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【映画レビュー】「ヒトラーのための虐殺会議」(原題「Die Wannseekonferenz」/2023 ドイツ) [映画]

【映画レビュー】「ヒトラーのための虐殺会議」(原題「Die Wannseekonferenz」/2023 ドイツ)
今から81年前の1942年1月20日、ドイツ・ベルリンのヴァンゼー湖畔の大邸宅でアドルフ・ヒトラー率いるナチス親衛隊と事務次官たちが国家保安部長官のラインハルト・ハイドリヒ(フィリップ・ホフマイヤー)に招かれ、会議が開かれた。その議題は「ユダヤ人問題の最終的解決」、つまりユダヤ人の“絶滅”だ。
会議には、司法省、内務省、外務省などの官僚が集まってくる。しかし、「やれやれユダヤ人問題か」とつぶやく者、「こいつは好かん、下座だ」と会議の席を勝手に変えてしまう者、「まるで職場の飲み会だ。互いの腹を探り合うのさ。ビールなしでさ」と話す者もいる。まるで、ルーティンと化した日本企業の社内ミーティングのようでもある。
そして、ユダヤ人抹殺のために、移送や強制収容と労働、計画的殺害などといった異常ともいえる議案が淡々と議決される。ホロコースト(大量虐殺)に異を唱える者は誰一人いない。それは、あまりにも異様な光景だ。その間たったの90分。本作では、その場面をありのままに描き出している。人類史上最悪の会議の全貌が80年後、緊張感ある空気感をもって、スクリーンに再現されている。
本作には、ヒトラーは登場しない。それどころか声もなく、肖像画すらない。そして、ヒトラーから絶大な信頼を得、その運命をも共にしたナチ党のナンバー2、ヨーゼフ・ゲッベルスも同様だ。
監督のマッティ・ゲショネックは「ヨーロッパにいる全ユダヤ人の駆逐が、冷静な会話によって議論され決められていく様子を事実にもとづいて描こうと思った」とコメントしている。忠実に基づくからこそ、演出らしい演出は皆無といっていい。
さらには、本作には音楽が挿入されていない。会議での様々な意見や会話が延々と写し出されている。そのため、いつしか作品に没入し、会議にオブザーバーとして出席しているような気分にさせられる。それはいわば、観衆をも“共犯者”として、作品に参加させるという試みでもあろう。
この「ヴァンゼー会議」をきっかけとして、ドイツ国内や同盟国から東ヨーロッパに散らばる絶滅収容所へのユダヤ人強制送還が始まる。ストーリーは、ナチス親衛隊中佐のアドルフ・アイヒマンヨハネス・アルマイヤー(ヨハネス・アルマイヤー)による会議の議事録に基づいているとされている。これは1947年に米軍がドイツ外務省の文書の中から発見したものとされ、ホロコーストに関するたった1部の重要文書だ。
しかしながら、その真贋についても定かではなく、一部のホロコースト否認論者は、これを「偽造文書」だと主張している者もいるという。ただ一つ、確実に言えることは、この会議にヒトラー自身は出席していないことだ。
ここで1つの疑問が沸く、独裁者ヒトラー不在のまま、なぜこうした重大議案を決定されたのかということだ。結果的に、この会議に出席していたわずか15人の官僚によって、何百万人ものユダヤ人の命が奪われているのだ。そこにあったのは、ヒトラーに対する得も言われぬ恐怖心か、行き過ぎた忖度か…。優秀が故に、自身の立場やメンツ、省庁の利権、パワーバランスを無意識のうちに優先させてしまう。時代は違えども、現在のロシアの政治中枢の姿と重なる。
ドイツにおいて、こうしたホロコーストを題材とした作品は数多く制作されている。本作に関していえば、第二次大戦におけるドイツの立ち位置、ナチ党が率いていた内政の状況、そして、この会議によって決定された後の、アウシュビッツなどで繰り広げられたユダヤ人大量虐殺の歴史を大まかに知っておく必要はあろう。
本作はドイツ人によって製作されたドイツの闇の歴史に触れた作品だ。第二次大戦において、同じく敗戦国だった我が国においては、戦争の悲劇を描いた作品は多いものの、旧日本軍による戦争犯罪に触れる作品はまだまだ少ない。敗戦の苦難を記録することはもちろん重要ではあるが、そこに至るまでの、日本政府や軍部の数々の失政を指摘する作品が製作されることを求めてやまない。本作を観賞し、そんな思いを強く抱いた。
<評価>★★★★★
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<監督>マッティ・ゲショネック
<製作>ラインホルト・エルショット、フリードリヒ・ウトカー
<製作総指揮>オリバー・ベルビン
<脚本>マグヌス・ファットロット、パウル・モンメルツ
<撮影>テオ・ビールケンズ
<美術>ベルント・レペル
<衣装>エスター・バルツ
<編集>ディルク・グラウ
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