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【映画レビュー】「Shohei Ohtani-Beyond the Dream」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「Shohei Ohtani-Beyond the Dream」(2023 日本)
 奇しくも、本作が配信開始される11月17日の朝、日本列島を明るいニュースが駆け巡った。全米野球記者協会(BBWAA)の会員投票により、エンゼルス・大谷翔平が、2年ぶり2度目のアメリカン・リーグMVP受賞を決めたのだ。しかもメジャー史上初となる2度目の満票での受賞だ。打っては日本人初の本塁打王(44本)、投手としても10勝を挙げ、終盤の25試合を負傷のために欠場したにも関わらず、辛口で鳴らす米国の記者も、その成績に“文句ナシ”と太鼓判を押した形だ。
 本作は、そんな大谷をその生い立ちから追い、メジャーリーグのレジェンド、ペドロ・マルティネズ、CC・サバシア、さらには松井秀喜、ダルビッシュ有、大谷の日本ハム入りに尽力した前・侍ジャパン監督の栗山英樹、海を渡った大谷を最初に指導したエンゼルスの元監督マイク・ソーシア、2020年からエンゼルスを指揮したジョー・マドン、代理人のネズ・バレロといった面々が、ユニコーンにも例えられるこの二刀流が、如何にして誕生し、成長を遂げていったかに迫るドキュメンタリーだ。
 日本版のナレーションを担当したのは松井秀喜、英語版ナレーションはペドロ・マルティネズが務めるなど、豪華この上ないキャスティングだ。
大谷が野球を始めた河川敷のグラウンド、そしてその周辺の水沢(現・岩手県奥州市)の田園風景。さらに母校の小学校・中学校の校舎の映像も差し挟まれ、花巻東のグラウンドへと続いていく。その映像を見たペドロ・マルティネズが、自身の故郷に思いを馳せるシーンが印象的だ。
 その花巻東時代、大谷は、自身の夢を可視化するための“マンダラチャート”とも呼ばれる目標達成シートを作成していたことを告白する。
 大谷自身は「他人に見せるようなものではなく、引き出しにしまっておきたかった」と照れるが、その中身とは、表の中心に「プロ8球団からドラフト1位指名」と記し、その周辺に「体づくり」「コントロール」「キレ」「メンタル」「球速160キロ」「人間性」「運」「変化球」の8つの要素を記入、さらにその8つの要素を実現するために必要な行動を、さらに8つずつ書き込んでいく。真ん中に書いた夢に向けて、実に合計80もの“やるべき事”を挙げ、自身に課していたのだ。
 高校時代に書いたその表を見た松井やペドロ、サバシアらのレジェンドも一様に驚きの声を上げ、現在の活躍ぶりに納得するのだ。
 また当時、ペドロに憧れていた大谷は、そのマウンドさばきのみならず、投球間に見せる細やかなクセも真似していたことが、映像から見て取れ、その“完コピ”ぶりを見たペドロは、思わず相好を崩す。
 話題はポスティングシステムによってメジャー挑戦に至るいきさつに移る。当時23歳だった大谷の契約はMLBの規定でマイナー契約からとされていたため、資金力に乏しい球団も、続々と獲得に名乗りを挙げる。
その中で大谷が入団を決めたのは“大穴”とされていたエンゼルス。ヤンキースやレッドソックスといった名門球団の誘いを断ったことは、現地の野球ファンを驚かせた。
 この決断について、大谷は「フィーリング」と語っているのだ。この答えは驚くものだった。自身の成長曲線をチャートにしてまで管理する男だ。物事を全て理詰めで考えているような印象を受けるが、野球人生の中で最も重要な場面で、自身の直感を頼ったのだ。この選択が正解だったのか、そうでなかったのかは、自身の成績が示しているだろう。
 彼とて、最初からメジャーに適応できたわけではない。移籍後初のキャンプでは大苦戦し、オープン戦では投手としてメッタ打ちに遭い、バットも湿ったままで打率1割台と、散々の成績のままシーズンに突入する。
懐疑的な声が彼を包む中、開幕戦を迎える。ここで大谷は目を覚ます。結果、メジャー初年度にして打っては打率.285、22本塁打、投げては4勝2敗、防御率3.31の成績を残し、ア・リーグ新人王に輝く。
 ここでダルビッシュが口を開く。それは、自身がメジャー移籍した頃、チーム内で人種差別があったことをうかがわせる内容だった。「日本ハムに戻りたい」と感じたことも一度や二度ではなかったという。今はほとんどなくなったと語るが、少なくとも大谷を迎えたエンゼルスのロッカールームには、そういった差別はなかったであろうことは想像できる。さらに言えば、彼の活躍によって、他の日本人選手への言われなき差別は消え失せた。
 大谷とダルビッシュは、同じ日本ハムからメジャーへ羽ばたいたが、一緒にプレーしたことはなく、対戦経験もない。そして、ダルビッシュと入れ替わるように日本ハム入りした大谷はダルビッシュの背番号「11」を引き継ぐことになる。球団にとってエースナンバーといえる番号を新人に託したことは、彼に対する期待の表れでもあった。
 そしてついに、この2人が同じユニフォームに袖を通す日がやってくる。記憶に新しい第5回WBCだ。ダルビッシュは大谷から熱烈なオファーを受けたことを明かし、「ダルさんがいなければ優勝できません」とまで言われ、侍ジャパン入りを決意する。目には見えない“師弟関係”が、そこには存在していたといえる。
 大谷が語った通り、ダルビッシュ参戦によって、栗山監督も全幅の信頼を置くほどのチームの軸ができ、劇的な展開で優勝を飾った侍ジャパン。胴上げ投手は、米国の最後のバッター、エンゼルスの同僚であるトラウトを三振に斬って取った大谷だった。
 大谷が、かつて自ら作成した目標達成シートを裏返し、毛筆で大きく「世界一」と書く。大谷の目標はいつしか、高校時代に記した、そのシートの内容をも超えていたのだ。
 大谷への6時間を超えるインタビューと、メジャーのレジェンドたち、さらに日本を代表して海を渡った松井やダルビッシュ、二刀流選手として大谷を育て上げた栗山や、その才能を最大限に生かしたソーシアやマドンといった指揮官、グラウンド外でサポートを続けた代理人と、実に多くの角度から、大谷翔平という1人の野球選手に迫った本作。インタビュー映像と試合映像をテンポ良く組み合わさり、99分がアッという間に感じられるドキュメンタリーだ。
 当の大谷は大争奪戦の末、天文学的な年俸でドジャースに移籍した。居心地の良かったはずのエンゼルスを後にしたのは、自らをさらに成長させ、チャンピオンリングを手にするためだ。大谷が金では動かない性格であることは、前述の通りだ。会見の場で、移籍の核心についてまでは口にはしなかった大谷。再び“フィーリング”を重視し、“直感”で来季の所属先を決めたのだろうか…。
 右ヒジ手術からのリハビリのため、来季は打者に専念することがすでに決定している大谷だが、まだ29歳。脂が乗ってくるのはこれからだ。30歳になった大谷がさらなる伝説を残すことを大いに予感させる一作だ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://www.disneyplus.com/ja-jp/movies/shohei-ohtani-beyond-the-dream/4HRAONj2lYwF
<監督・編集>時川徹
<日本語版ナレーション>松井秀喜
<英語版ナレーション>ペドロ・マルティネズ
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