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【映画レビュー】「ジョン・レノン 失われた週末」(原題「The Lost Weekend: A Love Story」/2022 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「ジョン・レノン 失われた週末」(原題「The Lost Weekend: A Love Story」/2022 アメリカ)
 ジョン・レノン、および「ザ・ビートルズ」といえば、未だにロック界の神であり、ビートルズとして、わずか10年の活動期間にも関わらず数々の伝説を残し、ジョンがソロとなり、米国に移住した後も、その思想が多分に含まれた歌詞に多くの若者が惹きつけられ、社会をも動かす存在となった。
 あまりの社会的影響の大きさに、当時のニクソン大統領からは目を付けられる。その行動は監視され、自宅電話も盗聴されていたともいわれている。
 さらに、ビートルズ全盛期の1966年には、英紙のインタビューで、「僕らはキリストより人気がある」と発言。そのひと言は全世界で“炎上”し、キリスト教国ではビートルズの楽曲を放送禁止にしたほか、抗議声明を出した政府も現れ、その声は、当時のローマ教皇・パウロ6世の耳にまで入り、その批判は、ジョンが謝罪会見を開くまで続いた。
 ジョンの妻といえば、真っ先にオノ・ヨーコの名前が挙がるが、ジョンが既婚者であるにも関わらず、前妻・シンシアを旅行に行かせた間に同棲生活を始め既成事実を作り、離婚を認めさせた、いわば“略奪婚”の形で結ばれている。
 ジョンと同じくロックミュージシャンの道を選んだジュリアン・レノンは、シンシアとの子であり、離婚を機にシンシアのもとで育てられたのだが、物心つく年齢となるまで、父親であるジョンとの交流は全くなかった。
 本作は、ニューヨークの移民街・スパニッシュハーレムで生まれ育った中国人移民の娘で、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの個人秘書を務めた女性メイ・パンの告白を中心に、ジョンと愛人関係にあった、いわゆる「失われた週末」と呼ばれる18か月の期間に何があったのかを、本人の証言を基に描いたドキュメンタリーだ。
 ビートルズからのジョンの名曲や貴重なアーカイブ映像、ジョンとメイのプライベート写真、絵心もあるジョンが描いたユニークなイラストをスクリーンに映し出しながら、その真実に迫っている。
 メイは、日本で言えば短大にあたるコミュニティカレッジを卒業後、押しかけるように、ビートルズが設立したレコードレーベル「アップルレコード」で働くことになる。音楽関連ところか、何の就業経験もない彼女は、面接において「受付は?」「書類整理は?」「電話対応は?」といった質問に対し、全て「出来ます!」と詭弁を弄し、潜り込むように入社を果たしたのだ。
 しかし、彼女の働きぶりは目を見張るもので、たちまちジョンとヨーコの秘書兼雑用係の座に就く。
 ところが、当時すでに倦怠期にあったジョンとヨーコの狭間で、彼女は2人の調整役として難しいタスクをこなすことになる。メイにとっては2人とも雇い主であり、“あちらを立てればこちらが立たぬ”といった状況の中、持ち前の世渡り上手さで、何とか夫婦関係の破綻を防ぎ、自らの立場も築いていたのだ。
 風向きが変わったのは1973年秋から75年初頭にかけての18か月。ジョンが新作アルバム『マインド・ゲームス』のプロモーションのため、ロサンゼルスに滞在する。メイは秘書兼プロダクションアシスタントとしてジョンに同行する。
 なぜジョンが西海岸み向かうことになったのか。それはジョンが当時、刑事訴追され、政治的活動により英国への強制退去の可能性があったからだ。結果的にその行動は奏功し、その間、“怨敵”のニクソン大統領はウォーターゲート事件によって、米国史上初かつ唯一の任期中の辞任という朗報も飛び込んでくる。
 ロサンゼルスでのメイは、生き割れの状態だったジョンの息子・ジュリアンとの再会の場を設けるなど、真摯に自らの職務を遂行し、エルトン・ジョンともジョイントした『マインド・ゲームス』も大ヒット。さらに、デヴィッド・ボウイやハリー・ニルソン、ミック・ジャガーといったロック界の大物とのセッション、リンゴ・スターやポール・マッカートニーとの会など、ソロとして活動してきた中で最も充実した時期を過ごしている。
 一方でジョンは、プライベートでは酒とドラッグに溺れる日々を送っていた。ヨーコとの息苦しい生活から解放されたことで、道を誤ってしまった印象を受ける。そんなジョンに対し、メイが苦言を呈することもなかった。
 そんな時期を「失われた」と形容されたのはなぜだろうか。ジョンは何を“失った”のか。ジョンに失ったものがあるとすれば、それはヨーコからの愛なのだろうか。
 メイの証言では、ロス行きを勧めたのは他ならぬヨーコだったという。ヨーコの立場に立てば、もはや“制御不能”となったジョンを半ば見限り、その世話をメイに丸投げしたようにも見える。
 作中には愛息ジュリアンも登場し、ロスで初対面することになった父ジョンとの思い出を振り返っている。その出来事がきっかけで、この父子は定期的に会うようになり、ジュリアンにはクリスマスプレゼントとしてギターとドラムマシンを贈られ、ミュージシャンへの道を志すことになる。メイは間接的に、「ミュージシャン」ジュリアン・レノン誕生の立役者となっているのだ。それはストーリーの最終盤、2人が揃って登場し、ハグを交わすシーンからも見て取れる。
 しかし、物事には始めがあれば終わりもある。ドラッグに溺れ、治療が必要となったジョンは、ニューヨークに戻る決意をする。酒も断ち、音楽にもう一度真摯に向き合う。
 ジョンのファンにとっては公然の秘密として語り継がれている「失われた週末」だが、実のところ、全てはヨーコの思惑通りに物事が進められていたのではなかったかという疑念が湧き上がる。
 作品を通じて、ヨーコはどこか腹に一物持つような人物として描かれている。メイはニューヨーク生まれとはいえ中国人。“玉の輿”に乗った日本人のヨーコに対し、羨望とも恨みともいえない複雑な感情があったのではないだろうか。
 この18か月のお陰で、共作アルバム『ダブル・ファンタジー』を発表するのだが、その直後の1980年12月8日、ジョンが自宅のダコタ・ハウス前で、その贅沢な暮らしぶりに反感を抱いていたマーク・チャップマンの凶弾により40歳の若さで亡くなる。ヨーコも撃たれそうになったが、すんでのところで難を逃れる。
 ジョンが天に召されたことで、ジョンとヨーコは「おしどり夫婦」としてのイメージが固定化されることになる。しかしその3年後、メイがそのイメージに冷や水をぶっかけるように、回想録『Loving John』を出版(後に本作と同じ『John Lennon:The Lost Weekend』に改題)を出発し、ジョンとの不倫関係を明らかにする。
 ジョンとヨーコの秘書を辞してからは、音楽界から離れ、ジュエリービジネスで成功を収めていたメイ。こうした“暴露本”を出してあぶく銭を手にするメリットはない。逆に、ジョンのファンから狙われ、身の危険に晒されるデメリットの方が多いくらいだ。
 『失われた週末』と題した本作の原作を著す動機となったと考えられるとすれば、その期間が彼女の目から見て、ジョンが最も充実していた時期であるという自負があったからではないだろうか。ヨーコも、それを見越してロス行きを黙認していたとすれば、先見性に優れた名プロデューサーということもできる。
 ヨーコは昨年、90歳になったのを機に、ジョンと共に過ごし、50年間も住んだニューヨークのダコタハウスを離れ、1978年に購入したニューヨーク州フランクリン近郊の農場に移住。健康に不安を抱え、24時間介護態勢のもとで車椅子生活をしている。
 しかしながら、“女は灰になるまで”との例えもあるように、ヨーコにも女性の意地があるはずであり、本作を目にしたとしたら、いい気分ではいられないはずだ。
 それでも出版に至ったのは、長年、都市伝説的にファンの間で語り継がれてきた謎の18か月について、存命のうちに明らかにしておこうというメイの思いがあったからではないか。そして、映画化された本作は、そのファンの疑問に完全に応える形となっている。
 ジョンとヨーコ、そしてメイも交えたドロドロとした関係性に、ジョンの一部ファンからは「こんな素顔は見たくなかった」という反応も予想される本作。しかし、ジョンのだらしない一面が垣間見え、「人間ジョン・レノン」を目の当たりにできる貴重な作品ともいえる。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://mimosafilms.com/lostweekend/
<公式X>https://twitter.com/johnlennonLW
<公式Instagram>https://www.instagram.com/mimosafilms/
<公式Facebook>https://www.facebook.com/mimosafilmsinc
<公式TikTok>https://www.tiktok.com/@mimosafilms
<監督>イブ・ブランドスタイン、リチャード・カウフマン、スチュアート・サミュエルズ
<製作>イブ・ブランドスタイン、リチャード・カウフマン、スチュアート・サミュエルズ、クリスタル・カリー
<製作総指揮>ミッキー・パーセル、ペギー・テイラー、エリック・デウィット、ランディ・フィックス、シェリー・フィックス、ケイト・モリス、ハンス・モリス、フレッド・フリーマン、ハリ・マーク、ボブ・フランシス、ジョナサン・グールド
<音楽監修>ハワード・パー
#ジョン・レノン #失われた週末 #映画 #イブ・ブランドスタイン #リチャード・カウフマン #スチュアート・サミュエルズ #オノ・ヨーコ #メイ・パン #ジュリアン・レノン #ポール・マッカートニー #デビッド・ボウイ #エルトン・ジョン #ビートルズ #ドキュメンタリー #ミモザフィルムズ







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【映画レビュー】「オペレーション・ゴールド」(原題「Paradise City」/2023 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「オペレーション・ゴールド」(原題「Paradise City」/2023 アメリカ)
 史上最大の犯罪帝国を築いたアメリカの麻薬王バックリー(ジョン・トラボルタ)。賞金稼ぎのイアン・スワン(ブルース・ウィリス)は、10年間も追っていたバックリーをついに追い詰めるが、ハワイ・マウイ島の海岸で、バックリーの子分たちとの銃撃戦となり、海に沈む。
 イアンの息子で、父と同じ賞金稼ぎをする息子のライアン・スワン(ブレイク・ジェンナー)は、イアンの元相棒だったロビー(スティーブン・ドーフ)と共にバックリーを探すとともに、バックリー一味への復讐を計画する。
 一方、サメに食われたイアンの死体が上がり、死んだと思われていたが、実は原住民によって救われており、死体は別人にものに差し替えられていた。ライアンとの再会を果たしたイアンは、偽名を使い。ハワイを麻薬組織の拠点にしようとするバックリーを追う。
 2大スターのジョン・トラボルタとブルース・ウィリスがダブル主演を務めるクライムアクション。アメリカの麻薬王と彼を追う賞金稼ぎの男の10年以上の因縁と対決を描いている。2022年に失語症と認知症のために引退したウィリスが、引退直前に残した一作だが、ジョン・トラボルタをはじめとするキャストやスタッフの協力もあって、アクションスターとしてのイメージを保ちつつ、その肉体には衰えがないことを示している。
 ストーリー自体は、スピーディーかつシンプルなもので、92分という上映時間もちょうどいい印象。ブルース・ウィリスの不死身ぶりも健在で、さすがのガンアクションを披露している。最終的にイアンはバックリーに射殺されるが、その敵をライアンが討つというエンディングも、ウィリスの引退を感じさせるものだ。
 典型的なドンパチ映画で、B級色のする作品なのだが、ジョン・トラボルタとブルース・ウィリスが、『パルプ・フィクション』以来、29年ぶりの共演を果たしたという事実だけで、製作した価値のある作品といえるのではないだろうか。エンドロールとともに映し出される“NG集”も見どころ1つだ。
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://operation-gold.jp/
<監督>チャック・ラッセル
<脚本>コーリー・ラージ、エドワード・ドレイク、チャック・ラッセル
<製作>コーリー・ラージ
<製作総指揮>ジョーダン・イェール・レビン、ジョーダン・ベッカーマン、スティーブン・J・イーズ、マシュー・ヘルダーマン、ウィリアム・V・ブロミリー、シャナン・ベッカー、ジョナサン・サバ ネス・サバン、ブライアン・オシェア、ナット・マコーミック、ジョバンナ・トリシッタ、リー・ブローダ
<撮影>オースティン・F・シュミット
<美術>オドレイ・ルドゥー
<衣装>カミーユ・ジュメール
<編集>ピーター・デバニー・フラナガン
<音楽>サム・ユーイング
#オペレーション・ゴールド #映画 #チャック・ラッセル #コーリー・ラージ #ジョン・トラボルタ #ブルース・ウィリス #スティーブン・ドーフ #ブレイク・ジェンナー #プライヤー・スワンドクマイ #アクション #賞金稼ぎ #麻薬王 #銃撃戦 #ハワイ #AMG







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【映画レビュー】「ランサム」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「ランサム」(2023 日本)
 韓国のアイドルグループ「超新星」(現・SUPERNOVA)の元メンバー、ユン・ソンモを主演に立て、数々のアウトローを描いた室賀厚を監督に、プロデューサーには、ヤクザ映画から人間ドラマ、はたまた『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(1989)まで、幅広く手掛けている奥山和由を迎えて製作されたバイオレンスクライムアクション作品。
 ある日、19歳の女子大生・金山由美(吉田玲)が誘拐される。由美は裏社会を牛耳る金山省吾(小沢仁志)の愛娘。実行犯は韓国人のイ・ソジュン(ユン・ソンモ)など5人。犯人グループは金山に、「現金で払えるギリギリの額」として1億円の身代金「ランサム」を要求する。
 しかし、誘拐事件と身代金を巡っては、犯人グループ以外の登場人物の様々な思惑が絡み、犯人たち、省吾とその妻・芳江(紺野千春)などの裏切りや復讐劇が展開され、各々の目的を胸に潜ませながら、互いが探りあう中、命を賭した身代金奪戦が始まる。
 “Vシネマの帝王”こと小沢仁志が悪玉として出演していることで、何とかバイオレンスアクションの体裁を保ってはいるが、何しろ誘拐グループがポンコツ過ぎて、由美に脱走を許すなど、ツッコミどころ満載。日本映画初出演にして主演のユン・ソンモが不死身すぎる点も失笑してしまうほど。それもそのはず、ソンモ演じるソジュンは、省吾が経営する韓国語教室の先生という表の顔がありながら、実は省吾のスパイとして犯行グループに加わっていたからだ。
 ストーリー自体は一捻りが効いていて、“黒幕”は由美の継母であり、省吾の妻・芳江だった。その芳江に、省吾が死の制裁を下すというラストも、意外性のあるものだった。
 ただ、場面の描き方に粗が目立ち、登場人物のキャラクターも今一つ掴めないままにドンパチが始まり、犯人グループのアジトを突き止めた警察も交えて、混乱のうちにソジュン以外の誘拐犯は死に、由美の命は救われるのだが、事件の重要参考人であるはずのソジュンが、何もなかったかのように韓国語教室の先生に復帰している点で、ストーリーが破綻していると言わざるを得ない。ソジュンに対し、省吾が全幅の信頼を置いていた理由が、省吾も実は韓国人だったという事実のみで、説得力に欠ける。
 残念ながら“B級映画”の範疇に入る作品であり、かつてのVシネマの質を超えることはなかった。せっかく小沢仁志をキャスティングしているのだから、彼にもひと暴れしてもらいたかったという印象だ。
<評価>★☆☆☆☆
<公式X>https://twitter.com/ransom_movie
<監督>室賀厚
<製作総指揮>奥山和由
<脚本>西澤悟、奥西隼也、室賀厚
<撮影>田宮健彦
<音楽>堀田ゆき
<録音>河村永徳
<メイク>栗田佐智代
<撮影助手>宮原かおり
<ビジュアルエフェクト>平井将人
<スペシャルエフェクト>森本浩
#ランサム #映画 #室賀厚 #奥山和由 #ユン・ソンモ #小沢仁志 #吉田玲 #中村優一 #寺中寿之 #長濱慎 #紺野千春 #小林祐久 #行永浩信 #格清俊光 #鶴西大空 #坂巻有紗 #中原翔子 #川下大洋 #永倉大輔 #誘拐 #身代金 #裏社会 #超新星 #SUPERNOVA #クライムアクション #R15 #エクストリーム

ランサム [DVD]

ランサム [DVD]

  • 出版社/メーカー: アメイジングD.C.
  • 発売日: 2024/01/06
  • メディア: DVD






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【映画レビュー】「クーダ 殺し屋の流儀」(原題「The Enforcer」/2022 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「クーダ 殺し屋の流儀」(原題「The Enforcer」/2022 アメリカ)
 マイアミで暗躍するベテランの殺し屋クーダ(アントニオ・バンデラス)。冷徹な仕事ぶりは完璧だが、気難しい性格で、別れた妻・オリビア(ナタリー・バーン)との娘・ローラ(ビビアン・ミルコバ)との距離感も微妙な父親の顔も持つ男だ。
 ストリートファイトで日銭を稼ぐ青年ストレイ(モージャン・アリア)をスカウトし、犯罪組織の女ボス・エステル(ケイト・ボスワース)の下で働くことになり、ベテランのクーダは、ストレイに汚れ仕事を教え込むことになる。
 ある日、里親のもとから家出したという少女ビリー(ゾリー・グリッグス)を助けたクーダは、自分の娘と同じ15歳の彼女に父親のような感情を抱くが、ビリーは誘拐されてしまう。その黒幕がエステルと知ったクーダはビリーを救うべく、ボスに反旗を翻し、追い詰めていくサスペンスアクション作品だ。
 何と言ってもアントニオ・バンデラスのクールな外見の奥底に優しい心を秘めた殺し屋、さらに、元妻や実の娘とも関係に悩む1人の男を演じ、その渋い魅力を遺憾なく発揮している。
 ストーリー自体に、特筆すべきオリジナリティーはないものの、シンプルかつ、テンポ良く進み尺も91分とちょうど良く、B級アクション作品にありがちな、“やり過ぎ”感がないのも好感が持てる。
 既に還暦を越えているバンデラスだが、彼のカッコ良さやベテラン感を十二分に引き出した作品といえ、ファンであれば必見だろう。
 クーダが、マイアミの裏社会を牛耳り、ビリーの性的サービスを強要していたフレディ(2チェインズ)のアジトに殴り込む。ビリーを救うことに成功したものの、クーダも致命傷を負ってしまう。死の直前、クーダはローラに最期のメッセージを残し、弟子だったストレイも、殺し屋稼業から足を洗い、恋人のレクサス(アレクシス・レン)とビリーとともに自動車工場を開くエンディングも心地いいものだ。
<評価>★★★☆☆
<監督>リチャード・ヒューズ
<脚本>W・ピーター・イリフ
<製作>ヤリフ・ラーナー、ロブ・バン・ノーデン、ナタリー・バーン
<製作総指揮>アビ・ラーナー、W・ピーター・イリフ、トレバー・ショート、ボアズ・デビッドソン、タナー・モーブリー
<撮影>カラン・グリーン
<美術>ジョナサン・マッキンストリー
<衣装>イリーナ・コチェバ
<編集>ダミアン・F・ゴメス、マティアス・モルヘデン
<音楽>ジョルジョ・ジャンパ
<音楽監修>ライアン・スベンセン
<インターネットムービーデータベース>https://www.imdb.com/title/tt14857730/?ref_=nv_sr_srsg_2_tt_6_nm_2_q_The%2520Enforcer
#クーダ #殺し屋の流儀 #映画 #TheEnforcer #リチャード・ヒューズ #W・ピーター・イリフ #アントニオ・バンデラス #ケイト・ボスワース #モージャン・アリア #アレクシス・レン #ゾリー・グリッグス #ナタリー・バーン #ビビアン・ミルコバ #2チェインズ #アクション #クライム #殺し屋 #PG12







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【映画レビュー】「リボルバー・リリー」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「リボルバー・リリー」(2023 日本)
 長浦京のハードボイルド小説を綾瀬はるか主演で映画化したアクションサスペンス映画。大正時代を舞台に、“映画史上最強のダークヒロイン”といわれる凄腕の元女スパイがある少年を助けたことにより陸軍が絡む壮大な陰謀に巻き込まれていく様を描いている。
 明治末期、日本はスパイを養成する「幣原機関」を台湾に創設。この機関出身のスパイで、かつて37件の事件に関わり57人を殺害、「幣原機関の最高傑作」とまで称された、“リリー”こと女諜報員・小曾根百合(綾瀬はるか)がいた。
 関東大震災から1年が経った1924年(大正13年)8月27日。秩父の実業家・細見欣也(豊川悦司)宅に突然陸軍の軍人たちが押しかける。陸軍大尉・津山ヨーゼフ清親(ジェシー)は家政婦たちに欣也の居場所を尋ね、知らないと言うと軍人たちは欣也の家族や家政婦たちを次々と殺し、ただひとり難を逃れたのは欣也の息子の仁成(羽村仁成)だけだった。
 百合は東京・墨田区の歓楽街・玉の井で仲間の奈加(シシド・カフカ)や琴子(古川琴音)と共に、カフェ「ランブル」を営んでいた。細身一家殺人事件は新聞でも取り上げられ、百合の旧知の人物でかつて欣也に仕えていた筒井国松(石橋蓮司)が犯人とされたが、裏には何かあると感じた百合は列車に乗って秩父に向かう。
 国松が住んでいた小屋には無数の銃撃の痕があり、周囲は陸軍の軍人たちが捜索していた。百合は引き上げようと帰りの列車に乗ったところ、軍人に追われていた慎太を見かけ、軍人たち方の追っ手から助ける。慎太は欣也から“あるもの”を託されており、「玉の井の小曾根百合」を頼るよう命じられていた。
 百合は慎太を連れて列車から飛び降りて脱出し逃げ続ける。百合は愛用の拳銃「S&W M1917リボルバー」を取り出し、陸軍の軍人たちを次々と倒していく。あえて軍人たちの急所を外すほどの銃の腕前を誇る百合に、仁成は驚く。
 百合は電話で「ランブル」の常連客で、弁護士の岩見良明(長谷川博己)に連絡し、欣也や国松の素性などを調べるよう依頼する。一方、津山は上司である小沢大佐(板尾創路)に、慎太が持っている“あるもの”を回収するよう厳命されていた。
 慎太が持っている“あるもの”とは、入金記録が記された機密文書。百合と慎太は津山、そして「幣原機関」での百合の後輩諜報員・南始(清水尋也)に追われ、機密文書を奪われてしまう。そしえ、百合と慎太はなんとか「ランブル」に帰り着く。
 岩見は欣也について調べた結果を百合に語る。欣也は「ランブル」の常連客で元陸軍中将の升永達吉(橋爪功)と知り合いで、岩見は升永に会いに行ったところ、偶然にも海軍に勤めていた時の上司だった山本五十六(阿部サダヲ)と再会する。升永は欣也の素性は知らないとしながらも、欣也は陸軍の相談役をしており、陸軍の軍資金を資産運用していた。
 欣也は国家予算の1割に相当する1億6000万円もの大金を上海の銀行の自分名義の口座に預けており、口座は1年おきに更新しないと預金がすべて銀行のものになるという「バンシング」という特殊な契約を結び、次の更新の期限まであと10日に迫っていた。
 百合は陸軍の狙いは欣也の口座の金を使って新たな戦争を起こすことだと察する。そんな中、慎太は「ランブル」と繋がりのある運送業者「平岡運輸」の五代目・平岡(佐藤二朗)にさらわれてしまう。平岡は駆け付けた百合に、陸軍は百合に懸賞金をかけていることを伝え、何やら耳打ちをした後、慎太を解放する。
 百合たちが「ランブル」に戻ると、今度は津山や南が率いる陸軍軍人たちが押し寄せてくる。応戦する百合に、中国の馬賊の出身である奈加もライフルを構えて加勢する。派手な銃撃戦の末、百合は負傷しながらもなんとか陸軍を退ける。
 口座を更新するのに必要なのは南に奪われた文書ではなく、慎太の指紋、そして暗証番号だった。慎太が文書を入れていた手ぬぐいには暗証番号を解くための暗号文が刻まれており、岩見は暗号を解読し、そこからある寺の住所を割り出す。岩見は翌日、百合たちと待ち合わせすることにし、自らは陸軍と海軍の仲の悪さを利用すべく海軍の山本五十六に相談するが、途中で拉致されてしまう。
 岩見が連れていかれたのは、内務省の警備局員・植村(吹越満)のもとだった。植村は岩見に、百合の知られざる過去を打ち明ける。かつて植村の部下だった百合は、台湾で「幣原機関」のトップだった水野寛蔵という男と愛し合っていた。水野のもとには当時、彼に仕えていた国松と奈加の姿もあった。
 百合は水野との間に子を出産していたが、水野が不在の間に隠れ家を襲撃され、百合は負傷し、子は流れ弾で命を落としていた。それがきっかけで、百合はスパイを辞め、国松と共に日本に帰国したのだった。水野は百合が帰国した後に病死したとされていたが、植村は水野の病死は表向きだとした上で、岩見に水野の秘密を打ち明ける。
 関東大震災からちょうど1年が経った翌日、待ち合わせの寺に向かった百合と慎太は岩見と合流、寺の人に身分を証明するものを求められる。慎太が家族写真を見せると、百合は欣也の正体が実は水野だったことに気付く。
 銀行の暗証番号は慎太の母の骨壺の中にあり、岩見は百合に、水野は死を偽装して「細見欣也」の偽名を名乗っていたこと、水野の正体である欣也の目的は、日本を武力ではなく経済で平和的に統治することだったことを語る。
 事件当時、陸軍の目を逃れた慎太は国松に助けを求める。そこに上海に行っていたはずの欣也が現れ、道は全て封鎖されていることを告げる。欣也は慎太に文書を入れた手ぬぐいと愛用の拳銃を託し、百合を頼るよう告げて逃がすと、国松と共に陸軍の追っ手を迎え撃つが、国松は殺され、欣也も自決する。
 欣也の覚悟を知った百合は慎太に形見の銃を託し、撃ち方を教えると、欣也は命がけで争いのない世界を作ろうとしていたことを語る。一方、岩見は山本五十六のもとに向かい、慎太と百合の保護を求める。山本五十六は口座の金は全て海軍が預かると申し出る。
 百合と慎太は海軍に電話をかける。山本五十六は、海軍は迎えに行けないので明日の朝9時までに海軍省に来るよう指示し、海軍が保護するのは慎太だけだと告げる。岩見は約束が違うと抗議するが、山本五十六は聞き入れなかった。百合の電話は陸軍によって傍受され、小沢は、犬猿の仲である海軍省の周りを包囲し、何としても慎太を捕らえるよう津山に命じる。

 百合と慎太は海軍省へ向けて出発、途中で百合と慎太は津山に遭遇、津山は、欣也は腰抜けだったと挑発する。慎太は拳銃を構えたが、どうしても撃つことができず、代わりに百合が津山を射殺。百合は慎太を慰め、行きつけの滝田洋装店で真新しい白いドレスに着替える。百合は全てが終わったら一緒に春風堂のマロングラッセを食べようと慎太と約束する。
 百合と慎太のもとに奈加と琴子が武器を持って駆け付け、2人を援護する。百合は途中の日比谷公園で南と対峙し、死闘の末に南を倒す。百合は白いドレスを血に染めながら慎太と共に走り、海軍省の門の近くまで辿り着くが、そこは既に小沢率いる陸軍が完全に封鎖していた。
 百合は怖気つく慎太に「あなたは生きるのよ」と励ます。百合は奈加と琴子、そして山本五十六から銃を借りた岩見と共に必死の援護射撃を繰り広げ、重傷を負いながらも戦い続ける。そして慎太は海軍省の門に辿り着き、山本五十六は小沢に海軍に銃を向ける陸軍を一喝。小沢はやむなく撤収する。
 山本五十六は百合に10年は開戦を遅らせること、その間に戦争を回避して日本が生き残れる道を探すことを約束する。百合はその場を後にし、慎太は海軍に保護される。一方、小沢は事態の収拾を図るが、現れた平岡が小沢を射殺し、陸軍に「小沢は作戦失敗の責任を取って自決した」と伝える。
 事件から半年後、慎太は海外へ留学することになる。百合は慎太と共に約束の春風堂のマロングラッセを食べ、慎太は父との約束を果たすためにしっかり勉強して戻ってくると百合に伝える。
 それからしばらくして、百合は岩見と共に列車に乗っていた。岩見は百合への秘めていた想いを打ち明けようとしたその時、片目に眼帯をした謎の男(鈴木亮平)が拳銃を手に百合の前に現れる。百合はすかさず拳銃を取り出し、男に向けて発砲したのだった。
 映画化不可能といわれたハードボイルド小説を、行定勲の監督・脚本によって、戦争を回避すべく、少年を守る姿。陸軍と海軍の確執。そして百合の過去など、サイドストーリーも詳細に描かれている。
 もちろん本作最大の見せ場は綾瀬はるかのアクションシーンなのだが、それだけではない重厚さが、そこにはある。鈴木亮平演じる暗殺者が現れ、それを秒で退治するラストシーンにも空白を感じさせるものだ。
 明治から大正にかけて、日本が軍国化していく様も伺え、国家としてまだ未成熟な面も見える。現代劇と時代劇の間をいくようなプロットは、好き嫌いが分かれそうでもあるが、その中心にいた、強く美しい綾瀬はるかを始め、豪華キャストによって、引き締まったストーリーとなっている。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://revolver-lily.com/
<公式X>https://twitter.com/revolver_lily
<公式Instagram>https://www.instagram.com/revolver_lily/
<監督>行定勲
<脚本>小林達夫、行定勲
<企画>紀伊宗之
<プロデュース>紀伊宗之
<エグゼクティブプロデューサー>和田倉和利
<ブロデューサー>高橋大典、石塚紘太、溝畠三穂子
<キャスティング>杉野剛
<音楽プロデューサー>津島玄一
<ラインプロデューサー>竹岡実
<撮影>今村圭佑
<照明>中村裕樹
<録音>伊藤裕規
<美術>清水剛
<装飾>田口貴久
<衣袋デザイン監修>黒澤和子
<ヘアメイクデザイン>稲垣亮弐
<編集>今井剛
<音楽>半野喜弘
<シニアVFXスーパーバイザー>尾上克郎
<スタントコーディネーター>田渕景也
<原作>長浦京「リボルバー・リリー」(講談社) https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000212888
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【映画レビュー】「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(原題「Mission:Impossible–Dead Reckoning Part One」/2023 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」(原題「Mission:Impossible–Dead Reckoning Part One」/2023 アメリカ)
 「スパイ大作戦」をベースに、トム・クルーズ演じるイーサン・ハントを主役にした映画「ミッション・インポッシブル」シリーズ。本作はその7作目であると同時に、集大成となる2部作の前編。
 監督は『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』に続きクリストファー・マッカリー。IMFの上官ユージーン・キトリッジ(ヘンリー・ツェニー)の再登場や、列車の上での格闘シーンなど、1作目『ミッション:インポッシブル』にオマージュを捧げるような展開も、見どころの一つだ。
 ベーリング海で、AIを搭載し、2本の十字の鍵を組み合わせることによってアクセスが可能になるロシアの潜水艦「セヴァストポリ」は、アメリカの原子力潜水艦の接近を感知し、相手に探知されずに任務を遂行できるはずがなぜか魚雷を発射されてしまう。囮を発射するも機能せず、仕方なく魚雷を撃つが、相手の攻撃をかわそうとした瞬間、魚雷も敵艦も消えてしまう。しかし、発射した魚雷が戻ってきて艦を直撃。生存者はなく、鍵を首から下げた遺体が海に浮く。
 アムステルダムに入ったイーサンは、かつての仲間イルサ・ファウスト(レベッカ・ファーガソン)が「〝それ〟(The Entity)」と呼ばれるAIの鍵を持っていると知らされ、アメリカ政府がその鍵を求めていると指示される。イルサには賞金がかけられ、イエメンの砂漠で孤軍奮闘していた。無事にイルサと合流したイーサンは鍵を受け取り、彼女自身は死んだことにしてする。
 ワシントンでは、IMF長官であるユージーン・キトリッジ(ヘンリー・ツェニー)は“コミュニティ”と呼ばれるアメリカ国防総省のメンバーたちと“それ”によるAI汚染の危機について話し合う。各国は情報攻撃に備えデータを急ピッチでアナログへと移行させ、どの国も“それ”を得ようとする。
 ロシアの潜水艦でテストが行われていたという事実をつかんでだ国家情報長官のデンリンガー(ケイリー・エルウィズ)に対し、キトリッジはその鍵のうち1本を手に入れるミッションが進行中だと説く。その時、セキュリティをかいくぐって会議室に入ってきたキトリッジの副官は、黙ってガスマスクを手渡し、室内に催眠ガスを充満させる。
 その副官とは、マスクを被ったイーサンだった。イーサンはイルサを危険な目に遭わせたキトリッジに怒りをぶつけ、独自に“それ”を追うと言ってキトリッジに変装して去る。
 UAEのアブダビ国際空港では、もう1本の鍵の取引を阻止しそれを手に入れるべくミッションを開始するイーサンたち。そこに彼を捕まえようとするCIAのエージェント、ブリッグス(シェー・ウィガム)とドガ(グレッグ・ターザン・デイヴィス)たちも現れる。鍵を持つ男性を追い、それを手に入れ同じ飛行機に乗る計画だったが、女スリによって鍵が盗まれてしまう。
 その女は、グレースと接触したイーサンに、男性に鍵を戻すよう取引を持ち掛ける。2人はCIAから逃げながら、ルーサー・スティッケル(ヴィング・レイムス)とベンジー・ダン(サイモン・ペッグ)からの無線の指示を受けつつ男性を追う。すると不審なバッグを見つけたベンジーが、それを排除するべく荷物の集積場へ走る。
 不審物を見つけたベンジーが中を確認すると、核爆弾と思われる金属の筒が入っていた。爆発を解除するにはAIが繰り出すなぞなぞに答えなければならない。ベンジーに、そのなぞなぞを何問も解かせるAI。一方で、イーサンたちはターゲットの男性が殺されているのを見つけ、CIAにも追われることになる。
 そんな中、イーサンはかつて因縁のあった男ガブリエル(イーサイ・モラレス)の影を見る。ベンジーはあと数秒のところで爆弾の解除に成功したが、中身は空っぽだった。AIを操る悪意ある者の存在を認識したイーサンはミッション終了を宣言し、全員に逃げるよう叫ぶ。しかし鍵を持ったままのグレースは飛行機に乗って去ってしまう。
 イタリアのローマで、グレースは偽造パスポートの手配犯として警察に捕まる。グレースの弁護士として警察署に忍び込んだイーサンはイーサンを連れて脱出を試みるが、その警察署にはグレースの持つ鍵を狙っていたガブリエルが、そしてCIAのブリッグスとドガもやってくる。機転を利かせ、1人で外に出たグレースはパトカーを奪って逃走し、イーサンも白バイで後に続く。
 するとグレースを狙ってガブリエルの部下の女パリス(ポム・クレメンティエフ)が黒い装甲車で攻撃してくる。グレースに追いついたイーサンが彼女を助けようとすると、CIAに銃口を向けられてしまう。ブリッグスに手錠をかけるよう命令されたイーサンは、自分とグレースを手錠でつなぐが、その瞬間、パリスが銃撃してくる。
 三つ巴の状況の中、CIAの車に乗り込んだイーサンとグレースは手錠を付けたまま運転してその場から逃げ出す。カーチェイスでボロボロになったその車を乗り捨て、代車として見つけたのは小さなフィアット車。慣れない小型車の運転に苦戦するイーサンだが、車体の小ささを生かし、ローマの街を逃げ回る。スペイン階段をバックですべり落ちると装甲車も飛び込んでくる。
 再びローマ警察、CIA、装甲車に追われるイーサンとグレース。挟み撃ちにあい絶体絶命の危機の中、バックで路地に逃げ込んだフィアット車だったが、今度は線路に嵌まってしまう。密かに持っていたクリップで手錠を外したグレースは、イーサンと車のハンドルを手錠でつなぎ、そこから逃げてしまう。迫る車両に焦りつつ、イーサンは手錠を外そうとし、間一髪で衝突を免れ、つながれたハンドルを持ったまま地上へと逃れる。そこで彼を待っていたのは車で迎えに来た仲間のルーサー、ベンジー、イルサだった。
 イタリアのヴェネツィアで、これ以上仲間を巻き込みたくないイーサンは1人で行くと言い張るが、彼らは「1人では勝てない」と協力を誓う。その夜、取引が行われるドゥカーレ宮殿のパーティに、死んだ男になりすましたイーサンとイルサがやってくる。案内されるとそこには武器商人の女“ホワイト・ウィドウ”と、彼女に雇われたグレース、そして鍵とAIを求めるガブリエルたちの姿があった。その場を仕切ったガブリエルは「今夜、イーサンのせいで女が死ぬ」と予言する。そして取引は改めてオリエント急行の車内で行われると言って去る。
 グレースは持っていた鍵を巧みに隠すが、武器商人の女たちに囲まれる。イーサンとイルサはその場から逃げ出すが、グレースは途中で男たちに捕まりそうになる。イーサンが助けようとしたところ、再びCIAが現れ、グレースに逃げられてしまう。
 イーサンはルーサーとベンジーの無線での指示でガブリエルを追い、グレースとイルサもガブリエルを目指す。橋の上にいたガブリエルと最初に接触したのはグレースだった。彼女はガブリエルと戦うが、敗れ失神してしまう。イーサンは、AIに乗っ取られ、ニセの情報を発信する無線の指示によって狭い路地に誘い込まれてしまう。
 ガブリエルの部下の男とパリスに挟まれたイーサンはなかなかグレースとイルサを助けに行けず、やっとの思いで2人を倒すが、パリスにとどめを刺すことはせず、その場を立ち去る。イーサンは急いで橋へと向かうが、そこにはガブリエルと剣で戦い刺殺されたイルサの遺体があった。ボートで駆けつけたベンジーも呆然とする。
 イーサンの仲間に加わったグレースは、このミッションに参加し、その後キトリッジに直談判してIMFに入るしか生き残る道はないと告げられる。オリエント急行に乗って武器商人になりすまし、鍵を手にしたらイーサンに渡す。イーサンはそれを持って列車を離脱し、グレースは捕まってIMFに入る宣言をするという段取りを確認する。
 しかし、マスクマシーンが壊れ、武器商人に化けるマスクが間に合いそうにない。プランを修正しきれないうちに、列車は出発する。イーサンは何があっても列車に乗り込み君を助けるとグレースに約束する。
 出かける前にルーサーは、アナログな環境で情報を集めるからしばらく隠れると言い、ミッションの本来の目的を忘れるなとイーサンに念を押す。ガブリエルを殺さずに、鍵の使用方法を聞き出すこと。イーサンは友人の忠告を胸に刻む。
 走るオリエント急行にパリスやガブリエルが乗り込み、車掌や機関士を次々と手にかけていく。ガブリエルは列車のブレーキを破壊する。列車にはCIAのブリッグスとドガ、そしてキトリッジ長官までもが乗っていた。何とかマスクが間に合ったグレースは武器商人に化け、取引相手であるキトリッジと対面を果たす。
 キトリッジは久しぶりに会った武器商人に昔のことを話すがグレースに分かるはずもなく、あわてて彼女は部下のゾラ(フレデリック・シュミット)を追い払い、キトリッジと取引を始める。2つ揃った鍵を見せ、送金を受けるグレース。その間、彼女は“グレース”を守るようキトリッジに約束を取り付ける。
 そのころ、ガブリエルとパリスはデンリンガー(ケイリー・エルウィズ)と会っていた。彼は国家情報長官の立場を利用し、“それ”が潜水艦セヴァストポリに搭載されていたこと、そしてその位置は自分だけが知っているから自分を殺すことはできないと述べる。しかし、それを聞いたガブリエルはデンリンガーを殺し、そのままパリスまで攻撃する。ヴェネツィアでイーサンに命を救われたパリスはいずれ自分を裏切りイーサンに秘密を話すとガブリエルは予測し、パリスを手にかけたのだ。
 一方、グレースは大金を受け取ることをやめ、鍵を手にするとその場を離れようとする。折しも意識の戻った本物の武器商人がその場所へやってきたところで、列車の中でグレースはゾラたちに追われ殺されそうになる。
 イーサンは、オリエント急行が減速する地点で飛び乗る計画だったが、ガブリエルのせいでそれができず、ベンジーの機転で高い山の頂上からバイクで飛び出し、パラシュートを使って飛び移るという作戦に変更する。覚悟を決めて飛び降りたイーサンがガラスを突き破って着地したのが、殺されそうなグレースと敵の間だった。鍵を拾い、敵を倒したイーサンはガブリエルを追い、グレースに列車を止めるよう指示する。
 列車の屋根の上でガブリエルと対峙したイーサンは相手を制圧し、イルサを殺された恨みから彼を殺そうとする。でもそのとき「殺すな」と声をかけてきたのはCIAのブリッグス(シェー・ウィガム)だった。一瞬の隙をついたガブリエルは、計画していた場所で列車から飛び降り、この先の橋に仕掛けた爆薬を起爆させ橋ごと破壊する。しかしその後、鍵だと思っていたものがイーサンのライターだったことに気付き、悔しい思いをする。
 グレースのいる機関車の先頭に向かったイーサンは、この暴走列車を止めることが不可能だと悟り、2両分下がって車両を切り離す。しかし列車は既に落とされた橋に差しかかっており、先頭2両分が川に落下する。次の厨房車両を後方に向かって逃げるイーサンとグレース。油やガスで燃え上がる炎を避けながら客車に移るが、それも落下し、次の客車も危うくなる。
 さらに後方に2人が逃げると、そこはピアノが置かれたラウンジカー。垂直の状態となったその車両でイーサンの指示に従ってなんとか飛び移るグレース。ピアノは体をかすめて、川に落ちていく。その後、上に向かって移動する2人だったが、グレースが落ちそうになり、イーサンが腕一本でそれをつなぎとめる。
 しかし、体力は限界に近く、2人分を支える手が離れそうになったその時、彼の手をつかんだのは瀕死のパリスだった。彼女のおかげで2人は助かり、イーサンはパリスになぜ助けたのか問う。そして彼女の口から、AIはセヴァストポリの中にあるという事実を聞き出すが、彼女はそのまま亡くなってしまう。
 そこへまたCIAが現れる。イーサンは予備のパラシュートを使って逃げようとするが、1人用なのでグレースを連れていくことができない。逡巡するイーサンの背中を押したのはグレースだった。鍵を持ったイーサンはベンジーの待つ地点へと到達し、グレースは悔しがるCIAを尻目にキトリッジに対し、IMFに入ると宣言するのだった。
 単なるスパイ映画シリーズの枠を超え伝説となったMIPシリーズの第1作が公開となったのは27年前。そして、2部作として製作され、イーサン・ハントの集大成を描いた物語に仕上がっている。本作では第1作の、“イーサン・ハントの始まり”を知るユージーンといった懐かしのキャラクターも登場する。第1作目で、イーサンにスパイの容疑をかける同職者という役どころを演じた彼は、本作で一体どのような立ち回りを見せてくれるのだろうか。さらに、25年ぶりにカムバックを果たしたキャストのヘンリー・ツェニーもイーサンの前に姿を現す。
 トム・クルーズのパラシュート落下に代表される数々のアクションシーンには、もはや行き着くところまで行き着いた感もあり、“集大成”にふさわしい命懸けのものだった。暴走機関車の屋根の上での格闘シーンもそうだ。
 今作の裏テーマとして、「AIの暴走」という近未来的な設定と、「2本の鍵」というアナログなアイテムが上手く組み合わされた、手の込んだシナリオだ。
 コロナ禍のせいで、何度も撮影中断を余儀なくされたという本作であるが、本シリーズのファンの期待には応えられた内容ではなかろうか。
 しかしながら、本作を2部構成にする意図だけは理解できない。これを超えるストーリーの原案がトムの中にあるのか、さらに激しいアクションシーンに挑もうとしているのか分からないが、“完結編”となるであろう次作で、ファンを拍子抜けさせることだけは避けてもらいたい。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://missionimpossible.jp/
<公式X>https://twitter.com/MImovie_jp
<公式Instagram>https://www.instagram.com/missionimpossiblejpn/
<公式Facebook>https://www.facebook.com/MissionImpossible/?brand_redir=755121331197593
<監督>クリストファー・マッカリー
<製作>トム・クルーズ、クリストファー・マッカリー
<製作総指揮>デビッド・エリソン、ダナ・ゴールドバーグ、ドン・グレンジャー、トミー・ゴームリー、クリス・ブロック、スーザン・E・ノビック
<脚本>クリストファー・マッカリー、エリック・ジェンドレセン
<撮影>フレイザー・タガート
<美術>ゲイリー・フリーマン
<衣装>ジル・テイラー
<編集>エディ・ハミルトン
<音楽>ローン・バルフェ
<視覚効果監修>アレックス・ブトケ
<キャスティング>ミンディ・マリン
<原作>ブルース・ゲラー「スパイ大作戦」
<テーマ曲>ラロ・シフリン、ローン・バルフ「Dead Reckoning Opening Titles」
#ミッションインポッシブル #デッドレコニング #映画 #クリストファー・マッカリー #トム・クルーズ #ヘイリー・アトウェル #ビング・レイムス #サイモン・ペッグ #レベッカ・ファーガソン #バネッサ・カービー #イーサイ・モラレス #ポム・クレメンティエフ #マリエラ・ガリガ #ヘンリー・ツェーニー #フレデリック・シュミット #シェー・ウィガム #グレッグ・ターザン・デイビス #ケイリー・エルウィズ #チャールズ・パーネル #マーク・ゲイティス #インディラ・バルマ #ロブ・ディレイニー #スパイ #アクション #パラマウント







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【映画レビュー】「銀河鉄道の父」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「銀河鉄道の父」(2023 日本)
 父・宮沢政次郎の視点から宮沢賢治、そして家族を描き、直木賞に選出された門井慶喜の長編小説の映画化作品。映画化に先駆けて、2020年に舞台化もされている題材だ。
 本作をひと言で言ってしまえば「This is 感動ポルノ」だ。
 そもそも宮沢賢治は、その死後になってから作品が評価された人物だ。その父である政次郎は、地元の名士であったことは事実だが、一般人に過ぎず、史実はないに等しい人物だ。それを“想像”によって話を膨らませ、出来上がったのが、この原作小説であり、舞台、映画もそうだ。
 宮沢賢治が実はダメ息子だったという視点は斬新ではあるのだが、エピソードが薄すぎて、感情移入できずに、退屈この上ない。
 父より先に亡くなってしまったことは不幸だと思うが、それ以上の感情を揺さぶられることはなかった。感動の押し売りばかりが鼻に付き、逆に白けてくる。
 そこそこヒットした作品ではあるが、本作を見て泣いたという人は、映画との向き合い方を考え直した方がいい。それほどの駄作ということだ。まぁこれがキノフィルムズの常套手段でもあるのだが…。
 役所広司、菅田将暉、森七菜と、豪華キャストを揃えてはいるが、非常にもったいないという印象しか残らない。
 ヒットするのはアニメかテレビドラマの劇場版ばかりの邦画の中にあって、この作品だ。日本映画界の未来を危惧してしまうような作品だった。
<評価>★☆☆☆☆
<公式サイト>https://ginga-movie.com/
<公式X>https://twitter.com/Ginga_Movie2023
<公式Instagram>https://www.instagram.com/ginga_movie2023/
<監督>成島出
<脚本>坂口理子
<製作総指揮>木下直哉
<エグゼクティブプロデューサー>武部由美子
<プロデューサー>谷川由希子、根津勝、下田淳行
<音楽プロデューサー>津島玄一
<共同プロデューサー>原公男
<ラインプロデューサー>及川義幸
<撮影>相馬大輔
<照明>佐藤浩太
<録音>松本昇和
<美術>西村貴志
<装飾>湯澤幸夫
<衣装>宮本茉莉
<ヘアメイク>田中マリ子
<VFX>杉本篤
<音響効果>岡瀬晶彦
<編集>阿部亙英
<音楽>海田庄吾
<音楽監修>安川午朗
<助監督>足立博
<スクリプター>森直子
<制作担当>田辺正樹
<原作>門井慶喜「銀河鉄道の父」(講談社) https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000328365
<主題歌>いきものがかり「STAR」(Sony Music Labels) https://www.sonymusic.co.jp/artist/Ikimonogakari/discography/ESXX02743B01A
#銀河鉄道の父 #映画 #宮沢賢治 #成島出 #坂口理子 #役所広司 #菅田将暉 #森七菜 #豊田裕大 #池谷のぶえ #水澤紳吾 #益岡徹 #坂井真紀 #田中泯 #岩手 #宮沢政次郎 #直木賞 #キノフィルムズ

読んでおきたい 宮沢賢治 名作選 (TJMOOK)

読んでおきたい 宮沢賢治 名作選 (TJMOOK)

  • 作者: 宮沢 賢治
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2023/05/08
  • メディア: ムック






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【映画レビュー】「ロスト・キング 500年越しの運命」(原題「The Lost King」/2022 イギリス) [映画]

【映画レビュー】「ロスト・キング 500年越しの運命」(原題「The Lost King」/2022 イギリス)
 ダイアナ妃の突然の事故死の最中にある当時の英国王室の舞台裏を描いた『クィーン』(2006)などの代表作で知られる巨匠スティーブン・フリアーズが、500年にわたり行方不明だった英国王リチャード3世の遺骨発見の立役者となった女性の実話を基に製作したヒューマンドラマ。
 フィリッパ・ラングレー(サリー・ホーキンス)は職場で上司から理不尽な評価を受けるが、別居中の夫から生活費のため仕事を続けるように言われてしまう。
 そんなある日、息子の付き添いでシェイクスピアの「リチャード3世」を鑑劇した彼女は、英国史上、最も冷酷非情な王として描かれる劇中の主人公に共感。そしえ、彼の研究に没頭する。1485年に死亡したリチャード3世の遺骨は近くの川に投げ込まれたと考えられてきたが、その遺骨探しにのめり込んでいく。
 500年以上も行方不明だった英国王の遺骨が2012年に発見された実話であり、それを発掘したのが一般人女性だったという事実に驚かされる。
 ロマンを感じさせる話だが、本作での描写は、あまりにもドラマチックな演出によって、ファンタジーに寄ったストーリーになっており、実話ベースの物語なのに、もったいなさを感じる。
 結果、フィリッパの偉業は、レスター大学と考古学者リチャード・バックリー名誉教授に横取りされてしまうのだが、これらの悪役を実名で登場させている点は評価に値する。しかも、製作にBBCが加わっていることから、名指しされた両者は、文句も言えないだろう。
 その後、フィリッパに大英国勲章を授与されるラストシーンも心地良いものだ。
 しかし、如何せん、テーマが「遺骨の発掘」という地味なものとあって、中弛み感は否めない。挿入され続ける音楽が、その間を埋めようとしているが、それすらも聞き苦しくなってしまうほどだ。
 一歩間違えれば“アブない女”とされそうなキャラクターをサリー・ホーキンスが軽やかに演じており、英国の階級社会の闇も感じさせるストーリーも本作の見せ場だろう。
 しかし、日本人の目から見ると、遺骨発掘は、研究者によって日常的に行われており、取り立てて珍しい話でもないとも感じてしまうのだ。
 知的好奇心をくすぐるストーリーではあるが、エンタメ色という点ではもう一つ、物足りなさを感じさせる作品だった。
<評価>★★☆☆☆
<公式サイト>https://culture-pub.jp/lostking/
<公式X>https://twitter.com/thelostking0922
<監督>スティーブン・フリアーズ
<脚本>スティーブ・クーガン、ジェフ・ポープ
<製作>スティーブ・クーガン、クリスティーン・ランガン、ダン・ウィンチ
<製作総指揮>キャメロン・マクラッケン、ジェニー・ボーガーズ、ローズ・ガーネット、アンドレア・スカルソ、ジェフ・ポープ、フィリッパ・ラングレー
<撮影>ザック・ニコルソン
<美術>アンディ・ハリス
<衣装>ローナ・ラッセル
<編集>ピア・ディ・キアウラ
<音楽>アレクサンドル・デスプラ
<原作>フィリッパ・ラングレー、マイケル・ジョーンズ「Looking For Richard Project」
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【Amazon.co.jp限定】ロスト・キング 500年越しの運命(ポストカード付) [DVD]

【Amazon.co.jp限定】ロスト・キング 500年越しの運命(ポストカード付) [DVD]

  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
  • 発売日: 2024/03/06
  • メディア: DVD






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【映画レビュー】「マリウポリの20日間」(原題「20 Days in Mariupol」/2023 ウクライナ・アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「マリウポリの20日間」(原題「20 Days in Mariupol」/2023 ウクライナ・アメリカ)
 とにかく衝撃的な映像の連続だった。
 本作は、2022年2月24日、プーチン大統領曰く、「自衛のための特別軍事作戦」と称したウクライナへの侵攻が始まり、その最前線となった、人口約45万人の工業都市・マリウポリに攻撃を開始。その報を知り、ウクライナ人にしてAP通信のジャーナリスト、ミスティスラフ・チェルノフをはじめとする取材班が、その凄惨な状況を克明にカメラに収めたドキュメンタリー作品だ。
 ほどんどのメディアがウクライナから脱出する中、ロシア軍による侵攻開始当初の混乱ぶり、そして猛烈な攻撃を受け、街が破壊され、住民は逃げ場を失い、食糧などの物流はもちろん、電気、水道、ガス、ネット回線も遮断され、孤立していく中での市民の焦燥や怒り、悲しみ、さらに重傷を負った人々が次々と運び込まれてくる病院の惨状を克明に記録している。
 我々日本に住まう者が当初、目にしていた映像は、あくまで安全と思われる場所から遠隔操作の無人カメラで撮影したと思われるものだが、チェルノフらはあくまでマリウポリ市民、そしてウクライナ軍の兵士、混乱を極める病院で働く医療関係者と同じ目線に立つことにこだわり、いつ爆撃の標的になるかも分からない状況の中、命懸けで取材を続け、マリウポリでの現実を世界に発信した映像で、その結果として2024年のアカデミー賞では「長編ドキュメンタリー賞」を受賞した。
 そんなチェルノフだが、初めから全てのマリウポリ市民から受け入れられていたわけではない。修羅場と化した病院内での撮影は、「この現実を世界に広めてくれ」と、概ね協力的だった一方で、街中での撮影に臨むと、嘆き悲しむ市民がいたかと思えば、撮影クルーに毒づき、罵る者もいる。その様子は、突然の戦禍によって我を失ったかのようにも見える。
 しかしチェルノフは何を言われようが言い返したりはしない。むしろ、心身共に傷付いた市民にとことん寄り添おうとする。わずか20日間の取材期間ではあったが、その間、チェルノフたちは間違いなく「マリウポリ市民」だったのだ。
 マリウポリから逃げ遅れた人々は、行く当てもなく建物の地下や体育館、スポーツジムを仮の避難所とし身を隠す。ロシア軍は、一般市民は攻撃しないとされていたが、そんな建前は全くの嘘。住宅や病院にも容赦なくミサイル攻撃し、街には死体の山が積み上がっていく。
 この中には、チェルノフの取材を受け、交流があった人物もいた。チェルノフとて感情のある一人の人間。心穏やかでいられるはずはなかったはずだ。それでも彼は淡々と、自身の使命をこなしていく。
 取材を重ねる中、状況は悪化の一途を辿っていく。インフラのみならず、攻撃は病院や消防署にまで及び、ついには破壊された店から商品を略奪する不届き者まで現れる。街への攻撃は、建物など物理的なものだけではなく、市民の心まで壊していたのだ。
 死体安置所のスペースもなくなり、大きな溝状の穴を掘って、袋詰めされた遺体が次々と投げ込まれる。まるでゴミを埋め立てるようなその扱いに、戦慄を覚えざるを得ない。
 ロシア軍の攻撃はついに、唯一残った産婦人科病院をも標的とする。妊婦や生まれたばかりの乳児も犠牲となるが、何とか攻撃から免れた妊婦が、外科の手術室でお産に臨む。取り出した赤ちゃんは泣き声を出さず、暗澹とした空気が流れるが、医師らが必死に赤ちゃんの体をさすると、元気な泣き声を発し、それと同時に医療スタッフは安堵の思いと感激から、母親ともども涙する。
 数え切れないほどの「死」を描いた中で、唯一、「生」を感じさせるこのシーンには、思わず心を揺さぶられる。
 命懸けの取材を重ね、映像を脆弱なネット回線で編集局に送信していたチェルノフ。当然、世界中でその衝撃的な映像が報じられるが、ロシアメディアは「フェイクニュース」として報じる。このシーンについては、怒りを通り越して、憐みを含んだ嘲笑しかない。そして同時に、「ロシア人に生まれなくて良かった」と強く感じ、プロバガンダの恐ろしさを見せつけられる。
 この作中で、プーチンとゼレンスキーの両大統領は、それぞれ1度しか登場しない。それもニュース映像のシーンを映し出したに過ぎない。戦況がどうなっているかも分からないまま、その戦争の中心にいるチェルノフや、マリウポリ市民にとっては、両国の政治的駆け引きなど、どうでもいいことであり、人道回廊を設ける話すら全く前に進まない現状に、不信感ばかりが募っているのだ。
 マリウポリでの取材活動から20日、チェルノフらAP通信の取材クルーは、ついに街を後にする決意をする。しかし街はすでにロシア軍に包囲されており、国境を越えるのも命懸けだ。赤十字が作った車の隊列に紛れ、撮影機材や取材映像を隠しながらの脱出劇だった。
 その時、チェルノフの思いは想像するしかないが、市民を残してマリウポリを出ることに、葛藤があったはずだ。
 しかし同時に彼はジャーナリストであり、家庭に戻れば父親でもある。その使命を十二分に果たした彼の勇気は、称賛に値するだろう。
 97分という上映時間が長く感じる作品だった。それは退屈だったということではなく、あまりにも過酷な現実を見せ付けられ、辛くなってくるからだ。戦争となると、女性や子どもが真っ先に犠牲となる。話としては理解しているつもりでも、そんな常識を見える形で示されると精神的に堪えるのだ。特に、血みどろになったまま死んでいく子どものシーンにはショックを受けた。
 想像していた以上に衝撃的なドキュメンタリーであり、同時に、これが「戦争」なんだと思い知らされた。開戦からわずか20日の間に、これだけの出来事が起き、マリウポリは、チェルノフらが脱出した直後に陥落。そして、ロシア軍のウクライナ侵略戦争は2年経った現在も続いている。その凄惨さから、見るにはある程度の覚悟が必要な作品ではあるが、“現在進行形”の出来事を描いているという点で、世界での高い評価も納得できる作品といえるだろう。
<評価>★★★☆☆
<公式サイト>https://synca.jp/20daysmariupol/
<公式X>https://twitter.com/SYNCACreations
<公式Instagram>https://www.instagram.com/synca_creations/
<公式Facebook>https://www.facebook.com/SYNCACreations
<監督・脚本・撮影>ミスティスラフ・チェルノフ
<製作>ミスティスラフ・チェルノフ、ミッチェル・マイズナー、ラニー・アロンソン=ラス、ダール・マクラッデン
<編集>ミッチェル・マイズナー
<音楽>ジョーダン・ダイクストラ
<スチール撮影>エフゲニー・マロレトカ
#マリウポリの20日間 #映画 #マリウポリ #ウクライナ #戦争 #ロシア #ミスティスラフ・チェルノフ #ドキュメンタリー #AP通信 #シンカ

「実録 マリウポリの20日間」前編

「実録 マリウポリの20日間」前編

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2024/04/11
  • メディア: Prime Video






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【映画レビュー】「ゼロ・コンタクト」(原題「Zero Contact」/2021 アメリカ) [映画]

【映画レビュー】「ゼロ・コンタクト」(原題「Zero Contact」/2021 アメリカ)
 IT業界の大物フィンリー・ハート(アンソニー・ホプキンス)は妻が亡くなった後、自社の「ハート社」から追放され、自身も急死する。そして、5人の関係者、ロサンゼルスにいるフィンリーの息子サム・ハート(クリス・ブロシュー)、かつてフィンリーと働き、現在はスウェーデンに住むハカン・ノードクイスト(マルティン・ステンマルク)らが、謎のAIに呼ばれ、Zoomによるリモート会議に出席する。
 AIは5人に、彼らが知るパスコードを60分以内に入力しろと要求。だがフィンリーは生前、地球を壊滅させる技術を生み出しており、パスコードはそれを起動させかねないものだった。
 本作は、2020年のコロナ禍のロックダウンを逆手に取り、完全リモートによって製作され、NFTによって資金調達や配信がなされた革命的な作品だ。「ゼロ・コンタクト」のタイトル通り、17か国・89人のキャストやスタッフが接触なしで作り上げている。
 全編にわたって、ほぼZoonの画面のみ、そこに生前のフィンリーの語りが挿入される。フィンリーの予言めいた言葉の一つひとつが、恐怖に満ちた物語とている。アンソニー・ホプキンスの存在感は、やはり群を抜いている。
 暗黒物質やタイムトラベル、量子物理学といったプロットは複雑で、理解するには難しいものだったが、脚本自体はシンプルなもので、立派なサスペンス映画として成立している。その事実だけでも、映画界にとっては画期的だともいえる
 ウェブカメラの映像であることを強調するための、画面のちらつきといったエフェクトも効いていたし、制限時間が近付くに連れ、冷静さを失っていく登場人物たちもリアリティー溢れるものだった。
 コロナ禍は、映画界に大きな損失生んだが、このシチュエーションで、鑑賞者を惹きつけ、恐怖に陥れるリック・ダグデイルの手腕には脱帽するしかない。
<評価>★★★☆☆
<監督・製作>リック・ダグデイル
<脚本>キャム・キャノン
<撮影>エド・ルーカス
<音楽>クラス・ヴァール、アンダース・ニスカ
<インターネットムービーデータベース>https://www.imdb.com/title/tt12359080/
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