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【映画レビュー】「スープとイデオロギー」(原題「Soup and Ideology」/2021 韓国・日本) [映画]

【映画レビュー】「スープとイデオロギー」(原題「Soup and Ideology」/2021 韓国・日本)
 在日コリアン2世として大阪市生野区に生まれ、両親は朝鮮総連の幹部、自身も朝鮮学校で、猛烈な民族教育を受けたにも関わらず、帰国事業で北朝鮮に渡った兄3人を追ったドキュメンタリー『愛しきソナ』(2011)や、自信の実体験を基に、北朝鮮で暮らす家族を描いたフィクション作品『かぞくのくに』(2012)を製作したことによって、北朝鮮から入国拒否されているヤンヨンヒ(梁英姫)が、年老いた母を主役を中心に描いたドキュメンタリー。
 自身の日本人男性との結婚、進行する母のアルツハイマー病、そしてストーリーは、母がかつて経験した、6万人が殺されたといわれる「済州島四・三事件」が主テーマとなる。
 父の死後も借金をしてまで、北朝鮮に住む息子たちへの仕送りを続ける母を責めるヨンヒ。その母は、負い目を感じ、さらに自身の衰えも感じながら、長く心の奥深くに秘めていた1948年の済州島での壮絶な体験について、初めて娘であるヨンヒに語り始める。母から消えゆく記憶を残すべく、ヨンヒは母を済州島へ連れて行く。
 その旅は、母をはじめ、済州島から命からがら日本に逃れてきた韓国人にとってはトラウマを呼び覚ますような道中だ。しかしながら、母が鶏を1羽まるごと買って作る参鶏湯スープが、一家の絆の証しとして、物語を彩る。そのスープこそが、母にとっての“イデオロギー”であるからだ。
 母の元に、「済州四・三事件研究会」が訪れ、その凄惨な出来事を次々と証言する。
 しかしその後、母はアルツハイマー病と診断され、いるはずのない家族を探すなどの徘徊行動も見られるようになる。ヨンヒは、寿命も見え始めた母を“生き証人”として、済州島に連れて行くのだが、体力的にもリスクの大きい旅だ。半面、事件を風化させないための、重要な任務も背負っている。
 済州島を訪れた母は、いまや一大リゾート地となった当地の景色に驚かされる。しかし、事件については記憶が所どころ、曖昧になっていた。
 この歴史を知らずに在日コリアンを取り巻く状況を論じることはできないだろう。それほどまでに凄惨な出来事だ。戦後、日本の併合を解かれ、そこに米国、ソ連が入り込み朝鮮戦争が勃発。結果として半島に分裂国家が誕生する。北朝鮮では“楽園”と謳われ、多くのコリアンが移り住むが、その真実はキム一族による独裁国家で、市民は困窮していることに行ってから気付かされる。一方、韓国では、いわゆる「赤狩り」が行われ、済州の事件もその一環といて政府主導で行われたものだ。大国の思惑と政府の陰謀に翻弄された済州島民の悲嘆や怒りは如何ばかりか…。
 物語の最後、ヨンヒと夫は、金日成一族が写った写真の額縁を家から撤去する。母はついに“解脱”したのだ。しかし、平壌に住む兄への手紙は出せないままだった…。
 ドキュメンタリーとしての完成度のみならず、過酷な回想シーンにはアニメーションを活用するなど、映像作品として分かりやすくしている試みも奏功しており、どこまで母に寄り添うヤンヨンヒと、その婚約者男性の優しさも、余すところなく描いている点も、ドキュメンタリー作品として優秀なポイントだろう。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://soupandideology.jp/
<公式X>https://twitter.com/soupandideology
<公式Facebook>https://www.facebook.com/soupandideology
<監督・脚本・ナレーション>ヤンヨンヒ
<プロデューサー>ベクホ・ジェイジェイ
<エグゼクティブプロデューサー>荒井カオル
<撮影監督>加藤孝信
<編集>ベクホ・ジェイジェイ
<音楽監督>チョ・ヨンウク
<アニメーション原画>こしだミカ
<アニメーション衣装デザイン>美馬佐安子
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カメラを止めて書きます

カメラを止めて書きます

  • 作者: ヤン ヨンヒ
  • 出版社/メーカー: CUON
  • 発売日: 2023/04/28
  • メディア: 単行本






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