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【映画レビュー】「NO 選挙,NO LIFE」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「NO 選挙,NO LIFE」(2023 日本)
 まずはこのレビューを目にした方々に問います。
 「あなたは選挙に行っていますか?」
 この映画を見た、あるいは興味を示した方であれば、「行っています」と答えるだろう。
 では、さらに問います。
 「岸田内閣の支持率が20%台の“危険水域”にまで落ち込み、不支持が7割を超えているにも関わらず、自公政権が盤石なのは何故だと思いますか?」
 複雑で多様な原因があることは承知の上で、あえて1つの答えを導くとここに行き着く。
 「あなたの周囲の人々が、選挙に行っていない」からだ。
 事実、投票率は国政選挙でも50%程度、地方議員の選挙ともなると20%がやっとというのが、この国の参政意識の現実なのだ。
 そんな選挙という“一大イベント”に魅せられ、早稲田大学を除籍になりながらも、選挙取材に人生を賭けた男がいる。
 選挙取材歴は実に25年。50歳を迎えたフリーランスライター・畠山理仁がその男だ。2017年には、著書『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』では「開高健ノンフィクション賞」も受賞している。
 本作は、彼の選挙への情熱と、お金にならないこの仕事の辞め時を失ってしまった苦悩に迫るドキュメンタリーだ。
 彼のポリシーは「候補者全員を取材し、それが出来なければ記事にはしない」というハードなものだ。国政選挙はもちろん、地方選、米国大統領選挙まで、様々な選挙を取材し。選挙の面白さを伝え続けている。
 そんな畠山が、2022年夏の参院選・東京選挙区で候補者34人全員に取材に挑む姿に密着する。自身は「これが最後になるかも…」と引退を口にしていた。事実、この選挙戦の大詰めの投開票日直前には、安倍前首相銃撃事件が起きていた。「この“直撃スタイル”の取材方法はもう潮時かも…」とも感じていた。
 候補者33人までは取材できたものの、あと1人が捕まらない。その候補者は立憲民主党の蓮舫氏。応援演説に回ることが多い彼女は全国を遊説するため、東京にいることが少ないのだ。
 そんな彼女に会うため、畠山は車を長野まで走らせ、直撃に成功する。といっても、たった20秒の取材だ。そのために2時間をかけて「候補者全員取材」と達成し、満足顔を見せる畠山。
 こんな仕事ぶりで選挙の現場を巡り、睡眠時間は平均2時間、原稿執筆にまで割ける時間もなく、家族がいるにも関わらず、金銭面にも苦労するという生き方を続けているのだ。
 取材対象は、政党の推薦を受けた候補者のみならず、いわゆる“泡沫候補”とよばれる一匹狼の候補者にも及び、丹念にその政治信条や公約を聞き出していく。そこには一切の偏見はない。
 そんな候補者たちはクセの強い人物ばかりだ。「炭を全国でつくる党」「バレエ大好き党」「議席を減らします党」、意味不明な“トップガン政治”を声高に唱える候補者、自らを“超能力者”と自任し、バッティングセンターで「170キロの球も打てる」とうそぶく候補者…。
 大手マスコミからは全く相手にされない候補者に対しても、畠山は話に耳を傾けるのだ。供託金300万円をドブに捨てる覚悟で出馬した候補者に尊敬の念すら抱いているようにも感じる。実際、畠山は“泡沫候補”をいう言葉を嫌う。著書のタイトルにもなった「無頼系独立候補」という呼称には、そうした候補者たちへの敬意が込められている。
 そんな畠山の妻は、夫を「会社に入って働けるような人ではない」と評する。一方で、収入を度外視し、好きな仕事を続ける夫を認め、ネガティブな言葉は口にしない。ただ、2人の息子は何か言いたそうな雰囲気を醸し出してはいたが…。
 畠山は実に物腰が柔らかい、“誠実”が服を着て歩いているような男だ。そんな畠山が一度だけ怒りの感情を露にする場面がある。
 参院選の開票結果で、参政党が議席を獲得し、その得票率によって、「政党」と名乗る要件を満たす。その途端、それまでの約束を反故にし、動画の公開を禁止したのだ。それを受け畠山は、電話で猛烈に抗議する。筋の通っていないことは許せない性分なのだ。それは「引退」を口にしていた男とは思えない迫力だった。
 参院選の取材を終えた畠山は、その直後の沖縄県知事選の取材へ向かう。「今度こそ本当に最後」と決意し、3週間もの滞在で選挙戦を取材する。選挙の度に県を二分する、沖縄県民にとっては一大イベントだ。その争点が「普天間基地」であることは言うまでもないだろう。「沖縄タイムス」と「琉球新報」の沖縄2大紙も、全国紙とは全く異なる論調で、“オール沖縄”を演出する一方で、対立を煽っている側面もある独特の土地柄だ。畠山は沖縄で、選挙への高い参加意識を持つ有権者との出会いを通じて、民主主義の在り方について思い至る。
 一方で、沖縄の選挙は“何でもアリ”の側面も有している。そこら中に候補者な名前入りののぼりが立てられているのだ。本作を見るまで筆者も知らなかったが、この行為は公職選挙法違反となるのだ。
 こうした行為を現職である玉城デニー陣営も平気で行っているのが、沖縄の選挙なのだ。そして、のぼりを見かける度に警察に通報する若者も現れ、カオスの様相を呈する。ある県民によれば、米国の統治下にあった時代の名残だという。
 当然ここでも、畠山は「候補者全員取材」のモットーを胸に取材を続ける。しかし作中では、現職の玉城氏、自公の推薦を受けた佐喜眞淳氏よりも、自民党、民主党、国民新党などを渡り歩き、衆院議員を6期務め、何度も入閣した経験を持つが、この選挙では無所属で出馬した下地幹郎氏の活動に多くに時間を割き、密着している。自転車を駆り、その輝かしい経歴からは考えられないようなドブ板選挙活動に、畠山はカメラとともに追い続ける。
 その結果、玉城氏と佐喜眞氏のデッドヒートの末、わずか6万票で玉城氏は再選を果たす。一方、得票率約8%にとどまった下地氏は供託金を没収されてしまう…。
 物語の最後、「170キロの速球を打てる」と語っていた“超能力者”中村高志氏とともに、畠山の姿はバッティングセンターにあった。空振りし続ける畠山に対し、中村氏はジャストミートを連発させる。自分の言葉に嘘はないことを証明したのだ。
 以降、国政選挙はおろか、政局に影響するような地方議会選挙も行われていない。岸田首相も衆院解散に及び腰だ。かと言って、畠山は引退宣言したワケでもない。本人にとっては、ちょっとした充電期間といったところなのだろうか。
 本作は『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020年)、『香川1区』(2021年)、『国葬の日』(2023年)でプロデューサーを務めた前田亜紀がメガホンを取り、上記3作で監督を務めた大島新がプロデューサーとして再度コンビを組み、さらに『劇場版 センキョナンデス』(2023)の監督を務めたラッパーのダースレイダーの「The Bassons」が音楽を担当し、製作されたロードムービー的ドキュメンタリー映画だ。いずれも、政治を題材としながらも、映像作品に昇華させることに関しては、右に出る者はいない映画製作ユニットだ。
 次なる題材はやはり、衆院解散後の総選挙となるのだろう。その時、畠山、並びに前田・大島コンビは、どういった切り口で映像化するのか。今から楽しみだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://nosenkyo.jp/#modal
<公式X>https://twitter.com/nosenkyonolife?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
<監督>前田亜紀
<プロデューサー>大島新
<整音・効果>高木創
<編集>宮島亜紀
<音楽>The Bassons
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なぜ君は総理大臣になれないのか

なぜ君は総理大臣になれないのか

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2020/12/16
  • メディア: Prime Video






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