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【映画レビュー】「大いなる自由」(原題「Great Freedom」/2021 オーストリア・ドイツ) [映画]

【映画レビュー】「大いなる自由」(原題「Great Freedom」/2021 オーストリア・ドイツ)
 同作は第二次世界大戦終戦後のドイツから、ストーリーが始まる。男性間の同性愛を禁じた「刑法175条」に反した性的指向を持つ男、ハンス・ホフマン(フランツ・ロゴフスキ)が1968年、ハッテン場でもある公衆トイレで、同性恋人のレオ(アントン・フォン・ルケ)と性行為をするハンスを捉えたカメラ映像を見せられる裁判所でのハンスが裁判にかけられ、懲役刑を言い渡される。
 刑務所で同房となった囚人のヴィクトール・コール(ゲオルク・フリードリヒ)は、そんなハンスを忌み嫌い、遠ざけようとするが、腕に彫られた番号から、ハンスがナチスの強制収容所にいたことを知る。
 己を貫くあまり、何度も懲罰房に入れられる頑固者のハンスと、そんなハンスを長期間にわたって見てきたヴィクトール。反発から始まった2人の関係は、長い年月を経て互いを尊重する絆へと変わっていく。
 同性愛者の人権をめぐり、終戦後の1945年、恋人と共に投獄された1957年、そして「刑法175条」の廃止が報じられた1968年と3つの時代を行き来しながら、「愛する自由」を求め続けた男の20余年にもわたる闘いを描いている。
 男性間の同性愛を禁じる刑法175条は、ドイツ帝国成立後まもなく制定され、ワイマール共和政下、そしてナチスドイツの時代を経て厳罰化が進んだ。
 その後、第二次世界大戦での敗戦を経てドイツは東西に分断されるが、西ドイツではナチス時代と同一の条文を1969年まで使用しており、以後、徐々に適用範囲が縮小され、1973年には罰則の緩和が行われ、最終的に撤廃されたのは東西ドイツ統一後の1994年だ。その約120年間に14万もの人が処罰されたといわれている。
 一方の東ドイツでは与党のドイツ共産党がこの法律に反対していたこともあり、1950年代に同性愛に対する規定を削除。この間、大人と青少年の間で行われる同性愛が処罰対象と定めたこともあったものの、以後も成人した者同士の同性愛行為は処罰の対象とされておらず、1988年には再び同性愛への罰則規定が削除された。作中でハンスが、東ドイツへの亡命を企んでいたのは、そのためだ。
 同性愛を禁じる法律があった国はドイツにとどまらず、全世界で存在していた。その歴史も古く、紀元前のアッシリア時代からあったとされている。
 それらは広義では「ソドミー法」とも呼ばれ、それぞれの国が持つ宗教をバックボーンとしている。特にキリスト教やイスラム教では、その傾向が強く、死刑を言い渡された事例も少なくない。
 日本においても明治5年(1872年)に「鶏姦律条例」という肛門性交を禁止する規定が設けられ、翌明治6年には「鶏姦罪」として公布されたが、明治15年の刑法改正によって消滅したという歴史がある。しかしながら、法律の有無にかかわらず、社会的な偏見は根強く残っていることは事実だ。
 同作は、プロローグとラストシーンを除けば、刑務所内を舞台とする、ほぼワンシチュエーション作品であり、かつ女性キャストも出演しない徹底ぶりだ。男性同士の性行為のシーンも、見る人によっては目を背けたくなるほど、生々しい描写がなされている。
 ハンスは、その性的嗜好を除けは、刑務作業も真面目にこなす実直な男だ。ナチス、そしてその後のドイツにいても迫害され続けた過去を持つにも関わらず、ひねくれた面が全くない。
 対して、ヴィクトールは殺人を犯し、かつ薬物中毒者でもある。性的嗜好は、いわゆる“ノンケ”であるがゆえ、ハンスと同房で過ごすことに嫌悪感を示し、近付くのも避けることは無理からぬことだろう。
 しかし、ハンスの腕にナチスの強制収容所で付けられた番号を記した入れ墨を見つけると、彫師でもあるヴィクトールは、自ら歩み寄り、その番号を消してやろうとする。ハンスとヴィクトールの間で友情が生まれ、愛情へと変化していくきっかけとなる出来事だ。
 その間、レオと出会う前の同性恋人ハンスとの再会を経て、ハンスとヴィクトールの関係も大きく変化する。いつしか、ヴィクトールもハンスとの性行為を求めるようになったのだ。
 その求めに応えるハンス。しかし、刑期を終え、薬物中毒のヴィクトールを残し、後ろ髪を引かれる思いで出所したハンスが立ち寄った「Great Freedom(大いなる自由)」という、ゲイが集まるクラブで目にした光景は…。
 決してセリフの多い作品ではないもののフランツ・ロゴフスキの仕草や表情で見せる演技が光り、さらに、オーストリア出身のセバスティアン・マイゼによる脚本と監督により“愛とは何か”“自由とは何か”を考えさせる奥の深いストーリーとなっている。
 LGBTQの人権保護が、広く世界中で叫ばれるようになったのは、21世紀になってからだ。しかし、その声は全ての人に届いているのかは、疑問が残る。
 特にここ日本では、法整備がなかった分、一人ひとりの意識の問題として、差別意識が根強く残り、それを覆していく作業は容易ではないだろう。「生産性」などという言葉を用い、同性愛を全否定するような国会議員が存在する限り、この国でも、同性愛者が“大いなる自由”を手にするのは、遠い未来のようにも思えてしまうのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://greatfreedom.jp/
<公式Twitter>https://twitter.com/greatfreedomjp
<公式Instagram>https://www.instagram.com/greatfreedomjp/
<監督>セバスティアン・マイゼ
<製作>セバスティアン・マイゼ、ベニー・ドレクセル
<脚本>トーマス・ライダー、セバスティアン・マイゼ
<撮影>クリステル・フォルニエ
<編集>ジョアナ・スクリンツィ
<音楽>ニルス・ペッター・モルベル、ペーター・ブロッツマン
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映画パンフレット 大いなる自由

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