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【映画レビュー】「劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「劇場版TOKYO MER 走る緊急救命室」(2023 日本)
 2021年夏のTBS「日曜劇場」枠で放送されたドラマの映画化作品である本作。
 「TOKYO MER」(東京モバイル・エマージェンシー・ルーム)は、危険な重大事故・災害・事件の現場に駆けつけ、負傷者にいち早く救命処置を施す救命救急のプロフェッショナルチームだ。
 「待っているだけじゃ救えない命がある」をモットーとする主人公の喜多見幸太(鈴木亮平)をチーフドクターとする、東京都知事の赤塚梓(石田ゆり子)直轄の救命医療チームだ。
 彼らの使命はただ一つ「死者を一人も出さないこと」。ドラマ版では「死者は…ゼロです!」という報告で、赤塚知事以下、チーム一同が盛り上がるシーンがお馴染みだった。
 映画公開直前に放送されたスペシャルドラマ『TOKYO MER 隅田川ミッション』では、TOKYO MERのセカンドドクターだった音羽尚(賀来賢人)が、全国版MERの統括官になるため「TOKYO MER」を離れることが明かされ、YOKOHAMA MERのERカー・YO1のデザインにも携わったこと、チーフドクターの鴨居友(杏)が元恋人であることにも触れられていた。
 都知事直轄であるTOKYO MERを目の敵にしているYOKOHAMA MERは、厚生労働相の両国隆文(徳重聡)が厚労省では全国の政令指定都市にMERを配備させようと計画しているために作られた医療チームで、鴨居も、 「危険を冒しては、救えない命がある」喜多見とは正反対の考え方を持っていた。
 そんな中、横浜ランドマークタワーで放火爆発テロが発生し、200人近い人が70階の展望フロアに取り残され、その中には、喜多見の妻となり臨月を迎えていた千晶(仲里依紗)と、その友人で看護師の蔵前夏梅(菜々緒)も交じっていた。
 そんな極限状態の中、赤塚都知事と両国厚生労働相の暗闘、音羽と鴨居の関係性、そして、切迫早産の危機にある千晶と夫・喜多見の愛が描かれている。
 複雑に絡み合う人間関係に加え、冒頭の飛行機事故の爆発シーンや、本筋の燃え上がるランドマークタワーの迫力あるVFX映像も相まって、テレビドラマ版よりも数段もスケールアップしている。
 鈴木亮平演じる喜多見は、チーフドクターとしてチームをまとめ上げる一方で、妻が妊娠中にも関わらず、ほとんど家にも帰ってこないほどのワーカホリックで、遂には千晶に愛想を尽かされ、実家に帰られてしまう。医者とて、一人の家庭人であり、私生活を犠牲にして、その任務にあたっていることを示す“お医者さんあるある”を表現している。
 喜多見とその妻・千晶がストーリーの中心となるのは当然ではあるのだが、注目したいのはかつての同志にして、同作では官僚側としての立場で、時にはTOKYO MERの活動に制限を加える音羽の存在だ。
 学生時代の回想シーンとして、音羽と鴨居の空港での別れが描かれている。鴨居は米国で最先端の技術を学ぶために渡航しようとしているが、音羽のパスポートを持ち出して勝手にチケットを取り、一緒にアメリカに行くかどうか、音羽に最後の選択を迫る。
 だが、音羽は「誰もが平等に医療を受けられる世の中にする」という信念を曲げることなく日本に残る。2人はMERの統括官とチーフドクターという立場で再会し、鴨居はその時に引き留めてほしかったという本音を、音羽は鴨居の夢を邪魔することはしたくなかったということを互いに遠回りに伝えている。
 ここに音羽尚という人物の魅力がある。音羽の母は、お金がなかったことで治療を受けられずに若くして死んでしまっている。医療の格差を是正するために音羽は医者としてではなく官僚として日本を変えようとしている。TOKYO MERを去ったは、東京だけを救うのではなく、その理念を全国に広げようと仕事に取り組んでいる。
 一方の鴨居は、かつて夢のために自分との別れを選んだ音羽が、海外で逮捕歴のある喜多見や寄せ集めのTOKYO MERを支持していることに疑義を持つ。
 その答えは、鴨居が音羽との食事の後のデザートの際に垣間見える。音羽はお菓子作りが得意だった喜多見の妹・涼香(佐藤栞里)を思い出す。TOKYO MERが出動した事件で唯一の死者であり、互いに思いを寄せていた涼香の死を、音羽はまだ引きずっていたことが分かる。
 そんな音羽に嫉妬に近い感情を抱いた鴨居は、「あなたの夢を賭ける価値があんなチームにあるんですか?」と音羽に問いかける。この問いに対する答えが、音羽のみならず、同作を通してのテーマだ。
 つまり、危険を顧みないヒーローとしての“表の主人公”が喜多見ならば、陰に日向にTOKYO MERの存在価値を示していく役割を果たす“裏の主人公”といえるのが音羽といえよう。
 ランドマークタワーでの火災では、音羽は初出動になるYOKOHAMA MERと応援に出向いたTOKYO MERを現場で統括することになる。
 消防や救急に的確な指示を出すシーンは音羽の有能さを示しているが、過去に何度も縦割りの現場に悔しい想いをしてきた分、現場で連携を指示できる状況にやり甲斐を感じている。
 しかしここに、TOKYO MERを敵視する両国厚生労働相が出張ってきたことで音羽は苦汁を飲む。火災現場に突入したTOKYO MERが窮地に立たされ、迷いを浮かべる鴨居も音羽に指示を仰ぐ中、両国大臣がYOKOHAMA MERの派遣を阻止するのだ。全てはTOKYO MERの“敵失”を待ち、多数の犠牲者と引き換えに、自身の立場を有利にしようとするためだ。両国大臣を演じる徳重聡は「21世紀の石原裕次郎オーディション」でグランプリに輝き、華々しくデビューしたものの、しばらくは“石原裕次郎の幻影”を追うあまり、役柄に恵まれない年月を過ごした。しかし、現在では悪役や、コメディー要素のある役柄を“怪演”し、バイプレーヤーとして開花した俳優だ。同作でも腹黒い政治家を嫌味タップリに演じ切っている。
 両国大臣を横に、無線を通してかつての仲間の苦悶の声が聞こえてくる中、当初は怯えていた研修医の潮見知広(ジェシー)も決死の突入を見せる。千晶が危険な状況に陥る中で喜多見が応援を要請すると、音羽は大臣の制止を無視して鴨居に語りかける。音羽の最大の見せ場の一つだ。
 ここで音羽はTOKYO MERのやり方に全面的に賛成するわけではないが、待っていては救えない命もあると鴨居に告げる。音羽は喜多見の姿に影響を受けていたのだ。
 そして音羽は、TOKYO MERの「死者ゼロ」「全ての命を諦めない」という信念を語る。これは全ての人が平等に医療を受けられる国にしたいという音羽の信念と重なるものだ。涼香の死によってTOKYO MERが掲げた理想は打ち砕かれたが、TOKYO MERはそれでもその理想を捨てずに挑戦し続けている。
 音羽は、経済格差によって優先される命とそうではない命が選別されて母を奪われ、思いを寄せていた涼香の命は理不尽なテロによって奪われた。だからこそ、無謀にも思えるTOKYO MERのやり方にこそ、日本の医療を変える希望があると信じていた。したがって「夢を賭ける価値がある」と、音羽は鴨居に告げる。これは鴨居に問われた「あなたの夢を賭ける価値があんなチームにあるんですか?」という問いに対する音羽の答えだ。
 鴨居はこの言葉を受けて「待っていては救えない命がある」と考えを変える。鴨居もまた、ずっと音羽に思いを断ち切れずにいた。そんな音羽が夢を賭けた相手なら信じようと、迷いが消える。そして音羽自身もTOKYO MERのユニフォームを身に纏い「人の命を救ってきます」と言い残し現場へと戻っていく。
 そして、音羽は喜多見と千晶の危機に現れる。千晶の帝王切開手術は、新生児用の保育器が備わるYOKOHAMA MERの「YO1」で行われる。これは、小さな命でも平等に救おうとする音羽の信念を感じる装備でもある。
 赤ちゃんと千晶が助かると、腰を抜かした喜多見に代わり、あくまで冷静さを保って処置を引き継ぎ、チームメンバーに指示を出すのが、いかにも音羽らしいシーンだ。そしてその後、音羽は、今後は喜多見のように危険に飛び込んでいくと言う鴨居に「頭痛の種は一つで十分」と言って、その場を去っていく。
 同作の見せ場は、ランドマークタワーの大火災や、そこに突入していくTOKYO MERメンバーの勇気、喜多見と千晶との愛の物語など、さまざまな視点があるが、最大のテーマは、救援部隊の司令塔としての音羽の苦悩と決断、そしてそれに応えるように、鴨居が率いるYOKOHAMA MERにも、その信念が伝わっていく過程だろう。
 そして、同作ではエンドロールにも注目だ。そこには、全国各地で活動している救急救命チームのポートレートが映し出される。今、この瞬間も、どこかで名も知られない“ヒーロー”たちが命を救うべく、活動している。そう思うと、全ての医療従事者への感謝の気持ちが、自然と湧き出てくるのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://tokyomer-movie.jp/
<公式Twitter>https://twitter.com/tokyo_mer_tbs
<公式Instagram>https://www.instagram.com/tokyo_mer_tbs/
<監督>松木彩
<脚本>黒岩勉
<企画プロデュース>高橋正尚
<プロデューサー>八木亜未、辻本珠子
<音楽>羽岡佳、斎木達彦、櫻井美希
<主題歌>平井大「Symphony」(avex trax) https://avexnet.jp/contents/music_j/DHDAI/discography/1035516
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TOKYO MER~走る緊急救命室~ DVD-BOX

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  • 出版社/メーカー: TCエンタテインメント
  • 発売日: 2022/03/02
  • メディア: DVD






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