にアパートを借りており、そこでピアノに向かうが、隣家の呼び鈴が聞こえてきて集中できない。外に走りに行くとどこからか女性の叫び声が聞こえたような気がし、さまざまなノイズが彼女をイライラさせていく。
 オーケストラでは高齢の副指揮官セバスチャン・ブリックス(アラン・コーデュナー)が見当違いの意見を述べる。リディアは彼を辞めさせ、フランチェスカを副指揮官にしようと動く。
 そんな中、リディアのアパートに動揺した様子のフランチェスカがやってきて、クリスタが自殺したと泣きながら報告する。リディアは、どうすることもできなかったとフランチェスカをなだめ、クリスタとのメールをすべて削除するよう指示する。
 その夜、オーディションで合格させたチェロ奏者のルガ・メトキナ(ソフィー・カウアー)が気に入らないとシャロンが言い出すが、リディアは取り合おうといない。深夜に物音で目が覚めてしまったリディアがその音を探ると、メトロノームがリズムを刻んでいた。どうしてそんな時間にメトロノームが動いていたのかは分からないままだった。
 翌日、リディアはセバスチャンをクビにする。セバスチャンは「フランチェスカがアシスタントとしてやってきたときから怪しいと思っていた」と捨て台詞を吐く。
 リディアはフランチェスカの忠誠を確かめるため、彼女のパソコンに届いたメールを密かに確認する。そこにはクリスタとのメールが残されていた。フランチェスカにセバスチャンの退団を伝えたリディアは、彼女を後任に考えているとほのめかす。そしてクリスタのメールは削除したかとクギを刺すようにたずねたが、フランチェスカはそれをはぐらかす。
 オルガとふたりでランチを食べに行ったリディアはその若さと大胆さに惹かれ、コンサートで演奏するもう一曲を彼女の好きなエルガーのチェロ協奏曲にすることを決めてしまう。
 リハーサル終わりにそのことを発表し、ソロ奏者は楽団員から選ぶと言いながらオーディションで決めると話すリディア。明らかにひいきしているオルガを抜擢するための出来レースでメンバーたちは不信感を募らせる。
 その雰囲気を察したリディアはフランチェスカを副指揮者にはしなかった。裏切られた形のフランチェスカはリディアのもとを去る。
 そしてある日、クリスタの両親から告発状が届く。彼女の自殺にリディアが関係しているというのだ。財団や弁護士との対応に追われるリディア。彼女は生活音がますます気になるようになっていく。
 そんな彼女の唯一の楽しみはオルガと過ごすレッスンの時間。アパートにやってきたオルガはそこでも自由に振る舞い、終わるとリディアに車で送ってもらうようになっていた。
 フランチェスカはメールで退職届を送り付け、アシスタントを失ったリディアは怒り心頭でシャロンとともに車でフランチェスカのアパートに向かうが、乱暴な運転にシャロンは怒って車を降りてしまう。フランチェスカは既に転居し、リディアは家主に「不法侵入」と注意されてしまう。
 アパートでは隣人の介助に付き合わされ、汚れた手を洗っているとレッスンのためにオルガがやってくる。慌ててガウンを羽織りドアを開けるとオルガも雨に降られずぶ濡れだった。レッスン後、いつもどおり彼女を送っていくと車にぬいぐるみを忘れていったので、リディアはオルガを追って彼女の消えた建物へと入っていく。そこはまるで廃墟のような場所。大型犬のような唸り声が聞こえ、リディアは思わず逃げ出すが、階段で転んでケガをしてしまう。
 リハーサルでは楽団員がリディアの顔の傷に驚くが、リディアは明るく振る舞う。しかし世間では、ジュリアード音楽院でのマックスとのやりとりがSNSに拡散され、リディアに逆風が吹く。
 しかもそれがクリスタを支援するサイトと結びつき、リディアに対する風当たりはますます強くなる。財団側はしばらく静観するというが、支援者との会合に参加せず、自伝の出版会見のためニューヨークへ行くというリディアに、不信感を募らせていく。
 リディアはペトラに「あさってには帰る」と告げ、空港に向かう。ニューヨークへはオルガを連れていったリディア。カプランには決別を宣言され、会見場の外では抗議デモが行われている。オルガを伴って会場にやってきたリディアだったが、オルガは会見を冷ややかに眺めており、誰かに「つまらない」とメッセージを送る。
 ホテルに戻りリディアは、オルガを食事に誘いますが断られる。ニュースでオルガを同伴したことを知ったシャロンからは何度も電話がかかってきますが無視する。その後リディアはオルガが出かけていくのを目撃し、帰りの道中も彼女はずっとスマホをいじっていた。
 ベルリンの自宅ではもう許す気もないシャロンが、結局自分たちは愛情ではなく利害で結びついた関係だったのだと言い放つ。
 シャロンに見捨てられ、ペトラには会わせてもらえず、オーケストラでも財団でももう誰もリディアに見向きもしない。アパートの隣人の母娘はいなくなり、親族がそこを売りに出すためリディアに音を出さないように言ってくる。
 自暴自棄になったリディアはマーラーの交響曲第5番のコンサート当日、指揮者の恰好で会場に侵入する。そして演奏が始まるとズカズカと指揮者に向かって歩いていき、自分の代わりに指揮をしているカプランを殴り倒す。
 小さなマネジメント会社を立ち上げ、リディアは指揮者として再出発する。生まれ育った小さな家に戻ってきた彼女は、そもそもリディアという名ではなくリンダという少女なのだった。
 しばらく身を隠した後、フィリピンで指揮の仕事を得るリディア。その仕事は、仮装したオタクたちが聴衆の、ゲーム音楽のコンサートだった。しかしリディアは真摯に楽譜に向き合う。
 疲れを癒すためマッサージ店を訪れ、まるでオーケストラのように並んだ女性たちの中からひとり選ぶよう指示されたリディアは、なぜか鬼門の〝5番〟と目が合ってしまう。風俗店だということに気づき、店を出たリディアはそこで嘔吐してしまいまう。
 以前と同じように薬を飲み出番を待つリディア。以前と違うのは、映像付きのイベントのため、ヘッドホンをつけているということ。ここでの指揮者は絶対的な独裁者ではなかった。そしてステージでタクトを振る彼女の後ろには、コスプレをしたたくさんのゲームのファンたちが座っているのだった。
 ケイト・ブランシェットは迫力十分で、賞に見合うものだった。
 それでも、リディア・ターという人物は、ここまで身を落とすほどまでに悪行を働いたのかという疑問が拭えない。SNSでの告発で他人を貶めることなど容易な世の中であることは認めるが、リディアの行動と受けた罰があまりにもアンバランスな印象を受ける。
 逆に、リディアを貶めた人物たちを憎みたくなるようなストーリーだ。それは狙ったものだとは思えないが、陰湿極まりないやり口で他人の人生をメチャクチャにするという現代の恐怖を詳らかにしているということは確かだ。
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://gaga.ne.jp/TAR/
<公式X>https://twitter.com/Tar_eiga
<監督・脚本>トッド・フィールド
<製作>トッド・フィールド、スコット・ランバート、アレクサンドラ・ミルチャン
<撮影>フロリアン・ホーフマイスター
<美術>マルコ・ビットナー・ロッサー
<衣装>ビナ・ダイヘレル
<編集>モニカ・ウィリ
<音楽>ヒドゥル・グドナドッティル
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  • 出版社/メーカー: NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
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