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【映画レビュー】「赦し」(原題「DECEMBER」/2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「赦し」(原題「DECEMBER」/2023 日本)
 高校生だった娘の恵未をクラスメートに殺害されて以来、7年もの間、現実逃避のためにアルコール依存症となっていた父親・樋口克(尚玄)のもとに、裁判所からの通知が届く。懲役20年の刑に服している加害者・福田夏奈(松浦りょう)に再審の機会が与えられるという場面から、ストーリーが始まる。
 同作は、未成年犯罪を軸に、愛する娘を殺された元夫婦と、犯行時に未成年だった殺人加害者の3人が、それぞれの 癒やしようのない苦しみに囚われた葛藤を見すえ、魂の救済、すなわち“赦し”という深遠なテーマを描いている裁判劇だ。
 大切な一人娘の命を奪った夏奈を憎み続けている克は、元妻の澄子(MEGUMI)とともに法廷に赴く。もちろん、夏奈の釈放を阻止するための証言するためだ。
 しかし、強い懲罰感情を抑えられない克と、忌まわしい過去に見切りをつけたい澄子の感情は、徐々にすれ違っていく。
 やがて法廷では夏奈の口から彼女が殺人に至ったショッキングな動機が明かされ、澄子は裁判から身を退く一方で、復讐の殺意に駆られた克が起こした行動とは…。
 この国では、未成年犯罪が起きる度に、少年法の是非が議論されては忘れ去られていく。改正少年法により、成人年齢が18歳になったところで、問題の解決にはならない。子どもでも分かることだ。「実名報道の解禁」などに至っては、“今さら感”が強く、事件がある度に、ネット上に“特定屋”が現れ、真偽不明の犯人情報であふれかえるのが現実だ。
 「私刑」という言葉もある。意外ではあるが、日本において、私刑を禁ずる法律ができたのは明治時代で、江戸時代までは、村八分や座敷牢への監禁などは、幕府も黙認していたとされている。こうして考えれば、日本人のDNAには、私刑に対する寛容さが備わっているのではないかとさえ思える。
 アンシュル・チョウハン監督は、エストニアの「タリン・ブラックナイト映画祭」でグランプリ、北米最大の日本映画祭「ジャパン・カッツ」で第1回大林賞を受賞したインド出身日本在住の気鋭監督だ。
 同作では、彼の従来の作風を一変させ、重厚でリアリスティックな語り口による本格的な裁判劇を製作した。法廷における裁判官、弁護士、検察官、証人のやりとりを臨場感たっぷりに描出し、スリリングな展開と、登場人物たちが抱く不安、迷い、痛みをシンクロさせた濃密な世界観を作り上げた。
 怒りと憎悪の呪縛に囚われた主人公の克を演じるのは、フィリピンの巨匠ブリランテ・メンドーサと組んだ主演作『義足のボクサー GENSAN PUNCH』(2021年)で主役を演じた尚玄。
 元妻の澄子役には、数々のドラマに出演するほか、第62回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞した『台風家族』、『ひとよ』(ともに2019年)などで多彩なキャラクターを演じてきたMEGUMI。深い喪失感を共有しながら、対照的なベクトルで裁判の成り行きを見つめる元夫婦の複雑な思いを表現している。
 加えて、澄子の現在の夫役にオリエンタルラジオの藤森慎吾、裁判長役で真矢ミキが脇を固めている。
 それでも、この作品の見どころは、加害者・夏奈役の松浦りょうの演技に尽きるだろう。『眠る虫』(2020年)では、主役として、盗聴癖のある謎の多い難役を演じ切った、その引き出しの多さが、いかんなく発揮されており、殺人罪によって収監され、弁護士との接見においても、裁判所での証言台に立った際においても、表情や顔色ひとつ変えることなく、その声音によって、感情を表現している。殺人を犯した女囚を不気味なまでに自然に演じているのだ。
 そんなつかみどころのない夏奈と、未成年犯罪を罰することの難しさ、そして、『赦し』という邦題が、どうつながっているのかを解き明かしていくのも、同作を観賞する上で、重要なテーマといえるだろう。
<評価>★★★★★
<監督>アンシュル・チョウハン
<脚本>ランド・コルター
<プロデューサー>山下貴裕、茂木美那、アンシュル・チョウハン
<エグゼクティブプロデューサー>サイモン・クロウ、ランカスター文江
<アソシエイトプロデューサー>前田けゑ、澤繁実、岡田真一、木川良弘
<撮影>ピーター・モエン・ジェンセン
<編集>アンシュル・チョウハン
<音楽>香田悠真
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