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【映画レビュー】「茶飲友達」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「茶飲友達」(2023 日本)
2013年10月、高齢者売春クラブが警視庁に摘発された。クラブの会員数男性1000名、女性350名、最高齢は88歳。まさに超高齢化社会の日本が抱える老人の孤独死、介護、おひとりさま問題などの不安が反映された事件。本作は、この事件を基にした社会派群像劇だ。
主人公・佐々木マナ(岡本玲)は高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」を設立。新聞の三行広告に「茶飲友達、募集。」と掲載し、集まってきた男性のもとへ高齢女性を派遣するビジネスを始める。
「ティー・フレンド」に在籍する通称“ティー・ガール”たちの中には、介護生活に疲れた女性、ギャンブルに依存した女性などさまざまな事情を抱える者だ。
ネット広告でもSNSでもなく、新聞の三行広告でPRしている点は、個人的には懐かしい記憶がよみがえる。筆者はかつて、新聞社に勤務していたが、ひと昔前の新聞、特に夕刊紙やスポーツ新聞には、三行広告が必ずといっていいほどあり、その多くが、どこか“いかがわしさ”を感じさせる広告だった。
一方、マナのもとで「茶飲友達」を運営する若者たちもまた、出口の見えない社会の中で閉塞感を抱えて生きている。そんなままならぬ若者や高齢者を束ねるマナは、彼らを「ファミリー」と呼び、擬似家族のような絆を育んでいくのだが…。
高齢者の孤独に寄り添いながら自身も心に寂しさを抱え、ファミリー=“擬似家族”の中に居場所を求める主人公・マナを岡本玲が表の顔と裏の顔を使い分け、見事に演じ切っている。
考えてみれば、「ファミリー」とは、いかにも便利な言葉だ。外から見れば、単なる売春クラブであっても、その言葉によって、その就業員や女性キャストも、全て縛りつける効果があり、共犯者としてしまう。
しかしながら、その「ファミリー」には絆など皆無であり、その正体は、金銭を媒介とする闇ビジネス集団だ。そして本作では、その「ファミリー」が跡形もなく崩れていく様までを劇的に描いている。
監督を務めた外山文治は、長編デビュー作『燦燦-さんさん-』がモントリオール世界映画祭が2014年に正式招待、2021年公開の『ソワレ』のヒットが記憶に新しい。“擬似家族”と化した高齢者専用売春クラブの姿を通して、現代社会に横たわる閉塞感や、高齢者・若者どちらにも共通する「寂しさ」を人情味たっぷりに描き出す。
「孤独を抱えた高齢者と若者たちが家族になった」というテーマの元、「茶飲友達」のビジネスを拡大させていく若者と高齢者の日常、そして、一つの事件から、売春斡旋が発覚し「ファミリー」の平穏な日々が崩れ行くまでを、臨場感たっぷりに再現させている。
妻に先立たれた茂雄(渡辺哲)が新聞の三行広告に掲載された「茶飲友達、募集」の文字を見つける場面から物語はスタートする。その広告の実態は、高齢者専門の売春クラブ「茶飲友達(ティー・フレンド)」の斡旋の入り口でもある。
コールガールに扮した高齢女性とクラブを運営する若者たちの仕事ぶりや、売春クラブの代表・マナが仲間に「うちらはこの街のセーフティーネット」とうそぶき、万引きに手を染める孤独な松子(磯西真喜)に「ファミリーになってくれませんか」などと勧誘していく。噂が噂を呼び、男性会員は1000人を突破するなど拡大していく、一方で後半は、複雑な家庭環境で育ったマナが風俗ビジネスを始めた“本当の理由”が語られていく。
人間には肉体的にも精神的にも欲求が存在するが、性別を問わず、「性欲」というものは衰えることの少ない欲だ。例え、体力的に性行為が不可能であっても、異性に触れたい、触れられたいといった形で、その欲を満たしていくのだ。そのために、清潔感を保ったり、オシャレに着飾ったりするという気遣いに思い至ることも多い。いくら売春を禁止したところで、老人の性欲を規制する力は法律にはない。警察もそれを取り締まることはできないはずだ。
そして最後には、よそ行き用の洋服に着替えた上で、遊ぶ気満々で、「茶飲友達」に電話するが、跡形もなく消えたことを知り、力なくうなだれる茂雄の姿で締めくくられる。
作品を通じて、この国では「人生100年時代」と喧伝されながらも、そのメンタルヘルスにまで踏み込んでいない現代社会の閉塞感や、高齢者・若者どちらにも共通する「寂しさ」が浮かび上がる作品だ。
<評価>★★★★★
<公式サイト>http://teafriend.jp/
<公式Twitter>https://twitter.com/teafriend2021
<監督・脚本>外山文治
<プロデューサー>市橋浩治、外山文治
<共同プロデューサー>宇津井武紀
<アソシエイトプロデューサー>梅田千景、大久保孝一、黒川和則、児玉健太郎
<撮影>野口健司
<録音>宋晋瑞
<美術>中村哲太郎
<装飾>前田巴那子
<スタイリスト>岡澤喜子
<衣装>大場千夏
<ヘアメイク>荒川瑠美
<ヘアメイク監修>岡澤愛子
<編集>小原聡子
<音楽>朝岡さやか
<音響効果>字引康太
<脚本協力>鈴木拓真
<スチール>松井綾音
<制作>柿本浩樹
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