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【映画レビュー】「死体の人」(2023 日本) [映画]

【映画レビュー】「死体の人」(2023 日本)
 同作の主人公・吉田広志(奥野瑛太)は、死体役ばかりの「俳優」というより、よりエキストラに近いような「演者」と表現した方が近いような、売れない役者だ。撮影時にも、監督などのスタッフから、名前で呼ばれることはほぼなく、「死体の人」と呼ばれることがほとんど。
 しかし、本人は至って真摯に、その仕事に臨んでおり、時には、「死体の何たるか」「どのように演じれば死体に近付けるか」を監督に訴えるものの、そんな名もなき俳優が語ることなど、聞き入れてはもらえない。それでも心が折れることなく、自宅でも、ビールを飲みながら毒殺されたり、お風呂に入りながら溺死したりと、“殺されるシーン”をシミュレーションするなど、真面目を通り越して、愚直な性格の青年だ。
 ある日、ティッシュに挟まっていた広告に釣られて、自宅にデリヘルを呼ぶ。現役女子大生在籍を売り文句にしている店だったが、訪れた女性の加奈(唐田えりか)は、通学先を「放送大学」とうそぶく。騙されたような気分になった広志だったが、その美貌に惹かれ、リピーターになっていく。
 その加奈も、私生活はボロボロだった。ミュージシャンを目指すといいながら、体を売って得た加奈の稼ぎをブン捕ってはバクチ三昧の日々。絵に描いたようなヒモ男だ。
 そんなダメ男から逃げ、加奈は広志を頼りに、かくまってくれるように頼む。しかし、このヒモ男は加奈に付きまとい、広志の家に殴り込んでくる。“ヒモ男あるある”ではあるが、怒声を張り上げ暴力的になるだけではなく、それがダメなら泣き落としに切り替え、ありとあらゆる手段で、“金づる”である加奈を取り戻そうとする。
 そこで、広志と加奈が取った作戦が、同作のハイライトともいえるシーンだ。思わず“そう来たか!”を快哉を送りたくなる“大芝居”だ。
 こうして、自ら進みべき道を見つけた加奈と、偶然にもそれを後押しした形になった広志は、運命共同体として心を通わせながらも、前向きに、人生を歩むことになる。
 また、広志を語る上で、重要な人物が両親の存在だ。特に母親は、例え死体役ばかりであっても、息子を応援し続ける姿には、底知れぬ愛を感じさせる。
 広志役の奥野瑛太は、日大藝術学部映画学科を卒業し、数多くの映画やテレビドラマに出演している、いわば、俳優の「エリート」だ。ヒロインを演じる唐田えりかも、海外で数多くの映画賞に輝き、韓国でも人気を博している国際派女優だ。
 そんな2人が、売れない役者とデリヘル嬢を演じているのだから、贅沢なキャスティングといえる。広志の両親役にも、きたろうと烏丸せつこを配するなど、脇をキッチリと固めており、コミカルでありながら、心に沁みる人間ドラマを見せてくれている。
 草苅勲監督は、『スクラップ スクラッパー』(2016年)では、個性的なキャラクター設定と、彼らは巻き起こす様々なエピソードを散りばめた作品を世に出しているが、同作においても、自身の俳優経験を落とし込み、普段は光の当たらない場所に光を当て、さらに深掘りした作品に仕上げている。
 『死体の人』という作品名だけ聞くと、“B級感”がよぎるが、同作は、映画・ドラマに携わる俳優・スタッフに対するリスペクトの念はもちろん、加えて、鑑賞者に対しても、「生きるとは何か」そして「死ぬとは何か」という、答えが難しい問いを与えてくれる。
 この世には、死んだように生きている人もごまんといる。しかしながら、日々「死」と向かい合いながら、不器用な生き方を通して理想と現実の折り合いをつけることの難しさに直面し、もがき続けながらも、「生」の意味を探し続ける広志の姿には、生きることの尊さを感じずにはいられないのだ。
<評価>★★★★☆
<公式サイト>https://shitainohito.com/
<公式Twitter>https://twitter.com/shitai_no_hito
<監督>草苅勲
<脚本>草苅勲、渋谷悠
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本のゆがみ

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  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2018/08/24
  • メディア: Prime Video






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